歯を失う原因の第一位でありながら、自覚症状なく進行する歯周病。(※1)歯磨きのときに出血する』『口臭が気になる』。それは日本人の成人の多くが抱える歯周病のサインかもしれません。しかし、歯磨き粉の選び方によっては、毎日のケアで歯周病の予防効果を高めることが可能になります。
この記事では、歯周病予防をサポートする歯磨き粉の有効成分と、あなたの状態に合わせた最適な歯磨き粉を見つけるための選び方を解説します。早めに歯周病の予防習慣を身につけましょう。
歯周病とは
歯周病は、歯を失う原因の第一位であり、自覚症状がほぼないまま進行する病気です。(※1)口内の歯垢(プラーク)に潜む細菌が原因で発症します。歯垢は食べかすではなくネバネバした細菌の塊で、歯ぐきに炎症を起こし、最終的に歯を支えるあごの骨まで溶かしていきます。
歯周病は、歯肉炎から歯周炎へと進行していきます。歯肉炎は初期段階で、歯ぐきが赤く腫れたり、歯磨きのときに出血したりする状態です。この段階であれば、毎日の丁寧なセルフケアで健康な状態に戻せる可能性があります。
歯周炎は進行段階で、炎症が骨にまで広がり、歯を支えるあごの骨が溶け始めます。歯がグラグラする、口臭が強くなるなどの症状が出ますが、痛みがない場合も多いです。
自覚症状がない方も多く、「自分は大丈夫だろう」と考えている人も少なくありません。(※2)症状がない状態でも歯周病は進行していることがあるので、予防を意識することが大切です。
歯周病予防に効果的な薬用歯磨き粉(医薬部外品)の有効成分4つ
歯周病は自覚症状が乏しいまま進行するため、毎日の歯磨きが予防するうえで重要です。歯周病対策の歯磨き粉には、さまざまな働きを持つ成分がバランス良く配合されています。
これから、歯周病予防で重要となる代表的な4タイプの有効成分を解説します。
①殺菌成分|IPMP・CPCで原因菌の巣(バイオフィルム)に浸透
②抗炎症成分|トラネキサム酸で腫れや出血を抑制
③血行促進成分|ビタミンE・B6で歯ぐきの血行を促進
④フッ素|歯質を強化して虫歯も予防
①殺菌成分|IPMP・CPCで原因菌の巣(バイオフィルム)に浸透
歯周病の主な原因は、歯垢(プラーク)の中に潜む歯周病菌です。歯磨きで原因菌の数を減らすことが、予防における直接的な対策になります。そこで中心になるのが殺菌成分であり、代表的な成分を以下の表に記しています。
| 成分名 | 特徴 |
| IPMP(イソプロピルメチルフェノール) | ・細菌が作るバイオフィルム(強固な膜)の内部まで浸透する ・歯周病菌を直接殺菌する力に優れている |
| CPC(塩化セチルピリジニウム) | ・細菌を殺菌し歯の表面への付着を防ぐ ・口臭の原因菌にも作用し口臭予防に役立つ |
②抗炎症成分|トラネキサム酸で腫れや出血を抑制
歯周病菌による歯ぐきの炎症で出血や腫れが起こります。抗炎症成分が配合された歯磨き粉がこの症状を和らげるのに役立ちます。
代表的な抗炎症成分にはトラネキサム酸やβ-グリチルレチン酸があります。なかでもトラネキサム酸は、炎症や出血を引き起こす物質(プラスミン)の働きを抑え、歯ぐきの炎症を直接鎮めて出血や腫れを抑える効果が期待できます。
症状が軽いうちに炎症を抑えることは、歯周病の進行を防ぐうえで大切です。
③血行促進成分|ビタミンE・B6で歯ぐきの血行を促進
歯周病によりダメージを受けた歯ぐきは、血行が悪化しがちで、組織の修復に必要な酸素や栄養素が十分に行き渡りません。血流が悪くなった歯茎に働きかけ、歯茎の抵抗力を高めるのが血行促進成分の役割です。
代表的な成分として、ビタミンE(酢酸トコフェロール)があります。ビタミンEは、歯ぐきの毛細血管の血流を改善する働きがあり、歯ぐきの隅々まで栄養が供給され、組織の再生が促されます。そのため、引き締まった弾力のある、健康的なピンク色の歯ぐきを維持することが期待できます。
④フッ素|歯茎下がりによる「根元虫歯」を予防
フッ素(フッ化物)は虫歯予防の成分として知られていますが、歯周病ケアにも重要な役割を持ちます。歯周病が進行して歯ぐきが下がると、本来は隠れている歯の根元(象牙質)が露出してしまいます。
