みぞおちの痛みが続くと「悪い病気かも」「病院に行くべきかな」と、不安になりますよね。みぞおちの痛みは、食べ過ぎや飲み過ぎだけでなく、ストレスや胃の炎症が原因かもしれません。心臓などの命に関わる病気が隠れている危険なサインの可能性もあります。
この記事では、みぞおちの痛みの原因や対処法、病院へ行くべき危険なサインまで詳しく解説します。痛みの原因を正しく理解し、知識を身につけましょう。
みぞおちが痛む主な6つの原因
みぞおちの痛みは、不快感から冷や汗をかくほどの激痛まで、さまざまな形で現れます。痛みの主な原因は以下の6つです。
①ストレスによる自律神経の乱れ
②食生活の乱れによる胃酸分泌の異常
③胃炎・胃潰瘍などの胃粘膜障害
④機能性ディスペプシア(FD)
⑤食中毒
⑥胃以外の臓器が原因となる病気
①ストレスによる自律神経の乱れ
みぞおちが痛む主な原因の一つが、ストレスによる自律神経の乱れです。
仕事のプレッシャーや人間関係の悩みなど、精神的なストレスは自律神経のバランスを乱します。その結果、胃酸が過剰に分泌されたり、胃の粘膜を守る粘液が減少したりし、胃の粘膜が傷ついて痛みを引き起こします。
みぞおちの痛みと同時に以下の症状が現れる場合は、ストレスが関係しているかもしれません。
- 動悸や息切れ
- めまいや立ちくらみ
- 頭痛
- なかなか寝付けない
- 寝ても疲れが取れない
ストレスが溜まっていると感じたら、リラックスできる時間を確保することが大切です。
②食生活の乱れによる胃酸分泌の異常
胃は食べ物を消化するために強力な胃酸を出しますが、特定の食事は胃に負担をかけてしまいます。
胃に負担がかかる食習慣は以下のとおりです。
- 早食い
- 暴飲暴食
- 脂っこい食事
- 刺激の強い味付け
- カフェインの過剰摂取
- お酒を飲む機会が多い、飲む量が多い
- 夕食の時間が遅い
- 食べてすぐ横になる
これらの習慣は、胃酸の分泌を過剰にしたり、胃の粘膜を傷つけたりすることがあります。特に夜遅い時間の食事は、寝ている間に胃酸が食道へ逆流しやすく、痛みにつながりやすいでしょう。
③胃炎・胃潰瘍などの炎症性疾患
みぞおちの痛みは、胃の粘膜に炎症や潰瘍ができている危険なサインの可能性があります。炎症や潰瘍に伴う代表的な病気を、以下の表にまとめました。
| 病名 | 原因 | 症状 |
| 急性胃炎 | ・暴飲暴食や過度の飲酒 ・ストレス ・痛み止めの服用 | ・突然のみぞおちの痛み ・吐き気 |
| 慢性胃炎 | 主にヘリコバクター・ピロリ菌の感染 | ・胃もたれ ・鈍い痛み |
| 胃潰瘍・十二指腸潰瘍 | ・ピロリ菌の感染 ・痛み止めの服用 | ・胃潰瘍:食後に痛みが強くなる ・十二指腸潰瘍:空腹時や夜間に痛みが強くなる |
これらの病気が進行すると、粘膜から出血し、吐血や便が黒くなるなどの症状が現れることがあります。出血は緊急事態のサインであり、医療機関での受診が必要です。
④機能性ディスペプシア(FD)
機能性ディスペプシア(FD)も、みぞおちの痛みの原因です。胃炎や潰瘍などの目に見える所見がないにもかかわらず、みぞおちの痛みや胃もたれが慢性的に続く病気です。
ある調査では、上腹部の症状を訴えて病院に受診した人の45〜53%にFDが見つかったといわれています。(※1)
FDは多岐にわたる発症要因が絡み合うことで症状が出現する、複雑な疾患であると考えられています。主な発症要因は以下のとおりです。
| 主な要因 | 内容 |
| 胃の運動機能の異常 | ・食後に胃が十分に膨らまない ・食べ物を十二指腸へ送り出す動きが鈍くなる |
| 胃酸の分泌過剰 | 胃酸が胃や十二指腸の粘膜を刺激し、運動機能や知覚に影響を与える |
| 知覚過敏 | 胃酸や食べ物の刺激に対して、胃が通常よりも敏感に痛みを感じてしまう |
| ストレスや不安 | 脳が感じたストレスが自律神経を介して、胃の働きに直接影響を与える |
⑤食中毒
急激な痛みや吐き気を伴う場合は、食中毒によってみぞおちに痛みが発生している可能性もあります。
食中毒は細菌やウイルス、毒素に汚染された食品を食べることで起こります。主な原因はカキなどの二枚貝に多いノロウイルス、加熱不十分な鶏肉に多いカンピロバクター、サバやアジなどの魚介類に潜むアニサキスです。
生ものや加熱不足の肉・魚、卵料理、作り置きのカレーなどを食べる際は注意してください。食後数時間〜数日で、みぞおちの痛み、吐き気、嘔吐、下痢、発熱などの症状が出てきた場合、食中毒を疑いましょう。
