目次
- 1 はじめに
- 2 Q1 これまで熱中症になったことがありません。高齢者や子供でなければ、なんとかなるような気がします。
- 3 Q2 所ジョージさんが熱中症を起こした2010年時の記事を読むと、彼は当時55歳。畑で草むしりをしていたら突然手足が痺れ、過呼吸となり、救急搬送されたとあります。「気がついた時にはもう頭がクラクラして、ドバーッと汗が出て止まらなくなって、手足にも力が入らなかった」というインタビューの記事もありました。
- 4 Q3 所さんの記事でもう一つ印象的だったのが、当時の気温が29度ということ。もっと気温が上がらないと熱中症にならないかと思っていました。
- 5 Q4 熱中症による脱水症状を防ぐには、水分補給が必須ですか?
- 6 Q5 正しい水分補給について教えてください。
- 7 Q6 人間の体の水分の出入りはどうなっているんでしょう?
- 8 Q7 脱水症になりやすいのはどういう人ですか?
- 9 Q8 熱中症対策でよく「喉が渇く前に水分補給を」といわれるのはなぜですか?
- 10 Q9 冷たい水分は体に良くないですか?
- 11 Q10 お風呂上がりに牛乳は水分補給になりますか?
- 12 Q11 夜、水分をあまりとるとトイレで目が覚めそうで心配です。
- 13 Q12 経口補水液はどういう時に活用すればいいですか?
- 14 Q13 5月27日に出す新刊「熱中症からいのちを守る」について一言お願いします。
- 15 この記事を監修した医師
はじめに
正しい熱中症対策の周知に力を入れるのが、神奈川県済生会横浜市東部病院患者支援センター長・栄養部担当部長の谷口英喜医師だ。2024年5月27日に評言社から『熱中症からいのちを守る』を出版した谷口氏は、これ以上涼しくなることのない未来に備えて、本著を書き上げたという。
毎年、夏になると熱中症対策に関する情報が複数のメディアから発信される。タレントの所ジョージさんが「急にクラクラしちゃって、もう大変ですよ、自分でもビックリ」と自身の熱中症体験を語る、説得力あるCMを覚えている人も少なくないだろう。しかし、熱中症で救急搬送される人は激減することがない。昨年5〜9月の熱中症によって救急搬送された人の数は9万1400人超と、過去2番目の多さを記録している。
「熱中症は予防でゼロにできる唯一の病気。しかし誤った対処法をすると、重い後遺症を残し、命を失うことになりかねない」と警鐘を鳴らす谷口医師に、詳しく聞いた。
Q1 これまで熱中症になったことがありません。高齢者や子供でなければ、なんとかなるような気がします。
多くの方はそう思っているのではないでしょうか。確かに熱中症になりやすいのは、高齢者や子供たちです。特に高齢者は熱中症になりやすく、かつ重症度も高い。ところが例年、救急搬送される方々を見ていると、必ずしも高齢者や子供たちではありませんよね。働き盛りはもちろん、体力のある若者世代でも救急搬送される人がかなりいます。
熱中症は予防でゼロにできる唯一の病気である一方で、予防しなければだれでも発症リスクがあります。「自分は大丈夫」という根拠ない自信が、熱中症対策の不十分さにつながってしまうように思います。
また厄介なのは、最初は大したことがない、ちょっとした違和感程度の不調であっても、一気に症状が進行し、なんとかしなくてはと思った時には、思うように体が動かない状態になってしまうことです。
Q2 所ジョージさんが熱中症を起こした2010年時の記事を読むと、彼は当時55歳。畑で草むしりをしていたら突然手足が痺れ、過呼吸となり、救急搬送されたとあります。「気がついた時にはもう頭がクラクラして、ドバーッと汗が出て止まらなくなって、手足にも力が入らなかった」というインタビューの記事もありました。

暑熱環境が原因で体内の水分が不足すると、脱水症状に陥ります。細胞内の代謝が滞り、栄養素や酸素が運び込まれないので、パフォーマンスや集中力が低下します。老廃物が運び出されず、疲労感を覚えます。これが、熱中症のはじまりで、熱中症の最初の症状は「体が重だるい」「ぼーっとする」といった程度。ここで熱中症を疑い、適切な対策を講じてくれればいいのですが、それをしないでいると、めまい、失神、筋肉のこむらかえり、大量の発汗を生じ、体がぐったりして力が入らなくなります。意識障害、痙攣、手足の運動障害が見られると危険な状態です。
Q3 所さんの記事でもう一つ印象的だったのが、当時の気温が29度ということ。もっと気温が上がらないと熱中症にならないかと思っていました。
体調、環境、水分補給をどれくらいしていたか、どれくらい体を動かしていたかなどで、熱中症の起こりやすさは異なります。現在日本では、夏になると最高気温35度以上の猛暑日は珍しくありませんから、29度は大したことないように感じるかもしれません。しかし甘くて見てはいけません。
そして「暑熱順化」ということについても、意識を向けていただきたい。暑い日が続くと、体は暑さに慣れ、強くなることが暑熱順化です。私たちは発汗、心拍数の上昇、皮膚血管拡張で体内の熱を放散し体温を調節しています。暑熱順化が進むと、体内の熱を放散する機能が速やかに働き、熱中症を起こしにくくなるのです。
ただ、暑さに慣れていない時は、暑熱順化ができていませんから、それほど気温が上昇していなくても、熱中症を起こしやすくなります。猛暑を迎える前の今の季節でも、熱中症になる可能性があると言える。真夏と比べて熱中症対策にもそれほど熱心ではないことも一因と言えるでしょう。
Q4 熱中症による脱水症状を防ぐには、水分補給が必須ですか?
