トイレで便を確認したとき、「いつもより黒いかも」と不安になったことはありませんか? 黒い便は、食べ物や薬が原因のこともあれば、胃潰瘍や胃がんなど、消化管出血による危険なサインの場合もあります。
特に、黒くて強いにおいを伴うタール便は注意が必要です。出血は一度落ち着いたように見えても、原因が解決していなければ再出血することがあります。
この記事では、黒い便の原因や考えられる病気、注意すべき症状、受診の目安までを詳しく解説します。正しい知識を持つことで、ご自身の体を守ることにつながります。
目次
黒い便の主な原因とは?
黒い便の主な原因は、大きく分けて以下の3つです。
- 上部消化管からの出血
- 鉄剤などのお薬の影響
- 特定の食品の摂取(イカ墨、海藻類、赤ワインなど)
上部消化管からの出血
黒い便は、上部消化管からの出血を疑う重要な症状です。食道や胃、十二指腸などの上部消化管で出血が起こると、便が黒くなることがあります。胃酸によって血液中のヘモグロビンが酸化し、硫化ヘモグロビンに変わるためです。
黒い便は、タール便とも呼ばれ、以下の特徴があれば出血の可能性が高くなります。
- 色:黒い色で光沢がある
- 形状:ドロッとして粘り気が強い
- 臭い:鉄が錆びたような不快なにおい
上部消化管からの出血は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんなどの病気が隠れているかもしれません。出血量が多い場合は、貧血を起こして命に関わることもあります。
大腸など下部消化管からの出血でも、出血量が少なく腸内に長く留まると黒い便が出ることがあります。近年、高齢化や抗血栓薬(アスピリン)、痛み止め(NSAIDs)の使用増加により、大腸からの出血は増加傾向です。(※2)
上記の特徴を持つタール便が出た場合は、自己判断せず、速やかに消化器内科を受診しましょう。
鉄剤などの薬の影響
貧血治療で処方される鉄剤(フェロミア、フェルムなど)を服用していると、便が黒く見えることがあります。吸収されなかった鉄分が便に混ざるためです。病気によるものではないため、心配する必要はありません。
便は、ビスマス製剤や炭末などで黒くなる場合もあります。薬の影響による黒い便は、病気によるタール便とは異なります。
見分けるポイントを以下の表にまとめました。
| 項目 | 薬の影響による黒い便 | 病気によるタール便 |
|---|---|---|
| 色 | 均一な黒色、緑がかった黒 | 黒い光沢がある(イカ墨や海苔の佃煮のような黒) |
| 粘り気 | 通常の便と変わらない | ドロッとして粘り気が強い |
| 臭い | 普段と大きく変わらない | 生臭い、鉄臭い不快な臭い |
| 他の症状 | 基本的になし | 腹痛や吐き気、めまい、貧血などを伴うことが多い |
-
お薬を服用中の方へ:
薬を自己判断で中止してしまうと、もともとの病気の治療に影響が出てしまいます。服用中の薬が原因か気になる場合は、自己判断で中止せず、必ず処方した医師へ相談しましょう。 -
症状に不安がある方へ:
上記は一般的な目安です。便の色に不安がある場合や、激しい腹痛・ふらつき(貧血)等の症状を伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。
特定の食品の摂取(イカ墨、海藻類、赤ワインなど)
イカ墨や海藻類、赤ワインなど色の濃い食品を食べた翌日に便が黒くなることがあります。これは、食品の色素がそのまま便に反映されただけの一時的な変化です。
便の色に影響を与えやすい食品は、以下のとおりです。
- イカ墨パスタ
- ひじき、わかめ、海苔
- ブルーベリー、プルーン
- 赤ワイン、チョコレート、ココア
- まぐろ・カツオの血合い
上記の食品が原因の場合、通常は2〜3日経てば便の色は元に戻ります。黒い便が何日も続き、体調に変化がある場合は、早めに専門医へ相談することが大切です。
黒い便が出たときに考えられる3つの病気
黒い便が出たときに考えられる病気は、以下の3つです。
①胃潰瘍
②十二指腸潰瘍
③胃がん
①胃潰瘍
胃潰瘍は、胃酸から胃を守る粘膜のバリアが壊れ、胃の壁が深く傷つく病気で、黒い便の原因の一つです。潰瘍が血管まで達すると出血が起こり、血液が胃酸で変化して黒い便として排出されます。
