清水俊彦|Shimizu Toshihiko
「慢性頭痛の神様」とも評される頭痛治療の名医、清水俊彦医師。頭痛に悩む患者が全国各地から殺到するため、外来は予約がなかなか取れないことでも知られます。
その圧倒的な人気から、患者数は時に1日200~300人に上るといいます。
待ち時間が長くなっても、それでも清水医師の診察を受けたいと患者に思わせる理由はどこにあるのでしょうか。また、複数の医療機関を巡っても症状が改善しなかった“頭痛難民”を引きつけ、つらさから解放された人生を取り戻させた理由は?
日本の頭痛治療の最前線を牽引し続ける清水医師の圧倒的な実績と、その人となりに迫るため、本人に話を伺いました。
目次
『異常なし』で終わらせない!清水医師の診療方針
~慢性頭痛患者「1日200~300人」 5~6時間待っても診察を受けたい~
「診察が濃密すぎる」ーー。私の外来患者さんがよく口にされる言葉です。1日200~300人の患者さんがいらっしゃるので、お一人お一人の診察にかけられる時間は2~3分程度とわずかです。
ところが、ほかの医療機関で治療を受けても症状が改善しなかった筋金入りの頭痛患者さんが多いこともあって、時間が延びてしまうことも少なくありません。そうすると待ち時間が長くなってしまい、予約時間を大幅に過ぎ、5~6時間もの長い間、辛抱強く待ってくださる患者さんもいらっしゃいます。慢性頭痛は地元のクリニックに通ってもらうのが一番だと思っていますので、紹介状もせっせと書いているのですが、「頭痛が良くならないのに、同じ薬ばかり延々と処方される」「やっぱり清水先生がいい」と言って戻って来られる方が本当に多いのです。
検査は異常なし、でも痛い…薬漬けにされる「慢性頭痛」の現実
慢性頭痛は、検査をしても異常が見つかりません。そもそも検査で異常が見つからない頭痛には、片頭痛や緊張型頭痛、群発頭痛などがあります。これらは「一次性頭痛」と呼ばれ、原因となる他の病気がない頭痛です。一次性頭痛は慢性化することもあり、長期間にわたって症状が続く場合は「慢性頭痛」と呼ばれるのですが、これらの治療でありがちなのが、MRIやCTなどの画像検査の後、「異常がありませんでした。薬を出しておきますね」と言われて終わり、というパターンなのです。
実際、患者さんに「これまでどういった治療を受けてきたのか」と聞くと、たくさんの方が「どの病院でも『異常なし』と言われ、薬を出されるだけで治療はしてもらえなかった」とおっしゃいます。中には「あなたの頭痛は命にかかわらない頭痛。何度も受診するなとばかりに軽く扱われた」と話す患者さんもいます。
確かに一次性頭痛(慢性頭痛)は、命にかかわらない頭痛です。くも膜下出血や脳梗塞などが原因として隠れる、命にかかわる頭痛と比較すると治療の緊急性は落ちるかもしれませんが、症状のつらさを鑑みると、決して軽視していいものではありません。
慢性頭痛は「脳の興奮」が原因だった!脳波検査が不可欠な理由

~脳神経外科医だからこそできる「脳波診断」の強み~
近年の研究で、慢性頭痛は脳の興奮性によって引き起こされることが明らかになってきました。だから慢性頭痛の治療に本気で取り組むなら、画像検査で異常がないことを確認した後、脳波の検査が不可欠となります。脳波の状態はMRIではわかりません。そのため、慢性頭痛の患者さんでは脳波を取り、脳の興奮状態を調べることが必要となります。ただ、脳神経外科医でなければ、脳波をチェックし、その検査結果を治療に活かすことはなかなか難しいのです。実際、頭痛を診ている医療機関でも、脳波の検査まで行うところはそう多くはありません。それが、たくさんの“頭痛難民”を生み出す結果につながっている可能性は大いに考えられます。
清水医師提唱の新概念「脳過敏症候群」とは?頭痛の「成れの果て」を防ぐ治療戦略
~頭痛薬だけでは頭痛は治らない。「痛み」と「脳の興奮状態」への二方向治療~
慢性頭痛の中でも、片頭痛は特に脳の興奮性と深い関係があります。片頭痛ではトリプタン製剤で痛みを鎮めますが、脳の興奮状態が強い場合は抗てんかん薬などを用いて、徐々に興奮を落としていく必要があります。痛み、そして脳の興奮状態という二つの方向への治療が必要なのです。
ところが、痛みを止めるだけで脳の興奮を抑える治療をしないでいると、脳の興奮が水面下で続き、やがて些細な刺激でも興奮する〝脳過敏〟となり、慢性的な興奮状態に陥ってしまいます。すると、薬を飲んでも症状が治らない頭痛になってしまいます。さらに、耳鳴り、頭鳴、めまい、不眠などの症状も現れてきます。いわば、慢性頭痛の成れの果てです。これを私は脳過敏症候群と名づけ、2010年に新たな概念として国際的に発表しました。
脳過敏を放置すると起こる悪循環
~脳波を見ずに行う頭痛診断の落とし穴~
