目次
- 1 はじめに
- 2 ★腰痛で整形外科を受診したことがあります。画像検査を受けたのですが、「異常なし」と言われました。しかし、痛みはある。この場合、どういう原因が考えられますか?
- 3 ★腰痛原因は、画像検査だけでは突き止められない?
- 4 ★MRIでヘルニアが見つかったけど、腰痛の原因はヘルニアではなかった、という話も聞いたことがあります。
- 5 ★飯田先生の痛みセンターでは、患者さんがいらした場合、どのように診断されますか?
- 6 ★原因はわかるものなのでしょうか?
- 7 ★原因がわからない場合、どうすべきですか?
- 8 ★痛みセンターにはどのような医療スタッフがいますか?
- 9 ★治療はどのように行うのでしょうか?
- 10 ★薬に頼らない痛み軽減法として、慢性疼痛診療ガイドラインでは運動(リハビリ)が推奨されています。どういう運動がいいのですか?
- 11 ★痛みを100%ゼロにすることは可能でしょうか?
- 12 この記事を監修した医師
はじめに
厚生労働省は今年7月、「令和4年国民生活基礎調査」の結果を発表した。国民生活基礎調査は毎年実施されており、3年ごとに大規模調査が実施される。令和4年はその大規模調査の年だった。
それによると、自覚症状(有訴者率)では男女とも腰痛がトップだった。男性はこれまでも「腰痛」が1位、2位が「肩こり」だったが、女性は従来「肩こり」「腰痛」の順番だった。今回は女性の「肩こり」が減り、「腰痛」が変わらなかったので、男性同様、1位となった。
日本整形外科学会は2003年、腰痛に関する全国調査を行っている。回答者約3000名のうち、針やマッサージなどを含む治療を必要とするほどの腰痛経験者は男性57.1%、女性51.1%、治療に行った割合はおよそ80%。治療に行った施設は「整体・整骨・接骨」が最も多く、ついで「地域の整形外科医院」だった。また、30%が毎年繰り返していた。
腰痛に悩んでいる。なんとかしたいーー。そう思っている人は多いだろう。治療を受けるなら、「整体・整骨・接骨」や整形外科医院のほかに、痛み治療を専門とする外来を受診するという手もある。岐阜県にある中部国際医療センター痛みセンターには、他県からも患者がおとずれる訪れる。診療科責任者で、中部国際医療センター麻酔・疼痛・侵襲制御センター統括センター長の飯田宏樹医師(日本慢性疼痛学会理事長)に話を聞いた。
★腰痛で整形外科を受診したことがあります。画像検査を受けたのですが、「異常なし」と言われました。しかし、痛みはある。この場合、どういう原因が考えられますか?
画像検査のひとつ、であるレントゲンでは、骨や石灰化の状態をみることができます。しかし、筋肉や神経、血管などはうつり映りません。レントゲンではわからない病気を調べる画像検査として、MRIやCTがあります。特にMRIでは、腰痛の原因となる腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、腰椎分離症などを診断するのに役立ちます。その他画像検査では超音波診断装置(エコー)もあります。MRIやレントゲンは静止画ですが、エコーは筋肉、骨、神経、血管を動画で観察できます。
画像検査で「異常なし」と言われた場合、いくつか考えられることがあります。
まずは、腰痛の原因が、画像に映らないものにある場合。神経痛や神経過敏、炎症性疾患で腰痛が起こっている場合、それらは画像検査をしても映りません。腰痛の原因には、ストレスをはじめとする精神的問題もありますが、当然ながら画像には映りません。
次に、「見落とし」の場合があります。単純な見落としもあれば、腰痛だからと脊椎を集中して見ていて、しかし腰痛原因が脊椎周辺の臓器や内臓にあった場合(がんや他の内臓疾患で腰痛が起こっていることもあるため)、たまたまそれらを見ていなかったというケースもあるでしょう。
さらに、MRIの精度に問題がある場合。ほかの病院から紹介を受けていらした患者さんに改めてMRIを行ったところ、腰痛を引き起こしている病変が見つかったケースは多々も時にあります。当センターでは精度の高いMRIを導入しており、それゆえに見つけられたのかもしれません。
★腰痛原因は、画像検査だけでは突き止められない?

腰痛に限らずどの病気でも、1つの検査ですべてがわかるわけではありません。複数の検査を行い、それらの結果を総合し、診断するのは当然です。
画像検査の結果は可能性を示すものであり、最終的に痛みの原因を示すものではありません。整形外科から紹介されてきた患者さんで、すでにやれる検査はやった、それでも何が原因がかわからない、という方が当センターでは少なくないありません。その中に、改めて行った画像検査で診断に役立つ情報が得られる方もいる、ということです。
★MRIでヘルニアが見つかったけど、腰痛の原因はヘルニアではなかった、という話も聞いたことがあります。
腰痛は、画像で異変が見つかったとしても、それが痛みと関係ない場合も多いくあります。ヘルニアが見つかっても、イコール腰痛原因ではないのです。かなり大きいヘルニアがあるのに、そこに神経ブロックの治療で局所麻酔薬を注入したが、痛みが取れない場合もあり、逆に小さいヘルニアだが、神経ブロックで劇的に痛みが取れる方もいます。繰り返しになりますが、画像検査の結果は、「原因の可能性がそこにある」くらいしかわからないのです。
★飯田先生の痛みセンターでは、患者さんがいらした場合、どのように診断されますか?
