目次
- 1 はじめに
- 2 ★四十肩、五十肩とは、どういう病気ですか?
- 3 ★五十肩は病名ではない、通称だと聞いたことがありますが、どうですか?
- 4 ★いわゆる五十肩の症状を具体的に教えてください。
- 5 ★いわゆる五十肩の痛み、可動域制限は、なぜ起こるのですか?
- 6 ★運動をしているのに五十肩が起こるのはなぜですか?
- 7 ★五十肩と自己判断せず、病院で調べてもらうことが必要ですか?
- 8 ★五十肩の治療はどのように行われますか?
- 9 ★肩の可動域が制限されたままの場合、サイレントマニュプレーションという治療があるそうですね?
- 10 ★五十肩のような症状が出てきたので整形外科を受診したのですが異常は見つからず、薬と湿布を処方されただけ。痛みが続いているのですが、我慢するしかありませんか?
- 11 ★上腕二頭筋腱損傷は治療法はあるのですか?
- 12 ★肩の痛みで悩む方へのメッセージをお願いします。
- 13 この記事を監修した医師
はじめに
50〜60歳代、まれには40歳代以前に経験する肩の痛み。これを一般的に五十肩(四十肩)と呼ぶが、ひどくなると寝ていられないほど痛みが強くなり、日常生活に支障を生じる。
しかし、それほどつらい症状の割には、「五十肩だから仕方がない」「いつかは良くなるだろう」などと考え、整体や鍼灸には行っても、整形外科を受診しないままの人も多いのではないか。もちろん整体や鍼灸も痛みの緩和に役立つかもしれないが、「五十肩」は病名ではない。
肩の痛みの背景には、積極的な治療が必要な病気が隠れている可能性もある。そうでなくても、正しい診断、早期での適切な治療介入が、スムーズな症状軽減につながるだろう。
そこで、肩・肘の病気の治療経験が豊富で、情報発信に積極的に取り組む整形外科医、森大祐医師に肩の痛みについて話を聞いた。京都下鴨病院の肩関節外来で14年間の研鑽を積んだ森医師は、2025年3月2日に近鉄京都線東寺駅前に「京都整形外科 肩スポーツクリニック」を開院した。
★四十肩、五十肩とは、どういう病気ですか?
一般的には五十肩、40歳代などで症状が出た時には四十肩とも呼ばれる肩の痛みは、医学的には「肩関節周囲炎」といいます。中高年で肩をぶつけた、捻ったといった思いあたる誘因がなく、肩の痛み及び動きへの制限(=可動域制限)がある場合を指します。ただし、腱板断裂や石灰沈着性腱板炎なども肩の痛み及び可動域制限といった症状が見られるので、それらの病気を除外することが大前提です。
★五十肩は病名ではない、通称だと聞いたことがありますが、どうですか?

それはおっしゃる通りで、四十肩・五十肩は正式な医学病名ではありません。例えば、咳や鼻水が出て、熱っぽい時、「風邪かな」と思い、様子見をしたり市販の風薬を飲んだりすることはあるかと思います。しかし「風邪」というのは症状を指しているのであって、医学病名ではありません。正式な呼び方の「風邪症候群」はくしゃみ、鼻水、鼻詰まり、喉の痛み、咳、痰、発熱の総称となります。四十肩・五十肩は、40〜50歳代で肩が痛くり動かしづらくなった時に症状をひっくるめて、その呼び方を使います。
★いわゆる五十肩の症状を具体的に教えてください。
肩から腕にかけての痛みがあります。具体的には下記の症状です。
- じっとしていても痛い。強い痛み、じわーっとした痛みがある
- 夜、痛くて目が覚める
- 髪を洗ったり、ブラッシングをするときに痛い
- 洗濯物を干すときに痛い
- 電車の吊り革を持つのがつらい
- エプロンの紐を背中で結ぶ時に痛い
- セーターなど被り物の脱ぎ着の時に痛い
肩を動かしていく中で、いろいろな方向での痛みが生じます。痛くて肩を動かせず、結果的に「髪を洗えない、洗濯物を干せない、エプロンの紐を背中で結べない」となることもあります。「パソコンのキーボードを打つのすらつらい」という方もいらっしゃいます。
★いわゆる五十肩の痛み、可動域制限は、なぜ起こるのですか?
年齢からくる肩関節の質や動きの低下、日頃の運動不足が原因としてあると考えられます。さらには仕事などで同一姿勢が長時間続くことで姿勢が悪くなることも一因です。
悪い姿勢では骨盤や胸、背骨の動きが無意識のうちに低下し、そのような状態で腕を使用すると、胸や肩甲骨が動かないため些細な日常生活動作でも肩関節に負担がかかり、肩関節の炎症が起こり、痛みが生じます。これが肩関節周囲炎です。すると、肩の動きを抑えようと肩関節の周囲筋に緊張が起こり、可動域制限をきたします。
★運動をしているのに五十肩が起こるのはなぜですか?
運動不足は五十肩のリスクを上げますが、過度の運動も肩に負荷をかけるので、五十肩のリスクを上げます。
ただ、この場合、年齢と肩の痛みから「イコール五十肩」と判断して検査をしないでいると、本当の原因を見落としかねません。腱板断裂や腱板損傷、上腕二頭筋損傷、肩の脱臼など、いわゆる五十肩と似たような症状をもたらす肩の病気はいくつもあります。
★五十肩と自己判断せず、病院で調べてもらうことが必要ですか?
