歯茎に水ぶくれができても、痛みがなければ問題ないと判断してしまう方は少なくありません。
しかし、歯茎の水ぶくれは軽い口内炎とは限らず、歯の根に膿が溜まる感染症や歯周病などが原因となっている場合もあります。一時的に落ち着いて見えても、原因が残っていれば炎症は進行し、顎の骨が溶けたり歯を失うリスクがあります。
2週間以上改善しない、または同じ場所に繰り返しできる場合は、自己判断せず歯科医院を受診することが大事です。
この記事では、歯茎に水ぶくれができる原因や注意すべき症状、治療の選択肢を整理します。原因や治療の選択肢を知って、対策できるようにしましょう。
歯茎に水ぶくれができる主な原因
歯茎の水ぶくれは、口内炎など自然に治るものから、専門的な治療が必要な疾患までさまざまです。水ぶくれの原因は、炎症の場所や性質によって主に以下の4つに分類されます。
- 口内炎による一時的な水ぶくれ(アフタ性・ウイルス性)
- 歯の根に膿が溜まることで起こる水ぶくれ(サイナストラクト)
- 歯周病の悪化による歯肉膿瘍
- 唾液腺の詰まりで起こる粘液嚢胞
口内炎による一時的な水ぶくれ(アフタ性・ウイルス性)
歯茎の水ぶくれで身近な原因の一つが口内炎です。厳密には水ぶくれではありませんが、粘膜の炎症によって腫れ、水ぶくれのように見えることがあります。
口内炎には、主に以下の2つの種類があります。
| 種類 | 特徴 |
| アフタ性口内炎 | ・中央が白く、周りが赤い円形のくぼみになることが多い ・ストレスや疲れ、ビタミンB群などの栄養不足が要因となりやすい ・食べ物や飲み物がしみやすい ・1〜2週間ほどで自然に治ることが多い |
| ウイルス性口内炎 | ・単純ヘルペスウイルスなどが原因で起こる ・小さな水ぶくれが複数でき、破れてただれる ・高熱やリンパ節の腫れ、強い痛みを伴うこともある ・免疫力が未熟な小さな子どもに見られやすい |
アフタ性口内炎は、十分な休養と栄養を摂ることで自然に改善しやすいです。痛みが強い場合や2週間以上治らない場合は、ほかの病気の可能性も考えられるため、歯科医院に相談しましょう。
歯の根に膿が溜まることで起こる水ぶくれ(サイナストラクト)
口内炎に似ていますが、痛みが少なく自然に治ることがない水ぶくれにサイナストラクト(瘻孔:ろうこう)があります。これは、歯の根の先に溜まった膿を排出するための出口です。
虫歯や歯の亀裂から細菌が歯の神経まで入り込み、歯の根の先で増えて膿がたまります。たまった膿は出口を求めて骨を溶かしながら進み、最終的に歯ぐきの表面に出てきます。
サイナストラクトは、膿を出すと内部の圧力が下がり痛みが少なくなるため、長期間放置してしまう方も多いです。
原因である歯の根の感染は治っておらず、放置すると周囲の骨がさらに溶かされます。抜歯の可能性もあるため、歯科での専門的な治療(根管治療)が大切です。
歯周病の悪化による歯肉膿瘍
歯肉膿瘍(しにくのうよう)は、歯周病が進行し歯茎が大きく腫れ、膿が溜まって水ぶくれのようなものができた状態です。
歯周病の進行で深くなった歯周ポケットに膿が溜まり、免疫力低下などで出口が塞がることがあります。逃げ場を失った膿が歯茎内部に蓄積して大きく腫れ上がり、水ぶくれのようになります。
