「最近、手が震える」「動きが鈍くなった気がする」、そんな不調を年齢やストレスのせいだと思っていませんか?
パーキンソン病は高齢者の病気と思われがちですが、30〜40代でも発症する「若年性パーキンソン病」があり、珍しくありません。
若年性パーキンソン病の定義は研究により異なり、40歳未満、50歳未満とする場合があります。
本記事では40歳未満で発症した場合を若年性パーキンソン病として解説します。この記事では、若年性パーキンソン病の見逃されやすい初期症状から最新の治療法まで、専門医の視点でわかりやすく解説します。
目次
若年性パーキンソン病とは
若年性パーキンソン病とは、比較的若い年齢(40歳以下)で発症するパーキンソン病を「若年性パーキンソン病」と呼びます。仕事や家事、子育てなど多くの役割を担う時期に現れることが多く、生活への影響も大きいため、病気を正しく理解しておくことが重要です。
ここでは、通常のパーキンソン病との違いや、発症年齢の特徴をわかりやすく解説します。
一般的なパーキンソン病との違い
若年性パーキンソン病は、一般的なパーキンソン病と比べて進行がゆっくりで、治療薬が効きやすいという特徴があります。(※3)若くして発症する分、薬を使う期間が長くなるため副作用が出やすいという注意点もあります。
具体的な違いを次の表にまとめました。(※1)
| 比較項目 | 若年性パーキンソン病(40歳以下で発症) | 一般的なパーキンソン病(60歳以上で発症) |
| 進行の速さ | 緩やか | 若年性より速い傾向 |
| 初期症状 | 動作が遅い・歩きにくい、震えは少なめ | 手や足の震えから始まることが多い |
| 薬への反応 | 非常に良い | 良い |
| 長期的な薬の影響 | ・薬の効果が不安定になりやすい(ウェアリング・オフ現象) ・不随意運動(ジスキネジア)が出やすい | 若年性ほど目立たない |
| 認知機能への影響 | 少ない傾向 | 低下することがある |
若年性パーキンソン病は治療の手応えを感じやすい一方で、長期的な薬の調整が重要になります。自身の特性を知ることで、より適切な治療計画を立てることができます。
発症年齢・有病率の目安
世界的な疫学データ(GBD2021)では、2021年時点の早発性パーキンソン病(EOPD)の有病者数は約48万人と推定されています。
また研究では、1990〜2021年にかけて、年齢標準化有病率(ASPR:年齢構成の違いを補正して、有病率を公平に比較できるようにした指標)・発症率(ASIR:ある期間に新しく病気になった人の割合を示す指標)が継続的に上昇していることが示されています。(※4)
若年性パーキンソン病の初期症状
若年性パーキンソン病の初期症状はゆっくり進行し、疲れやストレスと勘違いされやすいのが特徴です。早期に気づくためには、体の小さな変化を見逃さないことが大切です。
代表的な症状について、以下の3つに分けて解説します。
- 運動症状(震え・動作緩慢・筋固縮など)
- 非運動症状(うつ・睡眠障害・便秘など)
- 見逃しやすいサイン
運動症状(震え・動作緩慢・筋固縮など)
若年性パーキンソン病の運動症状は、片側の手足から静かに始まることが多い点が大きな特徴です。最初は「疲れや姿勢のせい」「最近コリが増えた」と誤解されやすく、発見が遅れることもあります。
運動症状には以下のような症状があります。
- 振戦:片側の手足が震える
- 動作緩慢:動作がゆっくりになる
- 筋固縮:筋肉がこわばる
- 姿勢反射障害:わずかにバランスを崩しやすくなる
震えは安静時に目立ち、物を持つと一時的に収まるのが特徴です。若年性では、初期の震えが少ないこともあります。動作緩慢では、着替えや食事など普段の動作が遅くなり、瞬きが減って表情が固く見えることもあります。
筋固縮では肩こり・腰痛のような痛みで整形外科を受診して気づくケースも珍しくありません。姿勢の変化は軽度でも、早期発見のヒントになります。
非運動症状(うつ・睡眠障害・便秘など)
若年性パーキンソン病では、体の動き以外にも心の変化や自律神経の不調が初期から現れることがあります。日常の違和感がヒントになるため、次のような症状がないか確認してみましょう。
| 分類 | 具体的な症状の例 |
| 精神症状 | ・気分が落ち込みやすい(抑うつ) ・何事にも興味がわかない(アパシー) ・漠然とした不安が続く |
| 自律神経の症状 | ・頑固な便秘 ・立ち上がりでふらつく(起立性低血圧) ・頻尿・夜間のトイレ ・汗が多すぎる/少なすぎる(発汗異常) |
| 睡眠障害 | ・寝ている間に叫ぶ、暴れる(レム睡眠行動異常症) ・日中の強い眠気 |
| その他 | ・においがわかりにくい(嗅覚低下) ・原因不明の痛みやしびれ |
