マスクを外したときに口の臭いが気になることはありませんか。丁寧に磨いても臭いが残る場合、歯周病が関係している場合があります。
厚生労働省の調査では、15歳以上の日本人の約48%が歯周ポケット4mm以上の歯周病を有していると報告されています。(※1)歯周病は歯を支える骨や歯茎が少しずつ傷む病気で、初期は痛みが少なく進行しやすい点が特徴です。
この記事では、歯周病が口臭を引き起こす理由と、自宅でできるケア、歯科での治療の流れを紹介します。原因を正しく理解し、早めに行動することが健康な息を保つ第一歩です。
歯周病で口臭が起こる原因とは?
歯周病による口臭は、歯茎の奥で細菌が増えて炎症が起きることで発生します。主な原因は以下が挙げられます。
- 細菌が出すガスの影響
- 炎症や膿による臭い
- 舌苔や唾液の変化
細菌が出すガスの影響
歯周病が進行すると、歯と歯茎の境目にある歯周ポケットが深くなります。歯周ポケット内は、酸素が少ないため、酸素を好まない嫌気性細菌が増加しやすい環境です。この細菌は、食べかすなどに含まれるタンパク質を分解する過程で、揮発性硫黄化合物(VSC)というガスを発生させます。
ガスの主な成分は硫化水素(腐った卵の臭い)とメチルメルカプタン(腐敗したタマネギ臭)で、どちらもわずかな量でも強い臭いを放ちます。歯周病が進むほどガスの濃度が高まり、息全体に広がることが一般的です。
炎症や膿による臭い
歯周病による炎症が進行すると、歯茎の内部で細菌と免疫細胞が反応し、膿(うみ)が発生します。炎症が強い場合には、出血を伴うこともあります。
膿や血液が分解される過程で、生臭さや金属のような臭いが強まることがあり、これが歯周病特有の口臭の要因です。炎症があるときには、以下のような変化が見られることがあります。
- 歯茎を押すと白い膿のようなものがにじむ
- 口の中が苦い、またはネバつきを感じる
- 強く歯みがきをしていないのに出血が見られる
この変化を放置すると、歯を支える骨にまで影響が及ぶことがあります。早めに歯科を受診し、原因を確認することが重要です。
舌苔や唾液の変化
歯周病による口臭は、歯茎だけでなく舌や唾液の状態も関係します。舌の表面に付着する白い汚れは、舌苔(ぜったい)と呼ばれ、細菌や食べかすが重なってできる層です。唾液が減少すると舌苔が厚くなり、口臭が強まる傾向があります。(※2)
特に、口呼吸の習慣がある人や、乾燥しやすい体質の人、歯みがきや舌の清掃が不十分な場合は注意が必要です。唾液には口の汚れを洗い流す働きがあるため、量が減ると細菌が増えやすくなります。
睡眠中は唾液が少なくなるため、朝起きたときに口臭を感じる人も多いでしょう。舌を清潔に保ち、こまめに口を潤すことで、口臭の悪化を防げます。
歯周病の口臭はどんな臭いに例えられる?
歯周病による口臭は、ひとつのにおいではなく、いくつかのにおいが重なるのが特徴です。初期の段階では、腐った卵やタマネギのような刺激のあるにおいが目立ちます。これは、細菌が作るガスが原因です。
炎症が進むと、歯ぐきからの出血や膿が混ざるため、生臭さや鉄っぽいにおいが加わってきます。さらに、口の中が乾きやすくなると、舌苔が増えて生ゴミのようなにおいが強まることもあります。
口臭がいつもより強く感じられるときは、歯周病が進行しているかもしれません。違和感があれば、早めに歯科で相談すると安心です。
歯周病の口臭を自分で確認する方法
歯周病の口臭は、痛みが少ないことや嗅覚の慣れもあり、気づきにくいのが特徴です。自覚がないまま進むこともあるため、定期的なセルフチェックが役立ちます。ここでは、自宅で簡単にできるチェック方法を4つ紹介します。
①コップやビニールに息を吹き込む
②舌の状態をチェックする
③乾いた唾液の臭いをチェックする
④口臭チェッカーを使う
コップやビニールに息を吹き込む
自宅で口臭を確かめたいときは、コップやビニール袋を使う方法が手軽です。まず、清潔で匂いのないコップか、新しいビニール袋を準備します。鼻から息を吸い込み、口からゆっくり吐き出してコップの中にためるように息を入れます。ビニール袋を使う場合も同じように息を吹き込み、袋の口を軽く閉じてください。
そのまま数秒ほど置いたあと、一度深呼吸して鼻の感覚をリセットし、中の匂いを確かめます。強い刺激臭や生臭さを感じる場合は、歯茎の奥で炎症が進んでいる可能性があります。
