手足の震えや歩き方の変化、動作のぎこちなさに気づいても「年のせいかな」と見過ごしてはいませんか?
その小さな違和感は、ゆっくりと進行するパーキンソン病の初期症状の可能性もあります。症状が軽いうちに治療を始めることで、転倒や生活のしづらさを防ぎ、日常生活を保ちやすくなります。
この記事では、見逃しやすい初期症状や自宅でできるチェック方法、受診の目安をわかりやすく紹介します。ご本人だけでなく、変化に気づいたご家族にも役立つ内容です。気になる症状があれば、早めに確認しておきましょう。ここで紹介するセルフチェックは、パーキンソン病かどうかを確定するものではありません。あくまで受診のきっかけをつかむための目安です
パーキンソン病の早期発見が大切な理由
パーキンソン病は、脳内の神経がゆっくりと変化していくことで、少しずつ症状が進行する病気です。早期に気づき医療機関を受診することで、次のような効果が期待されます。
①早期治療で症状をコントロールしやすくなる
②長く生活の質を保てるようになる
③合併症や転倒などのリスクを減らせる
早期治療で症状をコントロールしやすくなる
早期に診断されれば、薬でドパミンを補う治療を適切な時期に始められ、症状の進行を緩やかにできます。治療の目的は、症状をなくすことではなく、生活の質を長く保つことです。初期から治療に取り組むことで、次のような効果が期待できます。
- 震えや動きづらさなどの症状を抑えやすくなる
- 仕事や趣味などの生活を維持しやすくなる
- 医師と治療の進め方を一緒に確認でき、安心して取り組みやすくなる
早めの対応が、そのあとの無理のない生活へとつながります。
適切な治療を早く始められる
パーキンソン病の治療には、薬で症状を整える薬物療法と、体の動きを保つリハビリテーションという2つの柱があります。代表的な薬として、L-ドパ製剤、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬などが病状に応じて使い分けられます。早い段階で診断を受けることで、それぞれに取り組むタイミングを逃さず、治療が進みやすくなります。
リハビリテーションには以下の種類があります。
| 種類 | 主な内容 | 目的 |
| 理学療法 | バランス・歩行・筋力トレーニング | 転倒を防ぎ、歩行を安定させる |
| 作業療法 | 食事・着替え・書字などの練習 | 細かい動作の維持・自立支援 |
| 言語聴覚療法 | 発声・飲み込みの練習 | 明瞭な話し方・誤嚥の予防 |
症状が軽い時期からリハビリテーションを始めると、正しい動作が身につきやすいです。
合併症や転倒リスクを減らせる
パーキンソン病が進行すると、体のバランスを保つ姿勢反射の働きが弱まり、転倒しやすくなります。転倒は骨折につながり、生活への影響が大きいため、早めの対策が重要です。(※1)
早期から治療やリハビリテーションを行うことで、体の安定性が高まり、転倒を防ぎやすくなります。具体的には、薬物療法で体の動きを滑らかにし、リハビリテーションでバランス機能を鍛え、ふらつきを防ぐことが挙げられます。
安全に動ける環境づくりも大切です。専門家の助言を受けながら、手すりの設置や段差の解消を行うことで、転倒のリスクを減らせます。こうした早めの取り組みは、体の機能を保つことや、将来的な合併症の予防にもつながります。
パーキンソン病で気づきやすい初期症状
パーキンソン病で見られることがある症状日常の中の小さな変化として現れます。本人よりも家族や身近な人が気づくことも多く、早期発見には小さな違和感を見逃さないことが大切です。
主な初期症状は、次のとおりです。
- 手足の震えや動作の遅れ(運動症状)
- 便秘・嗅覚低下・睡眠の乱れ(非運動症状)
- 無表情・歩き方の変化・反応の鈍さ
運動症状は、特に、じっとしている時に震え、動かそうとすると弱まるのが特徴で、安静時振戦と呼ばれます。多くの場合は体の片側から症状が始まります。
手足の震えや動作の遅れ(運動症状)