腰痛の原因は多彩です。そのため、詳細に問診を行います。血液検査をはじめ、体の検査身体の診察も詳細にも行い、画像検査も再度必要であれば行います。血液検査には免疫疾患の検査まで加えることもあります。
最初の診断で絶対に見逃してはいけないものは、治療が遅れると命にかかわる病気です。がんで腰痛が生じている場合や、感染症を起こしている場合などがあるので、それらの除外診断をします。そして、おおよその治療戦略を立てていくのです。
痛みセンターの診断診療は時間がかかります。全員がそうではないものの、患者さんによっては初診に1〜2時間かけることもが普通にあります。
★原因はわかるものなのでしょうか?
日本整形外科学会と日本腰痛学会の監修で2012年に発行された「腰痛診療ガイドライン」では、画像検査などを行って原因を特定できる腰痛を「特異的腰痛」、原因を特定できない腰痛を「非特異的腰痛」とし、「下肢症状を伴わない腰痛の場合、その85%では病理解剖学的な診断を正確に行うことは困難である」と記しています。つまり、足の痛みやしびれなどがない腰痛の85%が原因を特定できない、と記載しているのです。
2012年のガイドラインなので、検査機器のレベルが向上した今では、「85%」というのは少し多いのではないか、とも思いますが、腰痛はあらゆる検査を駆使して調べても原因がわからないものがあることは確かです。なお、海外本邦からの報告では22%程度が非特異的腰痛であり、他は原因が特定できると指摘する論文もあります。
★原因がわからない場合、どうすべきですか?
とにかく、腰痛というつらさを軽減することに注力すべきです。適切な検査を受けても原因がわからないというなら、その時点で検査を繰り返しても患者さんの負担になるばかり。医療費の増大にもつながります。
★痛みセンターにはどのような医療スタッフがいますか?
医師をはじめ、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床心理士、理学療法士、作業療法士など各専門領域のスタッフがいます。精神科と連携して診断・治療にあたる当たることもあります。痛みセンターとは、痛みに対して多くの視点からアプローチできる機関であり、多職種による症状カンファレンスを実施、集学的アプローチに取り組んでいます。
★治療はどのように行うのでしょうか?
患者さんによって治療はさまざまですが、一例を挙げると、神経ブロック治療です。神経ブロック治療には種類がいろいろあり、神経根ブロック、硬膜外ブロック、神経根ブロック、交感神経ブロック、椎間関節ブロックなど、問診や検査で得た情報をもとに、これがいいだろうというものを選択します。
神経ブロック治療を一度受けただけで痛みが消える方、「効かない」という方、反応はさまざまです。ここで大切なのは、「効かない」という患者さんに対して、それは「1〜2時間すら痛みが軽減しなかったのか」あるいは「1〜2時間は痛みが軽減したのか」、どちらなのかを確認すること。1〜2時間すら痛みが軽減しないのであれば、神経ブロック治療をした箇所に痛みの原因がない可能性が高いので、別のアプローチを考える必要があります。
一方、1〜2時間は痛みが軽減したのであれば、薬効果の持続効果を長くすれば、もっと楽になることが見込まれます。それなら、神経機能を長期間停止させ抑制して痛みを軽減する高周波熱凝固やパルス高周波通電治療という手も考えられます。
★薬に頼らない痛み軽減法として、慢性疼痛診療ガイドラインでは運動(リハビリ)が推奨されています。どういう運動がいいのですか?
薬や神経ブロックの治療だけでなく積極的にでは不十分。運動療法を併用して行っています。
運動またはリハビリというと、「痛いのを我慢して行う」というイメージをお持ちの方が多い。しかし痛みに対する運動療法は、痛みを起こさせない方法が絶対であり、患者さんには、痛みを起こさない、痛みを我慢しない運動の方法を、患者さん1人1人に合わせて指導します。痛みの程度、場所、年齢、運動経験などでその方ができるもの内容は異なるので、完全なオーダーメードになります。頑張りすぎてしまう方も少なくないので、必ず「やっていい運動」「やってはいけない運動」を具体的に指導します。定期的に客観的に効果を測定し、その結果に基づいて少しずつ負荷を上げていきます。
なお、運動は、痛みセンターに来てやってもらうのではなく、患者さんが行うのは自宅に戻ってからとなります。痛みセンターでは指導を行い、その方法を持ち帰ってもらいます。スポーツジムでトレーナーさんについてもらっている方には、そのトレーナーさんとも運動内容を共有する形にします。
★痛みを100%ゼロにすることは可能でしょうか?
すべての患者さんにおいて、それが可能とは言えません。しかし、痛みは100%取れなくても、夜ぐっすり眠れて、ご飯を美味しく食べられて、好きなことをできるなら、多少痛みがあっても、日々を過ごすことには困らないのではないでしょうか。
患者さんには、短期的な目標を掲げて、それを達成することをまずは目指してもらいます。腰痛で2時間映画館で座り続けられないという方なら、映画1本観られるようになるよう頑張ろう、という風にです。それが治療のモチベーションにもなります。
腰痛治療は患者さんに応じて異なるわけですが、読者の皆さんに、痛み対策で覚えておいてもらいたいことがひとつ。睡眠とたばこは痛みと深い関連があります。
夜眠れるようになれば、随分と楽になる。そして、禁煙喫煙は腰痛だけでなくあらゆる痛みを悪化させるので、禁煙は疼痛緩和に役立ち必要になります。たばこを吸っていると、運動器の痛みだけでなく、がんの痛み、手術の痛みも向上する増強することが研究で明らかになっています。