主な原因は、ピロリ菌感染と非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)です。痛み止めとして使われるNSAIDsは痛みを和らげる一方、胃粘膜を守る働きも抑え潰瘍のリスクを高めます。
黒い便以外に、胃潰瘍では以下の症状を伴います。
- 食後のみぞおちの痛み
- 胃もたれや胸焼け、吐き気
- 食欲の低下
症状が進行して出血量が多い場合、体は貧血状態に陥ります。めまいや立ちくらみなど、少し動いただけで動悸や息切れがする場合は、出血が続いている可能性が高いです。
②十二指腸潰瘍
十二指腸潰瘍は、黒い便の代表的な原因の一つです。胃のすぐ先にある十二指腸は、胃酸の影響を強く受けやすく、粘膜が傷つくと潰瘍となって出血を起こします。
主な原因はピロリ菌感染ですが、痛み止め(NSAIDs)の長期使用や強いストレスも関係します。特徴的なのは、空腹時や夜間にみぞおちが痛むことです。食事をとると胃酸が薄まり、一時的に痛みが和らぐ傾向があります。
出血が多い場合には黒い便や吐血が見られ、吐血は鮮やかな赤色のほか、コーヒー残渣様(ざんさよう)の黒褐色になることもあります。潰瘍が進行すると、十二指腸に穴が開く穿孔(せんこう)を起こし、激しい腹痛とともに命に関わることがあります。
黒い便や強い腹痛が続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
③胃がん
胃がんが進行すると、がんの表面はもろくなり、わずかな刺激でも出血しやすくなります。がんによる持続的な出血が胃酸によって黒く変化し、黒い便として現れることがあります。
胃がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。
進行するにつれて、以下の症状が現れ始めます。
- 胃の不快感、持続する痛み
- 食欲の低下、すぐに満腹になる
- 原因不明の体重減少
- 吐き気や嘔吐
上記の症状は、胃炎や胃潰瘍などの症状とよく似ています。いつもの胃の不調だろうと自己判断で様子を見るのは危険です。
黒い便に加えて、上記のような体調の変化が続く場合は、消化器内科を受診しましょう。専門医による胃カメラ検査などで、原因を正確に突き止めることが重要です。
黒い便が出たときに注意すべき4つの症状
黒い便が出たとき、様子を見るべきか医療機関を受診するべきか判断に迷うかもしれません。しかし、黒い便は体の内部で出血が起きている可能性があります。
食事や薬が原因なら心配はいりませんが、次の4つの症状がある場合は要注意です。
①腹痛や吐き気
②めまいや動悸
③何日も続くタール便
④食欲低下や体重減少
①腹痛や吐き気
黒い便(タール便)に加えて腹痛や吐き気がある場合、消化管が深く傷つき出血している可能性があります。胃潰瘍や十二指腸潰瘍では、強力な胃酸によって粘膜が傷つき、出血することで黒い便が出ます。
腹痛は、特にみぞおち付近に感じることが多く、キリキリと突き刺すような痛みやシクシクと鈍い痛みが続くことが特徴です。空腹時や夜間に痛む場合は十二指腸潰瘍、食後なら胃潰瘍が疑われます。
嘔吐物が黒くコーヒー残渣様になるのは、胃で出血した血液が酸化した証拠です。このような症状が一つでも当てはまる場合、自己判断せず早急に医療機関を受診しましょう。
②めまいや動悸
黒い便に加えてめまいや動悸がある場合は、出血により貧血が進んでいる可能性が高いです。消化管で出血が起きると、血液に含まれる赤血球が失われ、全身が酸素不足になります。脳や心臓が酸素不足になると、めまいや動悸、息切れなどの症状が現れます。
出血量が多い場合、血圧が急激に低下する低血圧性ショックに陥る可能性もあります。特に危険な貧血の症状を以下にまとめました。
- めまいや立ちくらみで立っていられない
- 顔色が極端に悪い
- 冷や汗が出て、手足が冷たくなる
- 意識がもうろうとする、気が遠くなる感じがある
上記の症状がある場合は、すでに大量の出血が進んでいる可能性があり、緊急性が高いです。ためらわずに救急車を呼ぶか、周りの人に助けを求めて、すぐに医療機関を受診しましょう。
