食べ過ぎや飲み過ぎによる、一時的な胸焼けに悩む方が少なくありません。しかし、市販薬を飲んでも改善しなかったり、何週間も症状が続いたりする場合、単なる胃の不調ではない可能性があります。
胸焼けを自己判断で放置してしまうと、発見が遅れ、取り返しのつかない事態を招きかねません。
この記事では、治らない胸焼けから考えられる病気の種類と、病院を受診すべきサインの見分け方を解説します。手遅れになる前に、ご自身の症状と照らし合わせてみてください。
治らない胸焼けで疑うべき原因疾患
一時的な食べ過ぎや飲み過ぎによる胸焼けは、誰にでも起こります。しかし、症状が何週間も続いたり、市販薬を飲んでも改善しなかったりする場合は注意が必要です。
治らない胸焼けから考えられる代表的な6つの病気は以下のとおりです。
①逆流性食道炎
②びらん性食道炎(EE)
③慢性胃炎
④胃潰瘍・十二指腸潰瘍
⑤食道がん・胃がん
⑥心筋梗塞
①逆流性食道炎
治らない胸焼けの原因として、多くみられるのが逆流性食道炎です。(※1)逆流性食道炎は、胃酸や食べ物などの胃の内容物が食道へ逆流することで起こります。
食道の粘膜には、胃のような強力な酸から自身を守る機能がありません。そのため、胃酸にさらされると炎症を起こし、胸の奥が焼けるような胸焼けや、酸っぱいものがこみ上げてくる呑酸(どんさん)といった症状が現れます。
特に、食後や夜間に横になったときに症状が出やすいのが逆流性食道炎の特徴です。逆流性食道炎は幅広い年代で起こりうる病気ですが、主な原因は以下の4つです。
| 原因 | 原因の詳細 |
| 食生活の乱れ | ・脂肪分の多い食事、食べ過ぎ、アルコール ・香辛料などの刺激物は胃酸の分泌を増やし、逆流を引き起こす |
| 生活習慣 | ・肥満やベルトの締め付けは、お腹の圧力を高める ・猫背などの前かがみの姿勢も同様に腹圧を上げる原因となる |
| 加齢 | 食道と胃のつなぎ目にある、下部食道括約が緩むと逆流しやすくなる |
| ストレス | ・ストレスは胃酸の分泌を過剰する ・食道が刺激に敏感になり、逆流性を引き起こす |
近年では、逆流性食道炎の診断や管理は進歩しており、適切な治療を受ければ症状をコントロールすることが可能です。(※2)
②びらん性食道炎(EE)
びらん性食道炎は、逆流性食道炎のなかでも症状が進行した状態を指します。胃カメラで食道の粘膜を観察したときに、炎症によるびらんやただれがはっきりと確認できる病気です。
びらん性食道炎の症状は、胸焼けや呑酸が中心です。しかし、炎症の程度が強いため、食べ物を飲み込むときの痛みや、胸のつかえ感などを伴うこともあります。
びらん性食道炎を放置すると、以下のような深刻な状態に進行するリスクがあります。
| 病名 | 症状 |
| 食道潰瘍 | びらんがさらに深くなり、粘膜の下の層まで傷が及んで出血する |
| 食道狭窄 | 炎症が治る過程で食道が硬く狭くなり、食べ物が通りにくくなる |
| バレット食道 | 繰り返す炎症で食道の粘膜が胃の粘膜のように変化してしまい、食道がんの発生リスクが高まる |
近年の内視鏡技術の進歩により、バレット食道のような微細な変化も早期に発見しやすくなっています。胸焼けが続く場合は自己判断で放置せず、一度専門医に相談することが大切です。
③慢性胃炎
慢性胃炎は、胃の粘膜が長期間にわたって炎症を引き起こしている状態です。炎症が続くと胃の粘膜を守る粘液のバリア機能が弱まります。結果として、胃酸の分泌バランスが崩れ、胸焼けをはじめとした、さまざまな不快な症状を引き起こします。
慢性胃炎の主な原因はヘリコバクター・ピロリ菌の感染です。そのほかにも、ストレスや過度の飲酒、喫煙、加齢なども関与します。胸焼け以外にも以下のような症状がみられるでしょう。
- 胃もたれ
- 食後の膨満感
- 空腹時や夜間の胃のムカムカ
- 胃腸のチクチクとした痛み
