つらい関節リウマチの痛みが、実は口の中の「歯周病」によって悪化しているかもしれません。近年、この二つの病気の深い関連性が多くの研究で明らかになっています。実際、ある調査では歯周病を持つ関節痛の患者さんは、将来リウマチと診断されるリスクが約2.7倍高いと報告されています。(※1)
この記事では、なぜ口のトラブルが全身の関節に影響するのか、その仕組みを解説します。さらに、リウマチ治療と並行して行うべき具体的なセルフケアや、歯科医院での受診ポイントも紹介します。
目次
歯周病がリウマチを悪化させる可能性がある
歯周病を持つリウマチ患者さんは症状が重くなる傾向にあります。さらに、歯周病の治療を行うことで、リウマチの炎症マーカー(CRPなど)の数値が改善するという研究報告もあります。(※2)口の中で起きている問題が、血流を通じて全身に影響を及ぼし、リウマチの発症や悪化の引き金となる可能性があるのです。
①慢性炎症
歯周病と関節リウマチは、どちらも「慢性的な炎症」が長く続くという共通点を持つ病気です。
歯周病によって歯ぐきに炎症が起こると、その場所で「炎症性サイトカイン」という物質が大量に作られます。このサイトカインは、免疫細胞に「攻撃せよ」と指令を出し、炎症を促進する働きを持っています。
これらの物質が歯茎の血管から血液中に入り込み全身を巡ることで、リウマチの炎症がさらに強まるという仕組みです。
②細菌
口の中にある「ポルフィロモナス・ジンジバリス菌(P.gingivalis)」という歯周病菌が、リウマチの発症や悪化に深く関わっていると考えられています。(※1)この歯周病菌は「ジンジバリス菌」または「ピー・ジー菌」と呼ばれています。
ジンジバリス菌は、歯周ポケット(歯と歯ぐきの隙間)に潜んでいます。歯周病が進行して歯ぐきから出血すると、ジンジバリス菌やその他の歯周病菌が作り出す毒素が、傷ついた血管から体内に侵入しやすくなります。
血液中に入り込んだ菌は、血流に乗って全身を巡り、関節にまで到達することがあります。関節にたどり着いた菌は、そこで免疫システムを過剰に刺激し、炎症を引き起こす原因となります。
③抗CCP抗体
関節リウマチの診断では、「抗CCP抗体」という特殊なタンパク質(関節を攻撃するタンパク質)を調べる血液検査が重要です。抗CCP抗体はリウマチ患者さんの多くで見つかり、関節を攻撃してしまう原因の一つと考えられています。
この抗CCP抗体が作られるきっかけに、歯周病菌が関わっている可能性が指摘されています。その仕組みには、「シトルリン化」という現象(タンパク質の構造が変わってしまうこと)が深く関わっています。(※1)
一度作られた抗CCP抗体は、関節にある正常なタンパク質も攻撃対象として認識してしまいます。その結果、リウマチによる関節の痛みや腫れ、破壊が引き起こされるのです。
リウマチ治療中に歯や歯茎の異常が起こる理由
ここでは、リウマチ治療中に歯や歯茎の異常が起こる理由を見ていきましょう。
①リウマチ治療薬の影響
リウマチの治療で使われる薬は、関節の炎症や痛みを抑えるために重要です。しかし、その一部には、口の健康に影響を与える副作用を持つものがあります。
リウマチ治療の中心となる薬は、体の免疫機能を調整する働きを持っています。この作用が関節の炎症を抑える一方で、口の中の状態も変化することがあります。
| 治療薬の種類 | 口腔内への主な影響 |
| 免疫抑制剤(メトトレキサートなど) | 免疫機能の調整により、細菌への抵抗力が弱まる口内炎ができやすくなる |
| ステロイド | 免疫抑制作用により、感染抵抗力が低下する歯周病などの感染リスクを高める可能性がある |
| 生物学的製剤 | 炎症物質の働きを抑える作用により、感染症への注意が必要 |
