目次
- 1 はじめに
- 2 Q水虫がひどくなるのは「夏」という印象があります。
- 3 Q水虫は、春・夏の数カ月間で治すことができないのでしょうか?
- 4 Q水虫は、足以外にも発症するのですか?
- 5 Qどれくらいの人が水虫にかかっているのでしょうか?
- 6 Q水虫の症状がなくなったら、別に完治するまで治療しなくてもいいのではと思う人も多いようです。
- 7 Q足白癬はどのような治療法がありますか?
- 8 Q爪に感染する爪白癬は、どういう水虫なのでしょうか?
- 9 Q爪白癬も、足白癬と同様に、塗り薬が主な治療法でしょうか?
- 10 Q爪白癬はどのタイミングで病院へ行けばいいのでしょうか?
- 11 Q病院に行かずに治したいのですが…。
- 12 この記事を監修した医師
はじめに
暖かくなると症状が強く出やすくなるのが水虫だ。かゆみ、皮むけ、白くふやけてじゅくじゅくする、水疱ができる、爪が変色するなどの症状は、QOL(生活の質)を下げ、また見た目もよくない。
家族のだれかひとりが水虫を持っていれば、ほかの家族全員にうつしてしまう可能性もある。さらに、「水虫は不快だが、死なない病気」と思っている人もいるかもしれないが、水虫の放置は転倒リスクを高める。
高齢者においては骨折や寝たきりを招きやすくなり、健康寿命を縮めかねない。糖尿病患者では、足切断の原因になることもある。いずれも詳細は本文で触れているので、水虫治療の重要性についてしっかりと理解して欲しい。
ありふれた病気ではあるが間違った認識を持たれがちな水虫について、水虫の重症患者の治療に当たっている埼玉医科大学総合医療センター 皮膚科診療科長・教授の福田知雄先生に話を伺った。
Q水虫がひどくなるのは「夏」という印象があります。
水虫は湿度が高くなる春や夏に症状がひどくなり、乾燥している冬は水虫菌である白癬菌の増殖が止まり、症状が治まります。かゆみなどの症状がなくなるので、「水虫が治った」と勘違いする方も多いでしょう。
しかし、それは白癬菌の数が減り、また活動が低下しているだけで、白癬菌は角質や爪の硬いケラチンの下に存在します。春・夏に水虫の治療をしていても、秋・冬に「治った」と勘違いして治療を中断すれば、春・夏になればまた白癬菌は増殖をし始め、症状がぶり返します。
この記事が掲載される4月は、そろそろ白癬菌が活発に活動をし始めるころでしょう。人は誰でも、症状がある時は治療に熱心ですが、症状が治れば治療を忘れがちになります。しかし今回は、春・夏が過ぎ、秋・冬に入っても、ぜひ治療を継続し、完全に水虫を治していただきたい。完治しないまま途中で治療をやめてしまうと、今まで継続して行ってきた治療が無駄になってしまいますし、次の春・夏に水虫が再発したとき、また一から治療をやり直すことになります。
Q水虫は、春・夏の数カ月間で治すことができないのでしょうか?
後ほど詳しく説明しますが、足にできる水虫には大きく分けて、足の指や皮膚に感染する足白癬(足水虫)と、爪に感染する爪白癬(爪水虫)があります。爪白癬は臨床試験で、治るまで最低でも半年から1年以上かかるといわれています。
Q水虫は、足以外にも発症するのですか?
水虫の原因菌である白癬菌は、身体中の皮膚、爪、毛などに感染します。感染した場所で異なる病名がつけられており、体部(髪の毛、股、手、足を除く)に感染したものは体部白癬(ゼニタムシ)、股に感染したものは股部白癬(インキンタムシ)、頭部に感染したものは頭部白癬、手に感染したものは手白癬といいます。それ以外に、前項で挙げた足白癬と爪白癬があります。
白癬菌に感染している患者さんで、どこに感染しているかを調べた調査では、51.5%が足白癬、33.3%が爪白癬で、足の水虫が圧倒的多数を占めています。
Qどれくらいの人が水虫にかかっているのでしょうか?
日本人の7人に1人は足白癬、13人に1人は爪白癬にかかっていると推定されており、足白癬と爪白癬を併発している人も多数います。
足白癬、爪白癬ともに男女比は1.3対1で、年齢で一番多いのが足白癬で男女とも70歳代、爪白癬も同じく男女とも70歳代にピークがあることが最近の調査(Foot Check 2023)で確認されています。
Q水虫の症状がなくなったら、別に完治するまで治療しなくてもいいのではと思う人も多いようです。
水虫を完全に治療すべき目的は主に5つあります。1つ目は、症状の重症化を抑えること。足白癬では足の指の間にできる趾間型ではかゆみ、皮がむける、湿って白くなったりじゅくじゅくしたりするなどの症状が、足の裏にできる小水疱型ではかゆみ、小さい水疱、皮がむけるなどの症状が見られますが、白癬菌の持続感染により皮膚が厚くなった角質増殖型ではかゆみはないことが多く、かかとが硬くなったり、ひび割れが起こったりします。人によっては、「大したことがない」と思うかもしれません。また、爪白癬では爪の変色、爪のもろさ、それによる爪の変形などが主症状で、かゆみがないので、やはりあまり気にしない人もいるでしょう。
しかしそれでも治療が必要なのは、足になんらかの疾患があると、歩行時のバランスを取りづらくなり、転倒しやすくなるから。水虫は高齢者に多い病気だと前述しましたが、高齢者で転倒を繰り返すと寝たきりリスクも増します。爪には指先を保護して怪我を防ぐ役割もあります。爪白癬で爪がもろくなってしまえば、その役割を果たせません。これが2つ目の目的です。
3つ目の目的としては、家族などに水虫をうつさないこと。白癬菌は、足白癬の患者さんからはがれ落ちた皮膚の中に存在し、家庭内にばらまかれます。バスマット、スリッパ、絨毯、畳、床などにばらまかれた白癬菌が、家族の素足に付着。それがはがれ落ちれば感染は不成立になりますが、素足に白癬菌が付着したまま靴下を履き、長時間足に付着したままになると、感染が成立します。白癬菌は12〜24時間以上の付着で感染が成立することが分かっています。
4つ目の目的は、症状が治まり、見た目がきれいになっても、白癬菌が残っている場合があり、そうすると再発リスクがあるからです。足白癬が長期化すれば、爪にも白癬菌が感染し、爪白癬を発症します。爪白癬は足白癬よりも治療が困難。爪白癬を完全に治さなければ、足白癬は完治しても、爪の下の白癬菌が足にも及び、足白癬を再発します。時には爪の下に潜む白癬菌が全身の皮膚にも及び、ゼニタムシやインキンタムシを発症するケースもあります。
そして5つ目の目的ですが、糖尿病患者で水虫があると、重症化して壊疽が生じ、脚の切断になりかねません。その回避のためには、水虫治療も含めたフットケアが必要不可欠です。
Q足白癬はどのような治療法がありますか?
