仕事で疲れが溜まっているときや寝不足の朝に、歯茎が腫れたり痛んだりした経験はありませんか?
その症状は、ストレスが原因になっている可能性があります。ストレスは免疫力の低下や無意識の食いしばりを招き、口の環境を乱すことで、間接的に歯茎のトラブルを引き起こします。
この記事では、ストレスが歯茎の痛みにつながる仕組み、歯科医院で行われる主な治療法、自宅で取り組める予防・対策を整理して解説します。原因や適切な対策を知り、歯茎の不調を繰り返さないための行動につなげましょう。
ストレスで歯茎が痛くなる主な原因
歯茎の痛みは、細菌だけでなくストレスによる体の変化が関係して起こることがあります。ストレスが続くと免疫力や口の中の環境が乱れ、歯茎に炎症や負担がかかりやすくなります。
ストレスで歯茎が痛くなる主な原因は以下のとおりです。
①免疫力の低下による炎症リスクの増加
②唾液分泌の減少と自浄作用の低下
③歯ぎしり・食いしばりによる歯茎への負担
①免疫力の低下による炎症リスクの増加
過度なストレスは、私たちの体を細菌やウイルスから守る免疫力を低下させることが知られています。ストレスを感じるとコルチゾールというホルモンが分泌され、免疫細胞の働きを一時的に抑制してしまうためです。(※1)
口の中には多くの細菌が存在しますが、普段は免疫機能によって活動が抑えられ、バランスが保たれています。ストレスによって免疫力が低下するとバランスが崩れ、歯周病菌などの悪玉菌に対する抵抗力が弱まってしまうのです。
細菌が活発になり、歯茎が炎症を起こしやすくなります。歯茎が赤く腫れる、歯磨きのときに出血する、ズキズキと痛むなどの症状は、免疫力が低下した体からのサインかもしれません。
②唾液分泌の減少と自浄作用の低下
緊張すると口の中が乾くように、ストレスは唾液の分泌量にも影響します。ストレスによって自律神経のバランスが乱れることが原因です。体を活動的にする交感神経が優位になり、唾液の分泌が抑制されてしまうのです。
唾液は口の健康を守るために、以下のような役割を担っています。
- 自浄作用:食べかすや細菌を洗い流し、口の中を清潔に保つ
- 抗菌作用:唾液に含まれる成分が、細菌の増殖を抑える
- 緩衝作用:食事によって酸性に傾いた口の中を中和し、歯が溶けるのを防ぐ
ストレスによって唾液の分泌が減ると、これらが十分に機能しなくなります。口の中で細菌が繁殖しやすい環境になり、歯垢(プラーク)が溜まりやすくなるのです。虫歯や歯周病のリスクを高め、歯茎の炎症や痛みを悪化させる一因となります。
③歯ぎしり・食いしばりによる歯茎への負担
ストレスを感じると、無意識のうちに歯を強く食いしばったり、夜寝ている間に歯ぎしりをしたりすることがあります。歯や歯茎、歯を支える顎の骨に、歯ぎしりや食いしばりによる強い力がかかり続けてしまいます。
特に、歯と骨をつなぐクッションの役割をしている歯根膜という薄い組織に過剰な負担がかかります。この歯根膜が負担に耐えきれず炎症を起こすと、歯が浮いたような感じがしたり、物を噛むと特定の歯が痛んだりします。
朝起きると顎がだるく、歯茎が痛むのもストレスが原因となっていることがあります。
その他、物理的な負担が歯茎の痛みを引き起こし、長期化すると歯がすり減ったり、歯を支える骨が痩せてしまったりする原因にもなるのです。
ストレスが引き起こす歯茎の痛みの特徴
ストレスが関係する歯茎の痛みには、一般的な歯の病気とは異なる特徴があります。症状の出方や痛みの変化に注目することで、原因を見極めやすくなります。
ここでは、ストレス性の歯茎の痛みの特徴と、見分けが必要な疾患について解説します。
ストレス性の歯茎痛に見られやすい症状とは
ストレスが原因で歯茎が痛む場合、症状の現れ方は人それぞれです。腫れがないのに痛みを感じたり、日によって痛む場所や強さが変わったりすることもあります。
ストレス性の歯茎痛で見られやすい症状を以下にまとめます。
| 部位 | 具体的な症状 |
| 歯や歯茎 | ・歯茎が赤っぽく腫れぼったい ・出血しやすい ・歯が浮いた感じがする ・噛むと鈍い痛みが出る ・しびれるような痛み ・歯のすり減りや欠け |
