荒井 宏幸|Arai Hiroyuki
- クィーンズアイクリニック院長
- みなとみらいアイクリニック主任執刀医
- 医療法人社団ライト理事長
- 防衛医科大学校非常勤講師
眼科専門医。 1990年に防衛医科大学校を卒業し、同大学校附属病院の眼科航空自衛隊医官に。 1993年、自衛隊中央病院眼科および国家公務員共済組合連合会三宿病院眼科勤務。 1996年、岡田眼科眼科部長。 1998年、クイーンズアイクリニック院長。同年みなとみらいアイクリニック主任執刀医に。 2010年から医療法人社団ライト理事長。 防衛医科大学校非常勤講師。医学博士。
著書に『「よく見える目」をあきらめない 遠視・近視・白内障の最新医療』 (講談社+α新書)など
目次
はじめに
レーシック手術が日本で施行されるようになって25年。2000年1月に厚生労働省の認可が降りる前からその技術に着目し、アメリカで技術を学んだのが「クィーンズアイクリニック」院長の荒井宏幸医師だ。自身もレーシック手術で視力1.5の生活を手に入れた。それまでは近視と乱視でメガネを手放せなかった。手術の翌日、裸眼で見た景色の美しさに感動し、見えることの素晴らしさを人に伝えたいと強く思ったという。「あの感動は今でも鮮明に覚えています」と荒井医師。レーシックへの想い、眼科医として目指す姿について聞いた。

レーシック黎明期に、視力回復の技術を学ぶために渡米
レーシックの技術を学ぶために、アメリカのサンタモニカへ行ったのは1998年のことです。レーシックが世界で初めて施行されたのが1990年、その5年後の1995年にアメリカではFDA(厚生労働省のような政府機関)がレーシックを認可し、屈折矯正(視力回復)手術として盛んに行われていました。しかし、日本ではまだまだ未知のもの。ごく限られた眼科の先生方が研究会を開き、世界で発表される論文をチェックしながら、なんとか国内でもレーシック手術を治療方法として取り入れられないかと議論している状況でした。
レーシック手術は角膜を削って近視、遠視、乱視を矯正し、視力を回復させる治療法です。渡米時、私は視力0.1で、強度の乱視があり、メガネをかけていました。しかし、今後レーシックを日本で広めるためにも、まずは自分でも体験してみようと思ったんです。レーシック手術を受けた翌朝の感動は今でも忘れられません。サンタモニカのホテルから見た海岸が、なんと美しかったことか。レーシックをライフワークにしようと決心した瞬間でした。

その時代にある一番いい治療法を受けるのがベスト
今と比較すると、当然ながら1998年時のレーシックの治療技術は古いものです。しかし当時においては最新の技術です。あの時、あのレーシック手術を受けたからこそ、視力が回復し、毎日メガネをかける煩わしさから解放されました。現在に至るまでの30年近く、左右1.5の視力で、近くも遠くもよく見え、快適そのもので暮らし、日々の診療にあたってこられたのです。
私が専門とする屈折矯正手術の技術は時代とともに進歩しています。近視、遠視、乱視はレーシック手術で完璧に治療できますし、老眼にも治療法が登場し、ほぼ老眼鏡なしで暮らせるようになりました。将来的には老眼も完璧に治せる時代が来るでしょう。そう話すと、患者さんから「どのタイミングで受けた方がいいでしょうか?」「もっといい治療法が出てくるまで待った方がいいでしょうか?」といった質問を受けることがあります。
私は自分自身の経験からも、患者さんの治療後の生活の変化からも、メガネやコンタクトレンズから解放されたい、視力を回復させたいと思ったその時が治療を検討するベストタイミングであり、その時代にある一番いい治療法を受けることがベストだと考えています。スマートフォンを買う時と同じではないでしょうか。できるだけ性能の高いものを買いたいけれども、「あと何年かしたらもっといい商品が出てくるから」と待ったりはしませんよね。