慢性頭痛で薬を服用しているのに症状が良くならないーー。そんな場合は、脳波が興奮状態にあること、つまり脳過敏症候群が大いに考えられます。頭痛の診断では、脳波を調べることが必須です。脳波の興奮状態(=脳過敏)を抑える治療によって、長年苦しんできた頭痛から解放されたというケースは数え切れません。
たとえば、「肩こりがひどい。肩こりから来る頭痛をなんとかしてほしい」とおっしゃる患者さんがいました。その方の脳波を調べると、異常な興奮状態を起こしていることがわかりました。それまでかかっていた頭痛外来では問診だけで薬を処方されていたとのことですが、脳過敏に対する治療が行われていなかったので、症状が改善しなかったのです。
ただ、この患者さんは「肩こりが原因の頭痛」と長年思い込んできたこともあって、「原因は肩こりではありません。水面下で起こっている脳の興奮です」と短い診察時間で説得するのは、容易なことではありませんでした。しかし、脳の興奮を抑える治療によって頭痛が改善していったことで、ようやく「肩こりが原因の頭痛ではない。脳過敏症候群だったんだ」と真に理解してくれたのです。
「脳過敏症候群」発表で経験した逆境と、その後の変化

「治りにくい慢性頭痛の背景には、脳過敏症候群がある」という私の発表は、国内外で注目を集め、患者さんがより一層、外来に殺到することとなりました。しかし思わぬ逆境も経験したのです。
あるテレビ局が特集番組として脳過敏症候群を報道した時のことです。片頭痛に重きを置いた構成だったせいか、片頭痛の薬であるトリプタン製剤が脳過敏症候群に効く、という印象を視聴者に与えたようなのです。耳鳴り、頭鳴、めまい、不眠などに悩んでいる方々が脳過敏症候群を疑い、トリプタン製剤を求めて耳鼻咽喉科などに押しかける騒動が起こりました。
事態を重く見た日本頭痛学会はホームページで私の実名を出し、脳過敏症候群を否定する声明を出しました。否定する根拠となる論文を示すことなく、「現時点では科学的根拠のない、個人的な考え」とし、「正常人に日常的に見られる脳波」とされたのです。
私は脳過敏症候群に関して根拠を示す文献を出して発表をしていたこともあり、また、日本頭痛学会への抗議もあったようで、わずか10日ほどの間に、日本頭痛学会のコメントからまず私の実名が削除され、次にコメント自体も削除されました。私にとってはとんだ災難でしたが、これ以降、脳過敏症候群へ関心を示す医師が少しずつ増えてきたのも事実です。
新薬CGRP抗体製剤の功罪:「脳波診断」なき処方への懸念
片頭痛を予防する注射薬「CGRP抗体製剤」の効果とは
片頭痛に関しては、2021年以降、新しいタイプの注射薬が登場しています。「エムガルティ」「アジョビ」「アイモビーグ」という名前の薬で、いずれも片頭痛に関する神経ペプチドCGRPの作用を阻害するCGRP抗体製剤です。簡単に言うと「片頭痛の原因物質CGRPの働きを抑える薬」。これまでの薬にないメカニズムを持っており、大規模臨床試験では、偽薬(プラセボ)と比べて片頭痛予防効果があることが示されています。
また、繰り返し起こす片頭痛患者さんにも効果があること、投与後比較的早くに効果が現れること、従来の予防薬で十分に症状を抑えられなかった患者さんにも効果が見られることも臨床試験で証明されています。月に1回、あるいは3カ月に1回の投与でも十分な薬効が発揮される点も、好ましいことと言えるでしょう。
痛みは消えても「脳過敏」は残る。高額な費用と根本治療の課題
一方で、脳波による診断が普及していない現状を考えると、適正使用がされていない懸念もあります。
これらのCGRP抗体製剤は、片頭痛の痛みを感じにくくしますが、脳過敏は改善しません。片頭痛の本当の原因にアプローチできていないので、患者さんは高額なCGRP抗体製剤をずっと使い続けることになります。この薬は非常に高価で、エムガルティでは1本4万2451円。3割負担では1万2735円(2カ月目以降、2025年11月時点/薬価の改定で変更する可能性あり)です。患者さんの金銭的な負担が大きく、医療経済に与える影響も大きい。定められた条件をクリアしなければ処方できない薬のため、誰でも使える薬ではないものの、その処方条件が厳格に守られているかには懸念が残ります。 不要な患者さんにまで新薬が使われている可能性があるのです。
脳波診断が必須!新薬に頼る前に試すべき「適正使用」の基準

慢性頭痛の治療は、まずは脳波の状態を確認することが大前提です。その結果に応じて、患者さんに合った薬を処方してこそ、慢性頭痛の治療となるのです。〝頭痛難民〟で私の外来にたどり着いた患者さんの中には、「これまでの治療でよくならなかったから」とCGRP抗体製剤を真っ先に希望される方もいます。
しかし私は脳波の状態を調べた上で、既存の治療を行い、脳波の所見がある程度改善しているのにもかかわらず、痛みに対する不安感が強く、トリプタン製剤を月に10回以上使ってしまうような場合に、新薬を一時的に使用するようにしています。こうやって治療を行うと、新薬の使用に至らなくても、既存の治療で症状が改善する方が大半です。
