目次
- 1 はじめに
- 2 ★最近、近くのものが見えにくくなり困っています。これは老眼でしょうか?
- 3 ★「おおむね45歳以上であれば」ということですが、老眼は何歳から始まりますか?
- 4 ★目の調節機能はどのように低下するのでしょうか?
- 5 ★「近視の人は老眼にならない」と聞いたことがありますが、本当ですか?
- 6 ★老眼と近視、遠視の違いについて教えてください。
- 7 ★50歳を超えていますが、老眼で困ることがありません。
- 8 ★スマホ老眼とはなんですか?
- 9 ★老眼は治せますか?
- 10 ★白内障がある場合は、保険適用となりますか?
- 11 ★中高年になって気をつけたい目の病気について教えてください。
- 12 この記事を監修した医師
はじめに
中高年になると「誰もが感じる目の不調」といえば、老眼です。年齢以上に見た目が若々しい人、筋トレや有酸素運動で若者に引けを取らないスタイルを維持している人もいますが、老眼にならない人はいません。一方で、老眼だと思って見えづらさを放置していたら、実は老眼とは違う目の病気だった、ということもあります。
また、近年問題視されているのが、加齢による老眼とは違う、いわゆる「スマホ老眼」の増加。スマホ老眼は、中高年に限らず、10代〜20代の若者でもなり得る可能性があります。
今回は老眼を中心に、中高年が知っておきたい目にまつわる話をクイーンズ・アイ・クリニック院長の荒井宏幸先生に伺います。
★最近、近くのものが見えにくくなり困っています。これは老眼でしょうか?
私たちはモノを見るとき、目の中のレンズである水晶体の厚みを調節して、見たいところにピントを合わせています。水晶体の周りにはピント調節に関わる筋肉、毛様体筋があります。近くを見るときは毛様体筋が収縮し、水晶体が膨らんで凸レンズのような状態になり、近くにピントが合います。遠くを見るときは毛様体筋がゆるんだ状態になり、水晶体が上下に広がって薄くなります。しかし加齢とともに水晶体が弾力性を失って硬くなり、厚みが変化しなくなってしまいます。結果、近くにピントを合わせられなくなります。この状態が老眼です。私たち眼科医は「調節不全」または「調節衰弱」という呼び方をすることもあります。「見えなくなって困っている」という場合は、まずは眼科で目のチェックを受けてください。検査で目の病気がなく、45歳前後以上であれば、老眼と考えて間違いないでしょう。
★「おおむね45歳以上であれば」ということですが、老眼は何歳から始まりますか?
老眼は40歳代半ばから自覚することが多いです。「おおむね45歳以上であれば」としたのは、それが老眼を自覚する年代だからです。水晶体の機能を判断するデータ「調節機能曲線」では、だれでも40歳代半ばからピントを合わせられる距離が33cmを越えてしまうことが示されています。
★目の調節機能はどのように低下するのでしょうか?

目の調節力は年齢とともに低下します。幼児期の目の調節力は「+10D」と言われています。「D」はジオプターという目の調節力を表す単位で、「+10D」の場合、1メートルの10分の1である10センチの距離でもピントを合わせられます。それが40歳くらいになると「+4D(1メートルの4分の1)」まで低下し、目から25センチの距離より近くなるとピントが合わなくなります。そして45歳前後では「+3D(1メートルの3分の1)」、つまり33センチより近い距離がボヤケて見えるようになります。日常生活において、手に持った本や新聞などを見るときに不便を感じないためには、「+3D」以上の調節力が必要です。
★「近視の人は老眼にならない」と聞いたことがありますが、本当ですか?
老化スピードは個人差があるものの、老化が訪れない人はいません。老眼においても同様で、老眼にならない人はいません。「近視の人は老眼にならない」という説は、近視の人はもともと裸眼の目の焦点が近くに合っているため、老眼の症状を自覚しにくいということが関係しているのでしょう。こういった人も、近視用のメガネをかけたままスマートフォンの画面を見ようとすると、ピントの合いづらさを感じるはずです。一方、遠視の人は遠くに焦点が合いやすいことから、老眼を早めに自覚する傾向があります。
★老眼と近視、遠視の違いについて教えてください。
近視・遠視と老眼は基本的に異なる理由で起こります。近視・遠視は目に入ってくる光の焦点する位置の異常です。老眼は、ピントの調節機能に関係する水晶体の厚さが変化しなくなり、近くにピントを合わせられなくなった状態です。一方、近視と遠視は、眼球の長さ(眼軸)や角膜・水晶体の屈折力の異常で起こります。近視では外部から入ってきた光が本来焦点を結ぶ網膜上ではなく、それより手前で焦点を結ぶために、近くは見えるが遠くは見づらくなります。遠視は外部から入ってきた光が網膜よりも奥で焦点を結ぶため、近くも遠くも見づらさを感じます。老眼は歳を取ればだれにでも起こりますが、近視、遠視は年齢とは関係なく、遺伝や生活環境が関係していると考えられています。
★50歳を超えていますが、老眼で困ることがありません。
老眼はだれにでも訪れます。もともとが近視だったり、弱いメガネを使っていれば、近い所は不自由なくみえます。実際は老眼が始まっていても、目の度数やメガネの合わせ方によって、困り具合は人それぞれなのです。
★スマホ老眼とはなんですか?
