目次
- 1 はじめに
- 2 Q日本人は温泉好きをはじめ、入浴が好きな方もたくさんいます。入浴の健康効果を教えてください。
- 3 Q身体に負担をかけない湯の温度はどれくらいでしょうか?
- 4 Qリラックスを目的とする以外の入浴とは?
- 5 Q温泉で、つい長湯をしてしまいます。これはあまり身体によくないのでしょうか?
- 6 Q寒い冬、身体を冷ましにくい入浴法はありますか?
- 7 Q高血圧や糖尿病など生活習慣病のある方はどんなことに気を付けるとよいのでしょうか?
- 8 Q宴会後、酔ったままお風呂に…。この危険性について教えてください。
- 9 Q風邪を引いている時はお風呂に入らない方がいいのでしょうか?
- 10 Q冬は肌の乾燥が気になります。入浴後はクリームなどを塗りこんだ方がいいですか?
- 11 Q先生の美学を教えてください。
- 12 この記事を監修した医師
はじめに
気温が下がると、お風呂に浸かる時間が一層楽しくなる。冷え切った体が芯から温もる。手や足の先までポカポカする。寒さで縮こまっていた身体の緊張が解け、リラックスできる。日常生活では汗をかきにくい季節だが、長時間お風呂に浸かることで汗が流れ、心身ともにすっきりする。これらの効果はシャワーでは得られにくい。
一方で、冬になると、お風呂場で命を落とす人が出てくる。脱衣所とお風呂場の気温差が大きく、血圧の急激な変化が起こり、心臓や脳へ負担をかけるためだ。お風呂は身体に良い効果をもたらすが、入り方を間違えれば、身体に害を及ぼす。場合によっては、命を落とす結果になってしまう。特に、生活習慣病を抱えている人や高齢者では危険が増す。どうせなら、健康に役立つお風呂の入り方を知っておきたい。国際医療福祉大学熱海病院検査部の〆谷直人部長に話を聞いた。
Q日本人は温泉好きをはじめ、入浴が好きな方もたくさんいます。入浴の健康効果を教えてください。
お風呂には医学的に次のような健康作用があります。まず、温熱により皮膚の毛細血管や皮下の血管が広がり、血流が改善することで、疲れが取れる。肩こりや腰痛などの慢性的な痛みを和らげる効果もあります。
次に、水中にある物体には浮力が働くので、浮力の作用でリラックスできます。
さらに、お湯に全身が浸かると、腹囲が3~5㌢ほど縮むとも言われるほど、体に水圧がかかります。それにより下半身に溜まった血液が心臓へと戻り、血液の循環を促進し、むくみが解消されます。ただし、心臓や肺に負担がかかるため、心臓や肺の病気の人が全身浸かるのはよくありません。
加えて、お風呂に入ることで皮膚の毛穴が拡張して毛穴に詰まった汚れが落ちやすくなり、体を清潔に保つことができます。
Q身体に負担をかけない湯の温度はどれくらいでしょうか?
リラックスを目的とするなら38~40度のお湯に10~15分程度入ることをお勧めします。リラックスの基本は副交感神経を優位にすること。疲れて帰ってきた夜、精神的なストレスや足の疲れには、この入浴法がベストです。
Qリラックスを目的とする以外の入浴とは?
前述したようにリラックスが目的ならお湯に全身が浸かる場合は、38~40度のお湯で10~15分程度です。
健康な人が疲れにくい体をつくるなら40度のお風呂に20分、または42度のお風呂に10分。この入浴法は週に2回程度(3日置きくらい)実行するのが得策です。
また、みぞおちの辺り(胸の下)まで張ったぬるめのお湯に、20~30分ゆっくりと浸かる半身浴は、肩までしっかりつかる全身浴に比べて心臓に負担がかからず、長時間の入浴が可能。体を芯から温められます。もし肩が出て寒いと感じたら、乾いたタオルを肩にかけます。
Q温泉で、つい長湯をしてしまいます。これはあまり身体によくないのでしょうか?

長時間の入浴は健康になるどころか、逆効果。肌の角層が大量に水分を吸収してしまい、やがて肌の保湿成分となる「油分」がほとんどなくなり、肌が乾燥してしまう原因となります。長時間入浴することは、保湿成分がなくなり乾燥肌になるので、やめた方がよいでしょう。
また、30分以上もかけてお風呂に入ってしまうと、逆に疲れが溜まってしまいます。
Q寒い冬、身体を冷ましにくい入浴法はありますか?
寒い冬だとどうしても熱いお風呂に入りがちになるのですが、体を芯から温めるという意味では、血液循環が大切です。そのためには40度ぐらいのお湯に10分~15分ぐらい浸かるようにします。
ぬるめのお湯と熱めのお湯での体温の変化は、ぬるめのお湯の方が冷めにくい。ぬるめのお湯にゆっくり浸かると、血管が広がって血液循環が良くなり体の奥の方から温まります。熱めのお湯では、体の表面が温まっているだけなのですぐに冷めてしまいます。
季節の果物や野菜などをお風呂に入れるのも体を温めるにはお勧めです。ゆずには血行を促進する効果、ミカンの皮には温め効果、大根の葉には発汗を促す効果があります。
Q高血圧や糖尿病など生活習慣病のある方はどんなことに気を付けるとよいのでしょうか?
