毎日仕事や勉強に打ち込んできたのに、突然心が空っぽになり、前に進むエネルギーが湧かなくなる。それは心身のエネルギーが枯渇した、燃え尽き症候群かもしれません。
真面目で責任感が強い人ほど陥りやすいこの状態は、特に医療従事者の間でも問題として認識されています。(※1)
放置すると、仕事のパフォーマンスが低下するだけでなく、適応障害・うつ病などの精神疾患につながる危険性も指摘されています。
この記事では、症状の原因や、何科を受診すべきかを解説します。自分の心と体を守るために、早めに知っておきたいポイントを押さえておきましょう。
目次
燃え尽き症候群とは心身のエネルギーが枯渇した状態
燃え尽き症候群は、長期間にわたる過度なストレスによって心身のエネルギーが枯渇してしまった状態です。
ここでは、具体的な症状や原因、うつ病・適応障害との違いを見ていきましょう。
燃え尽き症候群の症状は疲労感・無気力・cynicism(冷笑的態度)
燃え尽き症候群の症状は、疲労感・無気力・cynicism(冷笑的態度)の主に3つが現れます。これらのサインは、自分では「ただの疲れ」や「気の緩み」だと思い込んでしまいがちですが、重要な警告信号です。
症状はそれぞれ、マスラック・バーンアウト・インベントリー (Maslach Burnout Inventory)により、「情緒的消耗感」 「脱人格化」 「個人的達成感の低下」 の3つに定義されています。
情緒的消耗感は、仕事を通じて感情的な労力を出し尽くし、消耗してしまった状態です。心が完全に疲れ果て、エネルギーが底をついた感覚です。週末にしっかり休んでも疲れが取れなかったり、朝起き上がるのが億劫に感じたりします。
脱人格化は、思いやりを持って接していた同僚、顧客、知人・友人などに対して、非人間的で冷たい態度をとってしまう状態です。意識的に距離を置いたり、皮肉を言ったりすることで、精神的な負担から自分を守ろうとする心の防衛反応です。
個人的達成感の低下は、仕事を遂行したことに対する達成感を実感できなくなり、仕事の喜びや楽しさ、やりがいを感じられなくなることを言います。「自分は仕事で成果を出せていない」「役に立っていない」と自己評価が低下し、仕事の能率も落ちてしまうため、さらに自信を失うという悪循環に陥ります。これらの状態が続くと、仕事のミスが増えたり、アルコールに頼るなどの行動につながったりする危険性も指摘されています。
燃え尽き症候群の原因は過度な努力と報われない感覚の蓄積
燃え尽き症候群は、個人の性格だけで起こるものではなく、過度な努力と報われない感覚の蓄積から発症します。
燃え尽き症候群の原因は逃げ場のないストレスなどの環境要因と、過度の真面目さなどの個人要因の2つです。
真面目な性格は本来は長所ですが、過酷な環境と結びつくと燃え尽きのリスクを高めてしまいます。
うつ病・適応障害との違い
燃え尽き症候群は正式な病名ではないため、実際の診療では適応障害やうつ病と診断されることがあります。特に燃え尽き症候群と適応障害は状態が似通っている部分もあり適応障害と診断されるケースが少なくありません。
| 燃え尽き症候群 | 適応障害 | うつ病 | |
| 主な原因 | 特定の活動(主に仕事)に関する慢性的なストレス | 転職、異動、人間関係など明確で特定のストレス因がある | 特定の原因がないことも多く、多様な要因が複雑に関係する |
| 症状の範囲 | 仕事に関連する場面で強く現れ、私生活では比較的元気なこともある | ストレス因に関連する状況で不安や抑うつが強くなる | 趣味や私生活も含め、生活全般にわたって意欲や興味がなくなる |
| 中心的な感情 | ・疲労困憊 ・意欲の枯渇 ・仕事への冷めた気持ち | ・不安 ・焦り ・怒り ・涙もろさ | ・強い抑うつ気分 ・自己否定 ・自分を責める気持ち(罪悪感) |
燃え尽き症候群の特徴は、医療、教育、福祉などに代表される対人コミュニケーションを主とする職種に多いことです。
燃え尽き症候群の状態を放置し長期化することで、うつ病に移行するケースも見られます。ただの疲れと軽視せず、専門の医療機関で診察を受けることが、回復への第一歩です。
相談すべき診療科と受診の目安
相談先としては、精神科、心療内科、メンタルクリニックが挙げられます。相談すべき診療科と受診の目安を以下に解説します。
精神科・心療内科の違い
日常生活や仕事に支障が出たら受診する
初診で伝えるべき症状と経過
精神科・心療内科の違い
精神科、心療内科は、扱う領域が重なる部分も多いですが、それぞれに得意とする分野があります。以下の表をご自身の症状に合わせて選ぶ際の参考にしてください。
| 診療科の種類 | 主な対象となる症状 | 特徴 |