薬の作用により、歯茎が腫れたり、出血しやすくなったりすることもあります。ただし、リウマチのコントロールが悪化する可能性があるため、自己判断で薬をやめるのは避けてください。
口の乾きや口内炎、歯ぐきの腫れなど、気になる変化があれば、、必ずリウマチの主治医と歯科医師に相談することが重要です。
②口腔乾燥による影響
リウマチの患者さんは、唾液や涙が出にくくなる「シェーグレン症候群」を合併することがあります。また、治療薬の副作用で口が渇く(ドライマウス)ことも少なくありません。
唾液には、洗浄作用や抗菌作用のほか、食事によって酸性に傾いた口の中を中和する機能もあります。また、ごく初期の虫歯を修復する再石灰化作用もあり、口の中の健康を守っているのです。
しかし唾液が減って口が渇くと、これらの働きが弱まってしまいます。その結果、口の中の細菌バランスが乱れ(ディスバイオシス)、虫歯や歯周病が急激に悪化しやすくなります。
また、口呼吸が多い方も口が渇きやすいため、虫歯や歯周病が悪化しやすくなります。
③慢性炎症による影響
リウマチは関節に慢性的な炎症が起こる病気です。しかし、慢性炎症は関節だけにとどまりません。炎症によって体内で作られた「炎症性サイトカイン」が血液に乗り、全身を巡ることで、口の健康にも影響を及ぼすことがあります。
もともと歯周病がある場合、リウマチによる全身の炎症が加わることで、歯茎の炎症がさらに悪化しやすくなります。また、リウマチは骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きを活発にすることが知られています。
この影響が、歯を支える顎の骨(歯槽骨)に及ぶと、歯周病による骨の破壊が通常よりも早く進む可能性があります。(※3)
歯周病を悪化させないためのリウマチ患者のケア
リウマチと歯周病は互いに悪影響を及ぼし合いますが、適切なケアで予防が可能です。ここでは、歯周病を悪化させないためのリウマチのケアについて見てきましょう。
①日常の口腔ケア
リウマチによる関節の痛みや朝のこわばりがあると、歯磨きのような細かな作業がつらく感じられるかもしれません。しかし、口の中の細菌バランスの乱れ(ディスバイオシス)は全身の炎症につながるため、毎日のケアは重要です。
ケアがしにくい場合は電動歯ブラシや持ちやすい歯ブラシを選ぶようにしましょう。例えば、音波式電動歯ブラシは手を細かく動かす必要がなく、軽い力で効率的に歯垢を取り除くことができます。
リウマチで細い歯ブラシが持てない場合は、柄が太く、滑りにくいグリップの歯ブラシを選びましょう。歯ブラシの柄にスポンジやタオルを巻き付けて太くするだけでも握りやすくなります。
歯ブラシで落とせる汚れは、口全体の約6割と言われています。歯周病が最も進行しやすい歯と歯の間は、歯間ブラシ・デンタルフロスなどを併用しましょう。
②口腔乾燥予防のケア
口腔乾燥によって歯周病菌が増殖し、歯茎の炎症が悪化して歯周病が進行してしまうことがあります。(※4)
乾燥が気になる時は、水分補給を行ったり、口内に使える保湿スプレーや保湿ジェルを口内に行き渡らせるように塗布しましょう。塗布することで潤いが1〜2時間ほど持続します。
口呼吸が多い方は、気づいた時に口を閉じて鼻呼吸に切り替えるように心がけることが重要です。アレルギー性鼻炎やその他の鼻疾患がある方は、耳鼻咽喉科で改善を目指すことをおすすめします。
また、ため息を頻繁につくと、口呼吸の習慣を招いてしまいます。(※4)ため息の回数をできるだけ減らすよう心がけましょう。ストレスを溜めやすい方は、お口の運動「あいうべ体操」を行うことで口周りの筋肉を鍛え、自然な鼻呼吸を促すことができます。大きく口を動かして声に出して「あ」「い」「う」、舌を大きく下に伸ばして「べ」と声に出す簡単な体操です。朝晩または朝昼晩に20〜30回ずつ行いましょう。