| 顎や口周り | ・朝に顎がだるい ・口の開閉で音や痛みが出る ・無意識の食いしばり ・頭痛や首肩こりが続く |
| 口全体 | ・口の中のネバつきや乾燥 ・口臭が気になる ・口内炎ができやすい |
これらの症状は複数同時に現れることもあります。歯が浮く感じや朝の顎のだるさは、睡眠中の無自覚な歯ぎしりや食いしばりが原因となっている可能性があります。
口腔心身症や非定型歯痛の可能性
検査を受けても痛みの原因が見つからない場合、口腔心身症や非定型歯痛の可能性も考えられます。
心理的なストレスが複雑に関係し、脳が痛みを感じる仕組み自体に不調が生じることで起こります。歯や歯茎に炎症がなくても、脳が「痛い」という信号を誤って発信してしまう状態です。過去に治療した歯が、ストレスをきっかけに再び痛み出すように感じるケースもこれにあたります。
歯茎のトラブルは、ストレスなどの全身的な要因が関わっていることもあります。気のせいで片付けずに、痛みが続く場合は歯科医師に相談してください。
歯茎の痛みに対する主な治療法
歯茎の痛みを改善するには、原因を正しく見極めたうえで治療を行うことが重要です。痛みの背景によって対処法は異なるため、自己判断せず歯科での診察を受けましょう。
ここでは、歯茎の痛みへの主な治療法を原因別に解説します。
虫歯・歯周病の治療
歯茎の痛みがある場合は、まず虫歯や歯周病の治療を行うことが優先されます。ストレスが影響しているように感じても、口の中に細菌による炎症が残っていると、痛みは改善しません。原因そのものを取り除く治療が、症状改善の基本となります。
虫歯が歯茎の近くまで進行したり、歯と歯の間で広がったりすると、歯茎に炎症が起こり痛みの原因になります。この場合は、虫歯部分を削り、詰め物や被せ物で歯の形と機能を回復させます。
歯周病は、歯と歯茎のすき間に溜まった歯垢や歯石によって炎症が起こる病気で、歯茎の腫れや出血、痛みを引き起こします。歯周病の治療では、歯の表面や歯周ポケット内に付着した汚れを取り除き、細菌が増えにくい環境を整えます。ただし、炎症が強い時には始めに抗生物質を投与し、炎症が少し治まってから歯垢や歯石を除去していきます。
こうした基本的な処置によって、多くの場合、歯茎の腫れや痛みは落ち着いていきます。
歯の神経治療(根管治療)
強い痛みが続く歯茎の症状では、歯の神経まで炎症が進んでいる可能性があり、根管治療が必要になることがあります。
ズキズキと脈打つような痛み、何もしなくても痛む状態は、虫歯が歯の内部に進行しているサインです。この場合、痛みの原因となる感染組織を取り除き、歯を残す治療を行います。
根管治療は、まず細菌に感染した神経や血管を専用の器具で取り除くことから始まります。
次に、根管内の壁を削りながら薬剤で念入りに洗浄・消毒を行い、内部を無菌に近い状態へ整えます。無菌化された根管内には、再感染を防ぐために薬剤を隙間なく充填します。最後に、もろくなった歯を補強するための土台を作り、被せ物を装着することで、歯の本来の機能を回復させます。
歯ぎしりや噛み合わせ異常への処置
ストレスを感じると、無意識のうちに歯を強く食いしばったり、睡眠中に歯ぎしりをしたりすることがあります。この癖は、歯や歯茎に大きな負担をかけ、痛みの原因となります。
歯ぎしりや食いしばりには、以下のような処置を行います。
| 処置 | 具体的な内容 |
| マウスピース(ナイトガード)療法 | ・歯型に合わせて作製したマウスピースを、主に就寝中に装着する ・歯ぎしりによる力を分散させ、歯や顎、歯茎へのダメージを軽減する |
| 噛み合わせの調整 | ・特定の歯だけが強く当たっているなど、噛み合わせのバランスが悪い場合に、歯を少し削って全体のバランスを整える ・一部分に集中していた負担を軽減し、歯根膜へのダメージを和らげる |
治療と並行して、日中に上下の歯が接触していないか意識したり、リラックスする時間を設けたりすることも大切です。歯科での処置とストレス対策の併用が、症状の改善と再発防止につながります。
再発予防に大切なストレス対策と歯茎ケアの習慣