生活習慣病の方に、入浴時に気を付けてほしいことは以下になります。
◎高血圧
入浴時は、体温の変化とともに血圧も激しく変化しています。入浴する前に暖かい部屋にいると、寒い脱衣所で裸になった時に血管が収縮し、血圧が上昇します。そして、42度以上の熱いお湯に浸かると、血管が収縮し、血圧が急激に上昇。脳出血などのリスクが高まります。そのまましばらくお湯に浸かっていると、血管が拡張し、今度は血圧が下がり、脳梗塞・心筋梗塞のリスクが高まります。その後、体を洗うなどで浴槽から出ると、次第に体温が下がり、再び血管が収縮し血圧が上昇。このように、入浴時は血圧が激しく変動するため、血管に負担がかかります。
高血圧患者の場合は、普通の人よりも血圧上昇の割合が高く、血管へ負担が大きくかかります。血圧の急上昇を防ぐためにお湯の温度は40度以下を目安に設定しましょう。入浴前に過ごす部屋(脱衣所など)の温度が低いと、入浴時に温度差が大きくなります。そこで入浴前に過ごす部屋(脱衣所など)を暖めておくと、血圧の急激な変化が起こりにくくなります。冬場は、さらに気温の差が大きくなるので注意しましょう。
入浴する時は、すぐに熱いお湯に浸からずにかけ湯をして、少しずつ体温を上げてからゆっくりとお湯に入ると、急激な血圧上昇を防げます。
◎糖尿病
血糖値を下げるホルモンであるインスリンは副交感神経の支配を受けています。そのため40度前後のぬるめのお湯に入浴すると副交感神経が働き、インスリンが分泌されやすくなります。ここで注意しなければならないのは入浴によって薬理作用を高めてしまうということです。薬が効き過ぎて低血糖を起こしてしまうことがあるので、その点においては注意が必要です。恐いのは高血糖よりもむしろ低血糖です。
インスリン注射や血糖値を下げる薬を服用直後に入浴すると、血流が良くなって薬理作用が効きすぎて低血糖を誘発するため、服用直後の入浴はやめましょう。また、食前の入浴も危険です。
Q宴会後、酔ったままお風呂に…。この危険性について教えてください。
飲酒後の入浴はアルコールの分解を妨げるうえに、心臓にも負担をかけてしまいますし、転倒による怪我などの恐れもあります。
飲酒直後に入浴すると、体が温まって血液の循環が良くなり、さらにアルコールが全身にまわってしまいますので、こんな状態で入浴をしたら、平衡感覚が乱れて転んでしまう危険性もあります。
また、酔った状態で入浴すると大量の血液が全身に送られ、脳や心臓の血流が減少します。それによって、脳貧血、不整脈、心臓発作などを引き起こす可能性があります。
飲酒直後は一時的に血圧が下がります。そしてお湯に浸かっている時も人間の体は血圧が下がるので、この相乗効果によって、最悪の場合は気を失っておぼれてしまう恐れもあります。
飲酒後はすぐに入浴せず、できれば2時間ほど空けてから入浴を。もし大量にお酒を飲んでしまった場合は、思わぬトラブルや怪我を防ぐためにも、入浴を我慢してください。
Q風邪を引いている時はお風呂に入らない方がいいのでしょうか?
お風呂のせいでかぜが悪くなるということはないと言われています。37・5度以下の微熱程度で食欲もあれば、お風呂に入っても構いません。それ以上の体温でも、本人が元気ならば入浴して皮膚を清潔にし、リフレッシュしてもよいでしょう。ただし、熱が高く食欲・元気もない時には入浴は避けましょう。
湯冷めを心配してお湯を熱めにすることがありますが、熱いお風呂は体力を消耗します。少しぬるめのお風呂に。また、湯冷めしないようにとお風呂からあがったらすぐに布団の中に入るのはやめましょう。体のほてりを十分に取ってから布団に入ってください。
Q冬は肌の乾燥が気になります。入浴後はクリームなどを塗りこんだ方がいいですか?
お風呂上がりに浴室を出ると、急激なスピードで乾燥が始まり、やがて入浴前よりも水分量が低くなる過乾燥の状態に陥ります。これは皮脂やNMF(天然保湿因子)、角層細胞間脂質といった、本来肌に備わっている保湿物質が一時的に流出し、肌の水分を保てなくなることが原因で起こります。
こうした過乾燥による肌へのダメージを防ぐためには、お風呂上がりの保湿ケアが重要です。お風呂上がりに保湿ケアをすべき制限時間(保湿リミット)は10分と、科学的に解明されているそうです。入浴後にクリームなどの保湿化粧品を塗布した方が、水分量を高くキープできます。
Q先生の美学を教えてください。
自分の趣味(好奇心)をより広げ、大いに楽しみ、日常のストレスから解放されるようにすることでしょうか。