歯磨きの際、歯茎から出血して驚いた経験がある方も多いでしょう。歯茎からの出血は一時的なトラブルと思われがちですが、歯周病やそれ以外の病気の可能性があります。
歯茎からの出血を放って置くと、最悪の場合、歯を失ったり、炎症が全身に影響して糖尿病や心疾患などの持病が悪化する可能性もあるため、出血が続く場合は早めに歯科を受診することが重要です。
この記事では、歯茎から血が出る主な原因や考えられる病気、適切な対処法を解説します。歯の健康を守るために正しい知識を身につけ、早い段階での適切な対応につなげましょう。
歯茎から血が出る原因と考えられる病気
歯茎からの出血の多くは、歯周病や歯肉炎などの口腔内トラブルが原因です。糖尿病や血液の病気、ホルモンバランスの変化、服用中の薬など、全身の状態が関与している場合もあります。
以下のような原因が考えられることを理解し、適切な対処や早期受診につなげましょう。
- 歯周病・歯肉炎
- 糖尿病・白血病など全身疾患との関連
- 妊娠・更年期によるホルモンバランスの変化
- 降圧剤・抗血栓薬など薬の副作用
- 過度なブラッシング
歯周病・歯肉炎
歯茎からの出血の多くは、歯周病、もしくはその初期段階である歯肉炎が原因です。口の中に残った食べかすを栄養に細菌が増え、プラーク(歯垢)がたまることで炎症が起こります。
歯肉炎は、プラークが出す毒素によって歯茎だけに炎症が起きている状態です。歯茎が赤く腫れ、歯磨きなどの軽い刺激でも出血しやすくなりますが、歯を支える骨にはまだ影響がなく、痛みを感じにくいのが特徴です。
一方、歯周病(歯周炎)は歯肉炎が進行し、炎症が歯を支える顎の骨にまで及んだ状態です。歯と歯茎の間の歯周ポケットが深くなり、膿が出る、口臭が強くなる、歯がぐらつくといった症状が現れます。
一定期間歯磨きをしないと、プラークが蓄積し、健康な人でも歯肉炎が生じやすくなります。丁寧に歯磨きすることが大事です。
糖尿病・白血病など全身疾患との関連
歯茎からの出血は、歯や歯茎だけの問題ではなく、全身の病気が関与しているかもしれません。頻度は高くないものの、以下のような症状は体調の変化を知らせる重要なサインとして現れることがあります。
- 歯茎からの出血が繰り返し起こる
- 出血がなかなか止まらない
- ぶつけた覚えがないにもかかわらず、あざができやすい
歯周病と糖尿病は、深い関連があります。高血糖の状態が続くと免疫機能が低下し、歯周病が発症・進行しやすくなります。歯周病による慢性的な炎症により、インスリンの働きを妨げ、血糖コントロールが難しくなるのです。
白血病などの血液疾患では、歯茎からの出血が初期症状としてみられることがあります。血液を固める血小板の数が減少したり、機能が低下したりすることで、歯茎から出血しやすくなり、出血が止まりにくくなることがあります。
妊娠・更年期によるホルモンバランスの変化
妊娠中や更年期は、女性ホルモンの変動によって歯茎から出血しやすくなります。
妊娠中はホルモン分泌の増加により歯周病菌が増えやすく、歯茎の血管も拡張するため、軽い歯磨きでも炎症や出血が起こりやすくなります。
一方、更年期はホルモン低下によって唾液が減り、口の中を守る力が弱まります。その結果、歯周病が進行しやすくなり、歯を支える骨への影響が出ることもあります。
妊娠中や更年期の歯茎からの出血は、一時的な変化と捉えられがちです。しかし、適切なケアを行わない場合、歯周病が進行することもあります。歯茎の変化に気づいた際は、日常のセルフケアを丁寧に行い、歯科医院での定期的なチェックを受けることが大切です。
降圧剤・抗血栓薬など薬の副作用
服用している薬が、歯茎からの出血に影響している場合があります。
降圧剤の一部では、歯茎が腫れる薬物性歯肉増殖が起こりやすく、歯垢がたまりやすい状態になることで炎症や出血につながります。抗血栓薬を服用している場合は、歯磨きなどの軽い刺激でも出血しやすく、止血に時間がかかることがあるでしょう。
歯茎からの出血が気になる場合は、服用中の薬の内容を歯科医師に伝えてください。受診時にお薬手帳を持参すると、診療がスムーズになります。自己判断による服用の中断しないようにしましょう。
過度なブラッシング
歯を清潔に保とうとするあまり、ブラッシングが過度になると、かえって歯茎を傷つけて出血の原因になることがあります。
硬すぎる歯ブラシは汚れが落ちやすそうに感じますが、歯茎への刺激が強く、使い続けると表面が傷ついて出血しやすくなります。また、歯ブラシを強く押し付けて磨く癖があると、歯茎がすり減る歯肉退縮を招き、出血につながることもあります。
プラークは強い力を加えなくても落とせます。出血を防ぐためには、力を入れすぎず、やさしく丁寧に磨くことが大切です。
歯茎から血が出たときの対処法
