文字のかすみや目がしょぼしょぼするなどのサインを、加齢に伴う老眼だと思っていませんか。文字のかすみや、目がしょぼしょぼする症状は遠視のサインの可能性もあります。遠視と老眼では矯正方法が異なるため、医療機関で適切に鑑別することが大切です。
この記事では、老眼と遠視の違いから矯正・治療法までを詳しく解説します。最近になって近くの文字が見えにくくなり、「老眼ではないか」と感じている方はぜひ参考にしてください。
老眼と遠視の違いは?
老眼と遠視は、どちらも近くが見えにくいという点で似ていますが、症状や仕組み、原因が全く異なります。
ここでは、老眼と遠視の違いに関する以下の3点を解説します。
- 老眼と遠視の症状
- ピントがぼける仕組み
- 老眼と遠視の発症原因
老眼と遠視の症状
老眼と遠視では、以下のように見え方や体に出る症状に違いがあります。
| 症状 | 見え方 | 付随する症状 |
| 老眼(※1) | ・手元の細かい文字が読みにくい ・対象物を少し顔から離すと見やすくなる ・遠近を交互に見るとピントが合うのに時間がかかる ・夕方や薄暗い場所だと見えにくい ・遠くは見やすい | ・目がしょぼしょぼする ・頭痛がする ・肩や首がこる |
| 遠視(※2) | ・若い頃は症状を自覚しないことが多い ・近くも遠くもピント合わせに努力がいる ・年齢とともに遠くも近くも見えにくさを感じる ・本や新聞を長く読んでいると文字がかすむ | ・眼精疲労 ・集中力が続かない ・頭痛がする |
自身がどちらの症状に当てはまるか、チェックしてみてください。
ピントがぼける仕組み
ピントのぼけは、目に入った光が網膜状の正しい位置に焦点を結べない仕組みで起こる症状です。
物を見るときは、目に入った光が角膜と水晶体で屈折し、網膜で焦点を合わせています。遠近の焦点を調節する際は、毛様体筋を動かして水晶体の厚みを変えており、近くの物に対しては水晶体を厚くしています。
一方、遠視や老眼などの病気が原因で、目に入ってきた光の屈折を調節できなくなると、網膜状で焦点を合わせられません。結果として、ピントが合わなくなり、物がはっきりと見えなくなります。
老眼と遠視の発症原因
老眼と遠視では、発症原因が根本的に異なります。
老眼は、加齢に伴う水晶体の硬化と毛様体筋の衰えにより、ピントの調節が上手くできなくなることが原因です。40歳前後から自覚症状が出始め、少しずつ進行していきます。(※3)
遠視の原因は、生まれつきの目の形や角膜・水晶体の屈折力の弱さにあります。子どものうちはピントの調節力が強いため、遠視があっても視力は良好なことが多く、症状に気づきにくい場合があります。しかし、本人は無意識に常にピントを調節しているため、疲れや集中力の低下につながる可能性があります。
老眼がピント調節機能の低下が原因であるのに対し、遠視は目の形・水晶体の屈折異常によるものであることがわかるでしょう。
老眼・遠視の放置は避けるべき
老眼や遠視でピントが合わない状態が続くと、常にピントを合わせようと毛様体筋が緊張し続けます。結果として、目に大きな負担をかけてしまうため放置は危険です。
老眼・遠視を放置することで起こるリスクは、以下のとおりです。
- 眼精疲労
- 頭痛や肩こり
- 疲労感
- 吐き気
これらの症状が現れることで、仕事での集中力が落ちたり、ストレスが増えたりする可能性があります。日常生活や仕事に支障をきたしかねないので、見え方の変化は放置せず、早めに眼科を受診することをおすすめします。
老眼・遠視の矯正方法
老眼や遠視の矯正方法には、以下の3つの選択肢があります。
- メガネの使用とポイント
- コンタクトレンズ
- ICL(眼内コンタクトレンズ)
①メガネの使用とポイント
老眼や遠視を矯正するうえで安全な方法は、メガネの使用です。老眼と遠視のそれぞれで矯正するためのメガネの種類が異なっており、以下のようなメリット・デメリットがあります。
| 種類 | メリット | デメリット |
| 老眼鏡 | ・手元の視野が広く、歪みが少ない ・目的がシンプルなため安価 | ・遠くにはピントが合わない ・テレビなどは見えにくい |
| 遠近両用メガネ | ・メガネ1本でさまざまな場面に対応できる ・見た目が自然で老眼鏡と分かりにくい | ・慣れるまで少し時間が必要 ・手元の視野が老眼鏡より狭くなることがある |
老眼鏡は、集中して手元の作業を行いたいときに使用されます。近くのピントがぼけているだけで、遠くを見る視力に問題がない方は、老眼鏡で問題ありません。老眼に加えて近視もある場合は、遠近両用メガネが選択肢となります。
遠視の方は、遠くも近くも見えにくいため、遠近両用メガネが使いやすいでしょう。一つのメガネで遠近どちらもはっきりと見えるようになります。
