パーキンソン病は一般的には60歳前後に発症することが多いですが、50代やそれより若い年代で発症することもあります。脳の神経が変化し、体の動きにさまざまな影響を及ぼす病気です。(※1)
いざ病院へ行こうと思っても、何科を受診すれば良いのか迷う方もいます。しかし、この診療科選びが、早期の診断と治療のためには大切です。
この記事では、パーキンソン病が疑われるときに受診すべき診療科や、診察から検査までの流れ、専門職との連携をわかりやすく解説します。不安を解消し、正しい一歩を踏み出すための手助けとなるでしょう。
パーキンソン病とは?
パーキンソン病とは、脳の神経細胞が少しずつ減っていき、「ドーパミン」が不足する病気です。ドーパミンは体の動きを滑らかにする働きがあり、これが減ると次のようにさまざまな症状が現れます。(※1)
| 症状の分類 | 主な症状 |
| 運動症状 | ・安静時振戦(しんせん):じっとしているときの手足のふるえ・無動・寡動(むどう・かどう):動作が遅くなる、動きが少なくなる・筋強剛(きんきょうごう):筋肉が固くこわばる |
| 非運動症状 | ・便秘 ・嗅覚の低下 ・うつ症状 ・物忘れ |
こんな症状があれば脳神経内科への受診を検討しましょう
以下のような症状がある場合は、脳神経内科を受診しましょう。
- 片側の手や足が安静時に細かくふるえる(数週間以上続く)
- 動作がゆっくりになり、着替えや食事に時間がかかるようになった
- 歩幅が狭くなり、腕を振らずに歩くようになったと言われる
- 顔の表情が乏しくなった、声が小さくなったと指摘される
- 字が以前より小さくなった
- 便秘や嗅覚低下が続き、上記のような症状も出てきた
パーキンソン病の診察は何科を受診すべきか
パーキンソン病は脳の神経に関わる病気なので、基本的には脳神経内科を受診しましょう。心療内科・精神科との違いや大学病院と地域クリニックの選び方についても解説していきます。
基本は脳神経内科を受診
パーキンソン病の診断と治療は脳神経内科が中心に行います。
脳神経内科は、脳、脊髄、末梢神経、筋肉など体を動かすための司令系統全体を専門とする診療科です。
診察では、丁寧な問診と神経診察を行い、パーキンソン病の症状がないか、総合的に判断します。
心療内科・精神科との違いと役割
パーキンソン病は、病気の経過とともに、気分の落ち込みや不安、幻覚など心の症状が現れることがあります。これらは、脳内の神経伝達物質のバランスが変化することで生じます。
精神症状に対しては、脳神経内科と連携して精神科や心療内科が治療をサポートします。各診療科の役割を以下の表にまとめます。
| 診療科 | 主な役割 | 対象となる症状の例 |
| 脳神経内科 | パーキンソン病の診断と運動症状の治療 | ・手足のふるえ・動作が遅くなる・筋肉のこわばり・歩きにくさ、転びやすさ※姿勢反射障害(転びやすさ)は、病気が進行してから現れることが多い症状です |
| 精神科・心療内科 | パーキンソン病に伴う心の症状に対する専門的ケア | ・気分の落ち込み、意欲の低下・強い不安感、不眠・幻覚 |
まずは脳神経内科で治療を進め、精神的なつらさが強くなった場合に、精神科を紹介してもらうといいでしょう。心と体の両面からアプローチすることが大事です。
大学病院と地域クリニックの選び方
大学病院と地域のクリニックにはそれぞれ異なる特徴があります。
初めて症状が現れたときや、気軽に専門医に相談したい場合、通いやすい場所で治療をしたい場合、定期的な薬の処方を希望する方は地域のクリニックが向いています。
一方で、診断がつかないとき、精密検査・薬の調整が必要なとき、手術を検討したい場合、他の専門医の意見を聞きたい場合には、大学病院が適しています。
いきなり専門病院を受診するのが不安な場合は、まず普段のかかりつけ医に相談し、必要に応じて地域の大学病院や基幹病院の脳神経内科への紹介状を書いてもらうという方法もあります。初診で行われる検査と診断の流れ
初診から診断に至るまでには次のような流れがあります。
- 問診、神経診察、歩行評価
- 画像検査
- 他の病気との鑑別
問診
症状の背景を理解するために、症状の経過や症状、日常生活への影響、病歴と服用中の薬、家族歴について問診をします。
| 質問項目 | 内容 |
| 症状の経過 | いつからどんな症状が出たか |
| 主な症状 | 手の震え、動作の遅さ、表情の乏しさ、字の小ささ(左右対称か) |
| 日常生活への影響 | 着替え、食事、入浴、書字などへの影響 |
| 病歴・服薬 | 今までの病気、現在飲んでいる薬 |