| 精神科 | ・気分の激しい落ち込み ・無気力 ・強い不安感やイライラ ・眠れない ・食欲がない | ・心の不調を脳の機能的な問題と捉え、薬物療法や精神療法を軸に治療を進める ・うつ症状や不安が特に強い場合に適している |
| 心療内科 | ・原因不明の頭痛や腹痛 ・動悸 ・めまい ・吐き気・過呼吸 ・食欲不振 | ・ストレスが引き金となって体に不調が現れる心身症が専門 ・心理的な背景を探りながら、心と体の両面からアプローチ |
(※実際には『心療内科・精神科』と併記するクリニックが多く、どちらでもうつ状態の相談が可能なケースが一般的です。)
これらの診療科で対応できる症状は重なっており、燃え尽き症候群の疑いがある場合、どの科を受診しても相談は可能なことがほとんどです。
一人で抱え込まずに専門家につながることが大切です。まずは通いやすい場所にあるクリニックを選んでみるのが良いでしょう。
日常生活や仕事に支障が出たら受診する
日常生活や仕事に影響が出ているなら、心が限界を迎えているサインです。
以下のチェックリストで、ご自身の状態を確認してみてください。
| 影響 | 症状 |
| 仕事や学業への影響 | ・単純なミスが増えた・同僚や顧客に対する冷たい態度 |
| 日常生活への影響 | ・起き上がれない・興味がなくなる・感情の起伏が激しくなる |
| 身体的な変化 | ・疲れが抜けない・頭痛や胃の不調・睡眠障害 |
これらの項目に複数当てはまる場合、専門家のサポートがおすすめです。
初診で伝えるべき症状と経過
初めての受診では、緊張からうまく話せるか不安になる方も多いでしょう。
以下のように事前にご自身の状態をメモにまとめておくと、医師に状況をスムーズに伝えられ、より的確な診断につながります。
メモを見ながら説明したり、医師の質問に一つひとつ答えたりする形で大丈夫です。ゆっくりでもいいので、ご自身の状態をしっかりとお話下さい。
燃え尽き症候群で受診する際のポイント
ここでは、燃え尽き症候群で受診する際に抑えておきたいポイントを見ていきましょう。
いつから症状が出ているのか整理する
医師が診断を下す上で、症状がいつから、どのように始まったかという時間的な経過は、燃え尽き症候群なのか、うつ病など他の病気の可能性があるのかを見極める上で大切です。
受診前に、ご自身の症状の歩みを時系列でメモに書き出すことで、診察時に落ち着いて状況を伝えられます。
- なんとなくやる気が出ないと感じ始めたのはいつ頃か?
- 症状が強くなった時期や、少し楽になった時期はあるか?
- 症状が出始める前に、仕事や私生活で大きな出来事や環境の変化はあったか?
- 症状は一日中同じか?朝がつらく、週末は少し楽になるなど、時間や曜日による変化はあるか?
これらの情報を整理することで、医師は症状の背景を理解でき、的確な診断に近づくことができます。
生活への影響を具体的に伝える
症状があなたの日常生活への影響を具体的に伝えることが大切です。医師は、生活への影響の度合いから症状の重症度を判断し、休職の必要性などのサポート内容を検討します。
仕事や学習面では、単純なミス、集中力が続かないなどが挙げられ、家庭・日常生活では、家事が手につかない、趣味に興味が向かないなどの影響がみられます。
会話すら億劫、ささいな言動にイライラするなど、対人関係面は生活に影響を及ぼします。
このような、困っていることを具体的に話していただくことで、あなたに合った治療方針を一緒に考えることができます。
どのような治療があるかを知る
どのような治療の選択肢があるかを知っておくと、医師からの説明も理解しやすくなり、安心して治療に臨めます。
まず治療で優先的なのが、適切な休息を取ることです。仕事の負担軽減や、休職も有効な選択肢です。
クリニックの診察では、精神療法としてストレスの原因となっている考え方や行動パターンを見直し、ストレスへの対処法を一緒に考えることもあります。
最近の研究では、マインドフルネス(今この瞬間に意識を向ける心の練習)や、自分の感情を客観的に理解しうまく付き合うためのトレーニングが、燃え尽き症候群の症状緩和に役立つことが報告されています。(※2)
不眠、不安感、気分の落ち込みなどが著しい場合、症状を和らげるために、睡眠導入剤や抗不安薬、抗うつ薬などが用いられますが、心身の負担を軽くし、休養に集中しやすくするための、補助的な治療が一般的です。
ストレス要因や環境の変化を振り返る
燃え尽き症候群は、個人の性格だけで発症するものではなく、職場や家庭といった環境に、本人も気づかないほどのストレス要因が潜んでいます。どのような環境があなたを追い詰めているのかを振り返ることは、根本的な解決と再発予防のために大切です。
長時間労働や休日出勤、評価されていない環境、自分の時間が持てない、家族やパートナーの関係や経済的な心配事などが、ストレス要因として挙げられます。