自己判断は禁物です。一つは、何らかの病気が隠れている可能性があること。いわゆる五十肩なのか、別の原因があるのか、検査をする必要があります。もう一つは、肩が痛いからとあまり動かさないでいたり、逆に痛みがあるのに肩を使い続けたりすると、「拘縮肩(または凍結肩)」といって肩の可動域制限がいっそうひどくなることがあるからです。
五十肩は肩関節周囲炎といって、炎症が起こっています。腱板断裂や腱板損傷、上腕二頭筋損傷など別の病気でも炎症が起こっています。肩関節の炎症が続くと、関節包が硬くなります。また、肩関節の肩峰の下には滑液の入った袋である肩峰下滑液包があり、これが肩峰と癒着をすると腱板の動きが悪くなります。それらのために可動域制限が悪化するのです。
★五十肩の治療はどのように行われますか?
レントゲンやMRI画像検査などで他の病気がないと確認されれば、炎症を早期に取り除くために投薬や注射を行います。痛みが軽減すれば、拘縮肩にならないよう、適切なタイミングで筋緊張のある肩関節周囲筋や、腱の癒着などを取り除く運動療法が必要となります。難治性の肩関節の拘縮を起こしているケースでは、手術が検討されることもあります。
★肩の可動域が制限されたままの場合、サイレントマニュプレーションという治療があるそうですね?
外来で麻酔をかけて痛みをほぼ感じないようにして行う、可動域を広げる処置のことを言います。五十肩が進行して、難治性の肩関節の拘縮になった方に対して行います。五十肩の治療は適切に行えば、夜間疼痛をはじめとした痛みはほぼ軽減します。
しかし炎症の長期化で拘縮肩になってしまうと、自然と回復する方がいる一方で、回復しない方もいます。そんな方への伝家の宝刀とも言えるのが、サイレントマニピュレーションです。
★五十肩のような症状が出てきたので整形外科を受診したのですが異常は見つからず、薬と湿布を処方されただけ。痛みが続いているのですが、我慢するしかありませんか?
私の外来には、同様の相談で来院する患者さんが結構な頻度でいます。「薬と湿布でしばらく様子見をしましょう」「肩の体操についての資料をお渡ししますので、やってみてください」「病院でリハビリしましょう」などと言われてやっているのだけど、症状が改善しない。整形外科に行っても治らないからと諦めて、我慢し続けている方もいます。
実のところ整形外科医といっても専門はさまざまで、肩の病気は、肩を専門とする整形外科医でなければ適切に診断、治療ができないことが珍しくありません。肩の病気はいくつもあることはすでに述べた通りですが、「レントゲンやMRIで特に異常はありません」と診断され、しかし痛みが続く場合、一つに、上腕二頭筋腱損傷という病気があることをお伝えしたいと思います。
【上腕二頭筋腱損傷とは】
上腕二頭筋は力こぶの筋肉で、肘を曲げることのほか、肩関節の動きも助けます。肩甲骨の一部の骨にピタッと付着する軟骨である関節唇が損傷を受けると、関節唇に付着する上腕二頭筋腱に負荷がかかり、結節間溝(上腕骨にある溝)での動きが不自然になります。そこでの摩擦が強くなり、上腕二頭筋腱損傷に至ります。また、関節唇の損傷はなくても、腱板の一部が損傷すると、やはり結節間溝での摩擦が強くなり上腕二頭筋腱損傷が起こります。
【どういうことがきっかけで起こるか】
- 転んで手をつく
- 肩を激しくぶつける
- 車の運転席から後ろの座席の荷物を取ろうと手を伸ばし、肩を過伸展してしまった
- 重いものの上げ下ろしの繰り返し
【主な症状】
- 痛みで手を上げにくい。ただし、上がらないわけではない
- 肩の前方部に痛みがある
- 腕を背中に回した時に痛む
- 腕を反対の肩にまわそうとして、反対の肩に触れようとした時に痛む
- 引き戸の開閉が痛みのためにしにくい
★上腕二頭筋腱損傷は治療法はあるのですか?
上腕二頭筋腱損傷は、MRIや超音波エコーで検査の結果から診断します。治療では、ステロイド入りの局所麻酔剤を検証内に注射したり、理学療法などの保存療法があります。保存療法で効果がない場合には上腕二頭筋腱をスクリューで上腕骨に固定する「上腕二頭筋腱固定術」などの手術をおこないます。私の母は66歳の時に左肩痛が生じ、クリニックでヒアルロン酸注射を数回受け痛みは一時的に軽快したものの、完全に消えたわけではありませんでした。私がアメリカでの留学を終え、帰国してから診察。様々な検査から上腕二頭筋腱損傷と診断し、保存療法を実施。局所麻酔剤の注射で痛みは消えたのですが、ピアニストという職業柄、完全に治したいと手術を希望したことから、私が執刀し、上腕二頭筋腱固定術を行いました。入院は6週間、術後は1年間のリハビリ通院が必要でしたが、術後5年で肩に関しての問題はなく、画像診断でも上腕二頭筋腱が上腕骨にしっかりと固定されているのが確認できました。一方、手術を受けずに損傷を放置した場合、上腕がシクシクする、腕に力が入りにくいといった訴えをよく聞きます。
★肩の痛みで悩む方へのメッセージをお願いします。
中高年で肩が痛くなると五十肩と思われがちですが、たかが五十肩、されど五十肩。正しい知識を持って対処すればほとんどの方で症状が軽減しますが、そうでなければ年単位で症状が続き、人によっては生活の質が著しく下がります。SNSで得られる情報は玉石混合です。私は肩の痛みに悩む方が少しでも減ってほしいとホームページ(http://shoulder-doctor.net/)で積極的に情報発信をしています。2025年3月2日にはスポーツ医学を駆使し、エビデンスに基づく運動療法をを積極的に行うクリニックを開院します。アスリートはもちろん、運動をこれまで行なってこなかった一般の方にも、肩をはじめ整形外科領域でお困りごとがあれば、気軽に相談してもらえればと思います。