| 家族歴 | 家族にパーキンソン病の方がいるか |
神経診察
神経診察では、医師が筋肉のこわばりや歩行の状態などを確認してパーキンソン病の兆候がないかを調べます。
歩行評価
歩行評価では、歩行とバランスの状態を確認します。診察室の中を数メートル歩いていただき、歩き始めの足の動き、歩幅や腕の振り、方向転換時のバランスなどを観察します。
画像検査(MRI・DATスキャンなど)
問診と診察でパーキンソン病が疑われた場合、脳の中を客観的に評価するために以下のような画像検査を行います。パーキンソン病では、MRI画像には通常明らかな異常が映りません。この検査は、脳梗塞や正常圧水頭症など、似た症状を起こす他の病気がないかを確認するために行います
| 検査の種類 | 目的 | わかること |
| 頭部MRI検査 | 他の病気の可能性を調べる | ・脳梗塞や脳腫瘍、正常圧水頭症など ・パーキンソン病と似た症状を起こす病気がないかを確認する |
| DATスキャン検査 | ドーパミン神経の働きを調べる | ・ドーパミンを運ぶ物質の量を画像化する ・パーキンソン病ではドーパミンの量が減少する |
| MIBG心筋シンチグラフィー | 似たような病気との区別を助ける | ・心臓にある交感神経の働きを調べる ・パーキンソン病と症状が似た病気との区別に役立つ |
これらの検査は、診断を確定させるためというよりは、他の病気を見つけ出すための補助的な手段として用いられます。
他の病気との鑑別が重要な理由
他の病気との鑑別が重要な理由は、ふるえや歩きにくさといった症状が、パーキンソン病だけに起こるものではないからです。似ている症状でも、間違われやすい病気がいくつかあります。
例えば、パーキンソン病と間違われやすい病気には次のようなものがあります。
- 本態性振戦(動作時のふるえ)
- 薬剤性パーキンソニズム(薬の副作用)
- 脳血管性パーキンソニズム(脳梗塞による歩行障害)
- パーキンソン病に似た疾患
診断結果により治療方針は異なるため、これらを正確に鑑別する必要があります。
他の診療科との連携
パーキンソン病の治療は、脳神経内科を中心に行われます。しかし、この病気は体の動きだけでなく、心や自律神経など、さまざまな面に影響を及ぼします。(※1)
そのため、自分らしい生活を長く続けるためには、脳神経内科医だけでなく、多くの専門家がチームとなって連携することが必要です。
リハビリ科での運動療法
パーキンソン病の治療で、運動療法は欠かせません。(※1)薬でドーパミンを補うだけでは、固くなった筋肉をほぐしたり、体の使い方を改善したりすることは難しいからです。
リハビリは、体の機能の維持・向上を目指して理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がそれぞれの専門的な視点で関わります。
理学療法士は体を動かすリハビリ、作業療法士は日常生活の動作の練習、言語聴覚士は発声練習や飲み込みの訓練を担当します。
リハビリを早期から行うことで、病気の進行を緩やかにし、毎日を活動的に過ごすことができます。(※1)
精神科でのうつ症状・幻覚への対応
パーキンソン病は、ドーパミンだけでなく、他の神経伝達物質のバランスにも影響を及ぼすため、心の状態にも変化が現れます。
これらは病気が原因で起こる症状であり、本人の気持ちの弱さの問題ではありません。本人も家族も、病気の一症状として正しく理解することが大切です。
よく見られる精神的な症状には次のようなものがあります。
| 精神症状 | 具体的な症状 |
| うつ症状 | ・気分の落ち込み ・興味や喜びを感じない ・眠れない |
| 不安感 | ・漠然とした強い不安 ・対人恐怖 |
| アパシー(無気力・無関心) | 意欲が湧かず無関心になる |
| 幻覚・妄想 | 「いない人が見える」という幻視が多い |
これらの症状は、まず脳神経内科医がお話を聞いて、薬の調整などを行います。
症状が強く専門的なケアが必要な場合は、精神科や心療内科の医師が連携して治療をサポートします。
まとめ
手のふるえや歩きにくさに気づいたら、まずは脳神経内科の専門医に相談しましょう。パーキンソン病の診断は、丁寧な診察から始まり、治療は医師だけでなく、多くの専門家がチームとなって行います。
適切な診断のもと、早めに治療やリハビリを開始することで、病気の進行を緩やかにし、自分らしい生活を長く維持できます。気になる症状があれば、専門のクリニックへ相談してみましょう。
参考文献
- 難病情報センター:「パーキンソン病(指定難病6)」