歯茎の痛みを繰り返さないためには、治療後のケアと日常生活の見直しが欠かせません。ここでは、再発予防のストレス対策と歯茎ケアについて解説します。
免疫力を保つために生活習慣を整える
ストレスや疲労が蓄積すると免疫力が低下し、口腔内環境が乱れやすくなり、歯茎が腫れたり痛んだりします。免疫力を高く保つために、以下の生活習慣を見直しましょう。
| 生活習慣 | 具体的な内容 |
| 睡眠 | ・毎日6〜8時間を目安に睡眠を確保する ・就寝前のスマートフォン操作を控える |
| 食事 | ・主食、主菜、副菜をそろえた食事を意識する ・ビタミンA、C、Eを含む野菜や果物を取り入れる |
| 休息 | 趣味や入浴などで心身をリラックスさせ、ストレスを溜め込まない |
歯を支える歯周組織は、失われると再生が難しい場合があります。日々の生活で免疫力を高く保ち、歯茎の組織を守ることが将来の健康につながります。
歯ぎしり・食いしばりを防ぐ習慣を取り入れる
ストレスを感じると、無意識のうちに歯ぎしりや歯の食いしばりをすることがあります。これらの癖は自覚しにくいですが、歯や歯茎に大きな力をかけ、痛みの原因となります。
日中は「上下の歯を離す」ことを意識し、集中しているときに食いしばっていないか時々確認しましょう。頬や顎の筋肉がこわばっている場合は、指でやさしくマッサージしたり、口をゆっくり開け閉めしたりすると緊張が和らぎます。
また、猫背などの前傾姿勢は頭の前傾を誘導し、上下歯列が接触しやすくなることで歯の食いしばりや噛みしめ習癖を増加させる可能性があります。(※2)不良姿勢の癖がある方は、日頃から意識して改善するようにしましょう。
就寝中の歯ぎしりは自分で止めることが難しいため、歯科医院で作るマウスピースを使う方法もあります。寝ている間に力を分散させ、歯や歯茎への負担を減らすことができます。毎日の小さな意識と工夫で、歯茎の健康を守ることにつながります。
正しく歯磨き・歯間ケアを行う
正しい歯磨きと歯間ケアは、歯茎の健康を守る基本です。ストレスで免疫力が下がっているときほど、口の中を清潔に保つことが重要になります。自己流で力任せに磨くと、かえって歯茎を傷つけてしまうこともあるため注意が必要です。
歯磨きは、歯ブラシを鉛筆を持つように軽く握り、歯と歯茎の境目に斜めに当て、小刻みにやさしく動かしましょう。強い力でこすると、歯茎が下がったり炎症が悪化したりする原因になります。
歯と歯の間の汚れは、歯ブラシだけでは落としきれません。デンタルフロスや歯間ブラシを毎日の習慣にし、細かい汚れを丁寧に取り除くことが大切です。歯茎や歯を支える組織は、一度失われると元に戻りにくい場合があります。
日々の正しいケアに加え、定期的に歯科医院で検診やクリーニングを受けることが、健康な歯茎を保つ近道です。
まとめ
ストレスは免疫力の低下や無意識の食いしばりを招き、歯茎のトラブルの引き金になることがあります。痛みの背景には歯周病や虫歯など、治療が必要な原因が隠れているケースも少なくありません。
「ストレスのせいだから」と自己判断で様子を見続けると、症状が長引いたり悪化したりすることもあります。歯茎の違和感や痛みを感じたら、早めに歯科医院を受診し、専門家の診断を受けることが大切です。
適切な治療とケアを行うことで、症状の改善だけでなく再発予防にもつながります。一人で抱え込まず、まずは気軽に相談してみましょう。
参考文献
- Alotiby A. Immunology of stress: a review article. J Clin Med. 2024;13(21):6394.
- 冨田洋介, 鈴木善貴, 田中佑人, ほか. 不良姿勢,噛みしめ癖と肩こりの関連性の検討. 日本顎口腔機能学会雑誌. 2018;25 (1):24-25.
この記事を監修した医師
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谷川歯科医院 歯科医師
谷川 淳一
歯科医師。日本口腔インプラント学会専修医。小児歯科治療や小児矯正、インプラント治療を得意とし、他の歯科医師への指導も行う。
患者様一人ひとりと真摯に向き合って治療方針を決めていくことを信条としている。