
住んでいるマンションのエレベーターの扉が開くと、台車にこぼれ落ちそうな段ボール箱を大小40個ほど載せた運送会社の配達員が、台車を押しながら出てきた。話を聞くと、1日に200個ほどの荷物を宅配しているという。1日の労働時間が8時間だとすると、1時間に25個。なんと2〜3分に1個の荷物を運んでいるという、大変な数である。
テレビやスマートフォンで商品を申し込むと、フレッシュ便などとう数時間で届く野菜や肉類から、遅くとも翌日には自宅の玄関に商品が届く、便利な世の中になった。しかし、人間はなぜこんなに早く物を届けてもらわなければならないのかとも思う。
お金というメディアがインターネットを通してデジタルデータ化されることによって、お札を数えたり、お釣りをもらったりすることもなく、ボタン一つで商品を購入できる。いわゆるEコマースといわれる買い物の仕方が、物を欲しがる人間の欲求のテンポを早めたのではないかと思う。
富良野に住む知人の農園から毎年メロンを購入しているが、春先に注文したメロンが、雪解けや梅雨、太陽の日差しによって色を変え、味を変えるのが毎年の楽しみだ。
先日、久しぶりに銀座の紳士服店に立ち寄って、来年(2026年)の冬物のスーツを作った。秋の初めに仮縫いがあるので、そこまでなんとか体型を維持したいと思うものの、雪が降る前に出来上がるのが待ち遠しい。
私に言わせれば、ネット通販は手軽で便利なのだが、買う喜びもなくなってしまった気がする。消費者は、商品を買うまでのプロセスの中で、人の心や、その優しさ、有り難さを感じることがある。
先日、日本郵便で不祥事が起こった。全国3500局のうち、75%が適切な点呼を行わず、業務中に飲酒運転をしていた局員が多数いたことが発覚。そのニュースは、私たちの「血管」ともいえる物流ネットワークが切断されたような衝撃であった。
日本の郵便制度をつくったの回顧録を読むと、郵便局の利用マニュアルを局員に徹底的に配布し、その中には、切手の貼り方からはがきの薄さ、さらには書く人の心構えまで書かれていたという。郵便の基本は、「手軽に、親切に、丁寧に」というのが原則であったようだ。
小学生のころに新聞配達をしていた。確か当時、120軒ほどの夕刊を配っていたが、ある雨の夜、一軒の配達先のポストに夕刊を入れ忘れた。他の配達アルバイトが帰宅する時間に、配達店の店長さんと入れ忘れたお宅にお詫びに行った。そのことが、今の仕事の“心の軸”にもなっている。
「美楽」発行人 東 正任