「バリウムと胃カメラ、どちらにしますか」と健康診断で聞かれ、なんとなく費用が安く、楽そうなイメージでバリウム検査を選んでいませんか。
一部の医師から「意味がない」と指摘されるバリウム検査は、診断精度が約70~80%といわれています。(※1)異常が見つかっても、確定診断のために胃カメラが必要になるケースも少なくありません。
この記事では、バリウム検査が意味がないといわれる理由や、胃カメラとの違いを解説します。ご自身の健康を守るため、それぞれの検査の正しい選び方を身につけましょう。
バリウム検査が意味ないといわれる理由
バリウム検査は、以下の5つのデメリットから意味がないといわれています。
①放射線被ばくリスク
②早期がん発見精度の低さ
③確定診断ができない
④身体的負担
⑤副作用の便秘や腹痛
①放射線被ばくリスク
バリウム検査は、X線を使って胃の形を撮影するため、放射線被ばくが伴います。検査で浴びる放射線量が、直ちに健康へ深刻な影響を及ぼすわけではありませんが、ほかのレントゲン検査と比べて多い傾向です。
胸部レントゲン検査とバリウム検査の被ばく量は、以下のとおりです。(※2)
| 検査の種類 | 平均的な実効線量(mSv) |
| 胸部レントゲン検査 | 約0.1mSv |
| バリウム検査 | 約6mSv |
実効線量とは、放射線の種類や部位による影響の違いを考慮し、全身への被ばく量を評価した指標です。国際的な基準では、一般の方が受ける放射線量は年間1mSv以下に抑えることが推奨されています。(※3)
②早期がん発見精度の低さ
早期がん発見精度の低さも、バリウム検査が意味ないといわれる理由です。
バリウム検査は、進行して大きくなったがんを見つけやすいですが、ごく初期の小さながんや、平坦なタイプのがんの発見は困難です。これはバリウム検査が、胃の粘膜に付着したバリウムの影を見て、凹凸の異常を探すためです。
胃液が多い病変も、バリウムの粘膜への付着を胃液が邪魔するので、発見しにくいでしょう。
がん診断精度は約70~80%といわれています。(※1)近年の研究では、バリウム検査の診断の質は、検査を行う放射線科医の技術や経験に左右されるという課題も指摘されています。(※4)
③確定診断ができない
バリウム検査の結果で、胃がんの診断が確定するわけではない点も意味がないといわれる理由です。
バリウム検査は、あくまで病気の疑いがある人を見つけ出すためのスクリーニング(ふるい分け)検査です。検査で異常な影が見つかり、「要精密検査」と結果が出れば、確定診断のための別の検査が必要となります。
バリウム検査後の流れは下記のとおりです。
- 検査で異常な影が見つかり、胃がん・ポリープの疑いと判定される
- 精密検査として胃カメラ検査を受ける
- 胃カメラで疑わしい部分の組織を少量採取する
- 採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞の有無を判断する
胃カメラ検査であれば、一度で観察から組織採取まで行える可能性があるため、最初から胃カメラ検査で良いという意見もあります。
④身体的負担
バリウム検査は、胃カメラとは別の身体的負担がかかるデメリットがあり、検査を嫌う方もいます。
検査中の主な身体的負担を、以下の表にまとめました。
| 対応 | 特徴 |
| 発泡剤の服用 | 胃を炭酸ガスで膨らませるため、ゲップを我慢しながら粉薬を飲む |
| バリウムを飲む | ドロドロとした美味しいとはいえない液体を、コップ1杯程度(約150~200ml)飲む必要がある |
| 検査台での体位変換 | バリウムを胃の隅々に行き渡らせるため、検査台の上で何度も体の向きを変えたり、逆さまに近い角度になったりする |
バリウム検査の負担は、単に不快なだけでなく、検査の質にも影響します。例えば、ゲップを我慢できなかったり、指示通りに体を動かせなかったりすると、きれいな写真が撮れず、検査の精度が低下する原因にもなります。
⑤副作用の便秘や腹痛
検査後の副作用も、バリウム検査が敬遠される理由の一つです。検査で飲んだバリウムは体内で吸収されず、便として排出されますが、排泄の過程でトラブルが起こることがあります。
バリウム検査後の主な副作用は、便秘・腹痛・その他合併症です。バリウムに含まれる水分は腸内で吸収されるため、排泄されるまでに時間がかかってしまうと、石のように固まります。固まったバリウムが腸に詰まる腸閉塞や、腸に穴が開く消化管穿孔が起こる場合もあります。
