目次
- 1 はじめに
- 2 Q便秘がひどいのが悩み。どういう対策を講じればいいでしょうか?
- 3 Q「ねじれ腸」とは聞きなれない言葉ですが、なぜ起こるのでしょうか?
- 4 Qなぜ「ねじれ腸」で便秘になるのですか?
- 5 Q「ねじれ腸」かどうか、簡単にチェックすることはできますか?
- 6 Q「ねじれ腸」の場合、どのようにすればいいのでしょうか?治療が必要ですか?
- 7 Qマッサージを行うベストなタイミングはありますか?
- 8 Qマッサージはどれくらい続ければいいのでしょうか?
- 9 Q食生活の改善も必要ですか?
- 10 Q「ねじれ腸」で便秘以外に、何らかの症状は出ますか?
- 11 Q「ねじれ腸」は遺伝しますか?
- 12 Q下剤を服用しているのですが……。
- 13 Q「ねじれ腸」のマッサージをしても便秘が改善しません。
- 14 Q先生の美学を教えてください。
- 15 この記事を監修した医師
はじめに
長年にわたって便秘が改善しない――。そんな悩みを持つ方も多いと思われます。そうした方は一度「ねじれ腸」を疑ってみてはいかがでしょうか?「ねじれ腸」とは、あまり聞きなれない言葉ですが、腸が複雑にねじれているために便が途中で詰まり、出にくくなっている状態のこと。この「ねじれ腸」は西洋人よりも日本人に多いそうです。
今回は、「ねじれ腸」であるかどうかのチェックポイント、「ねじれ腸」改善のためのマッサージ法、そして便秘症で下剤を使っている方へのアドバイスなどについて、国立病院機構久里浜医療センター内視鏡部長の水上健先生にお話を伺いました。
Q便秘がひどいのが悩み。どういう対策を講じればいいでしょうか?
何らかの理由で便が出てこない状態が便秘ですから、特に、40歳以上、血便がある、体重が減った、熱があるのどれかに該当するなら、大腸検査をすぐに受けた方がいいでしょう。大腸がんは特に遺伝の影響が大きいので、大腸の病気の家族がいる方は要注意で、海外では50歳で一度大腸内視鏡をしてポリープができる体質でないことを確認するのが主流です。
大腸検査では異常なしで、でも便秘や腹痛がよくならない原因で多いのは「ねじれ腸」です。その名の通り、腸が複雑にねじれているために便が途中で詰まり、出にくくなっているのです。しかし、腸の機能は正常ですから、便を外に出そうとする力が働き、腹痛が出てくるのです。
Q「ねじれ腸」とは聞きなれない言葉ですが、なぜ起こるのでしょうか?

「ねじれ腸」は、生まれつき持つ、いわば“体質”です。
解剖図では、大腸が小腸の周りをぐるりと取り囲むようになっています。私はドイツで100人以上の大腸検査をしたことがありますが、彼らの腸の形はまさに解剖図通りで、ドイツの教授も「西洋人の腸の形は解剖図通り」と話していました。一方、日本人は、私が確認した範囲で、解剖図通りの腸の形をした人は2割程度。ほとんどが複雑にねじれています。しかも、顔が親から子へと受け継がれるように、親が「ねじれ腸」で子供も、似たような「ねじれ腸」になることも多いようです。医師免許の関係があり、日本と海外の両方で内視鏡や手術ができる機会は決して多くありません。私も以前は腸の形状に注目することはありませんでしたが、日本人の腸が欧米人と違って複雑にねじれていることを目の当たりにし、便秘の原因のひとつに「ねじれ腸」があるのではないかと思うようになったのです。
Qなぜ「ねじれ腸」で便秘になるのですか?
腸がねじれて便の通り道が狭くなり、便が引っかかって詰まりやすくなるからです。
S状結腸軸捻転症という欧米ではまれな腸ねん転があります。これは通常の人とS状結腸のねじれ方向が違うため、しわ寄せがきてに腸がねじれてしまうもので、一時的な腸捻転は内視鏡でねじれを戻すことで簡単に良くなります。S状結腸軸捻転症になる方はふだんから便秘で悩んでいる方が多いです。
ある40代の患者さんは、普段から便秘で悩んでいました。胃のバリウム検査をした後に腸閉塞になって救急外来を受診してレントゲンを撮ると、横行結腸にバリウムが引っかかって詰まっていました。
横行結腸は普通はまっすぐな部分なので、ここにバリウムが引っかかるということは、がんができて腸が狭くなっている可能性があります。しかし、大腸内視鏡では、がんや炎症といった異常は見当たらない。実はその患者さんは、横行結腸が「ねじれ腸」で、そのためにバリウムが引っかかっていたのです。ねじれ部分を内視鏡で一時的に戻してバリウムを流しだすことで帰宅することができました。
Q「ねじれ腸」かどうか、簡単にチェックすることはできますか?
「子供の頃から便秘だった」「腹痛を伴う便秘がある」「便秘の後、下痢、軟便になる」「運動量が減ると、便秘になる」のうち、2つ以上の項目に該当するなら、「ねじれ腸」の可能性が非常に高いと考えられます。
ねじれ腸は生まれつきのものなので、子供の頃から便秘の症状が出やすい。また、腸がねじれている部分で便がつかえるので痛みが生じてしまいます。さらに、ねじれている部分に硬い便がたまると、腸の防御反応で水分を出して便を軟らかくしようとするので、下痢や軟便になりやすい。運動は腸を揺らしてねじれ腸便秘を解消することにつながるので、運動が減ると、「ねじれ腸」に便がひっかかって便秘になりやすいのです。
Q「ねじれ腸」の場合、どのようにすればいいのでしょうか?治療が必要ですか?
