大谷 義夫|Otani Yoshio
- 日本内科学会総合内科専門医
- 日本呼吸器学会専門医・指導医
- 日本アレルギー学会専門医・指導医
- 日本医師会認定産業医
- 東京医科歯科大学病院非常勤講師
内科・呼吸器内科・アレルギー科・睡眠医療の専門医。1989年に群馬大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学第一内科に入局。国家公務員共済組合連合会九段坂病院や国立がんセンター肺内科での研修を経て、1998年には東京医科歯科大学第一内科助手、さらに呼吸器内科助手を務める。2001年には同大学呼吸器内科病棟医長、2003年に九段坂病院内科医長、2005年からは東京医科歯科大学呼吸器内科医局長を歴任。2008年には米国ミシガン大学へ留学し、2009年には東京医科歯科大学呼吸器内科兼任 睡眠制御学講座 准教授に就任。
2009年11月、池袋駅西口より徒歩2分の地に「池袋大谷クリニック」を開院。現在は院長として、これまでの豊富な臨床経験を活かし、地域に根ざした医療に尽力している。東京医科歯科大学病院非常勤講師、医学博士。
著書に『「よくむせる」「せき込む」人のお助けBOOK』 (主婦の友社)など
目次
はじめに
風邪は治ったのに咳だけが残っている。咳が出だすと止まらないーー。そんな長引く咳の治療に積極的に取り組んでいるのが「池袋大谷クリニック」院長の大谷義夫医師だ。
東京医科歯科大学病院(現・東京科学大学病院)の呼吸器内科に在籍していた当時から、長引く咳に悩む患者を多数診てきた。呼吸器を専門に診る医師は総合病院ですら少なく、街のクリニックとなるとなおさらだ。
だからこそ東京・池袋での開設時には、迷わず「呼吸器内科・アレルギー科」を掲げた。クリニックには、長引く咳の治療を求め全国から患者が来院する。呼吸器専門医として目指す姿について聞いた。

長引く咳は風邪ではない
私が2016年に出版した1冊の本があります。タイトルは『長引くセキはカゼではない』。2週間以上続く咳は呼吸器の病気のサインの可能性があること、呼吸器専門医の診断・治療が必要であるということを解説した、私の最初の一般書になります。咳に悩む方々が一刻も早くそのつらさから解放されるようにというおもいを込めて書きました。その背景には、長引く咳に悩む方が多い一方で、適切な治療に結びつきにくいという現状があります。
クリニック開設に至るまでの21年間、私は東京医科歯科大学(現:東京科学大学病院)の第一内科、呼吸器内科、睡眠制御学講座において呼吸器専門医として、呼吸器やアレルギーの病気、睡眠時無呼吸症候群などの患者さんを診てきました。大学病院に在籍中、よく耳にした訴えが「長引く咳」でした。
患者さんはこんな風におっしゃるのです。
「街のクリニックの内科で診てもらったが、原因がわからなかった。そこで総合病院の内科を受診したが、やはりわからなかった。ここの呼吸器内科で診てもらって、長引く咳の原因がようやくわかり、治療を受けられた」

専門医だからこそ長引く咳の原因を突き止められる
咳は非常にありふれた症状です。咳を症状とする病気は多岐にわたり、原因を突き止めるには、たくさんの情報を集めなければなりません。それは、「どのような咳なのか」「いつから始まりどんな時に咳がひどくなるのか」「ヒューヒューという喘鳴や痰を伴うのか」「喉の痛みがあるのか」といった咳にまつわるものから、喫煙習慣や小児喘息の有無、患者さんの生活環境に至るまで、幅広いものになります。
考えられる病気に対しては、胸部レントゲン、血液検査、肺機能、呼気の一酸化窒素濃度、気道抵抗などの検査を行います。問診や検査の一連の流れは、呼吸器の病気を網羅している呼吸器専門医であり、かつ、呼吸器に関する最新の検査機器をそろえている呼吸器内科だからこそスムーズにできることであって、専門外の診療科では、なかなかうまくいかない面もあります。
ただ一方で、呼吸器専門医の数はそう多くはありません。同じ内科である消化器内科や循環器内科の専門医と比べると、呼吸器専門医の数は3分の1程度です。総合病院でも呼吸器専門医がいない、もしくは限られた日しかいないところは多く、街のクリニックとなると、呼吸器専門医が常時いるところを探す方が難しいくらいです。

