山西 敏朗|Yamanishi Toshiro
日本舌癒着症学会理事長/日本耳鼻咽喉科学会認定専門医/日本気管食道科学会認定専門医
産婦人科医時代に娘の治療を通じて舌癒着症と出会い、転身。以来、6,500例以上の手術を手掛ける第一人者として、乳幼児からアスリートまでをサポートしています。「呼吸と睡眠の改善で人生を変える」を掲げ、心身の負担が少ない全身麻酔下での日帰り手術を追求。豊富な実績と温かい人柄で、患者様からの厚い信頼を集めるドクターです。
目次
「赤ちゃんがおっぱい・ミルクをうまく飲んでくれない」「寝つきが悪く、夜泣きが激しい」。これらは多くのママ・パパが直面する、育児における最初の高い壁です。
日々の疲れと不安の中で、「自分の育て方が悪いのかな」と孤独な悩みを深めてしまうケースも少なくありません。しかし、こうした育児の困難さの背景には、身体的な要因——具体的には、生まれつきの舌の形態的特徴である「舌癒着症(ぜつゆちゃくしょう)」が深く関わっている可能性があることをご存知でしょうか。

赤ちゃんの健やかな発育のために——「呼吸機能」から考える舌癒着症
舌癒着症は、呼吸機能や睡眠の質、将来的な歯並びや噛み合わせ、さらには発音への影響など、多岐にわたる健康課題との関連が議論されている疾患です 。一部の研究現場では、赤ちゃんの安定した呼吸が、健やかな発育や不慮の事故の防止にどのような役割を果たすかについて、継続的な研究と議論がなされています 。しかし、この疾患の重要性は、現代の一般的な医療現場において必ずしも十分に認知されているとは言えません。
一人の父として、一人の医師として。山西敏朗が語る「舌癒着症」と家族の未来
「赤ちゃんとそのご家族の幸せな将来のために、舌癒着症の正しい知識を広めていきたい」。そう力強く語るのは、日本舌癒着症学会の理事長を務める「耳鼻咽喉科山西クリニック」院長の山西敏朗医師です。研修医時代の産婦人科医としての経験を経て、耳鼻咽喉科医専門医として自らの家族、そして自分自身とこの疾患に向き合ってきた山西医師に、治療にかける並々ならぬ想いと、その先に見据えるビジョンを詳しく伺いました。
耳鼻咽喉科への転身と「舌癒着症」との運命的な出会い

産婦人科医として目撃した、退院後のママ・パパの「声なき叫び」
山西医師のキャリアの出発点は、生命の誕生を最前線で支える産婦人科でした。日本大学医学部を卒業後、東京大学医学部附属病院の産婦人科にて不妊治療や婦人科がん、そして数えきれないほどの分娩に携わってきました。
「無事に赤ちゃんが産まれ、母子ともに元気に退院していく。それは産婦人科医にとって最大の喜びです。しかし、1ヶ月健診やその後の機会でお会いするママ・パパの中には、出産直後の喜びが嘘のように、暗い表情をされている方が少なくありませんでした。話を伺うと、『赤ちゃんが泣き止まない』『おっぱいを飲ませるのが苦痛で仕方ない』といった、深刻な育児の悩みを吐露されるのです。当時は、こうした問題は小児科や地域の保健師さんが対応するものという切り分けが強く、産婦人科医として寄り添いきれないもどかしさを抱えていました」
耳鼻咽喉科への転身。赤ちゃんの「舌の構造」が持つ意味への着目

