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はじめに
「タバタトレーニング」は、欧米のアスリートの間では知らない人がいないほど有名なトレーニング法。運動に時間を極力かけず持久力を上げたい人に打って付けだ。なんせ必要な時間はわずか4分間。タバタトレーニングの科学的メカニズムを証明した立命館大学スポーツ健康科学部・田畑泉名誉教授に話を聞いた。
タバタトレーニングとは、どういうトレーニング法なのでしょうか?
これを一言で説明すると、高強度・短時間・間欠的トレーニングです。「HIIT(ヒート)」というトレーニング法を聞いたことがあるでしょうか?これは高強度インターバルトレーニング(High Intensity Interval Training)のことなのですが、タバタトレーニングはそのHIITの一種で、欧米では10年以上前から広く知られています。
具体的には、「疲労困憊でこれ以上はできない」というほど高強度の運動を20秒間、10秒間の休憩を挟んで全部で6〜8セット行います。これによって究極の有酸素性トレーニングと無酸素性トレーニングが実現します。
私たちの体には有酸素性エネルギー供給系機構と、無酸素性エネルギー供給系という2つのエネルギー供給機構があり、有酸素性エネルギー供給系機構はジョギングやエアロビクスなどの有酸素性トレーニングで、無酸素性エネルギー供給機構は中距離層のような無酸素性トレーニングで鍛えられますが、タバタトレーニングは一度に2つを鍛えられます。結果、酸素を摂取する量が増えて、持久力が高まり、ジョギングやエアロビクスなどを長く続けられる体力がつくのです。
インターバルトレーニングは、「ダッシュをした後、ゆっくりとしたジョギングをする」というものだと聞いたことがあります。それと同じですか?

タバタトレーニングは、「高強度・短時間・間欠的トレーニング」。この「間欠的」が、インターバルとよく混同されるのですが、タバタトレーニングでは20秒の高強度の運動の後、10秒間完全に休憩します。そこがインターバルと違うところです。
一般的に、持久力を増やそうとする場合、最大酸素摂取量の50〜70%のトレーニング強度で20分以上運動すればいいと言われています。最大酸素摂取量の50〜70%は、「楽である」から「きつい」と感じる程度のトレーニング強度。だから20分以上続けられる。逆に言うと、それくらいの時間をやらないと持久力は向上しづらい。
一方、タバタトレーニングは「高強度」。最大酸素摂取量の170%の強度で、普通の人が行うトレーニングの2倍から2倍半の強度になります。ただし、この強度では続けられるのは50秒程度。タバタトレーニングでは、高強度のトレーニングを20秒間続けたら、10秒間完全に休憩し、また20秒間の高強度のトレーニングを行います。そうすることで、高強度のトレーニングを6〜8セット行える。心臓や筋肉に多くの刺激を与えられ、しかも4分間という短い時間で高いトレーニング効果を得られるのです。
田畑先生は、どういう経緯でタバタトレーニングを考案されたのでしょうか?
考案したのは、私ではありません。私の古い友人で、1980年から1990年代にスピードスケートナショナルチームのヘッドコーチだった入澤孝一先生(現在、高崎健康福祉大学教授。2018年の平昌五輪においてスピードスケート女子チームパシュートで日本史上初の金メダルに輝いた佐藤綾乃選手を指導した)が代表選手に指導していたのが、タバタトレーニングです。
ある時、入澤先生から2つのトレーニング法を取り入れているという話を聞きました。ひとつは「20秒の高強度運動と10秒の休憩を6〜8セット」、もうひとつは「少し強度が高い運動を30秒行い2分間休憩、これを4〜5セット」。当時すでに高強度インターバルトレーニングは存在していたのですが、それはダッシュした後、ペースを落として走るというもの。入澤先生は、ペースを落とすのではなく、完全休憩する方法を考案した。
入澤先生は、2つのトレーニングのうちどちらが効果的かと私に意見を求めてきました。それをきっかけに、私は運動生理学の側面から研究を始め、20秒運動し10秒間休憩するトレーニング法は究極の有酸素性トレーニングであり、究極の無酸素性トレーニングであるという、タバタトレーニングに関する最初の論文を1996年にまとめました。それがまずは欧米で注目が集まり、その後、日本に逆輸入のように入ってきた形になります。
どのように運動でタバタトレーニングを行えばいいのでしょうか?