開設時から呼吸器内科の患者が95%。専門性を高めるため医師はすべて呼吸器専門医
そこで生まれ育った東京・池袋でクリニックを開設することを決めた時、長引く咳に悩む患者さんがアクセスしやすいよう「呼吸器科・アレルギー科・内科」と掲げました。そうはいっても開業前は「一般内科の患者さんが多いのかな」と思っていたのですが、開業時から呼吸器内科の患者さんが95%を占め、長引く咳をはじめとする呼吸器の不調を専門的に診る医師が求められていることを実感しました。
現在はさらに専門性を高めるため「呼吸器科」「アレルギー科」「内科」「咳 咳喘息外来」「睡眠時無呼吸外来」を設け、医師も全員、東京科学大学病院医局所属の呼吸器を専門にする医師にしています。〝長引く咳難民〟とでも言いましょうか、いろんな医療機関を受診したけど咳が止まらなかった、という患者さんが多いです。初診の患者さんでは「当クリニック通院中の患者さんからの紹介」「他のクリニックの医師からの紹介」という方が一定数いるのも当院の特徴かもしれません。

長引く咳は、時に重大病のサイン。生命にかかわることも
「咳が出始めるとなかなか止まらない」「夜、寝ている時に咳が出るので熟睡できない」「話しをしたり、走ると咳き込む」など、長引く咳、止まらない咳は、患者さんのQOL(生活の質)を下げます。新型コロナウイルス流行以降、「咳をすると周囲の視線が気になる。咳をしないように意識するほど咳が出てしまう」といった話も聞きます。長引く咳は見逃してはいけない症状だと広く世間に伝えることは、呼吸器専門医としての使命だと考えています。
患者さんの中には「咳は風邪をこじらせているからだろう」と思って様子見をし、何カ月も経ってから医療機関にかかる方もいらっしゃいます。しかしぜひ「2週間以上続く咳は風邪ではない」ということをしっかり認識していただきたいと思います。なぜなら、長引く咳はQOLを下げるばかりか、時に重大病のサインの場合があるのです。
たとえば肺がんです。初期の肺がんは自覚症状に乏しいとはいえ、長引く咳が発見につながるかもしれません。早くに発見されるほど、治療の選択肢は多くなり、生存率も高くなります。
肺結核は昔の病気ではなく、現在でも発症する方がいらっしゃいます。周囲に感染させる状況になる前に、早期に診断して治療させて頂きたいと考えます。
近年増加傾向にあると言われる病気に「咳喘息」があります。咳喘息の症状は、長引く咳。「咳が出だすと止まらない」「夜間の咳」「明け方の咳」「会話で咳」「笑って咳」「冷気で咳」「エアコンで咳」「ラーメンの湯気で咳」など、軽度の刺激でも咳き込んでしまいます。咳喘息の段階であれば自宅で毎日できる簡単な吸入薬で治療ができますが、治療が遅れると、咳喘息の30%は気管支喘息へと移行します。気管支喘息に至ると完治は難しく吸入薬を中心とした治療は長期に及びますし、残念ながら年間1000名以上の死亡者が報告されています。
高齢者では、咳が命取りになるリスクがあります。「ちょっとした咳」と思っていた症状が、実は肺炎によるもので、気づかないうちに重症化するケースがあるのです。肺炎で亡くなる日本人のほとんどが65歳以上の高齢者であり、高齢者では肺炎のサインとなる咳を見逃さないようにしなくてはなりません。