転機となったのは、結婚でした。妻の実家が代々耳鼻咽喉科を営んでおり、その継承という側面もありましたが、山西医師を突き動かしたのは、耳鼻咽喉科という領域が持つ「呼吸」と「食事(嚥下)」という、生命維持に直結する機能への興味でした。
「耳鼻咽喉科医として研鑽を積む中で、私は『舌小帯短縮症』という疾患に出会いました。舌の裏側の筋(舌小帯)が短いために舌の動きが制限され、発音や嚥下に影響を及ぼす状態です。当初は、将来の滑舌を良くするための機能改善という、標準的な外科処置の一つとして捉えていました。
しかし、この『舌』という小さな組織が、赤ちゃんの全身のコンディションにどれほど大きな影響を与えているのか。その真実に気づかされたのは、私自身の長女が誕生した時でした」
家族の苦悩が教えてくれた、教科書にはない「舌癒着症」の真実
待望の第一子である長女は、産まれた直後から激しい夜泣きと授乳の困難に直面しました。夜、仕事から帰る道すがら、数軒先まで響く長女の泣き声。父親として、そして医師として何もできない無力感。妻は度重なる乳腺炎に苦しみ、家族全員が慢性的な睡眠不足と疲弊の中にありました。
「助産師さんから『舌癒着症の可能性があります』と指摘されたとき、耳鼻咽喉科医である私ですら、その言葉の意味を正しく理解できていませんでした。舌小帯短縮症とはどう違うのか、なぜそれが呼吸や夜泣きに関係するのか。そこから、私は既存の医学書には記載されていない、より深い『呼吸と舌』の関係性を探求し始めることになったのです」
舌癒着症が引き起こす弊害と、医学的なメカニズムの解説

舌癒着症とは何か:呼吸と摂食の解剖学的相関
舌癒着症は、専門的には「先天性舌癒着、喉頭蓋、喉頭偏位症」と称されます。これは単に舌の筋が短い状態を指すのではなく、舌の裏側が生まれつき前方、あるいは深い位置に付着している形態的な特徴を指します 。この付着の異常により、舌と連動している「喉頭蓋(のどのフタ)」や「喉頭(呼吸の通り道)」が適切な位置からずれ、結果として上気道に制限が生じると考えられています 。
乳幼児期に現れる主なサインと、生活の質への影響

舌癒着症による呼吸の制限は、赤ちゃんにとって以下のような多様な症状として現れる可能性があります。
- 哺乳の困難: 舌を適切に動かせないため、効率的に母乳やミルクを吸い出すことができず、授乳に時間がかかる、あるいは途中で疲れて寝てしまう 。
- 母親への影響: 不適切な吸着(ラッチオン)により、乳頭亀裂や乳腺炎を引き起こす要因となる。
- 呼吸と睡眠の質の低下: 眠っている間も呼吸に努力が必要なため、浅い眠りや激しい夜泣き、いびき、反り返りといった状態が生じやすい。
- 将来的な発達への関与: 幼少期から学童期にかけては、口呼吸、歯並びの乱れ、集中力の欠如、滑舌の悪さなどとして顕在化することが示唆されています 。
これらの状態は自然に改善するものではなく、成長に伴って形を変えながら、その子のQOL(生活の質)に長期的な影響を及ぼし続ける可能性があるのです 。
第一人者の門を叩く。研修合宿で得た師からの「世界平和」の教え
臨床現場の知恵を学ぶための「合宿勉強」
山西医師は、舌癒着症治療のパイオニアである向井將先生のもとへ修行に出ることを決意しました。大学病院での勤務を調整し、2週間にわたる泊まり込みの研修を志願したのです。
「向井先生からは『いつでも来なさい』と言っていただけました。先生の診断、手術の手技、そして何より患者様とそのご家族への接し方。そのすべてを吸収しようと必死でした。通常の研修者は数日で帰ってしまいますが、私は2週間張り付きました。向井先生からは『山西君は気合が入っているな』と驚かれましたが、私にとっては自分の家族の、そして目の前の患者さんの未来がかかった、文字通りの命がけの修行だったのです」