歯肉膿瘍には、以下の症状を伴いながら悪化するのが特徴です。
- ズキズキと脈打つような強い痛み
- 歯が浮いたような感覚
- 噛んだときの痛み
- 歯茎からの出血や膿の排出
歯周病では、歯周ポケット内の細菌に対抗する免疫反応が過剰になることで、特に好中球などの免疫細胞が歯茎や歯槽骨を傷つけ、病変が進行することがあります。(※1)歯周病は、骨粗鬆症などの全身の骨の病気とも関連するので、放置しないようにしましょう。(※2)
唾液腺の詰まりで起こる粘液嚢胞
唇や頬の内側、舌の下などに、粘液嚢胞(ねんえきのうほう)と呼ばれる透明感のあるドーム状の水ぶくれができることがあります。
粘膜を噛んでしまったり、食べ物で傷つけたりすることで、唾液腺が傷つき、出口が塞がれてしまいます。作られた唾液の行き場がなくなり、粘膜の下に溜まって水ぶくれとなるのです。
粘液嚢胞の特徴は以下のとおりです。
- 透明〜やや青みがかった色をしている
- 大きさは数ミリ〜1センチ程度
- 痛みはほとんどない
- 自然に破れて一時的にしぼむことがあるが、再発しやすい
自然に治ることもありますが、同じ場所で何度も繰り返すことが多いです。食事の邪魔になったり、見た目が気になったりする場合には、摘出する手術が必要になることもあります。
注意が必要な歯茎の水ぶくれ
水ぶくれには、放置すると重症化するリスクや重大な病気のサインが隠れているものもあります。ここでは、歯科医院への相談を検討すべきケースを解説します。
繰り返す・大きくなる・治らない場合
歯茎の同じ場所に水ぶくれが繰り返しできる、大きくなる、2週間以上経っても治らない場合は注意が必要です。サイナストラクトや粘液嚢胞などの病気の可能性があり、これらの病気は自然に治ることが難しく、再発を繰り返す特徴があります。
原因を特定して適切な治療を受けるために、早めに歯科医院を受診しましょう。
強い痛みや発熱を伴う場合
歯茎の水ぶくれに加えて、ズキズキとした強い痛みや38℃を超える発熱がある場合は、歯肉膿瘍などの急性の細菌感染が起きている可能性が高いです。
感染がさらに広がる前に治療を開始する必要があります。我慢せずに、できるだけ早く歯科医院に連絡してください。
口腔がん・自己免疫疾患が疑われるケース
頻度はまれですが、治りにくい水ぶくれやただれが、口腔がんや自己免疫疾患の初期症状の場合もあります。以下のような特徴が見られる場合は、詳しい検査が必要です。
| チェック項目 | 口腔がんの主なサイン | 自己免疫疾患の主なサイン |
| 硬さ | 水ぶくれの周りや底部に硬いしこりを感じる | 通常は硬いしこりを伴わない |
| 見た目 | 表面がただれて潰瘍のようになったり、治らなかったりする | 破れやすい水ぶくれが多発し、粘膜が剥がれたようになる(びらん) |
| 出血 | 歯磨きなどのわずかな刺激で簡単に出血する | びらん部分からの出血がある |
| 範囲 | 1か所にとどまることが多い | 口の中の広い範囲や、皮膚などほかの部位にも症状が出ることがある |
これらの特徴に少しでも当てはまる、または「いつもと違うな」と感じる場合は、自己判断せずに歯科医院を受診してください。
歯茎の水ぶくれは何科を受診する?