「レーシック手術を受けて大丈夫?」 正しい知識を伝えていきたい
レーシック手術というと「受けて大丈夫なの?」「失明する可能性があるんじゃないの?」といった否定的な声や不安をあおるような声があがりがちです。また「レーシック手術は危ない。眼科医はレーシック手術を受けていない」という話がネット上でまことしやかに流れているとも聞きます。それらが全くの誤解だと伝えることも、長年レーシック手術に携わってきた眼科医としての役目だと考えています。
2008年9月から翌年1月にかけて、100人以上の被害者を出した大きな医療事故が起こりました。東京都中央区にある銀座眼科でレーシック手術を受けた患者さんが感染性角膜炎などを発症し、中には失明する方もいたのです。事故の最大の原因は、衛生管理が不十分な状態での施術でした。術者は手袋も装着せず、手術時のメスを繰り返し使い回していたそうです。これは医師として全く論外なことです。さらに、治療費が破格的に安く治療の希望者が後を絶たなかったこと、発症者への対策をすぐに講じなかったことが、被害を拡大させました。結果、「レーシック手術は危ない」といった間違った認識が生まれ、それが根強く続いているのだと思います。
レーシック手術は、角膜という目の表面しか処置をしません。目の中には操作を加えないため、原理的に失明するということはないのです。実際、世界初のレーシック手術が行われた1990年以降、レーシック手術自体で失明した報告は一例もありません。銀座眼科のレーシック手術で失明の方が出たのは、レーシック手術に問題があったのではなく、医療施設の術後管理の悪さが原因なのです。

「レーシック やらなきゃよかった」とならないために
「レーシック やらなきゃよかった」という声もSNS上でよく見かけるものですが、その原因の一つとして「手術の適応」が適切に行われていなかったことが挙げられると思います。レーシック手術は効果と安全性が確立された治療法ではありますが、目の状態は一人一人異なるため、全員に当てはまるものではありません。レーシック手術をしない方がいい目、別の治療が適している目もあります。また、本人が望むからといって2.0まで視力を上げてしまったら、見え過ぎてしまい頭痛や吐き気、眼精疲労に悩まされる可能性があります。
レーシック手術に限ったことではありませんが、手術を執刀する医師にとって、その治療方法が患者さんに本当に適しているのかを見極めることが非常に重要なのです。私は患者さんに治療のメリット、デメリット双方の説明をしっかりと行い、検査結果で「手術の適応」がないと判断したら、理由とともに別の治療についても提案するようにしています。

「チーム荒井」とともに、患者さんへ満足のいく治療を
「チーム荒井」とは、私のクリニックで長年一緒に働いているスタッフたちです。検査スタッフたちは、10年〜20年の時間をかけて構築してきた「自分で学び、アップデートする」というシステムによって、検査データを見れば「この患者さんには、この治療が適している・適していない」といった判断を、私と同じレベルでできます。もちろん彼らは医師ではないので最終判断は私が行うわけですが、患者さんがどんな質問をしてもキチンと答えられるスタッフがいることで、安心感が増します。
患者さんの中には、医師の前では思っていることを言いづらいという方も多いと思います。そういう場合も、スタッフが患者さんの本音を聞き出してくれるので、それを前提に私の方から話を振ることができます。患者さんへ満足のいく治療を提供するために、「チーム荒井」の存在は欠かせません。
チーム全体で知識や経験値を上げていくために、最先端の機械や技術に関してリアルタイムで共有し、眼科の学会には「チーム荒井」のメンバーも参加しています。私のクリニックの患者さんの3分の1は他の眼科医からの紹介なのですが、こういった紹介状をやり取りしている眼科医と学会で触れ合えることも、「チーム荒井」にとっての学びにつながっています。

目は「見えてなんぼ」 裸眼で一生よく見える目を
防衛医大で学んでいた時、眼科医を志そうと思ったのは、検査から手術まで1人で完結してこなせるところがいいな、と思ったからです。レーシック手術をはじめとする屈折矯正手術を受けた患者さんから「裸眼で見えるようになった」と喜びの声を聞くたびに、私自身がレーシックで経験した感動が蘇りますし、現在の眼科医療の素晴らしさを多くの方に知ってもらいたいという思いを強くします。
世界的権威のある医学雑誌「ランセット」の委員会が2024年、認知症リスクを高める要因の最新版を報告しました。前回の報告から新たに加わったものが2つあり、その1つが視力低下です。目から入る刺激が脳の活性に重要であることが示されたのです。人生100年時代と言いますが、90歳、100歳まで長生きしても、目が悪ければ楽しみも半減してしまいます。地震や火災などの災害時、目が悪ければ逃げることもままなりません。よく見える目を維持するためにはメンテナンスが必要で、超高齢化社会においては眼科医の役目はとても大きいものであると感じています。
屈折矯正手術は、いかに裸眼でよく見えるようにするか。目は「見えてなんぼ」です。近年は、スマートフォンやタブレットの過剰な使用、コンタクトレンズの間違った使用などで若い頃から視力低下や目のトラブルに見舞われる方が増えています。今後も診療を通し、裸眼で一生よく見える目を取り戻すサポートをしていきたいと考えています。
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