⑥胃以外の臓器が原因となる病気
胃の周りにある臓器や、心臓の病気が原因で、みぞおちの痛みを感じることがあります。
胃以外の臓器が原因となる主な疾患について、以下の表にまとめました。
| 病名 | 特徴 | 症状 |
| 胆石症・胆嚢炎 | 胆石などで胆嚢の出口が詰まると胆汁の流れが阻害され、細菌感染を引き起こす | ・みぞおちから右の上腹部にかけての激痛 ・発熱 |
| 急性膵炎 | アルコールの飲み過ぎや胆石が原因で、膵臓に急激な炎症が起こる | ・みぞおちから背中にかけての痛み ・吐き気、嘔吐 ・発熱 |
| 心筋梗塞・狭心症 | 心臓の血管が詰まる、または狭くなり、心筋への血流が不足する | ・胸痛 ・みぞおち、肩、腕、首まで広がる痛み |
みぞおちが痛むときの対処法
みぞおちが痛むときの対処の基本は、原因を取り除いて治癒を促すことです。ここでは、痛むときの対処法として、以下の3点を解説します。
①食事内容を変更する
②市販薬を服用する
③医療機関を受診する
①食事内容を変更する
みぞおちが痛むときは、食事内容を変更することが大切です。胃に負担をかける食事を続けると、胃酸が過剰に分泌されたり、胃の粘膜が荒れたりして、痛みが悪化することがあります。そのため、胃を休ませてあげることが、回復につながります。
胃に優しい食事のポイントは以下のとおりです。
| ポイント | 内容 |
| 消化しやすいもの食べ物 | ・主食:お粥、柔らかいうどん、食パンなど ・たんぱく質:鶏ささみ、白身魚、豆腐、卵など ・野菜:大根、かぶ、キャベツなど加熱して柔らかくしたもの |
| 避けたほうが良い食べ物・飲み物 | ・脂っこいもの:揚げ物、ラーメン、脂肪の多い肉など ・刺激物:唐辛子、胡椒、ニンニク、炭酸飲料など ・カフェイン:コーヒー、緑茶、紅茶、エナジードリンク ・アルコール ・酸味の強いもの:柑橘類、酢の物 |
| 食事摂取の工夫 | ・一度に沢山食べず、少量ずつ数回に分けて食べる ・よく噛んでゆっくり食べる ・就寝の3時間前までに食事を済ませる |
避けたほうが良い食べ物をよく食べている方は、消化しやすいものに切り替えましょう。
②市販薬を服用する
食べ過ぎや飲み過ぎが原因で一時的にみぞおちが痛む場合は、市販の胃薬で症状が和らぐことがあります。薬局やドラッグストアでは、さまざまな種類の胃薬が販売されているので、ご自身の症状に合ったものを選びましょう。
市販薬の主な種類は、以下の表を確認してください。
| 薬の種類 | 効果 |
| 胃酸の分泌を抑える薬 | ・出過ぎた胃酸を抑え、胃の痛みを和らげる ・キリキリする痛みや胸やけに効果が期待できる |
| 胃酸を中和する薬 | 胃酸の酸性度を直接和らげることで、すみやかに痛みを鎮める |
| 胃の粘膜を保護・修復する薬 | 荒れてしまった胃の粘膜に膜を張ったり、修復を促したりして胃を守る |
| 消化を助ける薬 | 胃もたれや食べ過ぎによる不快感を改善する |
市販薬は、あくまで一時的な症状緩和のための対症療法です。根本的な原因は治療できないことを理解しましょう。数日服用しても症状が改善しなかったり、出血を疑うサインがあったりする場合は、すぐに医療機関を受診してください。
③医療機関を受診する
みぞおちの痛みが続き、吐き気や発熱などの症状があるときは、迷わず医療機関を受診することが大切です。医師による正確な診断が、適切な治療と安心につながります。
すぐに受診すべき危険な症状は、以下のとおりです。
- 冷や汗が出る、顔色が悪い
- 息苦しさや胸が締め付けられるような痛みがある
- 痛みが背中や肩にも広がる(放散痛)
- 黒い便(タール便)が出た、血を吐いた
- 意識が遠のくような感じがする
- 突然、バットで殴られたような激しい痛みが起きた
- 高熱を伴う
症状が一つでも当てはまる場合は、夜間や休日でもためらわずに救急外来を受診するか、救急車を呼ぶことを検討してください。
みぞおちの痛みの検査方法
みぞおちの痛みの原因は多岐にわたるため、原因を正確に判断するためにいくつかの検査を組み合わせて行います。代表的な検査には以下のような種類があります。
| 検査の種類 | 検査の目的 |
| 血液検査 | 体内の炎症反応の有無、貧血、肝臓や膵臓など胃以外の臓器の異常を確認する |
| 腹部エコー検査 | 超音波で胆石や胆のう炎、膵炎など胃の周辺にある臓器の状態を画像で確認する |
| 胃カメラ | 食道・胃・十二指腸の粘膜を直接観察し、胃炎、逆流性食道炎、胃潰瘍、胃がんなどを正確に診断する |
