お腹の調子が悪く下痢が続くと「何か悪いものでも食べたかな?」と不安になりますよね。その症状は、実は体からの大切なサインかもしれません。一時的な不調と思いがちですが、生活習慣の乱れやストレス、見過ごせない病気が隠れている可能性もあります。
この記事では、食べ過ぎや冷えといった日常的な原因から、ウイルス感染や注意すべき病気まで、消化不良による下痢の原因を詳しく解説します。自身や家族のためにも、自宅でできる具体的な対処法やすぐに病院を受診すべき危険なサインの見極め方を知りましょう。
消化不良で下痢が続く原因と症状
消化不良で下痢が続く原因は一時的な不調であることも多いですが、生活習慣の乱れやストレスが関係していることもあります。
消化不良で下痢が続く原因は、主には以下の5つと考えられます。
①食べ過ぎ飲み過ぎ
②冷え
③ストレス
④ウイルスや細菌の感染
⑤病気
①食べ過ぎ飲み過ぎ
食べ過ぎや飲み過ぎになると胃や腸などの消化器官に大きな負担がかかり、下痢の原因になります。
乱れた食生活は胃酸の分泌バランスを乱し、食べ物を分解する消化酵素を出す膵臓(すいぞう)に大きな負担をかけることにつながります。その結果、食べた物が十分に消化されないまま腸に送られて腸を刺激し、腸内の水分量が増えて下痢になるという仕組みです。
脂質の多い食事や刺激の強い食べ物、アルコール・炭酸飲料、早食いは、消化器官に負担がかかるため避けましょう。食生活の乱れが日常的になり、下痢を頻繁に繰り返す方は、消化器官が慢性的に不調を起こしているかもしれません。
②冷え
消化不良による下痢の原因の一つが体の冷えです。体やお腹周りが冷えると、腸の血管が収縮して血行が悪くなります。血行不良は、腸が便を送り出すための「ぜん動運動」を弱くするため、下痢につながりやすいです。
特に、筋肉量が少なく体が冷えやすい女性や、デスクワークなどで長時間同じ姿勢でいる方は、血行が悪化しやすいでしょう。
冷えによる下痢のサインは、以下の4つです。
- 冷たいものを摂った後に腹痛や下痢が起こりやすい
- 手足やお腹が冷たいと感じることが多い
- 夏でも腹巻きや温かい飲み物が手放せない
- お風呂で体を温めるとお腹の調子が良くなる
症状に心当たりがある方は、体の内側と外側から温める習慣を意識することが、下痢の予防につながります。服装の工夫や温かい食事を心がけるなど、日々の生活で少し意識を変えてみましょう。
③ストレス
ストレスも、消化不良で下痢が続く原因です。
私たちの胃腸の働きは、自律神経によってコントロールされています。自律神経には体を活動的にする交感神経とリラックスさせる副交感神経があり、両者がバランスを取ることで、健康が保たれています。
一方、強いストレスや慢性的な疲れ、睡眠不足などが続くと、交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまいます。バランスが崩れることで胃腸の働きに不調が現れるため、下痢につながりがちです。バランスが崩れて起こる代表的な例が過敏性腸症候群(IBS)です。
IBSは、検査をしても腸に炎症などの異常が見つからない一方、ストレスを感じると腹痛を伴う下痢や便秘を繰り返します。
④ウイルスや細菌の感染
突然の激しい下痢に吐き気や嘔吐、発熱などの症状が伴う場合は、ウイルスや細菌への感染が原因かもしれません。
ウイルス性胃腸炎と細菌性食中毒の特徴を以下の表にまとめています。
| 病気名 | 原因 | 特徴 |
| ウイルス性胃腸炎 | ノロウイルスやロタウイルス | ・人から人へ感染しやすく、急な嘔吐から始まることが多い ・冬場に流行 |
| 細菌性食中毒 | サルモネラ菌やカンピロバクターO-157(腸管出血性大腸菌) | ・加熱が不十分な肉や卵、生の魚介類などを食べた後に発症 ・夏場に多い |
感染による下痢は、体が害となるウイルスや細菌を体外へ排出しようとする重要な防御反応です。そのため、ご自身の判断で強力な下痢止め薬を服用すると、かえって病原体を体内に留めてしまい、回復を遅らせる可能性があります。
下痢になったときは水分補給をしっかり行い、症状がつらい場合は早めに医療機関を受診することが重要です。