歯茎から血が出たときは、出血の量や痛みの有無など、口の中の状態を落ち着いて確認しましょう。ここでは、歯茎から出血したときの対処法に関する以下の内容を解説します。
- 今すぐできる応急処置
- 出血を悪化させる行動
- 出血を放置するリスク
今すぐできる応急処置
歯茎から血が出た場合は、落ち着いて応急処置を行います。
まず、冷たい水・ぬるま湯で軽く口をゆすぎ、血液を静かに洗い流します。強いうがいや刺激の強い洗口液は、止まりかけた血を再び出血させる原因となるため避けてください。
次に、清潔なガーゼや脱脂綿を出血部位に当て、5〜10分ほど軽く圧迫して止血します。ティッシュは繊維が残りやすいため、ガーゼの使用が適しています。
止血中は血行が促進されないよう、激しい運動や飲酒、長時間の入浴を控え、安静に過ごしましょう。圧迫しても出血が止まらなかったり、出血量が多かったりする場合は、すみやかに歯科医院へ相談してください。
出血を悪化させる行動
歯茎の回復のために以下の行動を避けることが重要です。
| 行動 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 出血を理由に歯磨きを控える | ・歯磨きを中断するとプラークが蓄積し、炎症が悪化する ・力を抑えて丁寧なブラッシングを続けることが大切 |
| 硬い歯ブラシで強く磨く | ・硬い毛先や過度な力は歯茎を傷つけ、出血を助長する ・歯ブラシはやわらかめを選び、軽い力で磨く |
| 指や舌で患部に触れる | 患部への接触は細菌の付着や刺激となるため、気になっても触れないよう注意する。 |
| 喫煙や過度な飲酒 | ・喫煙は歯茎の血流を低下させ、組織の修復を妨げる ・飲酒は血行を促進し、出血しやすい状態を招く |
| 刺激の強い食事 | 熱かったり辛かったりする食事は、炎症を起こしている歯茎を刺激し、痛みや出血を引き起こす可能性がある |
歯茎に異常がある時期は、刺激を避けた生活と適切な口腔ケアを心がけましょう。
出血を放置するリスク
歯茎からの出血は適切な対応を取らないと、口腔内だけでなく全身の健康にも影響を及ぼす可能性があります。
歯茎の出血を放置すると、歯肉炎は歯周炎へと進行します。歯周炎になった場合、最終的に抜歯に至ることもあるため注意しましょう。歯周ポケットが深くなることで細菌が繁殖しやすくなり、慢性的に口臭が強まる原因です。
歯茎の炎症部位から歯周病菌や炎症を引き起こす物質が血管内に侵入すると、以下のように全身に影響が及びます。
- 糖尿病の悪化
- 心筋梗塞や脳梗塞
- 誤嚥性肺炎
- 認知症
- 早産・低体重児出産
早い段階で原因を見極め、適切なケアや治療につなげることが、将来の歯と全身の健康を守るために重要です。
歯茎から血が出たときの診療科と受診の目安
ここでは、歯茎から血が出たときの「受診する診療科の選び方」と「すぐに受診すべき危険サイン」を解説します。
受診する診療科の選び方
歯茎から血が出る場合、歯周病や歯肉炎など口腔内のトラブルが原因であることが多いため、まず受診を検討するのは歯科です。
歯科では、出血が始まった時期や起こりやすい場面、痛みや他の症状の有無などを問診で確認します。そのうえで、歯茎の色や腫れを目で見て確認し、専用の器具を使って歯と歯茎の溝の深さを測り、歯周病の進行具合を調べます。必要に応じてレントゲン検査を行い、歯を支える骨の状態など、見た目では分からない部分も確認します。
これらの結果から、出血の原因が歯や歯茎にあるかどうかを判断します。もし診察の過程で全身の病気が疑われる場合は、内科などの医療機関を紹介されることもあります。
すぐに受診すべき危険サイン
歯茎からの出血は珍しい症状ではありませんが、放置すべきではないケースもあります。炎症の進行には個人差があるため、以下のような普段とは異なる変化に気づいた場合は注意が必要です。
- 歯磨きをしていないときにも自然に出血する
- 出血が15分以上続く
- 歯茎が強く腫れ、痛みがある
- 一部ではなく口全体から出血する
- 歯が揺れる感覚がある
- 歯茎が赤黒く変色している
- 膿のにおいや強い口臭がある
- 歯茎の出血に加えて全身症状がある
これらの症状は、歯周病の進行や全身の炎症反応を示している可能性があります。気になる変化がある場合は、自己判断で様子をみず、歯科医師に相談しましょう。
歯茎の出血を改善する治療と予防法
歯茎から血が出たときは、以下のように歯科医院での専門的なケアとご自宅での毎日の正しいセルフケアが健康な歯茎を保つためには重要です。
- 歯科での治療内容と費用
- 正しい歯磨き・フロスの使い方
- 歯磨き粉・洗口液の選び方
- 健康な歯茎を保つための食事と生活習慣
歯科での治療内容と費用