③何日も続くタール便
タール便が2日以上続く場合は、体内で出血が続いている可能性が高く、早めの受診が必要です。食べ物が原因の一時的な黒い便は通常1〜2日で元に戻りますが、心当たりがないのに真っ黒で粘り気のある便が続く場合は注意が必要です。
特に危険なタール便の特徴は以下のとおりです。
- 理由のわからない黒い便が2日以上続く
- 色が戻ったり黒くなったりを繰り返す
- 海苔の佃煮のようにドロッとして粘り気が強い
これらの症状は、胃・十二指腸潰瘍や胃がん、大腸の出血などが原因となっている可能性があります。出血が続くと貧血やショックに陥る危険もあるため、自己判断で放置せず、できるだけ早く消化器内科を受診してください。
④食欲低下や体重減少
黒い便に加えて食欲低下や体重減少がある場合、消化管の病気が進行している可能性が高いです。胃潰瘍や胃がんなどでは、慢性的な出血によって黒い便が出ることがあります。栄養吸収の低下や代謝異常により、全身症状が現れることがあります。
注意すべき体調の変化を以下にまとめました。
- 以前より明らかに食べる量が減った
- 脂っこいものを受け付けなくなった
- 半年で3〜5kg以上体重が落ちた
- 胃の不快感やだるさが慢性的に続いている
これらは単なる体調不良ではなく、体が出しているサインかもしれません。気になる体調の変化があれば、放置せず早めに医療機関へ相談しましょう。
黒い便の原因を調べるための検査
黒い便の原因を調べるための代表的な検査は、以下の4つです。
- 血液検査
- 便潜血検査
- 胃カメラ検査(上部消化管内視鏡)
- 大腸カメラ検査(下部消化管内視鏡)
血液検査
黒い便が出たとき、最初に行うのが血液検査です。貧血の有無や炎症、出血の重症度を確認できます。
血液検査で主に確認する検査項目は、以下の3つです。
| 検査項目 | 検査から読み取れること |
|---|---|
| 赤血球数・ヘモグロビン値 |
|
| 白血球数・CRP値 |
|
| 血小板数・凝固機能 |
|
ヘモグロビンが低い場合は、輸血などの緊急治療が必要になることもあります。治療方針を決めるうえでも重要な検査です。
便潜血検査
便潜血検査は、便の中に混じっている見えない血液を調べる検査です。健康診断の大腸がん検診でも広く使用され、体への負担がなく自宅で簡単に採取できます。
検査方法は、ご自宅で便の表面を専用スティックで数回こすって容器に入れ、医療機関へ提出するだけです。結果が陽性の場合は、下部消化管(大腸)のどこかで出血が起きている可能性が高いことを示します。
精度を高めるために2日法が一般的で、2日連続で便を採取して検査します。出血は常に起きているとは限らず、1回だけでは見逃してしまうことがあるためです。ただし、便潜血検査はあくまでもふるい分けの検査です。
陽性になった場合でも、出血の場所や原因までは特定できないため、大腸カメラや必要に応じて胃カメラなどの精密検査が必要になります。
胃カメラ検査(上部消化管内視鏡)
胃カメラ検査は、黒い便の原因を特定するために重要な検査です。先端に小型カメラが付いた細いスコープを口や鼻から挿入し、食道や胃、十二指腸などの上部消化管の粘膜を直接観察します。
胃カメラ検査でわかることは、以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出血源の特定 | 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなど、出血している具体的な部位や病名を判断できます。 |
| 病気の診断 | 出血部位の病変の「形」「大きさ」「色の変化」などを直接確認し、正確な診断を行います。 |
| 出血の評価 | 現在も出血が続いているか、止血されているかなど、出血の状態を詳細に観察します。 |
胃カメラ検査では、治療も同時に行えます。出血部位を見つけた場合は、その場でクリップを使ったりして止血処置が可能です。
胃がんなどが疑われる場合は、組織の一部を採取する生検を行い、良性か悪性かを病理検査で詳しく調べます。医師の判断で鎮静剤が使用されることもあり、痛みや不快感をあまり感じずに検査を受けることができます。
大腸カメラ検査(下部消化管内視鏡)