パターン化されていないので、どのような運動でも構いません。ダッシュでもいいですし、バイクマシンでもいい。自分の体重を利用していつでもどこでもできるトレーニングメニューの数々を紹介した「噂のタバタトレーニング」(扶桑社)という本を出しているので、それを参考にするとわかりやすいでしょう。
ただし、必ず守っていただきたいポイントがいくつかあります。まずは、どんなトレーニングでもいいのですが、実施する人にとって「8セット目には疲れ果ててバテバテになるような運動」を選んでください。タバタトレーニングをトレッドミル(屋内でウォーキングやランニングを行う電動の器具)でやってもらうと、最初のセットではニコニコ笑っている人も、最後のセットでは疲労困憊に至ります。8セットを終えた時、「まだまだできる」というようでは、強度が十分ではないでしょう。倒れ込んでしまい、これ以上は続けられない、となるのが理想です。
次に、ウォームアップとクールダウンは念入りに行ってください。「疲れ果ててバテバテになるような運動」は、身体へ負荷をかけます。怪我をしないために時間をかけてウォームアップとクールダウンのストレッチを必ず行ってください。
さらに、生活習慣病などがある人は、事前に医師に相談をしてから行ってください。特に血圧が高い人は、運動中に血圧が上昇するため、脳血管疾患を発症する可能性があります。肥満の人では、「疲れ果ててバテバテになるような運動」は関節に多大な負荷をかけてしまう可能性があリます。
運動経験に乏しく、「運動のきつさ」がうまく想像できません。

運動後のキツさを、「楽」「ややきつい」「きつい」「かなりきつい」の4段階に分けた場合、「ややきつい」から「かなりきつい」くらいであれば、タバタトレーニングの効果があると考えられます。タバタトレーニングによって持久力がついてくれば、やり初めの頃はバーピージャンプ(両手を地面につけ、両足を後ろに伸ばして腕立て伏せのような体勢になり、足で地面を蹴ってしゃがんだ状態なったらそのまま立ち上がり、ジャンプして頭上で1回拍手。この一連の動きを連続して行うトレーニング法)を20秒間に8回、10秒休んで8セットで倒れ込んでいたのが、次第に20秒間に9回、20秒間に10回……と回数を増やしていけるでしょう。常に「全力で」がタバタトレーニングのキモです。
なお、最近の研究では、50代の運動経験がない男性がバーピージャンプを20秒間に5回行う程度の強度でも、6週間後、持久力がアップしたとの結果が出ています。繰り返しになりますが、もともとバーピージャンプを20秒間に10回できる人が、5回に減らしてやれば、タバタトレーニングにはなりません。
タバタトレーニングをどれくらい続ければ痩せられるのでしょうか?
タバタトレーニングは「痩せるためのトレーニング」ではありません。ネット上で「タバタトレーニングで痩せた」というコメントがありますが、そういったエビデンスはありません。タバタトレーニングでエビデンスがあるのは、「持久力が上がる」という点になります。
タバタトレーニングで痩せたとするなら、持久力が上がり、活動量が増え、運動を長時間続けられるようになったからだと考えられます。ジョギングを30分しかできなかった人が1時間走れるようになれば、その効果はダイエットにおいて大きいでしょう。ダイエットを目的とするなら、タバタトレーニングと他の有酸素運動を組み合わせることをお勧めします。ダイエット目的でなくても、タバタトレーニングで持久力を上げれば、日々の生活で疲れにくくなるでしょう。
タバタトレーニングには、動物実験の結果になりますが、大腸がんの前がん細胞が減ったという結果も出ています。
タバタトレーニングは、週にどれくらいやることを目安にすればいいでしょう?
一般の人なら、週2〜3回が目安です。