⑤病気
2週間以上続く慢性的な下痢や、ほかに気になる症状がある場合は、何らかの病気が隠れているかもしれません。
下痢の原因となりうる病気を以下の表にまとめています。
| 原因 | 特徴 |
| 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病) | ・腸に慢性的な炎症が起こる ・血便や腹痛、体重減少などを伴う |
| 大腸がんや大腸ポリープ | ・便に血が混じる ・便が細くなる ・便秘と下痢を繰り返す |
| 膵臓の病気 | ・白く脂っぽい下痢便が出ることがある |
| 薬の副作用 | ・服用している薬が原因で下痢が起こる |
上記のような症状がある場合は、早めに専門家による適切な診断と治療を受けることが大切です。自己判断で放置せずに、気になる症状があれば医療機関で受診しましょう。
下痢になったときの自宅での対処法
下痢になった原因が食べ過ぎや体の冷えなど一時的なものであれば、慌てる必要はありません。多くの場合、以下の3つのような対処法で症状を和らげられます。
①水分補給と食事内容の改善
②整腸剤・市販薬の使用
③ストレスや睡眠不足の改善
①水分補給と食事内容の改善
下痢になったときの自宅での対処法の一つが、水分補給と食事内容の改善です。
下痢のときに警戒すべきことは脱水症状です。体外に排出される便には、食べ物の残りカスだけでなく、大量の水分と電解質(ナトリウムやカリウムなど)が含まれています。
電解質は、体の機能を正常に保つために不可欠なミネラルです。電解質が失われると、脱水が進み、めまいや倦怠感、頭痛などを引き起こす可能性があるため、こまめな水分補給が重要です。
水分補給には、失われた電解質も効率よく補える経口補水液やスポーツドリンクが適しています。一度にたくさん飲むと、かえって腸を刺激してしまうため、コップ半分〜1杯程度を数回に分けて、ゆっくりと飲むように心がけてください。
ただし、症状が落ち着くまでは食事に気をつけ、胃腸をしっかりと休ませましょう。
消化の良い食べ物とさけたほうが良い食べ物・飲み物を以下の表にまとめました。
| 項目 | 具体例 |
| 消化の良い食べ物 | ・主食:おかゆ、よく煮込んだうどん、食パンなど ・たんぱく質:バナナ、すりおろしたりんごなど ・果物:豆腐、卵、鶏のささみ、白身魚など |
| 避けたほうが良い食べ物・飲み物 | ・脂質の多い食事:揚げ物、ラーメン、脂肪の多い肉類、生クリームなど ・刺激の強いもの:香辛料、香味野菜(にんにくなど) ・食物繊維の多いもの:ごぼう、きのこ類、海藻類など ・乳製品:牛乳、チーズ、ヨーグルトなど ・その他:アルコール飲料、コーヒーなどのカフェイン、炭酸飲料 |
下痢をしているからといって、無理に食べる必要はありません。食欲がなければ、まずは水分補給を優先しましょう。食事がとれる状態になったら、消化が良く胃腸に負担をかけない食べ物から少しずつ再開してください。
②整腸剤・市販薬の使用
自宅でのケアの一環として、市販薬を上手に活用することも選択の一つです。特に食べ過ぎや軽いストレスなどが原因の下痢であれば、腸内環境を整える薬が役立ちます。
下痢の際に使う薬は主に整腸剤と止瀉薬(ししゃやく)の2種類に分けられます。
| 種類 | 効果 |
| 整腸剤 | 乱れてしまった腸内細菌のバランスを整える |
| 止瀉薬(下痢止め) | 下痢の症状を強制的に止める |
ウイルスや細菌による感染が原因の場合、下痢は体内の有害な物質を外に排出しようとするための重要な防御反応です。安易に止瀉薬を使ってしまうと、病原体が腸内にとどまり、かえって症状を悪化させたり、回復を遅らせたりする危険性があります。
38度以上の発熱があったり、吐き気・嘔吐・激しい腹痛を伴ったり、便に血が混じったりするときは、止瀉薬の使用を避けてください。症状がある場合は、自己判断で市販薬を使用せず、すみやかに医療機関を受診することが大切です。
③ストレスや睡眠不足の改善
消化不良で下痢になったときは、ストレスや睡眠不足を改善しましょう。強いストレスや慢性的な睡眠不足は、体の活動と休息をコントロールする自律神経のバランスを乱す大きな原因です。