舌の状態をチェックする
舌の表面に厚い汚れがないか、鏡を使って舌の色や質感を観察してみましょう。以下の表にチェックポイントをまとめています。
| 舌の状態 | 見た目の特徴 | 考えられる状態 |
| 健康な状態 | 淡いピンク色でうっすら白い膜 | 清潔な状態 |
| 要注意 | 白く厚い舌苔が広がる | 細菌が増加しやすい |
| 注意が必要 | 黄や茶色っぽい舌苔、ひび割れあり | 乾燥や炎症の可能性 |
清潔なガーゼなどで舌の奥を軽く拭き取り、臭いを確認するのも一つの方法です。強い臭いや厚い舌苔が続く場合は、舌ブラシやパイル地のタオルなどでやさしくケアしましょう。
乾いた唾液の臭いをチェックする
唾液そのものにはほとんど臭いはありませんが、肌の上で乾くと成分が気化し、実際の口臭に近いにおいを確かめやすくなります。
まず、無香料の石けんで手を洗って清潔にし、手首の内側を軽く舐めます。そのまま10秒ほど置いて唾液が乾いてきたら、そっとにおいを確かめてみてください。
もし生臭さや金属のようなにおいが強く感じられる場合は、歯茎の炎症や出血が関係していることがあります。気になるにおいが続くようなら、一度歯科で相談しましょう。
口臭チェッカーを使う
口臭をより客観的に確認したいときは、市販の口臭チェッカーを利用する方法があります。息を吹きかけるだけで、臭いの強さが数値でわかるため手軽な確認方法です。
測定は、起床時など毎回同じ条件で行いましょう。高い値が続く場合は、歯周病や舌苔の影響を考える必要があります。また、市販の機器では正確な測定は難しいため、数値が安定しないときや不快な臭いが続くときは、歯科で検査を受けましょう。
自宅でできる口臭ケア
歯周病による口臭を抑えるには、歯科の治療とともに毎日のセルフケアが欠かせません。ここからは、日常で実践できるケア方法を紹介します。
①歯周病予防のための歯みがき
②フロスと歯間ブラシで汚れ除去
③舌の汚れを落とすケア
④口臭を抑える生活習慣
歯周病予防のための歯みがき
歯周病の予防と口臭対策の基本は、毎日の歯みがきでプラークを取り除くことです。プラークは細菌の膜で時間が経つと炎症の温床になります。次のポイントを意識して歯みがきを行いましょう。
- 歯と歯茎の境目に、毛先を45度の角度で当てる
- 小刻みに動かし、1本ずつ丁寧に磨く
- 力を入れすぎず、歯茎を傷つけないようにする
歯ブラシはヘッドが小さく、毛がやわらかめのものが理想です。歯周病予防成分を含む歯みがき剤を併用すると、炎症を抑えやすくなります。
フロスと歯間ブラシで汚れ除去
丁寧に歯ブラシを行っていても、歯ブラシの清掃効果は全体の約6割ほどといわれています。そのため、デンタルフロスや歯間ブラシを併用することが大切です。歯と歯の間が狭い部分にはデンタルフロスが、隙間が広い箇所や歯茎が下がった部分には歯間ブラシが適しています。これらのケアは、1日1回、就寝前に行うと良いでしょう。
使用を始めたばかりの頃は出血することがありますが、多くは炎症による一時的なものです。続けるうちに歯茎が引き締まり、出血も減っていくため焦らず習慣にしていくことが大切です。
舌の汚れを落とすケア
舌の表面には、食べかすや細菌が付着して白い舌苔が形成されます。蓄積すると口臭の一因になるため、専用のケアでやさしく取り除くことが大切です。
- 舌専用のブラシまたはクリーナーを使用する
- 舌の奥から手前へ、軽い力で動かす
- 1日1回、朝の歯みがき前に行う
強くこすりすぎると舌の表面を傷つけ、かえって細菌が増える原因となります。やさしく数回だけ行い、清潔な舌を保ちましょう。
口臭を抑える生活習慣
口内環境を整えるには、生活習慣を見直していくことが欠かせません。
食事内容や呼吸の仕方、ストレスなどの影響で口内環境は大きく変わります。なかでも、唾液は口内の汚れを洗い流し、細菌の繁殖を抑える大切な役割を担っています。乾燥を防ぐことが、臭いの発生を抑える第一歩です。
こまめに水分をとり、食事はしっかり噛んで唾液の分泌を促しましょう。耳の下や顎の下にある唾液腺を軽くマッサージするのも良い方法です。さらに、口呼吸を避けて鼻呼吸を意識することや、禁煙・ストレスの軽減も口の健康維持につながります。
また、糖尿病や逆流性食道炎など全身疾患が原因の口臭もあります。口のケアだけで治まらない場合は内科の受診も考えましょう