歯茎からの出血で歯科医院を受診した場合、以下のような歯周病治療の基本となる重要な治療から行います。
| 治療 | 具体的な内容 |
|---|---|
| スケーリング(歯石除去) | 専用の器具を用いて、歯の表面や歯茎の浅い部分に付着した歯石を除去する |
| ルートプレーニング | 歯周ポケットの深部に付着した歯石や汚染物質を取り除き、歯の根の表面を滑らかに整える |
| ブラッシング指導 | 口腔内の状態に合わせて、セルフケアの質を高めるための正しい歯磨き方法を指導する |
上記の治療は、保険適用であることが一般的です。3割負担の場合、初診(検査・診断)で3,000〜5,000円程度、スケーリングで3,000〜4,000円程度です。ルートプレーニングでは、1歯あたり600〜1,000円程度になるでしょう。
基本治療だけでは改善が難しい歯周病には、フラップ手術や歯周組織再生療法が行われます。フラップ手術は歯茎を切開し、歯の根を直接観察しながら歯石・感染組織を除去する方法であり、保険適用される治療です。
歯周組織再生療法は、薬剤や特殊な材料を用いて、歯周病で失われた骨や組織の再生を促します。方法によって、保険適用されるときと自由診療の場合に分けられます。
自由診療の場合、歯周組織再生医療の費用目安は約5〜15万円です。外科手術は1回ですが、再生までに数か月〜1年程度かかります。手術後に痛みや腫れを伴うことがあり、喫煙者などの患者さんによっては、治療効果が得られにくいリスクがある点に注意が必要です。
正しい歯磨き・フロスの使い方
歯ブラシは、毛の硬さは「ふつう」を基本とし、歯茎の炎症が強い場合は「やわらかめ」を選びます。硬すぎる歯ブラシは、歯茎を傷つける原因になります。
持ち方は、鉛筆を持つように軽く握る「ペングリップ」を意識すると、余計な力が入りにくくなります。
磨くときは、歯と歯茎の境目に毛先を約45度の角度で当て、歯周ポケットに届くようにします。5〜10mmほどの小さな幅で細かく動かし、1〜2本ずつ丁寧に磨き、大きくゴシゴシ動かす磨き方は避けましょう。
なお、歯と歯の間に残るプラークは歯ブラシだけでは落としきれないため、毎日のケアにデンタルフロスや歯間ブラシを取り入れることが大切です。
歯磨き粉・洗口液の選び方
歯磨き粉や洗口液は、ブラッシングを補助するものです。症状に合った製品を選ぶことで、口腔ケアの質を高められます。
歯茎から出血がある場合は、研磨剤が少ない、または無配合の歯磨き粉を選びましょう。研磨剤が多いものは歯茎への刺激になりやすくなります。トラネキサム酸やグリチルリチン酸ジカリウムなど、歯茎の炎症や出血を抑える成分が含まれているかもポイントです。殺菌成分は歯周病菌の増殖を抑える目的で使われています。
洗口液は刺激の少ないノンアルコールタイプがおすすめです。いずれも歯磨きの代わりにはならないため、毎日のブラッシングを基本に補助的に取り入れましょう。
健康な歯茎を保つための食事と生活習慣
歯茎からの出血を改善し、再発を防ぐには、毎日の食事や生活習慣の見直しも重要です。食事は栄養の偏りを避け、バランスを意識しましょう。パプリカやブロッコリー、キウイに多いビタミンCは歯茎の強度維持に役立ち、にんじんやかぼちゃ、ほうれん草に含まれるビタミンAは粘膜の健康を支えます。
一方、超加工食品の摂取量が多い食生活は、歯肉炎による出血の改善を妨げる可能性があることが報告されています。(※1)喫煙、過度な飲酒やストレス、睡眠不足も歯茎の健康を損なう要因です。セルフケアに加え、歯科での定期検診も大切です。
まとめ
歯茎からの出血は、歯周病をはじめとする口腔内トラブルを知らせる重要なサインです。軽い症状と思って放置すると、歯を失うリスクが高まるだけでなく、糖尿病や心筋梗塞など全身の病気に関与する可能性もあります。
大切なのは自己判断で様子をみず、早い段階で歯科医院に相談することです。原因を正しく把握し、歯科での専門的な治療と日々の適切なセルフケアを組み合わせることで、歯茎の健康は改善が期待できます。
歯茎からの出血に気づいたら、歯と全身の健康を守るためにも歯科医院へ相談しましょう。
参考文献
Discepoli N, De Rubertis I, Tavella G, Guazzelli A, Konstantinidou S, Paolini B.Ultra-Processed Foods Reduction Enhances Clinical Outcomes and Dietary Profiles in Patients With Gingivitis: Results From a Randomised Controlled Trial.Journal of Clinical Periodontology,2026,53,1,p.12-25.