パーキンソン病では、体の動きに関わる運動症状が現れます。代表的なのが、安静にしているときに手足が小刻みに震え、動き始めると弱まる「振戦」と、動作がゆっくり小さくなる「動作緩慢」です。
動作緩慢では、歩幅が狭くなる、着替えや食事に時間がかかるといった日常動作の変化や、書く文字が次第に小さくなる「小字症」が見られることもあります。
こうした運動症状はゆっくり進むため、ご自身では気づきにくいことがあります。
便秘・嗅覚低下・睡眠の乱れ(非運動症状)
パーキンソン病では、非運動症状と呼ばれる、体の動きとは別の早い段階から現れる変化があります。運動症状より数年から10年以上前に現れることもある症状でもあります。
自律神経の働きが乱れることで便秘が続いたり、花や食べ物の香りを感じにくくなる嗅覚低下が見られたりします。寝言や手足を大きく動かすレム睡眠行動障害、夜中に何度も目が覚めてしまう中途覚醒の増加などの睡眠の乱れが現れることもあります。
非運動症状は、研究でも生活の質に強い影響を与えることが示されており、気になる症状が続くときは早めに医師へ相談することが大切です。(※2)
無表情・歩き方の変化・反応の鈍さ
本人よりも、家族や周囲の方が先に気づく変化として、表情や歩き方、反応の遅れがあります。それぞれ以下のような変化が現れます。
- 表情や話し方:まばたきが減る、表情が乏しい(仮面様顔貌)、声が小さくなる
- 歩行・姿勢:前かがみ、腕の振りが小さい、歩き出しが遅い
- バランス感覚の低下:方向転換や後退時にふらつく
身近な人の気づきは、体の変化を捉える大切なヒントになります。指摘が増えてきたときは、一度専門医に確認してもらうことを推奨します。
自宅でできるパーキンソン病セルフチェック
パーキンソン病のセルフチェックは、診断を行うものではありませんが、受診を考えるきっかけをつかむ点で役立ちます。日常生活で気づきやすいポイントを、本人だけでなく家族と一緒に見直してみましょう。
確認すべき項目は次の4つです。
- 日常動作や歩行の変化を観察する
- 表情・声・話し方の違和感があるか
- 震えやバランス感覚の異常がないか
- 排泄・食事・睡眠の状態を見直す
日常動作や歩行の変化を観察する
パーキンソン病のサインは、何気ない日常の動作や歩き方の変化として現れることがあります。いつもと違う様子がないか、次の項目を確認してみましょう。
| チェック項目 | 見られる変化 | チェックのポイント |
| 歩く速さ | スピードが落ちる | 通勤・買い物時に遅れやすい横断歩道が渡れないなど |
| 歩幅 | 小刻みになり、狭くなる | 横から歩行を観察 |
| 歩き出し | 一歩が出にくい(すくみ足) | 立ち上がり後に注目 |
| 腕の振り | 小さく左右差がある | 歩くときに腕の動きを確認 |
| 歩行の止まり方 | ・止まりにくい ・小走りになる(加速歩行) | 家族が安全な環境で観察する |
気になる動きが続く場合は、一度専門医に相談しておくと安心です。早めに確認しておくことで、転倒などのリスクを減らしやすくなります。
表情・声・話し方に違和感があるか
パーキンソン病では、表情や声、話し方に変化が現れることがあります。本人よりも家族が先に気づくケースも多いため、以下の項目を日常の中で観察してみましょう。
| チェック項目 | 見られる変化 | チェックのポイント |
| 表情 | ・まばたきが減る ・表情が乏しい(仮面様顔貌) | 鏡で表情の動きを確認する |
| 声の大きさ | 小さくなる | 聞き返される頻度を確認する |
| 話し方 | 抑揚が少ない | 家族が気づきやすい |
| 発音 | ろれつが回らない | 録音して確認する |
家族から指摘が増えてきたときは、体の変化を確かめる良いタイミングです。気になった段階で一度受診しましょう。
震えやバランス感覚に異常がないか
パーキンソン病の代表的な症状である、震えやバランス感覚の低下は、初期から現れることがあります。