遠視の方が老眼になった場合は、遠視の度数に老眼の度数を上乗せしたレンズが必要になるため注意してください。自己判断で市販のメガネを選ぶと、度数が合わずに眼精疲労や頭痛を悪化させることもあります。
②コンタクトレンズ
見た目が気になったり、裸眼で過ごしたりしたい方には、コンタクトレンズもおすすめです。近年は、近視用だけでなく老眼に対応した遠近両用コンタクトレンズが普及しています。
遠近両用コンタクトレンズは、1枚のレンズの中に遠い物を見る用と近くにピントを合わせるための度数が配置されています。遠近両用コンタクトレンズには、同時視タイプと交代視タイプの2種類があります。
同時視タイプは、度数を使い分けるのではなく、常にすべての度数を使い、ピントが合う見え方を脳が認識します。一方、交代視タイプは、視線を動かし度数を使い分けることで、遠近の見え方が変わる種類です。
コンタクトレンズは高度管理医療機器です。目の健康状態によっては使用できないこともあるため、適用できるかどうかは医療機関に相談しましょう。
③ICL(眼内コンタクトレンズ)
手術による老眼・遠視の矯正方法としてICL(眼内コンタクトレンズ)があります。ICLは、目の中に専用のレンズを挿入することで視力を矯正する方法です。角膜を削らずに視力の回復が可能です。
ICLを受けることで裸眼で過ごせるようになり、生活の質の向上が期待できます。しかし、ICLには、以下のようなリスクもあるため注意してください。
- 感染症を引き起こすリスクがある
- 夜間に眩しく見える
- 健康保険が適用されず費用が高額
老眼のほかに白内障がある場合は、多焦点眼内レンズが選択肢の一つです。多焦点眼内レンズは、濁った水晶体を取り除いたあと、遠近のピントが合うレンズを入れる矯正法です。白内障と老眼を同時に治療できるという大きな利点があります。
老眼・遠視に関するよくある質問
老眼・遠視に関するよくある質問として、以下の3つを紹介します。
①遠視かどうかを診断する方法は?
②遠視の治療法はある?
③遠視・近視で老眼のなりやすさが変わる?
①遠視かどうかを診断する方法は?
遠視の主な診断方法は、以下のとおりです。
| 診断方法 | 内容 |
| 屈折検査 | オートレフラクトメーターと呼ばれる機械で目の屈折状態を測定し、ピントのずれを評価する |
| 視力検査 | 視力表を使って、どれくらい見えているかを調べる |
| 眼底検査 | 瞳孔を開く目薬を点眼後、眼球内部を観察し、視神経や血管などの状態に異常がないか確認する |
これらの検査は眼科で行えるため、遠視と老眼のどちらか判断したい方は医療機関を受診しましょう。
②遠視の治療法はある?
現在、遠視の治療法はありません。さまざまな機器を使い、視力を矯正する方法が基本です。
矯正方法は、患者さんの年齢や生活スタイル、目の状態に合わせてメガネ・コンタクトレンズ・ICLなどから選択されます。条件を満たす方であれば、レーシック手術も選択肢の一つです。レーシックを受けられるかどうかは、眼科医に相談して判断してもらいましょう。
遠視の方は、症状が悪化しないよう生活習慣に気をつけることも大切です。暗い場所での作業や長時間のパソコン作業などを避け、こまめに休憩を取り入れることをおすすめします。目が疲れていると感じたら、ストレッチをしたり、目を温めたりするとよいでしょう。
③遠視・近視で老眼のなりやすさが変わる?
遠視と近視の方で、老眼のなりやすさは変わりません。老眼は加齢によるピント調節機能の衰えであり、遠視・近視にかかわらず、誰にでも起こることです。ただし、老眼の自覚のしやすさには違いがあります。
遠視は、遠近どちらにもピントがずれており、近くの物がぼやけて見えます。もともとのピント調節の労力に加えて、加齢で調節力が衰え、ピントを合わせることがさらに難しくなるため症状を自覚しやすい傾向があります。
一方、近視は、もともと手元にピントが合っています。老眼が始まってもメガネを外せば手元が見えるので、老眼の症状に困ることは少ないです。調節機能は衰えており、老眼にならないわけではありません。
まとめ
手元が見えにくいという症状は似ていますが、老眼と遠視では症状や発症原因が異なります。老眼が加齢によるピント調節力の衰えであるのに対し、遠視は生まれつきの目の形が原因という違いがあります。
どちらの症状も、「年のせいだから」と自己判断で放置すると、仕事や日常生活に支障をきたすため注意が必要です。見え方に変化を感じたら、我慢しないで眼科に相談しましょう。
参考文献
- 公益社団法人 日本眼科医会:「40代から始まる目の老化」.
- 公益社団法人 日本眼科医会:「子どもの遠視」.
- Prabhakar Singh, Marco Zeppieri, Koushik Tripathy. Presbyopia. StatPearls,2025.