これらはほかの病気でも起こるため見過ごされがちですが、複数当てはまる場合はパーキンソン病の初期サインの可能性があります。違和感が続く場合は、早めに専門医へ相談しましょう。
見逃しやすいサイン
若年性パーキンソン病は進行が緩やかで、症状が「いつから始まったのかわからない」ことがよくあります。次のような小さな違和感は、早期に現れるサインのため、確認してみてください。
【見逃しやすいサイン】
- 文字の変化:以前より字が小さくなる、書くほど窮屈になる
- 声の変化:声が小さい、かすれる、抑揚がなくなる
- 表情の変化:まばたきが減り、表情が乏しく見える
- 歩き方の変化:一歩目が出にくい、腕を振らなくなる、小刻み歩行になる
- 日常動作の変化:立ち上がりや寝返りがしにくい、ボタンかけが難しい
こうした変化が続く、または複数当てはまる場合は、早期発見につながるため、神経内科への相談をおすすめします。
若年性パーキンソン病の原因
パーキンソン病の原因は、まだすべてが解明されているわけではありません。
脳内で運動を調整する「ドパミン」を作る神経細胞が徐々に減ることで、体が思うように動かしにくくなるなどの症状が現れると考えられています。一部には遺伝子の変化が関与するタイプも報告されています。(※3)
ここでは、主な原因として考えられる生まれつきの「遺伝的要因」と、日々の生活環境などの「環境的要因」を解説します。
遺伝的要因
若年性パーキンソン病では、一般的な発症よりも遺伝的要因の関わる割合が高いことが特徴です。ただし、遺伝するのは病気そのものではなく、発症しやすい体質である点が重要です。
主に以下のような遺伝子が関わっています。
| 遺伝子名 | 主な働き |
| パーキン(PRKN) | 不要なたんぱく質や古いミトコンドリアを分解する「細胞のお掃除役」 |
| PINK1 | ミトコンドリアの状態を監視し、傷ついた部分を修復・除去する |
| DJ-1 | 酸化ストレスから神経細胞を保護し、異常たんぱく質の蓄積を防ぐ |
これらの遺伝子に変化があると、細胞の修復力やストレスへの耐性が弱まり、繊細なドパミン神経細胞がダメージを受けやすくなります。その結果、若い年齢での発症につながると考えられています。
環境的要因
若年性パーキンソン病の発症には、生活環境や職業環境などの外部要因も影響している可能性が指摘されています。遺伝的な要因に加え、農薬やウイルス感染などの環境的ストレスが重なることで、発症リスクが高まると考えられています。(※5)
農薬や重金属、強いストレスなどの外部刺激が神経細胞にダメージを与えることがあり、こうした要因が神経の変性を引き起こす可能性もあります。
これらの要因に触れたすべての人が発症するわけではありません。遺伝的素因と環境因子が複雑に絡み合い、長い時間をかけて発症に至ると考えられています。
若年性パーキンソン病の診断
若年性パーキンソン病の診断では、症状の特徴を丁寧に確認し、必要に応じて専門的な検査を組み合わせながら総合的に判断していきます。ここでは、どのような手順で診断が進むのか、診断の流れを解説します。
診断の流れ(臨床診断が基本)
若年性パーキンソン病の診断は、「問診と診察(臨床診断)」が中心で、専門医が体の動きや症状の出方を総合的に判断します。まず問診で症状の経過や生活への影響、既往歴・家族歴などを確認し、そのうえで神経学的診察で動きの特徴を調べます。
主な診断の流れは以下のとおりです。
| ステップ | 内容(要点) |
| 丁寧な問診 | ・症状がいつから、どのように始まったか ・左右差があるか ・日常生活で困っている動作 ・既往歴 ・服薬 ・家族歴 |
| 神経学的診察 | ・歩行や立ち座り、方向転換の観察 ・腕の振りの左右差や歩幅の変化 ・手足のこわばり(固縮)の有無 ・指の開閉など細かな動きの評価 |
これらの情報を国際的な診断基準と照らし合わせ、総合的に判断することで、若年性パーキンソン病かどうかを見極めていきます。
画像・機能検査(MRI、DATスキャンなど)
画像・機能検査は、若年性パーキンソン病をより正確に診断し、ほかの病気と区別するための補助的な役割を担います。問診と診察で疑いが高まった場合に行われ、脳の構造や神経の働きを客観的に確認できる点が大きな特徴です。
主な検査内容は以下のとおりです。
- 脳MRI検査:脳の構造の確認
- DATスキャン:ドパミン神経の働きを評価
- MIBG心筋シンチグラフィ:心臓の交感神経の活動を確認
これらの検査は「診断の決め手」ではなく、臨床診断を補強するものです。特にDATスキャンやMIBG検査は、症状がまだ軽い初期段階で役立つことがあり、診断の精度を高める助けになります。MIBG心筋シンチグラフィは若年性症例のの一部(遺伝性など)では異常が検出されないこともあるため、この検査だけで判断せず、総合的に診断します。