特に、普段から便秘気味の方や、水分を十分に摂るのが難しいご高齢の方は注意が必要です。近年では、誤嚥(飲み込んだものが気管に入ること)のリスクが高い患者さんの検査では、バリウムの代替として水溶性の造影剤が検討されることもあります。(※5)
バリウム検査のメリット
バリウム検査は意味がないといわれることがある一方で、「①胃の全体像が把握できる」「②費用が抑えられる」というメリットがあります。
①胃の全体像が把握できる
バリウム検査のメリットの一つは、胃の全体像を一度で客観的に把握できることです。胃カメラが胃の内側から粘膜を詳細に観察するのに対し、バリウム検査は胃の形や動きを捉えられます。
バリウムを飲むことで、食道から胃、十二指腸までの消化管全体の輪郭や粘膜の凹凸がX線写真に写し出されます。これにより、胃カメラの細やかな観察とは異なる、マクロな視点からの重要な情報を得られます。
バリウム検査で評価しやすい主な状態は、以下のとおりです。
- 胃全体の形態
- 胃の運動機能
- 大きな病変の位置や形状
- 消化管の通過状態
バリウム検査は胃の形・動き・働きに関する貴重な情報を提供してくれます。特に、胃全体の動きやバランスを評価する点では、胃カメラ検査にはない強みがあります。
②費用が抑えられる
もう一つのバリウム検査の大きなメリットは、胃カメラ検査に比べて費用が抑えられる点です。会社の健康診断や自治体の胃がん検診でバリウム検査が広く採用されているのは、経済的な理由が大きいです。
胃カメラ検査の費用の目安が15,000〜20,000円程度であるのに対し、バリウム検査は5,000〜15,000円程度です。ただし、医療機関や検査内容によって費用は異なる点に注意してください。
お住まいの自治体が実施する胃がん検診(対策型検診)では、公的な補助があるため、さらに安い自己負担額で検査を受けられる場合もあります。
バリウム検査と胃カメラの違い
バリウム検査と胃カメラ検査の主な違いは、以下の6つです。
①がんやポリープの早期発見精度
②身体的負担
③費用
④検査内容
⑤放射線被ばくのリスク
⑥検査が受けられない方
①がんやポリープの早期発見精度
胃がんやポリープを早期に発見する精度は、バリウム検査より胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)が優れています。
胃カメラは、ごく初期の平たんながんや粘膜のわずかな色の変化、ミリ単位の小さなポリープを発見でき、診断精度が高いといわれています。観察して疑わしい病変があれば、組織を採取して確定診断が可能です。
一方、バリウム検査はある程度大きさのある隆起や凹み、胃全体の形の異常を発見できます。その場で生検ができない点は注意してください。
②身体的負担
検査で感じる身体的な負担も、バリウム検査と胃カメラで異なります。それぞれの検査方法の身体的負担は、以下のとおりです。
| 検査方法 | 主な身体的負担 |
| バリウム検査 | ・バリウムを服用する必要がある ・頭が下になるなど、普段取らない姿勢をになることがある ・検査後はバリウムを便として排出する必要があり、残ると便秘や腹痛の原因になる |
| 胃カメラ | ・口や鼻からカメラを入れる際に、嘔吐反射が起こることがある ・喉にスコープが入っている違和感や検査に対する不安を感じることがある |
ただし、胃カメラの身体的負担は、医療技術の進歩で大幅に軽減できるようになりました。鼻から挿入する細いカメラ(経鼻内視鏡)を選んだり、鎮静剤(静脈麻酔)を使ってリラックスした状態で検査を終えたりすることが可能です。
③費用
一般的に、検査費用はバリウム検査のほうが安価な傾向にあります。全額自己負担の場合、バリウム検査が約5,000〜15,000円であるのに対し、胃カメラは約15,000〜20,000円です。組織検査や鎮痛剤を使用するのであれば、さらに8,000〜13,000円の費用がかかります。
費用を考えるうえで重要なポイントは、トータルコストです。バリウム検査で異常が見つかり、胃カメラで精密検査を受けると、費用も時間も余計にかかってしまいます。
最初から胃カメラを選んだほうが、結果的に時間的・経済的な負担が少なく済む場合もあることを知っておきましょう。
④検査内容
バリウム検査と胃カメラは胃の病気の発見が目的ですが、検査内容は異なります。