これらのストレス要因を医師に伝えることで、環境調整に関する具体的なアドバイスにつながるでしょう可能性があります。
過去の病歴や服薬歴を共有する
現在や過去の病気、そして服用しているお薬に関する情報は、安全な治療を行うために大切です。
診療内科や精神科で処方される薬は、他の薬との飲み合わせ(相互作用)に注意が必要なものが少なくありません。そのため、以下の情報は確実に伝えるようにしましょう。
| 伝える情報 | 具体例 |
| 現在治療中の病気 | 高血圧、糖尿病、甲状腺疾患など、精神科以外の病気も |
| 過去の大きな病歴 | 入院や手術の経験、うつ病や不安障害などの診断歴 |
| 服用中の薬 | 処方薬のほか、市販薬、サプリメント、漢方薬など |
| アレルギー歴 | 薬や食べ物でアレルギー反応が出た経験 |
| ご家族の病歴 | ご家族(特に血縁の近い方)に心の病気の治療歴があるか |
口頭で全てを伝えるのが難しい場合は、「お薬手帳」を持参するのが確実です。
受診を迷っている人に向けて
最近、何もやる気が起きない。もしかして燃え尽き症候群かもしれないと感じつつも、専門の医療機関へ足を運ぶことに、ためらいを感じる方は少なくありません。
専門家に相談することは、特別なことや大げさなことではありません。ご自身の心身をこれ以上傷つけず、回復への道をたどるための、前向きな一歩といえます。
受診を迷っている人は、早めの相談が大切な理由と、受診前にできるセルフチェックを確認しましょう。
早めの相談が大切な理由
早めの相談が大切な理由は、症状の深刻化を防ぎ、回復を早めるため、正確な診断に基づいた、適切な対処法を知るため、自分を責める悪循環から抜け出すための3つの点になります。
燃え尽き症候群は、個人の頑張りすぎだけでなく、職場の過酷な環境や組織的な問題が原因となっていることが少なくありません。
一人で抱え込むと自分を責めてしまいがちですが、専門家という第三者に相談することで、客観的に状況を見つめ直すきっかけになります。
受診前にできるセルフチェック
自身の心と体の状態を客観的に振り返るために、以下の項目で当てはまるものがないかチェックしてみましょう。
| 枯渇サイン | |
| 心のエネルギー | ・以前は情熱を注いでいた仕事が、作業にしか感じられない ・周囲の人や物事に冷めた、皮肉な態度をとってしまう ・自分の仕事や役割に、強い無力感やむなしさを感じる ・ささいなことで感情的にイライラしたり、涙が出たりする |
| 体の悲鳴 | ・十分休んだはずなのに、体が鉛のように重い ・検査しても異常がないのに、頭痛や胃の不調が続いている ・夜中に何度も目が覚める、いくら寝ても眠気がとれない ・食欲が全くない、甘いものや脂っこいものばかり食べてしまう |
| 行動の変化 | ・職場や学校へ行くことを考えると、体が動かなくなる ・親しい友人や家族と会うことさえ、億劫に感じる ・仕事や家事で、ケアレスミスが明らかに増えた |
項目に複数当てはまる場合、あなたの心身は限界に近いかもしれません。当てはまる項目が少なくても、つらいと感じることが続くなら、一人で抱え込まず専門家へご相談ください。
まとめ
燃え尽き症候群は、真面目に頑張るあなただからこそ陥ってしまう心身のエネルギー切れの状態です。以前のようにやる気が出ない仕事のことを考えると体が重いと感じるのは、あなたの心が発しているサインかもしれません。
専門家に相談することは、自分を守るための第一歩です。日常生活や仕事に支障を感じ始めたら、一人で抱え込まず精神科や心療内科、メンタルクリニックに相談しましょう。
参考文献
- Evija Nagle, Inguna Griskevica, Olga Rajevska, Andrejs Ivanovs, Sandra Mihailova, Iluta Skruzkalne. Factors affecting healthcare workers burnout and their conceptual models: scoping review. BMC Psychology,2024,12,1,p.637.
Qi Wang, Fang Wang, Shurong Zhang, Chaofan Liu, Yue Feng, Junzhu Chen. Effects of a mindfulness-based interventions on stress, burnout in nurses: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Psychiatry,2023,14,p.1218340.