安静時や動作の始まり方に注目して、以下のサインを確認してみましょう。
| チェック項目 | 見られる変化 | チェックのポイント |
| 震えの状況 | 安静時に手足が震える(安静時振戦) | 力を抜いたときに観察 |
| 震えの始まり方 | 多くは片側から震えが始まる | 左右差を確認 |
| 動作との関係 | 動くと震えが弱まる | 動作前後で比較 |
| 指の動き | 親指と人差し指をこするような動作 | 指先の細かな動きを観察 |
| バランス感覚 | 方向転換や後退でふらつく | 安全な場所で動きを確認 |
震えやふらつきが続くときは、体からのメッセージかもしれません。気になる場合は、早めに医師に相談してみてください。
排泄・食事・睡眠の状態を見直す
パーキンソン病による症状の影響は、手足の動きだけでなく、排泄・食事・睡眠などの体の働きにも現れることがあります。これらは運動症状よりも早く出ることもあるため、注意が必要です。
日常生活の中で以下の項目を観察しましょう。
| チェック項目 | 見られる変化 | チェックのポイント |
| 排泄 | 便秘が続き、薬を使ってもすっきりしない | 排便の回数や便の状態をメモ |
| 食事 | ・飲み込みづらさ ・むせが増える(誤嚥のリスク) | むせる頻度に注目 |
| 嗅覚 | 香りや味の感じ方が弱くなる | コーヒーや料理の香りで確認 |
| 睡眠 | 寝言や手足の激しい動きが見られる(レム睡眠行動障害) | 周囲からの指摘を記録 |
| 眠気・覚醒 | ・夜間の中途覚醒 ・日中の強い眠気が増える | 睡眠リズムを1週間ほど記録 |
排泄や睡眠などの変化はほかの病気でも起こりますが、複数が重なる場合は、気づいた段階で受診を検討すると安心です。
受診を考えるべきタイミング
セルフチェックで気になる点があったり、体の変化がしばらく続いたりする場合は、早めに神経内科を受診することが大切です。症状が数週間続いている場合や、家族から「動きが遅い」「表情が乏しい」と指摘があった場合は注意が必要です。
歩行や食事、着替えなど日常の動作に支障が出てきた場合も、受診のタイミングと考えましょう。診察では、問診や神経機能の確認に加えて、歩行やバランスを評価する検査も行われます。
早めに相談することで、症状に合わせた治療を始めやすくなり、生活の質を保つ助けになります。
また、手足の震えや動きづらさ、便秘などの症状はパーキンソン病以外の病気(本態性振戦、薬剤性パーキンソニズム、脳血管障害など)でも起こるため、専門的な診断が必要です
まとめ
パーキンソン病は、早期に気づくことが大切です。治療やリハビリテーションを早く始めるほど進行を緩やかにでき、長く自分らしい生活を送れます。
手足の震えや動作の遅れ、便秘や睡眠の乱れなど、日常の小さな変化は見過ごさずに確認しましょう。セルフチェックで複数の項目に当てはまったり、家族が異変に気づいたりした場合は、神経内科への相談が安心です。
早めの受診が、これからの生活を整えることにつながります。大切な体を守るために、気づいた今からできることを始めましょう。
参考文献
- Murueta-Goyena A, Muiño O, Gómez-Esteban JC.Prognostic factors of falls in Parkinson’s disease: a systematic review.Acta Neurologica Belgica,2024,124(2),395-406.
- Li X., Chen C., Pan T., Zhou X., Sun X., Zhang Z., Wu D., Chen X. Trends and hotspots in non-motor symptoms of Parkinson’s disease: a 10-year bibliometric analysis Front Aging Neurosci, 2024, 16, p.1335550