大腸カメラ検査は、胃カメラで原因が見つからず、黒い便に加えて下腹部痛やお腹の張りがあるなど大腸からの出血が疑われる場合に行います。
近年増えているのが、憩室(けいしつ)出血です。憩室は大腸の壁が袋状に膨らんだ部分で、高齢化や抗血栓薬の服用増加に伴い、出血が起こりやすくなっています。ある研究によると、憩室出血の70〜90%は自然に止血するものの、1年以内に最大35%が再出血すると報告されています。(※1)
大腸カメラ検査では、肛門から内視鏡を挿入し、大腸全体の粘膜を直接観察します。検査前には下剤を飲んで腸の中をきれいにする準備が必要ですが、胃カメラと同様に鎮静剤を用いて苦痛を少なく受けることが可能です。
黒い便が出たときの受診タイミング
黒い便が出たときの受診タイミングは以下の3つです。
- 便の色や形状が通常と異なる場合
- 全身症状が現れているとき
- 食事や薬の影響がないのに便が黒いとき
便の色や形状が通常と異なる場合
黒い便に異常があるときは、消化管出血の可能性が高く、早急な受診が望ましいです。特に注意すべきは、便そのものの見た目や性質です。食べ物や薬が原因の黒い便とは異なり、消化管出血で生じるタール便には、以下の特徴があります。
- 色:黒い光沢がある
- 形状:形がはっきりせず、ドロッとしている
- 粘り気:強い粘りで、便器の水に広がらずこびりつく
- 臭い:鉄が錆びたような不快なにおいがする
上記の特徴に1つでも当てはまる場合は、消化管内で出血が続いている可能性が高いです。自己判断で様子を見ず、速やかに消化器内科を受診しましょう。
全身症状が現れているとき
黒い便に加えて、体全体に何らかの症状が現れている場合は、注意が必要です。これらの症状は、消化管からの出血量が多く、体が貧血状態に陥っている可能性があります。
以下の症状が現れているときは、早急な受診が望ましいです。
- めまい・立ちくらみ(急に立つと意識が遠のく)
- 動悸・息切れ(軽い動作でも苦しくなる)
- 顔色が悪い(青白いと指摘される)
- 冷や汗・手足の冷え
- みぞおちの強い痛み
- 吐き気・嘔吐(コーヒー残渣様の黒い吐物)
上記の症状がある場合、すでに体内で相当量の出血が続いている可能性があります。出血が急激に進むと血圧が下がり、低血圧性ショックなどの命に関わる状態になります。意識がもうろうとする、冷や汗が止まらないなどの症状があれば、迷わず救急車を呼んでください。
食事や薬の影響がないのに便が黒いとき
食事(イカ墨、ひじきなど)や薬(鉄剤、ビスマス製剤など)の影響がないのに黒い便が出る場合は、症状がなくても受診が必要です。体内で出血している可能性が高く、消化管で出血している場合があるためです。
腹痛や吐き気がなくても、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃がんなどが隠れていることがあります。出血は一時的に止まっても再発することが多く、原因を放置すると再出血の危険があります。
黒い便が出た時点で、消化器内科を早めに受診し、原因を確認することが重要です。
まとめ
黒い便は、食事や薬の影響などの一時的な原因や胃潰瘍、胃がんなどの消化管出血が原因のものまでさまざまです。
特に、黒い光沢のある便や強い粘り気のあるタール便が見られる場合は注意が必要です。腹痛・めまい・動悸などの症状も加わると、病気が原因の可能性がさらに高くなります。
一時的なものだろうと自己判断してしまうと、重大な病気を見逃すことになります。少しでも不安に感じたときは、早めに消化器内科を受診しましょう。
参考文献
- Ichita C, Kishino T, Aoki T, Machida T, Murakami T, Sato Y, Nagata N.Updated evidence on epidemiology, diagnosis, and treatment for colonic diverticular bleeding.DEN Open,2025,6,1,e70122.
- 一般社団法人 日本消化管学会.「大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン」.