象牙質は、歯の表面を覆うエナメル質よりも柔らかく、酸に弱い性質があります。よって、歯の根元は虫歯になりやすく、これを「根面う蝕(こんめんうしょく)」と呼びます。フッ素は、以下に示す根面う蝕を防ぐための働きが3つあります。
- 再石灰化の促進:食事により溶け出した歯の成分(ミネラル)を補い初期の虫歯を修復する
- 歯質の強化:歯の表面の構造を酸に溶けにくい構造に変え虫歯への抵抗力を高める
- 細菌の活動抑制:虫歯菌が酸を作り出す働き自体を弱めて虫歯になりにくい環境にする
歯周病予防のための歯磨き粉の選び方
歯磨き粉選びは、以下の3つのポイントを押さえることが大切です。歯周病予防の目的のために参考にしてください。
- 有効成分が含まれているかを確認する
- 歯ぐきの状態に合わせて選ぶ
- 毎日の使いやすさで選ぶ
有効成分が含まれているかを確認する
歯周病予防で大切なのは、歯磨き粉に含まれる薬用成分(有効成分)です。製品のパッケージ裏にある成分表示を確認する習慣をつけましょう。「医薬部外品」や「薬用」と記載された製品は、効果が認められた成分が含まれています。
歯周病予防に役立つ代表的な成分は、ここまでにも述べた以下の4系統です。
- 殺菌成分:IPMP、CPC
- 抗炎症成分:トラネキサム酸、β-グリチルレチン酸
- 血行促進成分:ビタミンE
- 歯質強化成分:フッ素
フッ素は虫歯予防のイメージが強いかもしれませんが、歯を守るうえでも重要です。ある研究では、多くの人がフッ素入り歯磨き粉を使うことが、歯を失うリスクを減らすうえで大きな影響を与えたと報告されています。(※3)
歯茎の状態に合わせて選ぶ
口の状態は人により異なり、日によっても変化します。そのため、今のあなたの歯ぐきの状態に合った歯磨き粉を選ぶことが大切です。
自分の症状や目的に合わせて、最適な成分が配合された製品を選べるように、以下の表に選び方のポイントをまとめました。
| 歯ぐきの状態 | 押さえたい成分 | ポイント |
| 自覚症状はないが予防したい | ・殺菌成分(IPMP、CPC) ・フッ素 | ・歯垢を除去するため研磨剤が含まれているものが推奨 ・日々の歯垢コントロールが目的 |
| 歯ぐきが腫れて出血する | ・トラネキサム酸 ・殺菌成分(CPC) | ・刺激の少ない「低研磨」タイプ、泡立ちを抑えた「低発泡」タイプが推奨 ・優しく歯磨きする |
| 歯ぐきが下がり歯がしみる(知覚過敏の併発の可能性がある) | ・血行促進成分(ビタミンE) ・知覚過敏ケア成分(硝酸カリウムなど)・フッ素 | 歯の根元を虫歯から守る「高濃度フッ素(1450ppm)」を含むものが推奨 |
どのタイプを選ぶか迷う場合は、歯科医師や歯科衛生士に相談しましょう。
毎日の使いやすさで選ぶ
毎日の歯磨きを継続するためには、自分が気持ちよく使える製品を選ぶことが大切です。使いやすさを左右するポイントは、主に以下の表に示す4つです。
| 項目 | ポイント |
| 味や香り | ・爽快感の強いミント系、穏やかなハーブ系、刺激の少ないものなどさまざまな商品がある ・自分の好みにあったフレーバーを選ぶ |
| 泡立ち | ・しっかり泡立つタイプは爽快感が強い ・低発泡タイプは鏡で確認しながら丁寧に磨きたい方に推奨 |
| 形状(テクスチャー) | ペースト状のほかに広がりやすいジェルタイプなどがある |
| 価格 | ・無理なく購入し続けられる価格帯であるか ・高価な製品を時々使うより適切な製品を毎日使う方が大切 |
歯周病予防で歯磨き粉以外に意識したいこと
口の健康を確実に守るためには、歯磨きの質を高めることが重要です。さらに、自分では取り除けない汚れを除去するために専門家によるケアも組み合わせる必要があります。セルフケアとプロによるケア、この両輪で取り組むことが歯周病予防の基本です。
歯周病予防のために歯磨き粉以外で意識する必要がある3つの内容は以下のとおりです。
- 歯の正しい磨き方
- 歯周病ケアアイテムを使う
- 定期的に歯科医院を受診する
歯の正しい磨き方
歯磨きを毎日しても、やり方が正しくないと歯垢は残ってしまいます。歯周病予防で大切なのは、歯と歯ぐきの境目にある溝(歯周ポケット)の清掃です。正しい歯磨きをするためのポイントを以下の表にまとめています。