歯茎の水ぶくれは原因が多岐にわたるため、まずは歯科医院での診断が基本です。受診先の選び方の基準や、受診前に知っておきたい応急処置について解説します。
まずは歯科を受診すべき理由
歯ぐきの腫れは、虫歯や歯周病など歯や歯を支える組織のトラブルが原因になっていることが多いため、まずは歯科を受診するのが基本です。歯科ではレントゲンや歯科用CTで歯の根や顎の骨まで確認でき、見た目だけでは分からない感染や異常も判断できます。
原因が分かれば、根管治療や歯周病治療など適切な処置につながり、放置して悪化するのを防げます。もし治りにくい腫れが続く場合でも、必要に応じて専門の医療機関へ紹介してもらえるため安心です。
歯ぐきの腫れを自己判断で放置すると、内部で炎症が進行することもあるので、早めに相談しましょう。
口腔外科・皮膚科が適するケース
歯茎の水ぶくれの多くは歯科医院で対応できますが、手術が必要な場合や皮膚にも症状がある場合は、口腔外科や皮膚科が適しています。
口腔外科が適しているのは、主に外科的な処置が必要なケースです。唾液の出口が詰まった袋(粘液嚢胞)が何度も再発する場合や、親知らず、顎の骨の中に膿が溜まっているときなどが当てはまります。がんなどの重大な病気が疑われ、専門的な検査が必要な場合も口腔外科の担当です。
皮膚科が適しているのは、唇や体の皮膚にも水ぶくれやただれが出ているケースです。ヘルペスによる感染や、全身に関わる皮膚の病気の可能性があります。
どこへ行くべきか迷ったときは、まずかかりつけの歯医者さんに相談しましょう。診察の結果、必要に応じて適切な専門の病院を紹介してもらえるので安心です。
受診前にできる応急処置と注意点
受診前は、お口の中を清潔に保ち、水ぶくれへの刺激をできるだけ減らすことが大切です。ぬるま湯や低刺激の洗口液で軽く口をゆすぎ、食事は刺激の少ないものを選びましょう。
一方で、患部を指や舌で触る、つぶす、市販薬を自己判断で使うなどは悪化の原因になるため避けてください。口の中は細菌が多く、傷ができると二次感染が起こりやすくなります。
応急処置は一時的な対策にすぎないため、症状が落ち着いたように感じても早めに歯科を受診しましょう。
水ぶくれが潰れた場合の対処
意図せず歯茎の水ぶくれを潰してしまうことがあります。潰れてしまった場合は、ぬるま湯や刺激の少ない洗口液で口の中をやさしくすすぎ、汚れを軽く洗い流しましょう。強くうがいをすると傷口を刺激するため避けてください。
潰れた部分から膿が出ても、指で押し出す行為は控える必要があります。細菌が深部に入り込み、感染が広がる可能性があります。潰れて一時的に症状が落ち着いても、原因が解消されたわけではありません。
特に歯の根の感染が原因の場合、顎の骨の中で炎症が進行することがあります。再発を防ぐためにも、潰してしまった場合は早めに歯科を受診してください。
歯茎の水ぶくれの治療法
適切な処置を行うために、まずは精密な診査から始まります。原因特定のための検査や具体的な治療法、治療にかかる期間・費用の目安を解説します。
原因を調べる検査(レントゲン・CTなど)
歯茎の水ぶくれを適切に治療するためには、原因の正確な特定が欠かせません。歯科ではまず視診や触診を行い、水ぶくれの大きさや形、色、硬さ、痛みの有無などを確認します。
続いてレントゲン検査で、歯の根の先や歯を支える骨の状態を調べます。サイナストラクトが疑われる場合には、どの歯に感染が及んでいるかを特定する重要な検査です。さらに詳しい評価が必要な場合には、歯科用CTを用いて立体的に確認します。
検査を組み合わせることで、水ぶくれの原因を特定し、症状に応じた適切な治療方針を立てることが可能になります。
原因別の治療法(根管治療・投薬・外科処置)
検査で歯茎の水ぶくれの原因が特定できたら、原因ごとに以下のような治療を行います。
| 原因 | 主な治療法 | 治療内容の例 |
| サイナストラクト | 根管治療 | ・原因となっている歯の神経の管(根管)を洗浄・消毒する ・細菌を取り除き、再感染を防ぐ薬剤を詰める |
| 歯周病、歯肉膿瘍 | 歯周基本治療 外科的処置 | ・歯石や歯垢(プラーク)などの細菌の塊を専用の器具で除去する ・症状が重い場合は、歯茎を切開して膿を出す処置を行うこともある |
| ヘルペス性口内炎など | 薬物療法 | ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬や、痛みを和らげる薬、細菌による二次感染を防ぐための抗菌薬などが処方される |
| 粘液嚢胞 | 外科的切除 | 何度も繰り返す場合は嚢胞を切除する手術を行うことがある |