- 吐き気
- 頻繁なゲップ
- 食欲不振
慢性胃炎が長く続くと、胃の粘膜が薄く痩せてしまう萎縮性胃炎に進行することがあります。(※3)萎縮性胃炎は胃がんの発生源となることが知られているため、ピロリ菌の検査や除菌治療、定期的な胃カメラ検査による早期の発見・治療が重要です。
④胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃酸によって胃や十二指腸の粘膜が深く傷つき、えぐれてしまう病気です。粘膜の防御機能が弱まることで、自身の胃酸が粘膜を消化してしまうことによって起こります。
胸焼けの症状もみられますが、みぞおちの痛みが出ることが特徴です。痛みの出るタイミングによって、胃と十二指腸のどちらに潰瘍があるかをある程度推測できます。
| 病名 | 痛みのタイミング |
| 胃潰瘍 | 食事中から食後に痛む |
| 十二指腸潰瘍 | 空腹時や夜中に痛むことが多く、食事を摂ると一時的に痛みが和らぐ |
潰瘍が深くなると血管を傷つけて出血し、吐血や黒い便(タール便)が出ることがあります。このような症状は緊急の対応が必要なサインなので、すぐに医療機関を受診してください。
⑤食道がん・胃がん
長引く胸焼けや食べ物のつかえ感は、食道がんや胃がんの初期症状である可能性もあります。これらのがんは、初期の段階では自覚症状が乏しいことが多く、逆流性食道炎と似た軽い症状しか現れないため、発見が遅れがちです。
特に以下のような方は、注意が必要です。
| 病名 | 該当項目 |
| 食道がんリスクの高い方 | ・50歳以上の男性 ・飲酒や喫煙習慣 ・熱い飲食物を好む |
| 胃がんリスクの高い方 | ・ピロリ菌の既往歴 ・塩分の多い食事を好む ・血縁に胃がんの方がいる |
症状が進行すると、体重減少、貧血、声のかすれなどが現れます。
がんは早期発見・早期治療が何よりも重要です。ただの胸焼けと自己判断せず、リスクのある方や症状が続く場合は、定期的に胃カメラ検査を受けましょう。
⑥心筋梗塞
胸焼けの症状は、消化器系の病気によるものがほとんどですが、なかには心筋梗塞が原因となっている場合があります。消化器系の胸焼けと心筋梗塞の症状の違いは、以下の表のとおりです。
| 症状の特徴 | 消化器系の胸焼け | 心筋梗塞の疑い |
| 痛みの性質 | ・胸の奥が焼ける ・胸の奥がヒリヒリする | ・胸を締め付けられる ・胸が押しつぶされる |
| 痛みの広がり | 胸の中心部やみぞおちに痛みが広がる | 左肩、腕、首、あご、背中に痛みが広がる |
| 痛み以外の症状 | ・呑酸 ・胃液が上がっている感覚 | ・冷や汗 ・吐き気 ・息切れ ・めまい |
| 症状が現れる状況 | 食後や横になったとき | ・運動時や興奮したとき ・突発的に起こる |
食後の胸焼けとは異なり、これまで経験したことのないような激しい胸の圧迫感を感じた場合は、すぐに救急車を呼びましょう。心筋梗塞は一刻を争う病気であり、迅速な対応が命を救います。
胸焼けが続くときの自宅での対処法
胸焼けが続くときの自宅での対処法として、以下の4つを紹介します。
①食生活を改善する
②就寝時の姿勢に気をつける
③ゆったりした服装にする
④市販薬を服用する
食生活を改善する
胸焼けの対処法の一つが、食生活の改善です。
胸焼けは、食事の内容や食べ方と深く関係する症状です胃酸の分泌を過剰にしたり、胃酸が逆流しやすい状況を起こしたりする食習慣を見直すことが、症状の緩和につながります。
日々の食事で少し意識を変えるだけでも、胸焼けの頻度を大きく減らせる可能性があります。まずは、以下のポイントを押さえて食生活を見直しましょう。
- ゆっくり食べる
- よく噛んで食べる
- 腹八分目を心がける
- 就寝3時間前までに食事を終える
こうした食生活の見直しを行うことが、つらい症状をコントロールするうえで重要です。
