
オフィスのエレベーターで、台車に山のように段ボールを載せている宅配業者に、一日に何度も会う。
一般店舗の何百倍、いや、もっと多くの商品がインターネットで買える時代だ。商品の情報を取得してから、購買するまでの時間も以前と大きく変わり、距離も短くなった。こうなってくると、街の商店が立ち行かなくなるのは、当たり前のことである。浜松町の駅にあった百坪級の書店のチェーン店もなくなり、通い慣れたおばあさんのやっている和食屋さんは閉店した。
今、日本にある小売店の数は、122万8920店、飲食店は82万5000店といわれている。その全てがなくなるとまでは言わないが、時代のトレンドから見ると、減少傾向にあるのは明らかだ。
なぜ人間は、こんなに急ぎ、そんなに「欲」を早く満たしたいのだろう。「欲」も「夢」の一つだとすると、それが実現するまでの楽しみや、ドラマもあるだろうに。
小売店側もその役割を変えようとしている。スマホの中で加速する個人から個人への口コミやコミュニケーションに、メディアとして参加し始めている。特に、実際に店に行った個人が、商品の情報や店員の態度、店の雰囲気を伝道していく。これをSNS、つまりソーシャルネットワーキングサービスと呼ぶそうだが、ソーシャル(社会)と定義づけるには、あまりにもいい加減でお粗末で嘘も多い。
速すぎるネット社会で置き去りにされないように、懸命に自己表現をしている集団が寂しさを紛らせているのであろう。さらに、会ったこともない赤の他人に「いいね」などと言ってもらって、自己の承認欲求を満足させている寂しい人間も増えてきた。
以前の会社で書店を回る仕事をしていた頃から、小売は「集まるから集める」時代へと能動的に変わってきた。物を売るだけの場所から脱却し、自分たちの伝えたいことは何なのだろう、苦労しながら自問自答する経営者もいた。メディアという視点で小売店を見ると、コンテンツとして老舗企業の発信力が目をひく。「美楽」のスポンサー兼著者でもある木村周一郎さんは江戸時代から続く木村屋の子孫である。彼は、メゾンカイザーというフランスパンの店(メディア)を経営することで、「あんぱん」というメディアを「フランスパン」に変えた。
銀座の仕立て屋さんでサマースーツをお願いした。出来上がるまでの2カ月間、ウキウキした気分になる。とはいうものの、今年の猛暑は、スーツなど着ていられるだろうかという懸念もある。