治療期間と費用の目安
治療にかかる期間や費用は、水ぶくれの原因や症状の重さ、治療内容によって異なります。
一般的な費用の目安は以下のとおりです。
| 原因となる病気 | 治療期間の目安 | 費用の目安(保険適用3割負担の場合) |
| 口内炎 | 1~2週間程度 | 1,000~3,000円程度(軟膏の処方など) |
| サイナストラクト | 1~数か月(通院3~5回程度) | 1本の歯につき、5,000~20,000円程度 |
| 歯周病 | 数か月~1年以上 | 3,000~数万円(進行度や治療範囲による) |
| 粘液嚢胞 | 1~2週間(手術および抜糸) | 5,000~10,000円程度 |
治療の主なリスクとして、治療後の痛み、再感染の可能性、外科的処置に伴う腫れなどがあげられます。
根管治療や歯周病の治療は、口の状態によって通院回数や期間が長くなる傾向があります。正確な金額については、治療の開始前に歯科医院で確認しましょう。
再発を防ぐための予防とセルフケア
治療後の健康な状態を長く保つためには、日々のセルフケアとプロによる管理の両立が欠かせません。再発防止のために大切な3つの予防策を解説します。
正しい歯磨きと口腔ケアを続ける
歯茎の水ぶくれは、虫歯や歯周病などの細菌感染が原因となることが多く、再発を防ぐためには毎日の口腔ケアが重要です。歯磨きの目的は、原因菌の温床となる歯垢(プラーク)を取り除くことにあります。
歯垢は細菌が形成するバイオフィルムに覆われており、これが放置されると歯茎の炎症が慢性化しやすくなります。歯ブラシは毛先が柔らかくヘッドの小さいものを選び、力を入れすぎず、歯と歯茎の境目に毛先を当てて小刻みに磨くことが大切です。
歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れは十分に落とせないため、デンタルフロスや歯間ブラシを併用し、歯間部の清掃も習慣化しましょう。正しい方法で口腔ケアを続けることが、歯茎の水ぶくれを繰り返さないための基本です。
歯周病・虫歯を防ぐ生活習慣を身につける
歯周病や虫歯の予防には、生活習慣を整えることも大切です。歯周病は免疫機能の乱れで悪化しやすい慢性的な炎症性疾患であり、食事や睡眠、ストレスの影響を受けやすい特徴があります。
普段の生活習慣から以下のポイントを意識しましょう。
- 栄養バランスを整えた食事をする
- よく噛んで食べる
- 喫煙を避ける
- 十分な睡眠を確保する
日々の生活習慣を見直すことは、歯茎の健康を守るだけでなく、全身の健康維持にもつながります。
定期検診で早期発見・再発予防を行う
歯ぐきの水ぶくれを繰り返さないためには、歯科医院での定期検診が大切です。定期的にクリーニングを受けることで、歯みがきだけでは落としきれない歯石や細菌のかたまり(バイオフィルム)を除去でき、炎症の原因を減らせます。
また、異常を早い段階で見つけられるため、治療が必要になっても痛みや期間、費用を抑えやすくなります。さらに、磨き残しやすい場所や歯並びに合わせたセルフケアの指導を受けられるのもメリットです。
自覚症状がなくても、3か月〜半年に一度を目安に定期検診を受けると安心です。
まとめ
歯茎の水ぶくれは、自然に治る口内炎の場合もありますが、歯の根の感染(サイナストラクト)や歯周病の進行など、歯科治療が必要な病気のサインの可能性もあります。痛みがないからと自己判断で放置すると、気づかないうちに症状が進行する可能性があります。
原因を正確に見極め、適切な対応を行うことが、歯と口の健康を守るためには大事です。歯茎に違和感や変化を感じた場合は、自分で水ぶくれを潰さず、早めに歯科医院へ相談しましょう。
参考文献
- Si L, Li N, Yang K. Neutrophils and periodontitis: from pathological mechanisms to therapeutic opportunities. Int Immunopharmacol. 2026;168(Pt 2):115912.
- Contaldo M. Periodontal disease and osteoporosis: a bidirectional relationship. Adv Exp Med Biol. 2026;1492:163-178.
この記事を監修した医師
-

谷川歯科医院 歯科医師
谷川 淳一
歯科医師。日本口腔インプラント学会専修医。小児歯科治療や小児矯正、インプラント治療を得意とし、他の歯科医師への指導も行う。
患者様一人ひとりと真摯に向き合って治療方針を決めていくことを信条としている。