目次
- 1 はじめに
- 2 ★渡辺先生は、血圧を毎日測定しているのですか?
- 3 ★なぜ、そんなことをしているのでしょう?
- 4 ★確かに、白衣高血圧という話を聞いたことがあります。
- 5 ★多少血圧が高くなっても、問題ないのでは?
- 6 ★渡辺先生が血圧を測定し続ける中で知り得た「血圧が下がる方法」、すぐにできそうなものをぜひ知りたいです。
- 7 ★コンビニなどで売っているピーナツで問題ないですか?
- 8 ★朝昼晩の食事の中で、減塩すると最も効果が高いのはいつですか?
- 9 ★朝食を抜けば、そもそも塩分を取らないわけですから、血圧対策としては正解?
- 10 ★どういった朝食がいいですか?
- 11 ★日常的に飲むお茶で血圧を下げられれば最高なんですが……。
- 12 ★お酢も血圧低下にいいと聞きました。
- 13 ★「醤油をかけすぎ!」と家族にしょっちゅう指摘されます。
- 14 ★血圧が高めです。減塩を心がけているものの、物足りなく感じて続きません。思い切った方法があれば、教えてください。
- 15 この記事を監修した医師
はじめに
厚生労働省の「NIPPONDATA2010」では、30代以上の男性の60%、女性の45%が高血圧。推定患者数は約4300万人で、3人にひとりが該当する計算となる。これだけいれば、国民病と言っても大袈裟ではないだろう。
高血圧は自覚症状がない病気の一つだが、放置すると動脈硬化が進行し、脳卒中や心筋梗塞など血管性の病気を起こしやすくなる。高血圧の人は糖尿病、脂質異常症も抱えている人が多いと言われ、該当する病気が多いほど、脳卒中・心筋梗塞のリスクは高まる。
高血圧は、薬物療法もあるものの、生活改善が欠かせない。特に重要となるのが、食事だ。和食は脂肪分が少なくヘルシーと言われる一方で、塩分量が多い。外食も塩分量が多く、意識しないで食事をしていると、1日の食塩摂取量の目安(厚労省の「日本人の食事摂取基準2020年版」/男性7・5グラム未満、女性6.5グラム未満)を超えてしまう。どういった食品が塩分量が多いのかを知るとともに、血圧を下げる食べ方、食品、生活などを知っていると心強い。
今回、血圧の話を伺ったのは、日本高血圧学会専門医で、『ズボラでもみるみる下がる測るだけ血圧手帳』(アスコム)など血圧関連の著書が多数ある日本歯科大学内科客員教授の渡辺尚彦医師。24時間血圧を測り続けていることから「ミスター血圧」とも呼ばれている。テレビ番組や雑誌で顔を見たことがある人もいるのでは?
★渡辺先生は、血圧を毎日測定しているのですか?
毎日は毎日ですが、私の場合、左上腕に常に血圧計の腕帯を巻き、24時間ずっと測定し続けています。病院での診察中、食事中、睡眠中、移動中、トイレ中、散歩中……と血圧計を外すことはありません。唯一外すのは、お風呂に入る時。血圧計が壊れてしまいますからね。でも、サウナに入る時はつけていました。始めたのは1987年8月ですから、今年で37年目に入りました。
★なぜ、そんなことをしているのでしょう?
血圧というのは、不安定なもの。1日の中でも変動しますし、季節でも変動する。感情の変化、置かれた環境、血圧測定前に何をしていたか、でも変動します。普段の血圧は、継続的に測定しないとわからないものなのです。患者さんには、毎日、1日の中でも時間を変えて複数回測定するように伝えています。
そして私は高血圧を診る専門家。どういったときに血圧が変動するかを知りたい。論文発表からだけでなく、自分が実際に体験して、血圧が上がる・下がる食事や行動を知りたい。経験に基づいた話なら、患者さんに対してより説得力を持つでしょう。結果、的確な血圧指導につながります。
★確かに、白衣高血圧という話を聞いたことがあります。

普段の血圧は正常なのに、病院の診察室で白衣を着た医者や看護師に測定してもらうと、血圧が高くなってしまう症状です。緊張やストレスが原因と言われています。家庭不和の人では、自宅にいる時の方が血圧が高くなるかもしれない。ストレスが高い職場でだけ、血圧が高くなる職場高血圧なんてのもあります。
★多少血圧が高くなっても、問題ないのでは?