就寝時の姿勢に気をつける
就寝時の姿勢に気をつけることも、自宅でできる胸焼けの対処法です。
「横になるといつも胸焼けがする」「朝起きると喉の奥が酸っぱい感じがする」といった夜間の症状は、睡眠の質を大きく低下させます。体を横にすることで重力の影響が少なくなり、胃酸が食道へ逆流しやすくなることが原因です。
就寝時の姿勢を少し工夫するだけで、夜間のつらい症状を軽減できる可能性があります。就寝時には、上半身全体を少し高くし、体の左側を下にして寝ると良いでしょう。
ゆったりした服装にする
服装によるお腹の締め付けも、胸焼けを引き起こす原因の一つであり、ゆったりした服装にすることが対処法の一つです。
ベルトをきつく締めたり、ウエストが細い服や補正下着を着用したりすると、お腹に強い圧力がかかります。高まった腹圧は胃を直接圧迫し、胃酸を食道へと押し上げます。
服装を少し工夫をすることで、胸焼けの改善が可能です。ウエスト周りにゆとりのある服を選び、ベルトはきつく締めすぎないでください。長時間の前かがみの姿勢も胃を圧迫するため避けることがおすすめです。
市販薬を服用する
食べ過ぎや飲み過ぎなど、胸焼けの原因が一時的ではっきりしている場合、市販の胃腸薬も症状を和らげる対処法です。市販薬にはいくつかの種類があるため、それぞれの特徴を理解して選びましょう。
市販薬の薬の種類とそれぞれの効果や特徴は、以下のとおりです。
| 薬の種類 | 働きと特徴 |
| H2ブロッカー | ・胃酸の分泌そのものを指令する受容体をブロックし、胃酸の分泌を抑える |
| プロトンポンプ阻害薬(PPI) | ・胃酸を分泌するポンプの働きを直接阻害する ・H2ブロッカーよりも強力に胃酸の分泌を抑える |
市販薬はあくまで一時的な症状緩和のための手段です。安易に使い続けてしまうと、重要な病気の発見を遅らせてしまう危険性があります。特に、薬によって症状が一時的に隠れてしまうことで、胃がんや食道がんなどの病気が進行してしまうケースも少なくありません。
市販薬を2〜3日服用しても改善しなかったり、やめると症状がぶり返したりする場合は消化器内科を受診しましょう。胸焼け以外に飲み込みにくさや体重減少、黒い便などがみられる方も注意してください。
治らない胸焼けの放置は危険|受診目安と診断・治療法
治らない胸焼けには、危険な病気が隠れているかもしれないので、放置は危険です。医療機関の受診タイミングや胃カメラ検査、薬物療法について詳しく解説します。
受診タイミング
以下の胸焼けの症状がみられる場合は、早めに消化器内科や胃腸科を受診しましょう。
- 市販の胃薬を3日〜1週間ほど飲んでも、症状が全く良くならない
- 胸焼けの症状が2週間以上、断続的にあるいは常に続いている
- 市販薬を飲むと一時的に楽になるが、やめるとすぐに再発を繰り返してしまう
- みぞおちの痛みや腹部の痛み、便が黒っぽいなど胸焼け以外の症状がある
- 胸を締め付けられるような痛みや、押しつぶされるような圧迫感がある
これらの症状は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、まれに食道がんや胃がんなどの病気が隠れているサインの可能性があります。早めに原因を特定し、適切な治療を開始することが重要です。
胃カメラ検査
長引く胸焼けの原因を正確に診断するために、有効な検査が胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)です。胃カメラは、口または鼻から細いスコープを挿入し、食道・胃・十二指腸の粘膜の状態を医師が直接目で見て詳細に観察します。
胃カメラ検査では、逆流性食道炎による食道のただれ(びらん)の有無や重症度を評価するほか胃潰瘍や十二指腸潰瘍がないか、出血の痕跡がないかを調べます。食道がんや胃がんなどの悪性の病気を、自覚症状が乏しい初期の段階で発見できる点がメリットです。