足白癬には、白癬菌を殺菌もしくは活動を鎮めたりする作用のある抗真菌薬を使います。クリーム剤、液剤、軟膏剤といった塗り薬が主で、塗り薬だけでは治しにくい角質増殖型には飲み薬を使うこともあります。
塗り薬では、塗る量、範囲、期間を間違えているケースが結構あります。塗り方としては、症状がある部分だけに塗るのはNG。症状がなくても白癬菌が潜んでいる可能性があるので、足の指、足の指の間、足の裏全体と、くまなく塗ってください。通常は、塗り薬を毎日十分量、かつ十分な範囲に塗れば、2週間ほどでかゆみがなくなり、見た目もきれいになってきます。しかし、白癬菌は完全に消えたわけではないので、症状軽快後も1〜2カ月は毎日塗り続ける必要があります。
水虫の塗り薬では、スイッチOTC医薬品といって、医者の処方薬と同成分が入った薬が市販されています。ですので、スイッチOTC薬であれば市販薬でも差し支えありませんが、問題は値段と量。すでに述べたように、足白癬は足の指、足の指の間、足の裏全体とくまなく塗らなければならず、その期間も数カ月間。市販薬ですとしょっちゅう買い足す必要があり、費用もかかります。処方薬の方が、金銭的な出費も抑えられます。
Q爪に感染する爪白癬は、どういう水虫なのでしょうか?
爪白癬は、白癬菌が爪に住みついて発症したものです。白癬菌がついたまま通気性の悪い靴を長時間履いていると、白癬菌が増殖し、それが爪の周りの皮膚から爪に入り込んで住みつき、爪白癬に至るのです。爪が白色や黄白色に混濁し厚くなり、進行するに従って爪の変色が進み、もろくなるなどのさまざまな症状が見られます。
足の爪は伸びるのが遅く、最も速い親指でも1カ月で1.5ミリの伸びになります。爪白癬では新しい爪に生え変わるまで1〜2年かかることもあります。爪白癬では、その間治療、経過観察が必要なので、それゆえに爪白癬を完全に治すには時間がかかるのです。高齢になる程爪の伸びが遅いので、治療にはさらに時間がかかります。
Q爪白癬も、足白癬と同様に、塗り薬が主な治療法でしょうか?
爪白癬の薬には、爪表面から薬の成分を浸透させて効果を発揮する塗り薬と、口から服用して血流から爪の病変部に薬の成分を到達させる飲み薬があります。ここでしっかり認識して欲しいのは、足白癬では市販薬で治すことも可能であるのに対し、爪白癬では市販薬では効果がなく、また足白癬の治療薬では治せないとのことです。爪白癬は、病院に行かないと治療ができないのです。
繰り返しになりますが、足白癬と爪白癬では薬が異なります。そして、爪白癬の薬は市販されていません。もし薬局で「爪水虫の薬をください」と言って薬を出されたら、それは効かない薬だと思ってください。
Q爪白癬はどのタイミングで病院へ行けばいいのでしょうか?
健康な足の爪は、表面は凹凸がほとんどなくツルツルしていて、透明感のある薄いピンク色をしています。また、前から見ると爪は少し山形に曲がっています。もし、黄色や黄白色ににごっていて、形もおかしいようなら、皮膚科への相談を勧めます。爪白癬の治療は早ければ早いほどいいからです。
爪白癬の薬ですが、現在、塗り薬は2種類、飲み薬は3種類登場しています。塗り薬の場合、1年間塗り続けての完治率は15%ほどで、飲み薬は、2018年承認の治療薬で60%と、4倍高い治療効果が期待できます。塗り薬で対処できるという一部の例を除いては、飲み薬を第一選択で処方します。患者さんの中には飲み薬に抵抗を示す方も少なくありませんが、大多数の患者さんは飲み薬での治療が可能です。爪白癬の治療は長期戦になることが多いため、治療開始前に時間をかけてしっかりと説明し、ドロップアウト率を低くするようにしています。
Q病院に行かずに治したいのですが…。
爪白癬の場合、皮膚科を受診しない限り治りませんし、治療が遅れれば遅れるほど難治になります。糖尿病があれば、水虫が足の壊疽、切断につながりかねませんし、高齢者では転倒から骨折、寝たきりという負の連鎖を招く恐れもあります。また、水虫だと思っていたら違う病気の可能性もあります。気になる症状がある場合は、速やかな受診を強くお勧めします。