環境の変化に戸惑い、「最近、自分らしくないな」などと感じていませんか。理由もなく涙が出たり、朝起きられないほどの倦怠感に襲われたりするのは、あなたの心(こころ)が疲弊してしまっているSOSのサインかもしれません。
この記事では、ご自身の状態を客観的に把握できるセルフチェックリストや適応障害になりやすい方の特徴、具体的な症状について詳しく解説します。一人で抱え込まず、まずは自分の心身の状態、ご自身がおかれている環境などを正しく知ることから始めましょう。
適応障害のセルフチェックリスト
適応障害は、さまざまなストレスがきっかけとなり、心(こころ)や身体(からだ)、行動に不調が現れる状態です。最近の自分に当てはまるものがないか、以下のセルフチェックリストを確認してみましょう。
| 項目 | 特徴 |
|---|---|
| からだ |
・朝起きるのがつらく、体が重いと感じる ・寝つきが悪い、または寝すぎてしまう ・頭痛や動悸、胃の不調など、原因不明の体調不良が続く |
| こころ |
・悲しさや不安、イライラを感じやすくなった ・気力が湧かず、何をするのも億劫に感じる ・以前は楽しめていたことに興味が持てない |
| 行動 |
・仕事や学校に行くのがつらく、休みがちになった ・集中力が続かず、ミスが増えた ・人と会うのを避け、一人で過ごす時間が増えた・食欲が落ちた、または食べ過ぎてしまう |
※このチェックリストは診断を確定するものではありません。あくまで目安として利用し、症状が続く場合は専門医にご相談ください。
これらの項目に複数当てはまり、日常生活に支障が出ているなら、適応障害の可能性があります。ストレス反応が強く、日常生活に支障が出る状態が3か月以内に現れるのが適応障害の特徴の一つです。類似する状態に「急性ストレス反応」などもあり、正確な判断には医師の診察が必要です。体調面・感情面での不調、行動面の変化の原因となりえるストレスを把握したうえで、無理をせず、まずはしっかりと休む時間を確保することが大切です。
適応障害の主な症状
ここでは、適応障害でみられる主な症状を解説します。
身体的症状(疲労感・胃痛・不眠など)
過度なストレスは、体の機能を自動的に調整している自律神経のバランスを乱します。ストレスで自律神経が乱れると、内科などで検査をしても異常が見つからず、身体症状が現れることがあります。
適応障害による身体的症状には、以下のようなものが挙げられます。
| 症状の種類 | 具体的な例 |
|---|---|
| 食事面や消化器系などの自覚症状 |
・食欲が全くない、特定のものばかり食べ過ぎてしまう ・吐き気や胃のむかつき、便秘や下痢を繰り返す |
| 睡眠関連 |
・布団に入っても何時間も眠れない(入眠困難) ・夜中に何度も目が覚める(中途覚醒) ・朝早くに目が覚めて二度寝できない(早朝覚醒) ・一日中寝てしまう(過眠) |
| 循環器~呼吸器、感覚系などの自覚症状 |
・急に心臓がドキドキする(動悸) ・胸が締め付けられるような圧迫感や息苦しさ、ふわふわするようなめまい、立ちくらみ |
| その他の症状、腰痛 |
・頭を締め付けられるような頭痛、肩や首のひどいこり ・慢性的な疲労感、倦怠感 ・過度な発汗、手足のしびれや冷え ・原因不明の微熱が続く |
適応障害の症状は、初めは軽くてもストレスが続くことで慢性化し、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。体の不調そのものが新たなストレスとなり、症状を悪化させて悪循環に陥るケースも少なくありません。
心理的症状(不安・イライラ・抑うつ状態)
不安やイライラ、気分の落ち込みが続く場合、適応障害による心理的症状が出ている可能性があります。
強いストレスを受けると、感情を調整する脳の働きが乱れ、自分でも気持ちをうまくコントロールできなくなることがあります。その結果、理由もなく悲しくなったり、不安で落ち着かなくなったりします。
以前は楽しめていたことに興味が持てず、無気力な状態が続くことも少なくありません。集中力や判断力が落ち、仕事や日常生活でミスが増えることもあります。
些細なことでイライラしやすくなり、人間関係に影響が出ることもあります。これらの症状は性格の弱さではなく、心と脳が限界に近づいているサインです。一人で抱え込まず、周囲や専門家のサポートを受けることが大切です。
行動面の変化(欠勤・遅刻・ひきこもり傾向)