それはそうなのですが、よくある間違いとして「水分補給=大量の飲水」というものがあります。水ばかりを飲むと体液が薄まり、危険な状態になることがあります。「スポーツで大汗をかいたから水(真水)を大量に摂取」「ダイエットの空腹を紛らわすために水を大量に摂取」「下痢や嘔吐の水分補給に水を大量に摂取」は、いずれもやってはいけない行為。1時間に1L以上の水(真水)だけの摂取はNG行為です。
Q5 正しい水分補給について教えてください。
基本は、食事から。1日3食しっかり食べていれば、1日に必要な水分量の半分を摂取できます。その上でコップ1杯程度の水分をこまめに摂取する。健康な人であれば、経口補水液は必要ありません。スポーツ飲料も、糖分が過剰に含まれているものが多いので、日常的な摂取は控えましょう。「水分」と記しましたが、お茶でもコーヒーでも紅茶でも、ノンアルコール飲料で糖分が入っていないものなら、好みのもので結構です(健康な人において。持病がある人は主治医に相談)。汗をかいた後のビール、おいしいですよね。でも、アルコールは水分補給にならないばかりか、利尿作用で脱水症状を招きかねないので、水分補給とは別に考えましょう。
Q6 人間の体の水分の出入りはどうなっているんでしょう?
体重60㎏の成人で1日に2000キロカロリーの食事を取る人では、次の数字が一つの目安になります。
*入ってくる水分量
- 食べ物から:2000キロカロリー程度の食事で1000㎖程度の水分摂取
- 飲み物から:コップ1杯、1日8回で1200㎖程度の水分摂取
- 代謝水:2000キロカロリー程度の食事で、食べ物が体内で分解されるときに発生する代謝水300㎖程度が産生
*出ていく水分量
- 尿と便:1500㎖程度の水分排出
- 汗:自覚ない時で100㎖程度の発汗
- 不感蒸泄=皮膚や呼吸などから排出される、意識していないのに排泄される水分:体重60㎏で900㎖
食事をして、ちょこちょこ水分を取って、これで水分バランスがちょうどいい形になります。暑いところで過ごす、汗をかく、スポーツをするといった時は、さらに意識して水分を取らなくてはいけないことが理解できるのではないでしょうか。
Q7 脱水症になりやすいのはどういう人ですか?
熱中症になりやすい人と同じと言えます。前述の高齢者、子供たち。また、筋肉量が少ないと体液量の割合が減少するので、肥満や運動習慣がない人は熱中症になりやすいといえます。
Q8 熱中症対策でよく「喉が渇く前に水分補給を」といわれるのはなぜですか?

喉が渇いてからがぶ飲みしても、吸収される水分には限度があります。コップ1杯程度の水分を1日8回ほど取るように心がけてください。
特に高齢者では、こまめな水分補給が絶対に必要です。体内の水分量が減少しても喉が渇きにくい。食事量が減少して食事からの水分摂取が減る。暑さに鈍感になる。これらの理由から「喉が渇いてから」では、熱中症対策として手遅れになりかねません。
Q9 冷たい水分は体に良くないですか?
自分が飲みたいと思う温度のもので構いません。ただし、過度に冷たい水分は胃腸に負担がかかります。
Q10 お風呂上がりに牛乳は水分補給になりますか?
牛乳にはカルシウム、マグネシウム、タンパク質、ビタミン類が多く含まれています。入浴中も汗をかくので、牛乳は失われたビタミン、ミネラルを補うのに役立ちます。牛乳は血液内にタンパク質を作る素材を提供してくれるので、血液量が増加し、脱水症予防にもなります。
ただし、熱中症になった時の水分補給として牛乳を飲むのはダメ。牛乳に含まれている豊富なアミノ酸が体温を上昇させるからです。
Q11 夜、水分をあまりとるとトイレで目が覚めそうで心配です。
就寝前の水分補給は、就寝中の脱水症状予防、ひいては脱水症状で起こるリスクが高くなる脳梗塞、心筋梗塞対策のために必要です。トイレに行きたくなりにくい水分補給として、次のようなことをお勧めしています。
- 1回の水分摂取量を少量にする
- 5分くらいかけてゆっくり飲む
- 常温かやや温め、または白湯にする
- おちょこ1杯の水分から始めて、大丈夫そうなら少しずつ増やしていく
加齢とともに夜、トイレで目が覚めることが起こりやすくなります。トイレのために夜間1回以上目が覚める夜間頻尿は自然な現象なのですが、おちょこ1杯程度だけでも夜間のトイレの回数が増えるようなら、前立腺肥大など何らかの病気が隠れているのかもしれません。利尿作用のある薬を飲んでいる場合も、夜間頻尿が起こりやすくなります。一度泌尿器科医や主治医に相談してください。
なお、アルコールは夜間頻尿の原因になりますから、もし夜にお酒を飲む習慣があるようなら、そちらの見直しも。
Q12 経口補水液はどういう時に活用すればいいですか?
熱中症を疑ったときは速やかに活用すべき。特に熱中症になりやすい高齢者は、常に自宅にストックしておいて欲しいと思います。健康な人では、普段の水分摂取では、前述の通り、経口補水液である必要はありません。
Q13 5月27日に出す新刊「熱中症からいのちを守る」について一言お願いします。
熱中症から自分の家族や仲間の命を守るには、普段から正しい予防策を徹底し、熱中症になったら速やかに正しい対処を施すことが非常に重要です。世の中に溢れた熱中症関連の情報を整理し、根拠をあげてわかりやすく解説していますので、これからの季節を安全に快適に乗り越えるための参考にしてください。