「パーキンソン病と統合失調症って、どう違うのかよく分からなくて不安」と感じる方も少なくありません。病名だけでは無関係に思えるパーキンソン病と統合失調症ですが、脳の神経伝達物質であるドーパミンが関わる共通点があります。
パーキンソン病はドーパミンの不足、統合失調症がドーパミンの過剰によって引き起こされるという、正反対のメカニズムに基づいています。発症しやすい年代も、50代以降のパーキンソン病に対し、統合失調症は10〜30代が中心と大きく異なります。
この記事では、症状の現れ方や原因、治療法について二つの病気の違いを詳しく解説します。ご自身や大切な方の不安を解消するためにも正しい知識を身につけましょう。
目次
パーキンソン病とは?
パーキンソン病は、体をスムーズに動かす機能が衰えていく病気です。脳の神経細胞が少しずつ減っていく神経変性疾患に分類され、50〜65歳ごろに発症することが多い傾向があります。
脳の中脳黒質(ちゅうのうこくしつ)という部分には、神経伝達物質のドーパミンを作る細胞があります。ドーパミンは、体の動きを滑らかに調整するための指令を伝える役割を担っています。パーキンソン病では、ドーパミンを作る神経細胞が壊れてしまい、ドーパミンが不足することで、運動に関するさまざまな症状が現れます。
パーキンソン病の主な症状には、以下のようなものがあります。
- 安静時のふるえ(安静時振戦)
- 筋肉のこわばり(筋強剛)
- 動きがゆっくりになる(無動・寡動)
「バランスがとりにくい(姿勢反射障害)」、「神経細胞が減る」といった症状の原因はまだ完全にはわかっていません。最近の研究では、神経細胞内の情報伝達を担うカルシウムの働きに異常が生じている可能性も指摘されています。(※1)
統合失調症とは?
統合失調症は、考えや気持ち、行動をまとめる脳の機能が不調になる病気です。10代後半〜30代の思春期〜青年期にかけて発症しやすい傾向があります。
原因はまだ完全には解明されていませんが、ドーパミンの機能が過剰になることなどが関係していると考えられています。統合失調症では、脳の部位によってドーパミンの働きに過不足が生じ、思考や感情に関わる脳の回路でドーパミンが過剰に働くことが、幻覚や妄想などの陽性症状と関係すると考えられています。
統合失調症の主な症状は、陽性症状と陰性症状の大きく分けて2つのタイプがあります。
陽性症状は、本来はないはずの感覚や考えが、現実かのように現れる症状です。誰もいないのに悪口や命令する声が聞こえる「幻聴」や誰かに狙われているなど事実とは違うことを信じ込む「妄想」などの症状が現れます。
陰性症状は、本来あるはずの意欲や感情表現が失われてしまう症状です。何事にもやる気が起きず、身の回りのことにも関心がなくなったり、表情が乏しくなり喜怒哀楽の動きが少なくなったりします。
パーキンソン病と統合失調症は併発する?
パーキンソン病と統合失調症は原因や治療法が異なる別の病気ですが、まれに両方の病気を持つ方がいることも事実です。
二つの病気には、ドーパミンの働きが深く関わる共通点があります。臨床現場では、病気の併発よりも、お薬の影響による症状に遭遇することのほうが多いです。統合失調症の治療では、ドーパミンの過剰な働きを抑えるお薬(抗精神病薬)を使います。
作用が強く出すぎると、パーキンソン病のように手足がふるえたり、筋肉がこわばったりします。薬剤性パーキンソニズムと呼ばれ、病気の併発とは区別されます。
最近の研究では、腸内環境と脳の健康を結びつける脳腸相関という考え方からも、両者の関連性が注目されています。ドーパミンやお薬の影響に加え、腸内環境などの要因も複雑に関係している可能性があり、今後の研究が期待されます。(※2)
パーキンソン病と統合失調症の医学的な違い4つ
パーキンソン病と統合失調症はどちらもドーパミンが関係しますが、関わり方は大きく異なり、病気の本質も違います。
ここでは、2つの病気の違いを4つの医学的視点から解説します。
①分類の違い
②原因の違い
③発症しやすい年代・性別の傾向
④関連する脳部位と障害のメカニズム
①分類の違い
パーキンソン病と統合失調症は、医学的な分類が異なります。パーキンソン病は神経変性疾患に分類され、統合失調症は精神疾患に分類されます。
神経変性疾患と精神疾患の特徴は以下のとおりです。
| 病気の分類 | 内容 | 代表的な病気 |
| 神経変性疾患 | 脳や脊髄の神経細胞が壊れていく病気 | ・パーキンソン病 ・アルツハイマー病 |
| 精神疾患 | 心の働きや機能のバランスが崩れる病気 | ・統合失調症 ・うつ病 |
神経細胞そのものが壊れるのか、機能のバランスが崩れるのかという点に、両者の大きな違いがあるのです。
パーキンソン病は、神経細胞が失われるため、機能の回復が難しいとされます。特に運動を調整する神経細胞が失われます。