| CT検査 | X線で身体の断面を撮影します。エコーでは見えにくい膵臓の病気やがんの広がりを詳しく調べる |
| 心電図検査 | 痛みが狭心症や心筋梗塞といった心臓の病気から来ていないかを確認する |
特に胃カメラは、胃の粘膜の状態を直接観察できる重要な検査です。
痛みを予防するための対処法と生活習慣
みぞおちの痛みを和らげる4つの対処法は、以下のとおりです。
①規則正しい食生活を送る
②食品の鮮度や生水に注意する
③生活習慣を改善する
④ピロリ菌を除去(除菌)する
これらは一時的な痛みを和らげるだけでなく、胃を健やかな状態に保つための土台となります。無理せず、できることから始めましょう。
①規則正しい食生活を送る
みぞおちの痛みを予防する方法の一つが、規則正しい食生活です。不規則な食事は、体内時計のリズムを乱し、胃に負担をかけてしまいます。みぞおちの痛みを予防し、胃を健やかに保つためには、規則正しい食生活が基本です。
食事は1日3食を決まった時間に取り、夜遅くに食べて寝る習慣はやめましょう。就寝3時間前までに食事を終え、腹八分目までを意識することが大切です。
②食品の鮮度や生水に注意する
急なみぞおちの痛みに吐き気や下痢を伴う場合、細菌やウイルスによる食中毒の可能性があります。特に抵抗力が落ちているときや高温多湿の季節は注意が必要です。
食中毒予防のために、以下の3点を徹底しましょう。
- 肉や魚などの生鮮食品は購入後すぐに冷蔵・冷凍する
- 調理器具はこまめに洗浄・消毒し、食品の中心部まで十分に加熱する
- 衛生環境が異なる地域では、生水や加熱不十分な屋台の料理を避ける
③生活習慣を改善する
生活習慣の改善も、みぞおちの痛みを予防する方法の一つです。
みぞおちの痛みは、日々の生活習慣とも深く関わっています。特にストレスや睡眠不足、喫煙は、自律神経のバランスを乱し、胃の働きを低下させる原因となります。胃の不調を根本から見直すには、生活全体に目を向けることが重要です。
生活習慣の改善ポイントは以下のとおりです。
| 改善ポイント | 詳細 |
| ストレスを解消する | 趣味の時間を作る、軽い運動で汗を流すといった、自分なりのリラックス方法を見つけ、意識的に心と体を休ませる |
| 質の良い睡眠を確保する | 毎日なるべく同じ時間に寝て、同じ時間に起きる習慣をつけ、心と体をしっかり休ませる |
| 禁煙・節酒を心がける | ・喫煙は胃の血管を収縮させて血流を悪化させ、粘膜の防御機能を弱める ・アルコールの飲み過ぎは胃の粘膜を直接傷つける ・胃の健康のためには禁煙し、お酒は適量に留める |
④ピロリ菌を除去(除菌)する
みぞおちの痛みを予防するには、ピロリ菌を除菌することもおすすめです。
何度もみぞおちの痛みを繰り返す場合、ピロリ菌の感染が隠れているかもしれません。ピロリ菌は、胃の粘膜に生息する細菌で、慢性胃炎や胃潰瘍、胃がんの原因です。(※2)
ピロリ菌は、毒素をつくり出すことで胃の粘膜を傷つけます。感染が続くと胃の防御機能が弱まるため、胃酸の刺激を受けやすくなり、慢性的に炎症を引き起こします。
ピロリ菌の除去(除菌)は医療機関で可能です。胃酸の分泌を抑える薬や2種類の抗生物質を1週間服用することで、多くの場合、薬の服用で除去(除菌)が可能です。なお、ピロリ菌の除菌には医師の診断と処方が必要となります(※3)除菌に成功すると、胃の炎症が改善し、潰瘍の再発や胃がんのリスクを減らせます。(※3)
まとめ
みぞおちの痛みは、ストレスや食生活の乱れといった身近なところから、胃潰瘍やピロリ菌、心臓などの病気まで、さまざまな体のサインとして現れます。
生活習慣の見直しで改善することもありますが、自己判断での対処は危険です。痛みが続いたり、激しい痛みを感じたりした場合は、その裏に隠れた原因を突き止めることが何より大切です。気になる症状があれば一人で悩まず、消化器内科に相談しましょう。
参考文献
- 日本消化器病学会:「機能性消化器疾患診療ガイドライン2021 機能性ディスペプシア(FD) 改訂第2版」.
- Malfertheiner P, Camargo MC, El-Omar E, Liou JM, Peek R, Schulz C, Smith SI, Suerbaum S.Helicobacter pylori infection.Nat Rev Dis Primers,2023,9(1),p.19.
- 日本消化器病学会:「消化性潰瘍診療ガイドライン2020 改訂第3版」.