遺伝子検査
若年性パーキンソン病では、特に40歳以下での発症や家族に同じ病気の方がいる場合、遺伝的な要因が関わっている可能性があります。このようなケースでは、原因をより詳しく調べる目的で遺伝子検査が行われることがあります。
遺伝子検査は「病気を確定するための検査」ではなく、病気の背景や体質を理解するための補助的な検査という位置づけです。実際には、遺伝子変異が見つからない若年性パーキンソン病も多く、すべての患者さんが対象になるわけではありません。
遺伝子検査は専門的な判断が必要で、大学病院などの限られた医療機関で実施されます。現時点では、結果がすぐに治療内容の大きな変更につながることは限られていますが、将来の研究や治療開発に役立つ可能性があります。
原因の遺伝子がわかることで、将来の治療法の選択に役立つ可能性もありますが、結果が本人や家族の心理や生活に影響することもあります。検査を受けるかどうかは、納得したうえで決めることが大切です。
若年性パーキンソン病の治療法
若年性パーキンソン病の治療では、症状をできるだけ安定させ、仕事や家庭生活を含めた「自分らしい日常」を長く保つことが大切です。そのために用いられる治療は大きく以下の3つに分けられます。
- 薬物療法
- リハビリテーション
- 脳深部刺激療法(DBS)
薬物療法
若年性パーキンソン病の治療では、薬物療法が基本であり、症状の進行を抑えつつ生活の質を維持する手段となります。薬は脳内で不足しているドパミンの働きを補うことで、体の動きにくさや震えを軽減します。
薬物療法は症状を和らげ、日常生活を送りやすくすることが主な目的です。病気そのものの進行を完全に止める薬は、現時点では確立されていませんが、適切な治療により症状をコントロールし、生活の質を維持することが可能です。
長期服用による副作用のリスクも考慮が必要です。そのため、医師と相談しながら適切な薬剤選択と服薬計画を立てることが重要です。
以下に主な薬の種類と特徴を示します。(※6)
| 薬の種類 | 働き | 特徴 |
| L-ドパ(レボドパ)製剤 | 脳内でドパミンに変化し、不足分を補う | パーキンソン病治療のなかでもメインで使用されるが、長期使用で運動合併症リスクあり |
| ドパミンアゴニスト | ドパミン受容体を直接刺激 | 効果は穏やかで運動合併症が少なく、若年性では初期選択されやすい |
| MAO-B阻害薬など | ドパミン分解を防ぎ効果を持続 | 併用で症状の安定化を図る |
ドパミンアゴニストは若年性パーキンソン病で初期治療として選択されることが多い一方で、眠気、むくみ、ギャンブルや買い物への衝動が強くなる(衝動制御障害)などの副作用に注意が必要です。
妊娠や出産を控える若年層では、薬の安全性にも配慮が必要です。特にL-ドパは比較的安全とされますが、服薬調整は専門医と相談し、自己判断は避けることが望まれます。女性の場合、月経周期に伴って薬の効き目や症状が変化することもあります。
リハビリテーション
若年性パーキンソン病の治療では、薬物療法と並行してリハビリテーションを継続することが大切です。リハビリテーションは単なる運動ではなく、身体機能を維持・改善し、症状の進行を遅らせて生活の質を高めるうえで欠かせません。
リハビリテーションの主な種類と目的・内容は以下のとおりです。
| 種類 | 目的 | 内容 |
| 理学療法(PT) | 筋力・柔軟性・バランスの維持向上による安定した歩行の実現 | 筋肉のストレッチ、筋トレ、歩行・バランス訓練など |
| 作業療法(OT) | 食事・着替え・筆記など日常動作の円滑化 | 指先運動の練習、生活環境の調整、自助具の利用提案など |
| 言語聴覚療法(ST) | 声・発音・嚥下機能の改善 | 発声訓練、表情筋トレーニング、安全な食事指導など |
リハビリテーションは専門家のサポートを受けつつ、継続できる運動習慣を作ることが大切です。ウォーキングやヨガ、水泳など、続けやすい活動を生活に取り入れることで、心身の調子を整えながら治療を続けることができます。
脳深部刺激療法(DBS)
脳深部刺激療法(DBS:Deep-Brain-Stimulation)は、薬物療法による症状コントロールが難しい際に選択肢となる外科的治療です。
薬の効果が持続しにくくなる「ウェアリングオフ現象」や、薬の副作用による「ジスキネジア」に悩まされる場合に検討されます。この治療では、脳の特定部位に電極を埋め込み、弱い電気刺激を与えることで、異常な神経活動を整え、身体の動きをスムーズにします。
DBSは病気そのものを治すものではありませんが、症状の改善や薬の使用量を減らす効果が期待され、生活の質を向上させる可能性があります。治療を検討する際は、手術の適応やリスクについて神経内科医や脳神経外科医と相談することが重要です。