| 正しい歯磨きのポイント | 詳細 |
| 歯ブラシの当て方 | ・歯と歯ぐきの境目に45度の角度で毛先を当てる ・優しく小刻みに動かす(バス法) ・歯周ポケットの汚れをかき出すように磨く |
| 力の入れ具合 | ・歯ブラシは鉛筆握りで軽く握り150〜200gの弱い力で磨く ・力加減は毛先が広がらない程度にして歯ぐきを傷つけないように注意する |
| 磨く順番 | ・「右上の奥歯から」などのように磨く順番を決める ・1本ずつ意識して3分以上かけて丁寧に磨く |
| 歯ブラシの選び方 | ・奥歯まで届きやすいヘッドが小さめの歯ブラシが推奨 ・毛の硬さは「ふつう」が基本だが出血しやすいかたは「やわらかめ」が推奨 |
歯ブラシは消耗品なので、毛先が開いた歯ブラシでは清掃効果が減少します。1か月ごとに新しいものに交換し、最適な状態で歯磨きを行いましょう。上記での歯磨き方法がどうしても苦手、磨き残しを極力減らしたいという方は、音波式電動歯ブラシを使用しましょう。
歯周病ケアアイテムを使う
歯ブラシだけで磨いた場合、歯と歯の間など、約4割の歯垢が残ると言われます。(※4)磨き残しを放置しないために、補助的な清掃用具の活用も重要です。歯ブラシと併用して、口内の細菌をより清掃できます。
デンタルフロス・歯間ブラシは、歯ブラシが届かない歯と歯の間の歯垢を除去できます。歯周病が進行しやすいのは、歯と歯の間からと考えられているので、毎日使うことを習慣にしましょう。近年の研究では、歯間清掃具を使う人ほど、自分の歯が多く残っている可能性が示されています。(※3)
洗口液(マウスウォッシュ)は殺菌成分などを含むため歯磨きの仕上げに有効です。口内全体の細菌数を一時的に減らし、歯肉炎や口臭の予防に役立ちます。ただし、あくまで補助的な役割なので、歯磨きや歯間ブラシが予防の基本となります。
どれを使えば良いか迷う場合は、歯科医院で相談してみてください。
定期的に歯科医院を受診する
毎日のセルフケアを丁寧に行っても、完全に歯垢を取り除くことは難しいです。磨き残しは唾液の成分と反応して、のちに歯石へと変化します。一度できた歯石は、歯ブラシで取り除くことができません。そのため、歯科医院での定期的なケアが大切です。
歯科医院では、専門の器具を用いて歯石やバイオフィルムを除去します。バイオフィルムは、細菌が強固に作った膜のことで、歯磨き粉の殺菌成分も届きにくい状態です。バイオフィルムを破壊して除去することが、歯周病予防には重要です。
歯周病は、痛みなどの自覚症状が出たときには、かなり進行していることが多いです。そのため、定期検診で自覚症状のない初期段階で発見できれば、簡単な治療で進行を食い止められます。
基本的には3か月〜半年に1回は歯科医院を受診しましょう。セルフケアでは気づけない問題を早期に発見し、健康な状態を維持することが大切です。
まとめ
歯周病から大切な歯を守るには、IPMPなどの「殺菌成分」や「抗炎症成分」という有効成分に注目し、自分の歯ぐきの状態に合った歯磨き粉を選ぶことが第一歩です。
しかし、良い歯磨き粉を使うだけでは予防は万全ではなく、歯垢を物理的に除去する正しい歯磨きと、歯間ブラシなどを使ったセルフケアも必要です。
そして、より大切なのが、自分では落とせない歯石を除去するための、定期的な歯科医院でのケアです。日々のセルフケアと専門家によるケアで、健康な歯を維持していきましょう。
参考文献
- 厚生労働省「歯・口腔の健康」
- 厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査結果の概要」
- Kocher T, Meisel P, Baumeister S, Holtfreter B.Impact of public health and patient-centered prevention strategies on periodontitis and caries as causes of tooth loss in high-income countries.Periodontol 2000,2024.
- 日本歯科医師会「歯の学校(なぜ?なに?歯医者さん)」