自律神経のバランスが崩れると、腸が便を送り出す「ぜん動運動」が過剰になります。ぜん動運動が活発になることで、水分が十分に吸収されないまま排出されてしまうため、下痢を引き起こしやすくなります。
下痢の原因に特別な心当たりがない場合や、ストレスを感じるとお腹の調子が悪くなる傾向がある方は、まず心と体をゆっくりと休ませることを意識しましょう。
自律神経を整えるためには、十分な睡眠をとり、自分なりにリラックスできる時間を確保することが大切です。食事や薬による直接的な対処だけでなく、日々の生活で感じる疲れやストレスを上手に解消していくことが、つらい下痢の改善と再発予防に欠かせません。
下痢で病院を受診すべきタイミング
ほとんどの下痢は数日で自然に良くなりますが、なかには注意が必要なサインが隠れていることもあります。ただの下痢と安易に自己判断せず、すみやかに医療機関を受診しましょう。
すぐに受診を検討すべき危険なサインは以下の7つです。
- 2〜3日以上、下痢が続いている
- 経験したことのないような激しい腹痛がある
- 便に血が混じっている(鮮血、黒っぽい便)
- 38度以上の高熱を伴う
- 吐き気や嘔吐がひどく、水分を全く摂れない
- 理由なく体重が減ってきた
- 新しく飲み始めた薬がある
血便がある場合は肛門近くから、黒い便は胃などからの出血が考えられます。脱水症状は急速に進行することがあり、口の渇きや尿量の減少は危険なサインです。
これらのサインが見られる場合やご自身で判断に迷うときは、ためらわずに内科や消化器内科を受診しましょう。特にご高齢の方やお子さま、持病をお持ちの方は症状が悪化しやすいため、早めに相談してください。
下痢が続くときの病院での検査・治療法
自宅でのケアを続けても下痢が改善しない場合、病院で診断を受けることが大切です。
ここでは、病院で行われる具体的な検査や治療の流れについて、安心して受診できるよう詳しく解説します。
検査内容
下痢の原因は多岐にわたるため、症状や経過に応じていくつかの検査を組み合わせて診断します。主な検査方法は、以下のとおりです。
| 検査 | 特徴 |
| 便検査 | 食中毒の原因となる細菌や、ウイルスが便の中にいないか調べる |
| 便潜血検査 | 炎症などによる出血の有無を調べる |
| 血液検査 | 体全体の健康状態を調べる |
| 腹部超音波(エコー)検査 | 腸の動きや壁の厚み、腸の周りに炎症がないかなどを観察する |
| 腹部X線(レントゲン)検査 | 腸の中を画像診断する |
血便がある、2週間以上下痢が続いている、原因不明の体重減少があるといった場合に行うのが内視鏡検査(大腸カメラ)です。
内視鏡検査では、お尻から細いカメラを挿入し、大腸の粘膜を直接すみずみまで観察します。炎症やポリープ、がんなどの病変を直接見つけられ、必要に応じて組織の一部を採取(生検)して、病理検査で確定診断につなげます。
治療法
検査で下痢の原因が特定できれば、下痢を起こしている原因を除去するために、必要に応じて薬物療法が行われます。
薬物療法は、以下のように原因に応じて使い分けられます。
| 下痢の原因 | 使用する薬 |
| 感染性の腸炎 | ・細菌感染の場合、抗生物質を使用することがある ・ウイルス性の場合、調整剤を使用 |
| 過敏性腸症候群(IBS)など | ・腸の異常な動きを正常に近づける薬 ・便の水分量を調整して硬さを整える薬 |
| 他の薬の副作用 | ・整腸剤を併用 |
薬による治療と並行して、食事内容の見直しやストレス管理などの生活習慣の改善も重要です。最近の研究では、鍼治療などが消化不良や下痢といった症状を改善し、生活の質(QOL)の向上に役立つ可能性があることも示唆されています。(※1)
下痢の治療の選択肢は一つではありません。どのような治療がご自身の状態やライフスタイルに合っているか、医師とよく相談しながら一緒に最適な方法を見つけていきましょう。
下痢にならないための予防法
今日から実践できる下痢の予防法は以下の3つです。
①食事内容に気をつける
②規則正しい生活をおくる
③リラックスできる時間を確保する