便秘の大半を占める「ねじれ腸」便秘は特に、ちょっとした工夫で驚くほど便がスルッと出るようになります。
たとえばチューブの中に物が引っ掛かったとき、揺らして物を取ろうとしませんか?「ねじれ腸」も同じように、マッサージで腸を揺らすと、ねじれが一時的にほぐれますし、ねじれている部分に引っ掛かった便が、出やすくなります。
具体的には、床へ寝そべってリラックスした姿勢をとり、お腹を指でトントンと軽く叩き、揺らすようにします。さらに、立った姿勢で上半身を左右にひねり、ねじれ部分の大腸を揺らします。寝た姿勢ではS状結腸、下行結腸を、立った姿勢では横行結腸と下行結腸のつなぎ目を、揺らすことになります。
Qマッサージを行うベストなタイミングはありますか?
起床直後と就寝前、入浴中がお勧めです。
私自身「ねじれ腸」で運動不足で便秘になったとき、マッサージをしたらたくさんの便が出て、体重が2キロ減ったことがありました。患者さんからも同様の感想をいただいています。
Qマッサージはどれくらい続ければいいのでしょうか?
ねじれ腸は体質的なものなので、定期的に行ったほうがいいでしょう。最初は毎日のように、便がうまく出るようになったら、次第に頻度を減らすなどして、様子を見るといいと思います。
「ねじれ腸」でも便秘とは無縁の人がいます。そういう人の共通点は、習慣的に運動をしていること。マッサージに加えて、運動をするといいですよ。ウオーキングやジョギングでは腸が揺れにくいので、テニスやゴルフのような体をひねる運動を。手頃なところでは、ラジオ体操も効果的です。
Q食生活の改善も必要ですか?

便秘に限らず、生活習慣病予防のためにも、バランスよく、規則正しい食生活を送ることは必要です。ただ、「食物繊維を大量にとらなくては」といった、極端なことをすると逆効果になることがあります。外食が多いなど偏りがなければ普通の食生活で十分です。
Q「ねじれ腸」で便秘以外に、何らかの症状は出ますか?
患者さんの中には、『ねじれ腸』のマッサージで便秘が改善したら、胃痛も治まった」とおっしゃる人がいます。
横行結腸と下行結腸のつなぎ目はねじれやすい部分の一つなのですが、ここに便がたまって腸が張ると、左上腹部に痛みを感じます。ここが胃の位置とほぼ同じですので、腸の症状を胃の症状と勘違いしてしまうことが結構あるのです。
ただし、胃の症状がある場合は、潰瘍やがんの可能性も考えて、そちらの検査で異常なしかどうかを確認することが大前提になります。
Q「ねじれ腸」は遺伝しますか?
Q2で述べましたが、顔が親と子で似るように、腸の形状も似ています。お父さんやお母さんがひどい便秘で「ねじれ腸」が判明し、その後の会話で「子供も便秘がひどくて」という言葉が出てくることはよくあります。調べてみると、お子さんもねじれ腸。だから私の便秘外来には、「親子そろって通院」というケースが珍しくない。
何十年と悩んでいた便秘が「ねじれ腸」のマッサージで改善し、70代、80代の高齢の親御さんを連れていらっしゃる患者さんもいますよ。調べてみると、親御さんもやはり「ねじれ腸」です。
Q下剤を服用しているのですが……。
下剤は急性の便秘に対して使うもの。週3回排便があれば定義上は便秘でありません。慢性の便秘に毎日使っていると、腸が疲弊して機能が落ち、自力での排便が難しくなります。
下剤を長く使っていた患者さんの場合、元はねじれ腸による便秘でも、マッサージだけではなかなかよくなりません。いきなり下剤をやめるとひどい便秘になることがあるので、下剤の使用は2、3日に1回に抑えて腸の回復を待ち、マッサージや運動で自力で排便できるように指導していきます。旅行や季節の変わり際、生理の前などの急性便秘で下剤を使用する場合は、便秘が良くなった後も飲み続けないようにしてください。
Q「ねじれ腸」のマッサージをしても便秘が改善しません。
そういった患者さんでは、便秘の原因の主体が「ねじれ腸」ではありません。「下剤を長期に服用している」「便意を我慢して感じにくくなっている」「便がないのに排便しようとしている」のどれかが考えられます(大腸内視鏡で異常がない場合)。
便秘は定義上1週間に3回出ればよいこととされています。排便は毎日出る人もいれば、2週間に1回で問題ない人もいます。数日出ないからと、すぐに便秘だと考えるのは、間違いです。
Q先生の美学を教えてください。
私が「ねじれ腸」に関心を持つきっかけになったのは、大腸内視鏡の検査方法である「浸水法」を開発したことにあります。私が開発した「浸水法」では内視鏡が入りにくい方でも麻酔を使わなくても痛みをほとんど感じることなく検査をすることができます。「浸水法」の開発過程で大腸内視鏡がなぜ難しいのか?難しいには原因があるわけですから、それを一つ一つ解決していきました。
そしてそれが「ねじれ腸便秘」の解決方法だったのです。