統合失調症は、主に脳の働き(機能)のバランスが崩れる病気と考えられています。お薬などでそのバランスを整えることで、多くの方で症状の改善が期待できますが、病気の経過は人それぞれであり、再発予防や生活支援も含めた長期的なケアが大切です。お薬などでバランスを整えれば症状の改善が期待できます。
②原因の違い
パーキンソン病の原因は、脳の黒質にあります。ドーパミンを作る神経細胞が壊れ、ドーパミンが不足して症状が出現します。
統合失調症の原因は、思考や感情に関わる脳の領域でドーパミンが過剰に働き、幻覚や妄想などの陽性症状を引き起こすと考えられます。
最近の研究では、パーキンソン病や統合失調症を含む多くの神経疾患で、細胞内の情報伝達に関わるカルシウムの働きに異常がみられる可能性が報告されています。こうした発見が将来の治療法開発につながることが期待されていますが、まだ研究段階です。(※1)
③発症しやすい年代・性別の傾向
パーキンソン病と統合失調症は、以下のように発症しやすい人の傾向にも違いがあります。
| パーキンソン病 | 統合失調症 | |
| 発症しやすい年代 | 50代以降の中高年 | 10代後半~30代の若年層 |
| 性別の傾向 | やや女性に多い傾向 | やや男性に多い傾向 |
複数の神経疾患を横断した研究では、感情のコントロールと性別との関連も報告されています。女性であることが、感情のコントロールが難しくなることと関連する要因の一つとして挙げられています。
こうした性差が、病気の発症しやすさにも影響を与えている可能性も考えられています。(※3)
④関連する脳部位と障害のメカニズム
パーキンソン病と統合失調症では、障害が起きる脳の場所やメカニズムが異なります。
パーキンソン病で主に障害されるのは、脳の深い部分にある中脳の黒質です。黒質はドーパミンを作り、運動の司令塔である線条体へ送っています。パーキンソン病では黒質の神経細胞が壊れ、線条体への指令がうまく伝わりません。結果、運動機能に強いブレーキがかかったような状態になります。
統合失調症では、より広範囲な脳のネットワーク機能に問題が生じます。思考や判断を司る大脳皮質(特に前頭葉)や、記憶や情動に関わる辺縁系などが関係します。これらの領域でのドーパミンのアンバランスが、現実を正しく認識する能力を歪めてしまうのです。
パーキンソン病が主に運動の回路の問題であるのに対し、統合失調症は思考や感情の回路の問題であるという違いがあります。
パーキンソン病と統合失調症の症状の違い
パーキンソン病は主に体の動き、統合失調症は心の働きに症状が現れます。ここでは、運動症状・精神症状の違いについてそれぞれ見ていきましょう。
運動症状の違い
運動に関する症状は、パーキンソン病の代表的な特徴です。一方、統合失調症で運動の異常が主症状となることは少ない傾向にあります。
パーキンソン病と統合失調症の運動症状の違いは以下のとおりです。
| パーキンソン病 | 統合失調症 | |
| 主な症状 | ・意図しない体のふるえ ・筋肉のこわばり ・動きの遅さ、転びやすさ | ・意欲低下による活動性の減少 ・表情の乏しさ ・緊張病症状(まれ) |
| 症状の原因 | 脳の運動指令システムの不調 | 主に心の状態が体の動きに影響している |
パーキンソン病と統合失調症では、脳からの運動の司令がうまく伝わらないのか、心の状態が体の動きに影響として現れるのかという点で大きな違いがあります。
精神症状の違い
精神症状は統合失調症の中心ですが、パーキンソン病でも現れることがあります。特に、見える幻覚(幻視)と聞こえる幻覚(幻聴)の違いは、両者を見分けるうえで重要な手がかりとなります。
パーキンソン病と統合失調症の精神症状の違いは以下のとおりです。
| パーキンソン病 | 統合失調症 | |
| 主な症状 | ・ないものが見える幻視 ・妄想(被害妄想) ・うつ症状 | ・幻聴や妄想などの陽性症状 ・意欲の低下や感情の平板化などの陰性症状 |
| 症状の原因 | 病気の進行や治療薬の影響 | 現実を正しく認識する機能の不調 |
単に症状の有無だけでなく、病気がご本人の生活に与える影響を多角的に把握し、適切なサポートにつなげることが重要です。
パーキンソン病と統合失調症の診断・治療・公的支援の違い
パーキンソン病と統合失調症は、原因や症状が全く異なる病気です。そのため、診断の進め方や治療方針、利用できる公的な支援制度も違います。どのような治療を受け、どんなサポートがあるのか以下の項目に沿って解説します。
①診断方法
②治療の違い
③医療費助成制度の違い
①診断方法