①食事内容に気をつける
下痢を防ぐための食事の基本は、胃腸に余計な負担をかけないことです。特に、消化に時間がかかる脂っこい食事や、腸を直接刺激する香辛料の多い料理、アルコールの飲み過ぎは、消化機能の乱れに直結します。
腸内環境を整える食べ物と効果を表にまとめました。
| 種類 | 食べ物 | 効果 |
| 発酵食品 | ヨーグルト、納豆、味噌、キムチ | 善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌)は腸内環境を整える |
| 食物繊維 | 野菜、きのこ、海藻、玄米 | 善玉菌の働きを活発化させる |
| オリゴ糖 | バナナ、玉ねぎ | 善玉菌の働きを活発化させる |
十分な水分補給を便の硬さを適切に保つためには、こまめな水分補給が大切です。一度にがぶ飲みするのではなく、1日を通して少しずつ飲むと良いでしょう。
食事を摂る際は、満腹まで食べるのではなく腹八分目を意識してください。一口ごとにしっかりとよく噛み、ゆっくり食べることも大切です。
ご自身の食生活を一度振り返り、腸に優しい食材を一つでも多く取り入れることから始めてみましょう。
②規則正しい生活をおくる
規則正しい生活をおくることも、下痢を予防するための方法です。
私たちの体には、約24時間周期の体内時計が備わっており、体内時計を整えることが、心身の調子を安定させるポイントです。腸の働きも体内時計と密接に関係しています。
下痢になりにくい生活習慣をおくるために、以下の3つのポイントを意識しましょう。
- 毎朝決まった時間に朝食を摂る
- 朝食後にゆっくりトイレに入る時間をつくる
- できるだけ毎日同じ時間に寝て、起きる
夜更かしや夜遅くの食事は、本来休むべき時間帯に胃腸を働かせることになり、消化器官を疲れさせてしまいます。
食事や睡眠の時間が不規則になると、体の活動と休息をコントロールしている自律神経のバランスが乱れやすくなります。その結果、腸のぜん動運動が過剰になったり、逆に鈍くなったりして、下痢や便秘を引き起こしてしまうので注意しましょう。
③リラックスできる時間を確保する
下痢を予防するためには、リラックスできる時間を確保することが大切です。
私たちの脳と腸は自律神経を通じて密接につながっています。強いストレスや慢性的な緊張状態が続くと、自律神経のバランスが崩れ、腸が異常な動きをして下痢につながることがあります。そのため、日頃の上手なストレス解消がお腹の健康を守るうえで欠かせません。
代表的なリラックス方法は、以下のとおりです。
- ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる
- 軽い運動を取り入れる
- 自分のための時間を作る
- 深呼吸を意識する
忙しい毎日のなかでも、意識的に心と体を休ませる時間を作ることが大切です。
セルフケアだけで改善が難しい場合には、専門的なアプローチも検討してください。ご自身に合った方法で心身のバランスを整えることが、健やかな腸を保ち、つらい下痢の予防につながります。
まとめ
食べ過ぎやストレス、体の冷えなど、下痢の原因はさまざまですが、多くはご自宅でのケアで改善が期待できます。まずは胃腸をしっかり休ませ、水分補給と消化に良い食事を心がけましょう。生活習慣を見直すことも、つらい症状の予防につながります。
しかし、「2週間以上続く」「血が混じる」「激しい腹痛がある」といった症状は、別の病気が隠れているサインかもしれません。たかが下痢と軽く考えず、少しでも不安を感じたら、ためらわずに消化器内科などの専門医に相談してください。
参考文献
Guo J, Xing X, Wu J, Zhang H, Yun Y, Qin Z, He Q.Acupuncture for Adults with Diarrhea-Predominant Irritable Bowel Syndrome or Functional Diarrhea: A Systematic Review and Meta-Analysis.Neural Plasticity,2020,2020,8892184.