最近よく耳にするスマホ老眼。これは加齢で起こる老眼とは違う、スマホ中心の生活が原因で起こる老眼です。小さい画面のスマホを長時間見続けると、毛様体筋を限界まで収縮させているわけですので、眼精疲労になって当たり前です。それが蓄積されたものがスマホ老眼です。ピントの調整機能がほぼ働かなくなっている状態です。加齢の老眼は45歳前後から起こりますが、スマホ老眼は10代20代でも起こります。ただ、スマホを見続ける生活を改めれば、症状は改善することがほとんどです。
★老眼は治せますか?
老眼は手術によって治せます。より正確に言えば、「若い頃と全く同じ状態の見え方まで戻すことは現段階ではできない。しかし、日常生活をメガネなしで問題なく過ごせるレベルまでは、手術によって改善できる」ということです。
★どういう方法があるのでしょうか?
大きく分けて「モノビジョンレーシック」と「多焦点眼内レンズ」の2つがあります。前者は、レーシックの技術を使って老眼を克服しようというもの、後者は白内障の手術に用いられる技術で目の中に眼内レンズを入れて老眼を矯正するものになります。
★モノビジョンレーシックから教えてください。
レーシックとは、目の表面の角膜にコンピューターでプログラミングされた通りにレーザーを照射し、角膜の状態を変えて視力を矯正する手術のことです。モノビジョンレーシックでは、レーシックで片目は遠くを、もう片目は近くを見やすいように視力を調整し、両目で見た時に遠くも近くも見えるようにします。最初は左右の見え方に違和感を覚えますが、数カ月後には完全に慣れます。いきなりレーシックをするのではなく、コンタクトレンズで左右の視力に差がつくようにし、モノビジョンでもいけそうかどうかを確認してから次を検討する方法もあります。
★モノビジョンレーシックの注意点はありますか?
モノビジョンレーシックの注意点として、視力差のある左右の目で自然に見えるようになるまで、時間がかかるということが挙げられます。もう一つの注意点としては、老眼が軽いうちはモノビジョンレーシックで対応できるものの、老眼が進んでいくと見えづらくなってきて、老眼鏡が必要になる可能性があるということです。しかし、考えていただきたい。例えば50歳代で楽しむスポーツ・アウトドア・旅行などは、80歳代には同じようにはできません。 今の年代だからこそ老眼鏡なしで大いに楽しめることはたくさんあるのです。それなのに「今手術してもこの先また老眼鏡が必要になるかもしれないから、不自由だけどこのまま我慢しよう」というのは、非常にもったいない考え方だと思うのです。
★多焦点眼内レンズについても教えてください。
多焦点眼内レンズは、白内障の手術で水晶体と取り換える人工レンズの一種です。「多焦点」という通り、遠く、中間、近くと多焦点にピントを合わせられるレンズです。白内障の手術で用いられる人工レンズには、遠く、または近くのどちらかにピントがあう単焦点眼内レンズ、遠くから中間距離までが見える焦点深度拡張眼内レンズもあります。単焦点眼内レンズや焦点深度拡張眼内レンズではメガネや老眼鏡が必要ですが、多焦点眼内レンズでは、老眼鏡を用いなくても遠くから近くまで全てを見ることができるようになります。
★多焦点眼内レンズを用いる老眼治療は、白内障手術と共通しているということですか?
共通しています。白内障とは加齢によって水晶体が濁り、見えづらくなる病気です。加齢とともに患者数が増える病気で、老眼とセットで起こります。つまり、老眼の症状が出始めている人では、白内障も同時に少しずつ進んでいる可能性があります。この白内障では、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズに取り替えます。眼内レンズを多焦点眼内レンズにすることで、老眼治療にもなりうるのです。また、白内障がほとんどなくても、老眼治療として多焦点眼内レンズを使うことも可能です。
★多焦点眼内レンズの注意点はありますか?
治療費が高額になることです。水晶体を人工レンズに換える手術は、白内障手術では保険適用となりますが、老眼治療としては保険適用外となるため、診察、検査、手術全てが自己負担になります。
★白内障がある場合は、保険適用となりますか?
白内障の治療として水晶体を人工レンズに換える場合は保険適用です。ただし、保険適用となるのは、単焦点眼内レンズのみです。多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は、選定療養の対象となっています。選定療養とは、患者さんが追加費用を負担することで、保険適用外の治療を、保険適用の治療と併せて受けられる医療サービスです。従来の保険診療で行われる単焦点眼内レンズを用いた白内障手術の費用に加え、多焦点眼内レンズを用いた場合に生じる費用(レンズ代、追加検査費)を自費で払う形になります。
★中高年になって気をつけたい目の病気について教えてください。
老眼が起こり始める年代は、他の目の病気も起こりやすい年代です。代表的なものでは、白内障、緑内障、加齢黄斑変性、網膜剥離、糖尿病網膜症があります。見えづらさを感じたら、自己判断をせずに、速やかに眼科を受診していただきたいと思います。さらに大事なのは、40歳代を過ぎたら定期的に眼科検診を受けることです。白内障、緑内障、加齢黄斑変性は徐々に見えづらくなっていく上に、視力低下が進んでいない方の目で補って見てしまうため、気付きにくいのです。「自分は見えている」と思っていても、実際はあまり見えていない場合もあるのです。