夜間口呼吸になってしまう方は、サージカルテープや口閉じテープを上下の唇に重ねて鼻呼吸に切り替える方法が効果的です。
③定期的な歯科受診とプロフェッショナルケア
毎日のセルフケアを丁寧に行っていても、完璧に汚れを取り除くことはできません。特に、磨き残しが長く停滞することで形成される「バイオフィルム」は、歯周病菌のすみかとなりご自身の歯磨きだけでは洗浄できないため、定期的に歯科医院で専門的なケアを受けることが欠かせません。
専門的なクリーニング(PMTC)や歯周ポケットの検査などを定期的に受けて、口の健康を保つようにしましょう。
④リウマチ治療薬の適切な使用
リウマチの治療薬は、病気の進行を防ぐために不可欠です。しかし、これらの薬は免疫の働きを調整するため、細菌に対する体の抵抗力を少し弱めてしまう側面があります。
リウマチの治療を受ける際は、歯科クリニックも受診して定期的に口内環境を確認してもらいましょう。薬の副作用で口の炎症が悪化した場合でも、自己判断で薬を中止するのではなくお医者さんに相談しましょう。
リウマチと歯周病に関するよくある質問
リウマチの治療を続けていると、口の健康について気になることや、歯科治療への不安が出てくるかもしれません。ここでは、よくある3つの質問にお答えします。
Q1.歯周病がリウマチを悪化させるって本当?
はい、その可能性は多くの研究で強く示唆されています。
歯周病は単に口の中だけの問題ではなく、関節リウマチの病状に深く関わっています。ある調査では、歯周病を持つ関節痛の患者さんは、そうでない方と比較して、将来リウマチと診断されるリスクが約2.7倍も高いという報告もあります。(※1)
Q2.歯科治療を受けるときに薬は中止すべき?
いいえ、ご自身の判断でリウマチのお薬を中止することは避けてください。
リウマチの治療薬は、病気の活動性を抑えるための薬です。自己判断で中断すると、リウマチの症状が悪化する可能性があります。
Q3.歯周病治療でリウマチの症状が軽くなることはある?
はい、その可能性を示す研究結果が複数報告されています。
効果には個人差がありますが、歯周病治療でリウマチによる関節の腫れや痛み、血液検査の数値などが改善する可能性があります。(※2)
歯周病治療によって口の中の細菌や炎症が減少すると、血流に乗って全身に広がる炎症性サイトカインの量も減ります。これにより、体全体の炎症レベルが下がり、関節の症状が和らぐと考えられます。歯周病治療を、リウマチ治療を補助する大切なケアの一つとして捉えることが重要です。
まとめ
歯周病と関節リウマチは、「慢性炎症」を介して互いに悪影響を及ぼし合う深い関係にあります。歯周病がリウマチを悪化させ、リウマチの治療が口の環境に影響を与えることもあるのです。
この悪循環を断ち切るために、口腔ケアは全身治療の一環と考え、医師・歯科医師と情報を共有しながら治療を進めていきましょう。口の炎症が悪化したときに、自己判断でリウマチの治療薬を中断しないことも重要です。
口の健康を守ることは、リウマチと上手に付き合い、より快適な毎日を送るための重要な鍵となります。気になることがあれば、かかりつけの医師や歯科医師に相談してみてください。
参考文献
- 京都大学 歯周病と関節リウマチ発症との相関を示す
- 東京科学大学 歯周病が関節リウマチを悪化させるメカニズムの一端を解明
- 飯田正人,黒田絵里,合田征司.歯周病学から学ぶインプラント治療.日本口腔インプラント学会誌,2022,35,2.
- 今井一彰 薬を使わずにリウマチを治す5つのステップ.コスモの本,2013