また粘膜の一部を採取し、ピロリ菌の有無を調べることもできます。
「胃カメラは苦しい」というイメージから検査をためらう方もいますが、近年では患者さんの負担を減らすための工夫が進んでいます。鼻から挿入する細いカメラ(経鼻内視鏡)や、鎮静剤を使って眠っている間に検査を終える方法もあります。
人間の目だけでは見落とす可能性のあったごく早期のがんなども発見できるため、胸焼けがある方は気軽に医師へ相談してください。
薬物療法
胃カメラなどの検査で診断が確定したら、胸焼けの原因に応じた治療を開始します。胸焼けの治療では、主に胃酸の分泌を抑える薬や、胃の働きを助ける薬が用いられます。
薬物療法で使用される薬の種類は以下のとおりです。(※4)
| 薬の種類 | 主な働きと特徴 |
| PPI | ・胃酸を作り出すポンプの働きをブロックする薬 ・逆流性食道炎や潰瘍治療の中心的な役割を持つ |
| カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB) | ・PPIと同様に胃酸の分泌を抑える ・PPIよりすみやかに効果が現れ、安定している |
| H2ブロッカー | ・胃酸の分泌を促す信号をブロックする薬 ・PPIが登場する前は、治療の主流として用いられていた |
| 消化管運動機能改善薬 | ・胃腸の動きを活発にし、食べた物がスムーズに流れるのを助ける ・胃の内容物の逆流を防ぐ |
これらの薬を、患者さん一人ひとりの症状や原因、ライフスタイルに合わせて処方されます。
症状が改善したあとも、再発を防ぐために薬の服用を続け、生活習慣の改善を継続することが重要です。自己判断で薬をやめてしまうと、すぐに症状がぶり返すことも少なくありません。医師の指示に従って、根気強く治療を続けていきましょう。
まとめ
胸焼けは、「いつものことだから」と軽く考えがちですが、逆流性食道炎や食道がんなどの専門的な治療が必要な病気が隠れている可能性があります。市販薬で一時的に症状を抑えることはできても、根本的な原因の解決にはなりません。むしろ、重大な病気の発見を遅らせてしまう危険性もあります。
もし、市販薬を試しても症状が続く、あるいは悪化するようなら、体からの大切なSOSサインです。一人で悩まず、消化器内科などの専門医に相談し、適切な検査と治療を受けましょう。
参考文献
- Wang G, Zhu C, Yin J.Etiology and treatment options for refractory gastroesophageal reflux disease: A scope review.Clinics (Sao Paulo),2025,80.
- Shashi BG, Hafsa SN.Current Advances in Diagnosis, Therapeutics, and Surgical Interventions for the Management of Refractory Gastroesophageal Reflux Disease (GERD): An Update.Cureus,2024,16(9),e69001.
- Mehdi R, Harshil Bhatt.Atrophic Gastritis.StatPearls,2025.
- Katz PO, Dunbar KB, Schnoll-Sussman FH, Greer KB, Yadlapati R, Spechler SJ.ACG Clinical Guideline for the Diagnosis and Management of Gastroesophageal Reflux Disease.Am J Gastroenterol,2022,117(1),p.27-56.