パーキンソン病の診断は、主に内科(脳神経内科)が担当します。問診で症状の経過を詳しく聞き、診察で特徴的な運動症状を確認します。手足の震えや筋肉のこわばりなどを、医師が直接触れて確かめるのです。診断を確実にするために、脳の画像検査を行うこともあります。ドーパミントランスポーターの密度を画像化することで、ドーパミン神経の変性の程度を評価できるDATスキャンなどの検査を、必要に応じて行うことがあります。
統合失調症の診断は、精神科医による丁寧な問診が中心です。幻覚や妄想などのご本人にしかわからない体験について、時間をかけて聞き取ります。国際的な診断基準(DSM-5など)に沿って診断します。脳のCTやMRIを撮ることもありますが、統合失調症そのものを診断するためではありません。脳腫瘍など、ほかの病気の可能性がないかを確認する目的で行われます。
②治療の違い
パーキンソン病の治療では、脳内で不足しているドーパミンを補うことが基本です。治療の中心となるのは、脳内でドーパミンに変わるL-ドパ製剤です。ほかにもドーパミンの働きを助けるさまざまなお薬を、症状に合わせて組み合わせます。
薬物療法と並行して、リハビリテーションも重要です。体を動かすことで筋肉のこわばりを和らげ、動きやすい状態を維持します。
統合失調症の治療では、ドーパミンの過剰な働きを抑えることが基本です。抗精神病薬を使い、ドーパミンの働きを適切なレベルに調整します。幻覚や妄想などの苦しい症状を和らげることが可能です。お薬と同時に、精神療法や心理社会的療法を組み合わせることも大切です。ご自身の考え方の癖を見直したり、人との関わり方を練習したりして再発を防ぎます。統合失調症の治療で使用する抗精神病薬の中には、ドーパミンを強く抑えるタイプのものもあり、その場合に薬剤性パーキンソニズムが出やすくなります。近年はこの副作用が出にくい薬も増えてきましたが、完全にゼロにはできません。
③医療費助成制度の違い
パーキンソン病と統合失調症は長期間にわたる治療が必要になることが少なくないため、国や自治体により経済的な負担を軽減する公的な支援制度が用意されています。利用できる制度が異なるため、違いを知っておくことが大切です。
主な違いは以下のとおりです。
| 制度 | パーキンソン病 | 統合失調症 |
| 主な医療費助成 | 指定難病医療費助成制度(※ヤール重症度分類III度以上など、一定の基準を満たす場合に限られます) | 自立支援医療(精神通院医療) |
| 手帳制度など | ・身体障害者手帳 ・介護保険(特定疾病) | 精神障害者保健福祉手帳 |
| 共通で利用できる可能性のある制度 | ・高額療養費制度 ・障害年金 | |
上記の制度は、ご自身で申請手続きが必要です。詳しい内容や申請方法は、病院のソーシャルワーカーや市区町村の担当窓口に、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
パーキンソン病と統合失調症は、どちらの病気もドーパミンが関わります。パーキンソン病はドーパミンの不足、統合失調症は過剰が原因であり、全く異なる病気です。そのため治療法も異なります。
ご自身やご家族に気になる症状があり、「どちらの病気だろう」と不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。自己判断せずに専門家へ相談することが大切です。正しい診断を受けることが、ご本人に合った適切な治療への重要な第一歩となります。一人で抱え込まず、まずは専門の医療機関に相談してみてくださいね。
参考文献
- Sun D, Amiri M, Meng Q, Unnithan RR, French C.Calcium Signalling in Neurological Disorders, with Insights from Miniature Fluorescence Microscopy.Cells,2024,14,1.
- Bogielski B, Michalczyk K, Głodek P, Tempka B, Gębski W, Stygar D.Association between small intestine bacterial overgrowth and psychiatric disorders.Frontiers in Endocrinology,2024,15,p.1438066.
- Fitzgerald S, Gracey F, Trigg E, Broomfield N.Predictors and correlates of emotionalism across acquired and progressive neurological conditions: A systematic review.Neuropsychological Rehabilitation,2023,33,5,p.945-987.