「舌癒着症治療は世界平和につながる」
修行の中で向井先生から授かったのは、技術だけではありませんでした。
「先生はよく、『この治療は世界平和につながるんだ』と仰っていました。最初は壮大すぎる言葉に驚きましたが、次第にその真意が理解できるようになりました。赤ちゃんが楽に呼吸でき、ぐっすり眠れる。お母さんが笑顔で授乳でき、育児に自信を持てる。お父さんも穏やかな家庭の中で子どもを愛でることができる。その家庭の『小さな平和』が、地域を、そして社会を変えていく。医療の原点は、技術の誇示ではなく、この小さな平和を守ることにあるのだと確信したのです」
理事長として担う社会的責任:日本舌癒着症学会の歩み
35回を数える学術大会と、多職種連携の深化
山西医師が理事長を務める「日本舌癒着症学会」は、2025年11月に第35回目の学術大会を開催しました。ここでは、耳鼻咽喉科医だけでなく、小児科医、産婦人科医、歯科医師、そして助産師や歯科衛生士、言語聴覚士といった幅広い専門職が集結しました。
「舌癒着症は、一つの診療科だけで完結する問題ではありません。お産の現場にいる産婦人科医や助産師さんの〝気づき〟、成長・発育・発達を見守る小児科医の診断、そして口腔機能を支える歯科領域との連携。これらが有機的に結びつくことで、初めて一人の子どもを包括的に支えることが可能になります。学会では、最新の知見や手術症例の共有だけでなく、いかにしてこの疾患概念を標準的な医療として定着させていくか、という社会的課題についても活発な議論が交わされています」
安全性と責任の追求:オープンホスピタルシステム(OHS)の導入

「最初から最後まで診る」ための苦渋の選択と誇り
現在、山西クリニックでは、全身麻酔が必要な手術において「オープンホスピタルシステム(OHS)」を導入しています。これは、クリニックの開業医が、設備とスタッフが整った中核病院(当院では明理会東京大和病院)にて手術を行うシステムです 。
「クリニック単体では、全身麻酔をかけるための高度な医療機器や、常勤の麻酔科専門医を確保することは容易ではありません。しかし、患者様にとっては、普段から通っている信頼できる医師に執刀してほしいという願いがあります。そこで、高度な安全管理体制が整った病院のオペ室を借り、私が直接執刀する体制を整えました。このシステムは、アメリカやドイツでは一般的ですが、日本ではまだ導入例が少なく、かつては周囲の医師から理解を得られないこともありました。しかし、一切妥協しない安全性、かつ主治医としての責任を全うするためには、これが現時点での最善の選択だと信じています」
未来への挑戦:保険診療の確立と、次世代への継承

「最終章」としてのクリニック新設への夢
還暦を迎えた山西医師。多くの医師がリタイアを見据える年代にありながら、その情熱はかつてないほどに高まっています。
「私の歩んできた道は、すべてこの最終章のための助走だったと感じています。現在の大きな目標は、全身麻酔設備を完備した自らの新クリニックを設立することです。より安全に、より多くの患者様に、お待たせすることなく治療を提供できる体制を整えたい。そして、その活動を通じて得られたデータを蓄積し、将来的にはこの治療を保険診療として確立させたいと考えています。経済的な事情や地域的な格差に関わらず、すべての赤ちゃんが等しく『質の高い呼吸』を享受できる社会。それが私の目指す終着駅です」
家族の絆が支える、挑戦の第2章
「パパ、そのパッションは本当にすごいよ。イケてるね!」。成長した3人の娘たちの言葉が、山西医師の背中を力強く押しています。
「家族に誇れる父であり続けたい。そして、私を信じて門を叩いてくださるすべての患者様と、そのご家族の希望でありたい。還暦を過ぎた今、私の視界はかつてないほどに澄み渡っています。舌癒着症という、まだ十分に光が当たっていない領域に、確かな医学の光を。山西敏朗の本当の挑戦は、ここからが本番です」
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クリニック情報

耳鼻咽喉科 山西クリニック