エビデンスも重要だが、経験論も重要
私が多大な影響を受けた恩師に、東京医科歯科大学(現・東京科学大学病院)の元学長である吉澤靖之先生がいます。吉澤先生は私が大学の呼吸器内科に入局した時からのボスで、親分肌の先生。弟子として本当に可愛がっていただきました。医師としての〝親父〟のような存在です。
吉澤先生は「臨床をしない者は、研究をするな」といった姿勢を貫いていらっしゃいました。研究も大事ですが、臨床はもっと大事。患者さんを見なさい、そうやって患者さんを診察させていただくことで学ぶことがたくさんあるという意味です。
長引く咳を引き起こす病気の一つに、過敏性肺炎があります。カビやほこり、鳥の羽毛など特定の物質を頻繁に吸い込むことで、肺にアレルギー性の炎症が起こり、咳や呼吸困難などが起こります。慢性型では症状が徐々に進行し、咳や息切れがひどくなっていきます。風邪と似ているので、呼吸器専門医以外では、診断が難しい病気でもあります。
「大谷、家を見に行くぞ」
過敏性肺炎でなかなか良くならない患者さんがいると、吉澤先生は私たち医局スタッフに声をかけるんです。過敏性肺炎は、原因となっている物質を突き止めることが重要となります。原因物質は患者さんへの問診だけでは突き止められないことも多く、その場合は患者さんのお宅へ伺い、どこに原因となる物質があるかを調査する環境調査が必要となります。環境調査は、やはり時間を取られるので、実際に行っていない医療機関がほとんどです。しかし、吉澤先生は自らそれをやるのです。過敏性肺炎の患者さんで「鳥を飼っていない」という方のお宅に伺うと、確かに鳥は飼っていませんでしたが、お隣に鳩小屋があったということもありました。

「薬は出してもらったけど、効かなかった」にはしない
吉澤先生から学んだことは、ずっと私の中で生きています。クリニックを開設以降も、環境調査が必要となれば、診療の合間を縫って、または休診日に行います。国内外の最新論文をチェックしエビデンスに基づいた情報を取り入れる一方で、患者さんの声に真摯に耳を傾け、これまでの経験ももとに、知識をアップデートしていく。
〝長引く咳難民〟としていくつもの医療機関を経て当院を受診された患者さんには「これまでも薬は出してもらったけど、効かなかった」という方が少なくありません。そうはならないように、今、患者さんが訴えている不調を解決する術を具体的に提示することを常に念頭に置いています。
絶対に休めない医師がやっていること
ありがたいことに、患者さんは東京都内の方だけではなく、全国からいらっしゃっています。現在は完全予約制なので19時過ぎには診療が終わりますが、昼休みはあってないようなものですね。診察時間外にメディアの取材を受けたり、著書の執筆をしたり、論文をチェックしたりしているので完全にオフとなる時間はそう多くはありません。しかし、体を壊して診察ができなくなると本末転倒ですから、健康維持のために気をつけていることはいくつかあります。
まずは、睡眠時間の確保です。睡眠時間が6時間を切ると、そうでない場合に比べて風邪の引きやすさが4.2倍になるというデータがあるため6時間は寝るようにし、午後の診療のパフォーマンスを上げるために15分間の昼寝は必ず取るようにしています。
次に、軽い運動の継続です。フィットネスジムに通っていた時もありましたが、今はウォーキングを習慣としています。1日1万歩は歩きますね。とはいっても、診療がありますし、まとまって1万歩を歩く時間は取れません。少しでも時間が空けば、それこそ診療時の服のままウォーキングをします。靴も履き替えません。ルームランナーを自宅に置いているので、ネットフリックスを観ながらルームランナーで歩くこともあります。ウォーキングに限らず、これならできるという軽い運動を継続されることを、みなさんにもお勧めします。
実は2023年に、新しい家族をお迎えしたんです。トイプードルのぷぅとぽんです。現在、2歳と1歳半です。自宅に帰るとぷぅとぽんが真っ先に近寄ってきて、ペロペロなめてくれる。ぷぅとぽんとの散歩も、ウォーキングになっています。夜、散歩に行くと、クリニックがある池袋は繁華街ですから、人もたくさんいて賑やか。ぷぅとぽんと散歩していると「かわいいですね」と話しかけられることもよくあるんです。定期的にあいさつを交わす人もできて、そうやって親しくなった人は、ぷぅとぽんを待ち受け画面にもしているんですよ。
池袋で咳に悩んだら専門医に相談を

咳は厄介な症状です。長引く咳はQOL(生活の質)を下げますし、何より患者さん自身が苦しくつらいおもいをします。睡眠の質が下がり、それが免疫力低下につながりかねません。
肺がん、喘息、COPD、肺炎といった重大病のサインである可能性もあります。2週間以上咳が続くようなら、ぜひ呼吸器専門医を受診してください。池袋駅西口から徒歩2分の当院では、呼吸器専門医がカウンセリングにしっかりと時間をかけ患者さんの悩みを的確に判断し、ベストな治療を提案しています。
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