欠勤や遅刻が増え、人と関わるのを避けるようになった場合、適応障害による行動の変化が現れている可能性があります。
強いストレスが続くと、心と体は無理をしないようブレーキをかけ、これまで普通にできていたことが難しくなります。これは怠けや甘えではなく、自分を守るための自然な反応です。
仕事や勉強に集中できず、ミスが増えたり、人と会うのが負担に感じたりすることがあります。外出を控えて家にこもりがちになることや、身だしなみに気を配れなくなることもあります。
こうした状態を放置すると、社会生活や人間関係に影響が出ることがあります。早めに心の不調に気づき、専門家に相談することが回復への第一歩です。
適応障害になりやすい人の特徴
適応障害は、特定のストレスから起こる心身の反応で、誰にでも起こり得ます。ここでは、適応障害になりやすい人の特徴を解説します。
真面目で責任感が強い
真面目で責任感が強い人は、最後までやり遂げようとする姿勢があり、周囲からの信頼が厚いです。しかし、予期せぬトラブルに直面したとき、「自分がしっかりしなければ」という思いが人一倍強くなり、ストレスが強くかかることがあります。
責任感が強い方は、以下のような状況に陥りやすいかもしれません。
- 頼まれた仕事や役割を断れない
- 常に完璧を目指し、手を抜けない
- 問題が起きたとき、すべて自分の責任だと感じてしまう
心と体の健康を守るためには、「心身に不調がある」「日常生活に支障をきたしている」などと伝える勇気や、誰かに助けを求めることも大切です。
完璧を求めすぎる
何事にも完璧を求めて常に100点満点を目指していると、心は休まる暇がありません。自分自身や他人に対して高い基準を設定しすぎると、小さなミスも許せなくなり、常に緊張感やプレッシャーにさらされることになります。
「〇〇ならこうあるべき」と厳しいルールで縛ってしまうと、自分を苦しめてしまいます。転職や部署異動、進学などの新しい環境では、「周りに追いつかなければ」と焦りがちです。
物事のすべてを完璧にこなすことは難しいことです。「8割できれば十分」「今回はこれでよしとしよう」と、少しだけ自分へのハードルを下げてみることが、心の余裕につながります。
他人に気を遣いすぎてしまう
他人に気を遣いすぎてしまう人は、自分の本当の意見や感情を抑え込む傾向にあり、以下のような行動がみられます。
- 自分の意見を言う前に、相手の反応を過度に気にしてしまう
- 本当は断りたいのに、笑顔で誘いや頼み事を引き受けてしまう
- 相手の機嫌が悪いと「自分のせいかも」と不安になってしまう
自分の気持ちに正直になり、ときには「NO」と伝えることも自分を守るために必要です。
ストレスを一人で抱え込みやすい
ストレスを一人で抱え込みやすい人は、適応障害になりやすい傾向があります。責任感が強く、「人に迷惑をかけたくない」「弱音を吐いてはいけない」と考えるほど、気づかないうちに心に負担が溜まっていきます。
実際には、次のような環境や出来事が重なると、誰でも抱え込みやすくなります。
- 職場の配置転換や人間関係のトラブル、過度な業務量
- 学校のクラス替えや部活動、友人関係の悩み
- パートナーや親子関係の悩み、育児や介護の負担、身近な人との別れ
- 転職や異動、引っ越し、入学などの生活リズムの変化
つらい気持ちを誰かに打ち明けることは、弱さではありません。気持ちを言葉にすることで状況を整理し、回復への一歩を踏み出しやすくなります。一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家を頼ることが大切です。
また、ストレス発散できるような自分自身の趣味と向き合う時間を確保することも大切です。
適応障害の診断を受けるまでの流れ
適応障害の診断は、専門の医師がご本人の話を丁寧に聞き、さまざまな情報を総合的に判断して行われます。
ここでは「①精神科・心療内科で行う問診と判断基準」「②早めに受診したほうがいい状態の目安」について解説します。
①精神科・心療内科で行う問診と診断の基準
精神科や心療内科では、まず医師による丁寧な問診から始まります。診断で大切なのは、患者さんご自身の言葉でお困りの状況を教えていただくことです。
また、医療機関によっては、医師による診察の前に相談員(精神保健福祉士などのソーシャルワーカー)やカウンセラー(臨床心理士や公認心理師)が事前にお話を聞く場合があります。