バリウム検査は、X線を使って胃の形や粘膜の凹凸を影として映し出す検査です。一方、胃カメラは、先端に高性能カメラが付いた細いスコープを挿入し、食道・胃・十二指腸の粘膜を直接観察します。
バリウム検査と胃カメラの流れは下記のとおりです。
| 検査の種類 | 検査の流れ |
| バリウム検査 | 胃を膨らませる発泡剤を飲む造影剤のバリウムを飲む検査台の上で体の向きを変えながら、さまざまな角度からX線撮影 |
| 胃カメラ | 喉や鼻に麻酔をする(必要に応じて鎮静剤を注射)口または鼻からスコープを挿入医師がモニターに映し出される映像を見ながら、粘膜の状態を確認ピロリ菌の検査や、疑わしい部分の組織採取も可能 |
⑤放射線被ばくのリスク
放射線被ばくリスクは、バリウム検査にはありますが、X線を使用しない胃カメラにはありません。
バリウム検査では、胃の動きをリアルタイムで撮影するため、胸のレントゲン写真などに比べて被ばく線量が多くなります。ただし、人体にただちに影響を及ぼす量ではありません。
一方、胃カメラは放射線被ばくのリスクがなく、妊娠中や妊娠の可能性がある方でも検査を実施することができます。「不要な被ばくは可能な限り避けるべき」という観点からも、胃カメラは安心して受けられる検査です。
⑥検査が受けられない方
バリウム検査と胃カメラどちらの検査にも、安全上の理由から受けられない「禁忌」に該当する方がいます。バリウム検査・胃カメラを受けられない方は、以下のとおりです。
| 検査の種類 | 禁忌に該当する方 |
| バリウム検査 | ・妊娠中、または妊娠の可能性がある方 ・重度の便秘症、または腸閉塞の既往がある方 ・食べ物や飲み物でむせやすい(嚥下障害がある)方 ・ご自身で体の向きを変えるのが難しい方 ・バリウム製剤にアレルギーがある方 |
| 胃カメラ | ・重篤な心臓や肺の病気をお持ちの方 ・咽頭や喉頭の病気でスコープが通らない方 ・特定の薬剤(麻酔薬など)にアレルギーがある方 |
ご自身の健康状態に不安がある場合は、検査を受ける前に必ず医療機関へ相談してください。
バリウム検査よりも胃カメラがおすすめ
胃がんなどの病気を早期に発見し、確実な診断を得る目的では胃カメラ検査を推奨します。
胃カメラを推奨する理由は、次の3つです。
- がんの早期発見精度が高い
- 検査と確定診断を一度で完結できる
- 放射線被ばくがなく、検査の質が安定している
最近の胃カメラ検査は、鎮静剤を使い、眠っている間に楽に検査を終えることも可能です。バリウム検査と胃カメラどちらを受けるか迷っている方は、ぜひ一度医療機関にご相談ください。
まとめ
バリウム検査は費用が安く、胃全体の形を把握できる利点がありますが、胃がんの早期発見では、胃カメラ検査が優れています。
胃カメラは、粘膜を直接カラーで観察できるため発見精度が高く、疑わしい部分があればその場で組織を採って確定診断まで一度で完結できます。放射線被ばくの心配もありません。
バリウム検査と胃カメラどちらの検査にも長所と短所があるので、ご自身の健康状態や希望に合わせて選ぶことが大切です。もし迷ったときは、ぜひ一度医療機関に相談し、自分に合った方法で定期的な検査を受けるようにしましょう。
参考文献
- 日本対がん協会:「胃がん検診についてのよくある質問」.
- Radiological Society of North America:「Radiation Dose in X-Ray and CT Exams」.
- 環境省:「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」
- Mangi MF, Mangi MD, Lim W. “Barriers affecting the quality and consistency of barium studies in radiologists and registrars.” Abdominal radiology (New York) 50, no. 8 (2025): 3391-3394.
- Almardini MK, Alshipli M, Maniam P, Mohd Ibrahim H. “A systematic review of water-soluble contrast use in videofluoroscopic examination of dysphagia.” The
- Medical journal of Malaysia 80, no. 4 (2025): 500-507.