そうともいえませんよ。ある男性は、待合室で血圧を測定すると上が116mmHg。正常血圧の定義は、診察室血圧で上120/下80、家庭血圧で上115/下75ですから、低いとは言えないものの、ギリギリ正常範囲。ところが診察室に入って血圧を測定すると170まで上がっていたのです。
この方の場合、深呼吸をしてもらうと117まで血圧が下がりましたが、もし職場高血圧で、本人がそれを知らず何の対策も講じていなければ?ただでさえ血圧が高くなっているところに、何か頭に来ることがあったりすれば、血圧が急上昇するかもしれない。血管が切れ、脳梗塞を起こしてしまう可能性も否定できません。
高血圧を指摘されていない人でも、普段の生活でも血圧は高くなっていないか。測定する習慣を身につけるべきですよ。
★渡辺先生が血圧を測定し続ける中で知り得た「血圧が下がる方法」、すぐにできそうなものをぜひ知りたいです。
ピーナツはどうでしょうか?ピーナツの成分には、血圧を下げる効果があるんです。
こんな研究結果があります。アメリカのハーバード大学のチームが、30年間に12万人の食生活を調べたところ、参加した人の死亡率に大きな差が見られ、死亡率を大きく下げる食材の一つにピーナツがあったのです。
ピーナツには脂肪が多く含まれていますから、むしろ体に悪そうなイメージ。ところが、いろいろな研究者が効能を調べた結果、ピーナツには飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がバランスよく含まれていて、悪玉コレステロールを下げたり、血管を丈夫にする効果があることがわかりました。
自他ともに認める「ミスター血圧」ですから、早速実験してみることにしました。ピーナツには渋皮がついていますよね。あまり美味しくないんですが、この渋皮には抗酸化作用のあるポリフェノールがたくさん含まれています。抗酸化作用とは、簡単にいうと、活性酸素によってできる体内の〝サビ〟を進行しないようにし、老化を遅らせる成分です。また、ポリフェノールには血圧を下げる作用もある。私の考えに賛同してくれた患者さんが渋皮ごとピーナツを毎朝20粒食べてくれました。すると、3〜4週間で血圧が平均8mmHg下がったのです。
この話には、後日談があります。私がアメリカ留学時にお世話になった先生の妹さんが血圧が高いと言うので、ピーナツをお勧めしました。ところが「血圧が下がらないよ」と言う。よくよく聞くと、渋皮を取って食べてたんですね。やはり渋皮は付いたままがポイント、と改めて感じました。
★コンビニなどで売っているピーナツで問題ないですか?
注意して欲しいのは、塩バターピーナツ。塩分を多量に含みます。コンビニで売っているものは、もしかしたらお酒のおつまみ用に味付けをしたものかもしれません。揚げたピーナツもNG。血圧低下のためには、塩を使っていないものを選んでください。
もちろん、食べ過ぎもいけませんよ。
★朝昼晩の食事の中で、減塩すると最も効果が高いのはいつですか?
大前提として、3食とも薄味が望ましい。ただ、血圧に全く問題がない方なら、1日のうちどれか1食を減塩食にするところから始めてみるのもいいかもしれません。
朝昼晩のどれか、となると、夕食よりも朝食です。起床前後はレニン、アルドステロン、アドレナリン、ノルアドレナリンといった血圧を下げるホルモンがたくさん出ています。中でもアルドステロンはナトリウムを体の中に溜め込む作用があります。この時間帯に塩分を取りすぎると、血圧が上昇してしまいます。
★朝食を抜けば、そもそも塩分を取らないわけですから、血圧対策としては正解?
それは大間違いです。血圧は、自律神経のうち交感神経が優位になっている時に上がり、副交感神経が優位になっている時に下がります。朝は、交感神経の活動が優位になるタイミング。血圧も上昇します。そんな時、朝食を取らず空腹状態でいると、そのストレスが交感神経を刺激し、血圧がより上昇してしまいます。
★どういった朝食がいいですか?