歯科医院で行う歯周病の治療
歯周病による口臭を根本から改善するには、歯科での専門的な治療が不可欠です。日常のブラッシングでは除去しきれない歯石や細菌が、歯周ポケットの深い部分にたまっていることが多いためです。治療は進行の段階に応じて行われ、以下の4つが基本となります。
①歯石・歯垢の除去
②外科治療
③歯周組織再生療法
④定期的なクリーニング
歯石・歯垢の除去
歯周病治療の基本は、歯の表面や歯茎の境目に付着した歯垢や歯石を取り除くことです。
歯垢(プラーク)は細菌の塊で、放置すると唾液中の成分と結合し、数日で硬い歯石へと変化します。歯石はブラッシングでは落とせないため、以下のような歯科での専門的な処置が必要です。
| 治療法 | 内容 | 目的 |
| スケーリング | 超音波や手用器具で歯石を除去 | 歯ブラシなどのセルフケアでは取り除けない炎症の原因を取り除く |
| ルートプレーニング | 歯根の汚れを削り滑らかにする | 歯茎の奥にこびりついた歯石や汚染された組織をとりのぞき、健康な歯茎に促す |
治療後は歯茎の出血や腫れが落ち着き、口臭の軽減が期待できます。再発を防ぐためにも、日常のケアを継続することが大切です。
外科治療
クリーニングを行っても炎症が改善しない場合、歯茎の奥深くに歯石や細菌が残っていることがあります。
歯周ポケットが深く、器具が届かないときは、外科的な治療を行います。代表的な方法がフラップ手術(歯肉剥離掻爬術)です。局所麻酔を行い、歯茎を一時的に開いて歯の根の奥にこびりついた歯石や感染組織を丁寧に取り除きます。処置後は歯茎を元の位置に戻し縫合して終了です。
この治療により、歯周ポケットが浅くなり、セルフケアがしやすくなります。治療後は定期的なクリーニングを継続していくことが大切です。
歯周組織再生療法
歯周病が進行すると、歯を支える骨(歯槽骨)などの組織が失われることがあります。
歯槽骨は自然に再生することは難しく、歯をできるだけ残すために、歯周組織再生療法を行うケースがあります。
代表的な治療法はGTR法とエムドゲイン法、リグロスなどです。
GTR法(歯周組織誘導再生法)は、骨がなくなってしまった部分にGTRメンブレンという人工膜を挿入して、歯周組織の再生を誘導する治療法です。エムドゲイン法は、歯が生えるときに重要な働きをするタンパク質(エムドゲインゲル)を歯の根に塗布し、失われた組織の再生を助けます。リグロスは歯周組織の再生を促す治療法で、成長因子(ヒトbFGF)という物質が含まれています。
どれを選ぶかは、骨の残り方や炎症の状態などによって異なります。担当医と相談しながら、歯を長く守るための方法を選びましょう。
定期的なクリーニング
歯周病の治療が終わっても、再発を防ぐには定期的なメンテナンスが必要です。治療後も細菌は舌や唾液の中に残り、24時間ほどでプラークが再形成されます。放置すると炎症が再び起こるため、定期的に次のようなクリーニングと指導を受けて菌の増殖を抑えましょう。
- PMTC:専用機器で歯垢やバイオフィルムを除去
- 歯周ポケットのチェック:炎症や再発の有無を確認
- セルフケア指導:磨き方や道具の使い方をサポート
受診の目安は3〜6か月に1回です。通院を続けることで、健康な歯茎を保ちやすくなります。
まとめ
歯周病による口臭は、口の中で炎症が進んでいるサインです。丁寧に歯を磨いても臭いが続く場合、歯茎の奥に原因が潜んでいることがあります。
毎日の歯みがきやフロスなどを続けることや、生活習慣の見直しで細菌の増殖を防ぎ、口内環境を整えられます。
それでも改善が見られないときは、歯科医院で歯石の除去や歯周病治療を受け、専門的にケアすることが大切です。
口臭は一人で抱え込む必要のない悩みです。早めの受診と日々のケアで、口内の健康を守り、すっきりとした毎日を過ごしましょう。
参考文献
- 厚生労働省.令和4年歯科疾患実態調査の結果.2023年3月発表.
- AlBeshri S.Perspectives on tongue coating: etiology, clinical management, and associated diseases – a narrative review.The Saudi Dental Journal,2025,37,7-9,41.