若年性パーキンソン病と生活していくために
若年性パーキンソン病とともに生きていくためには、症状のコントロールだけでなく、社会とのつながりを保ち、自分らしい生活を続ける工夫が大切です。ここでは、「就労や社会生活を維持するための支援」と「日常生活でできる工夫や心のケア」について解説します。
就労・社会生活を維持するための支援
若年性パーキンソン病と診断されても、体調や環境を整えることで働き続けることが可能です。症状に応じた働き方の調整や公的支援制度の活用により、安心して就労を継続できます。
一人で抱え込まず、制度や専門機関のサポートを上手に使うことです。主な支援制度と相談窓口を以下の表にまとめています。
| 支援制度・窓口 | 内容 | 利用のポイント |
| 身体障害者手帳 | 税控除や交通費減免、公共料金割引などの福祉サービスを受けられる | 市区町村の福祉課で申請 |
| 障害者雇用枠 | 病状に配慮した勤務が可能 | 通院・勤務時間調整など合理的配慮を受けられる |
| ハローワーク(難病患者就職サポーター) | 難病患者向けの職業相談・求人紹介 | 専門スタッフが継続支援 |
| 障害者就業・生活支援センター | 仕事と生活を一体的にサポート | 就職準備から職場定着まで支援 |
パーキンソン病は指定難病に含まれており、重症度・所得に応じて『特定医療費(指定難病)受給者証』による医療費助成が受けられます。身体障害者手帳の申請には主治医の診断書が必要ですので、まずはかかりつけ医にご相談ください。
働き続けるためには、職場の理解も欠かせません。信頼できる上司や同僚に病気のことを伝え、時差出勤や休憩調整など、体調に合わせた働き方を相談しましょう。
適切な支援を受けながら自分のペースで働くことが、長く安定した社会生活につながります。
家族・日常生活の工夫と心のケア
若年性パーキンソン病と長く付き合っていくためには、心身を整える生活習慣と、家族との協力体制が欠かせません。ご本人だけでなく家族も病気への理解を深め、支え合う環境をつくることが安定した生活につながります。
この例としては以下が挙げられます
- 朝の着替えに時間がかかる場合は、前開きの服やマジックテープの靴を選ぶ
- 食事では滑りにくいマットや握りやすいスプーンを活用
- 転倒予防のため、家の中の段差をなくし、必要な場所に手すりを設置
同じ病気を持つ人との交流も心の支えになります。患者会や支援団体に参加し、悩みを共有することで孤独感を減らし前向きな気持ちを保てます。
よくある質問
Q: 若年性パーキンソン病は遺伝しますか?
A: 一部に遺伝性のタイプもありますが、多くは発症しやすい体質が関与する程度です。
Q: 仕事を続けることはできますか?
A: 適切な治療と職場の理解があれば、多くの方が働き続けています。
Q: 完治する可能性はありますか?
A: 現在のところ完治させる治療法はありませんが、症状をコントロールしながら充実した生活を送ることは十分可能です。
まとめ
若年性パーキンソン病は働き盛りや子育てなどの大切な時期に診断されることが多く、将来への不安を感じるかもしれません。しかし、適切な治療やリハビリテーション、社会的なサポートを活用することで、あなたらしい人生を長く続けていくことが十分に可能です。
体の些細な変化を見過ごさず、気になる症状があれば、まずは神経内科の専門医へ相談することが第一歩です。一人で抱え込まず、専門家やご家族とともに、焦らずご自身のペースで病気と向き合っていきましょう。
参考文献
- 厚生労働省:「パーキンソン病」
- Hu B., Mao Q., Liang B., Li Y. Global trends of early-onset Parkinson’s disease from 1990 to 2021, and projections until to 2030: a systematic analysis of the global burden of disease study 2021 Front Neurol, 2025, 16, p.1589760
- Brüggemann N., Klein C. Parkin Type of Early-Onset Parkinson Disease GeneReviews, 2001, p.1‑17
- Beheshti I. Exploring Risk and Protective Factors in Parkinson’s Disease. Cells 14, no. 10 (2025): 710.
- 難病情報センター:「パーキンソン病(指定難病6)」