離島医療への熱き使命:清水医師を突き動かす「患者ファースト」の原点
「隠し休み」を返上!伊豆大島に月1回通い続ける理由
この10年ほど、月に1回、伊豆大島の大島医療センターで頭痛外来を受け持っています。きっかけは、ある製薬会社からの市民講座の依頼でした。伊豆大島の公的な会館で行うのかと思って赴いたところ、会場は大島医療センターの待合室。開始時間は夕方で、診察が終わった患者さんたちが多数集まったのです。スライドを使い、頭痛に関する話をし、さぁ帰ろうとなった途端、患者さんたちに取り囲まれました。みなさん、口々に言うのです。「清水先生の外来の予約が取れません。私たちは先生の診察を受けられないのです」と。
それはもう、困りましたね。当時、私は〝隠し休み〟として月1回、第三金曜日だけ診察を入れない日を作っていたんですが、それ以外はすべて診察の予定が入っていて身動きが取れる状況ではありませんでした。なんとかその場はやり過ごし帰宅したものの、島民の方々の熱い想い、強い要望を伺い、〝隠し休み〟を伊豆大島での診察日にあてることにしたのです。当初は日帰りで診察を行なっていたものの、1日70~80人ほどの患者さんだったのが、次第に増えていき、やがて1日150人を超えるようになりました。そうなると、もう帰りの便に間に合いません。第三金曜日に1泊して診察を行うようになり、翌土曜日は午後から頭痛外来があるため、午前の便で急いで戻るという流れが、毎月の恒例行事になっています。
島民の大半を診察。患者さんが、また次の患者さんを呼ぶ
今では、島民の大半を診ています。慢性頭痛の原因となる脳の過敏は遺伝しやすく、一人患者さんを診ると、「子どもも頭痛持ちなんです」と、そのお子さんがやって来る。親戚もやって来る。おじいちゃん、おばあちゃんもやって来る。おじいちゃん、おばあちゃんは頭痛はないのですが、耳鳴りやめまいが止まらないと訴える。脳の興奮状態を長年放置していたために起こっている脳過敏症候群です。
みなさん、症状が改善したことを大変喜んでくれるのですが、一つ困りごとがあるんです。伊豆大島に泊まった夜に私が明日葉の天ぷらや島唐辛子が入った塩辛をおいしい、おいしいと食べていると、「清水先生は明日葉と塩辛が好きらしい」という話があっという間に広がり、翌朝には帰りの高速船が出る船着場で、明日葉と塩辛をいっぱいに抱えた患者さんが待っているんです。生きた伊勢海老が何十匹と入った段ボールを渡されたときには、どうすればいいんだ、と途方に暮れましたね。
離島だからこそ「最新型MRI」がより必要
新型MRIのおかげで、200人ほどの患者さんの血管の詰まりやこぶを見つけ、発作を起こす前の治療へとつなげることができました。
伊豆大島に通い始めた時は、旧式のMRIしかありませんでした。すぐに東京都に申請しましたが、MRIは高額な医療機器のため、申請はすんなりとは通りませんでした。「離島なら旧式のMRIのままでいいのではないか」と当時の東京都知事から反論された時、「離島だからこそ新型のMRIが必要なのです。離島でくも膜下出血や脳梗塞を起こせば、手術ができる大病院へ医療用ヘリコプターで搬送するしかありません。最低でも1時間半はかかり、命の危険が高まります。くも膜下出血や脳梗塞などを起こす前に、新型のMRIで発見し、未然に防ぐことが非常に重要なのです」と伝えました。
【まとめ】頭痛難民を卒業するために:清水医師からのメッセージと今後の展望

慢性頭痛は症状をコントロールすることができる病気です。脳の興奮状態を脳波で調べ、痛みと脳の過敏さに働きかける薬を使用することで、つらさから解放されるのです。片頭痛では、症状が出る前に使用することで発作を抑えられる薬もあります。月1回の投与で痛みを感じにくくさせる新しい薬も登場しています。さらに、片頭痛を起こしやすくする食品や行動を知ることで、症状をよりコントロールすることができます。
頭痛専門医の仕事は、命にかかわるような重大病を見逃さないこと、そして脳の興奮状態にいち早く気づき、脳過敏症候群に至らないようにすることだと考えています。頭痛を見るためには、脳をしっかり診ることであり、その手掛かりとなるのが脳波なのです。
私自身が患者さんにしっかりと向き合うのと同時に、脳の状態を正確に評価できる頭痛専門医を増やすことが、私の使命です。頭痛に苦しむ多くの方々が、正しい診断と治療によって、つらさから解放された人生を送れるよう、今後も日本の頭痛医療の発展に尽力していきます。
あなたの頭痛も、必ずコントロールできます。決して諦めないでください。
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