定番の朝食は、残念ながら塩分過多になりがち。洋朝食の定番、トースト、バター、卵料理、ベーコンやハム、サラダ、スープは、塩分が入っていないのはサラダくらい。これもドレッシングをかけたら塩分まみれです。食パンも、一般的なものには塩が入っています。
では、和朝食は?ご飯、味噌汁、納豆、味付け海苔、漬物、焼き魚が定番かと思いますが、納豆に醤油をかけずに食べれば、唯一塩分面で問題ない食品となるでしょうか。余談になりますが、焼き魚や漬物に習慣的に醤油をかける方をよく見かけます。あれは、絶対にやめていただきたい。〝塩分on塩分〟になってしまいます。
私が理想的な朝食として患者さんにお勧めしているのは、フルーツグラノーラと牛乳です。これなら1食分で、かまぼこ1切れ分の塩分量にしかなりません。
★日常的に飲むお茶で血圧を下げられれば最高なんですが……。
それなら杜仲茶またはギャバ茶を取り入れるのはいかがでしょうか?
杜仲茶には、ベニポシド酸という血圧を下げる有効成分が含まれています。九州大学のチームが濃縮した杜仲茶を用いて実験。偽物の杜仲茶に比べて血圧が下がりました。
ギャバ茶には、ギャバというアミノ酸が豊富で、この成分は脳の機能改善効果や血圧改善効果が認められています。交感神経の活発化を抑制し、それも血圧低下につながります。
飲み物といえば、果汁100%のぶどうジュースも血圧低下に役立ちますよ。こんな実験を私が行いました。果汁100%のぶどうジュース、果汁10%のぶどうジュース、果汁100%のオレンジジュース、焼き芋をそれぞれ取った際の血圧変動を調べたのです。果汁は朝昼晩の3回、各200ミリリットル、焼き芋は1個200グラムを朝昼晩の3回。いずれの食材も塩分排出作用のあるカリウムを多く含んでいるのですが、はっきりと血圧が下がったのは、ぶどうジュースのみでした。その理由として、ぶどうのポリフェノールが血管内壁に作用し、血管拡張作用がある一酸化窒素の産生を促しているからだと見ています。
★お酢も血圧低下にいいと聞きました。
お勧めです。
ミツカン中央研究所が、血圧高めの男女64人に大さじ1杯の食酢を10週間飲んでもらったところ、上の血圧が6.5%、下の血圧が8%下がったという報告をしていました。
そこで、私も患者さんとともに試してみたのです。3週間、起床時に15ミリリットルのお酢を飲んでもらったわけですが、飲む前に比べて24時間の平均収縮期血圧(上の血圧)が4mmHg低下しました。
お酢は何でもいいですが、りんご酢が飲みやすいと思います。
★「醤油をかけすぎ!」と家族にしょっちゅう指摘されます。
醤油を料理に直接かけるのは厳禁。醤油を減らすには、「かける」のはやめ、「つける」。小皿に少量注ぎ、ちょっとだけつける。お刺身は、わさびをそのままのせ、醤油をちょっとだけ付けるようにすると、わさびの刺激で醤油少なめでも美味しくいただけます。
醤油の容器を工夫するのも手です。スプレー式醤油さしやプッシュ式の醤油さしだと、「かけすぎた!」ということがなく済みます。
あとは、何でもかんでも醤油をかけて食べる癖を直すこと。前述の通り、焼き魚や漬物は、それ自体にしっかり味がついています。
★血圧が高めです。減塩を心がけているものの、物足りなく感じて続きません。思い切った方法があれば、教えてください。
私がしょっちゅう例に出すのが、学生時代のテスト勉強。普段から地道に勉強できる人はそう多くないでしょう。大抵は、テスト前だけ必死で勉強する。それを繰り返すことで、徐々に学力がついていく。
減塩も同様です。しょっぱいものをずっと食べてきた人が減塩するのはつらい。つらいことは続きません。だから、テストの〝一夜漬け〟ならぬ〝一週間漬け〟で減塩をするのです。とにかく1週間だけ徹底的に減塩する。この期間だけは限りなく塩分量はゼロ。外食は避け、ハム、ソーセージ、干物、練り物、漬物など、塩の含まれる加工食品も取らない。塩、醤油、ソース、味噌、マヨネーズといった調味料も使わない。酢、レモン、コショウ、唐辛子、わさび、からしといった香辛料を駆使し、物足りなさを補う。
1週間が過ぎれば、普通の食事に戻して構いません。体験してみるとわかるのですが、普通の食事に戻すと、これまでは当たり前のように食べていた料理がしょっぱく感じます。ただ、続けているとまた慣れて、しょっぱいのが当たり前になる。徹底した減塩は1カ月に一度の割合で繰り返します。学生時代のテストの時と同様、次第に薄味が当たり前の味になっていく。
人生100年時代。健康で日々を楽しむために、今日から塩分を減らす生活、血圧を下げる生活を意識してみませんか。