問診では、主に以下のようなことを具体的に伺います。
| 問診内容 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 現在の症状 | いつから、どのような症状があるのか |
| ストレスの原因 | 仕事や学校、家庭環境の変化など、症状のきっかけ |
| 生活への影響 | 症状によって、日常生活にどのくらい支障が出ているか |
| これまでの経過と治療歴 | 過去の同じような経験や他の病気の治療など |
| 社会的サポートの状況 | 周囲のサポート体制 |
診断は、「ICD-11」や「DSM-5-TR」といった国際的な診断基準に基づいて、客観的な視点で慎重に判断されます。(※1)
適応障害の診断で重要なのは、症状の原因となる「はっきりとしたストレス」が特定できることです。適応障害は、特定のストレスとの関連がはっきりしており、原因が特定できないうつ病などの他の精神疾患と異なります。症状とストレスとの関連性を丁寧に見極めて診断を進めていきます。
②早めに受診したほうがいい状態の目安
心や体の不調が続いている場合は、早めに医療機関を受診したほうが回復しやすくなります。気分の落ち込みや不安が2週間以上続いたり、仕事や学校、家事などに支障が出ていたりする状態は、心が限界に近づいているサインです。
原因のはっきりしない頭痛や腹痛、動悸や不眠、過眠や食欲の変化が続く場合も、注意が必要です。感情を抑えられないことが増え、「消えてしまいたい」と思う気持ちが少しでもあるなら、一人で抱え込まず誰かに相談してみましょう。お住いの区や市町村、都道府県で無料相談を行っています。
お住いの地域の行政(区役所や市役所など)の「精神保健福祉相談」や「こころの健康相談」など匿名でも相談できるサービスを利用してみましょう。
適応障害の治療とケア、回復までの過ごし方
適応障害の治療とケアでは、まず心と体をゆっくり休ませることが最優先です。そのうえで、ストレスの原因から距離を置き、ご自身のストレスへの対処法を身につけていくことが中心となります。
ここでは、適応障害の治療法や回復までの期間やセルフケアについて解説します。
薬物療法・カウンセリング・休職などによる治療とケア
適応障害の治療とケアは、主に以下の3つのアプローチを、患者さんの状態に合わせて行います。
| 治療法 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 環境調整 |
・ストレスの原因となっている環境から物理的、心理的に距離を置く ・職場が原因の場合は休職や部署の移動、業務量の調整をしてもらう ・学校の場合は休学やクラスの変更をしてもらう ・家庭の場合は家事の役割分担を見直す |
| 精神療法と心理社会的介入 |
・ストレスへの向き合い方や考え方の癖を見つめ直す ・ストレス対処能力(ストレスコーピング)を高め、再発しにくい状態を目指す |
| 薬物療法 |
・不安や緊張が強い場合:抗不安薬 ・夜眠れない場合:睡眠導入剤 ・抑うつ気分が長く続く場合:抗うつ薬 |
これらの治療は、医師が患者さんの状態を慎重に評価し、見立てから診断を行います。
またご本人に十分な説明をして、治療についての選択と同意を得たうえで、実際の治療とケアを進めていきます。。
回復までの期間の目安
適応障害の回復までにかかる期間は、ストレスの原因やご本人の性格傾向、周囲のサポート状況など多くの要因が関わるため、個人差があります。
症状は、ストレスの原因が明確に取り除かれれば、ストレスの原因から離れることで、多くの方は半年程度で症状が改善に向かう傾向があります。
ただし、あくまで一つの目安です。数週間で回復に向かう方もいれば、ストレスの原因が複雑で回復に年単位の時間がかかる方もいます。
回復までは良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ回復していくというイメージを持ち、前向きに治療を続けましょう。大切なのは、他人と比べず、ご自身のペースで焦らずに治療を進めることです。
再発を防ぐセルフケア
症状が改善し、日常生活に戻ったあとも、良い状態を維持し再発を防ぐために、日々のセルフケアが重要です。再発を防ぐセルフケアの具体例は、以下のとおりです。
| セルフケア | 具体例 |
|---|---|
| ストレスの対処法を見つける |
・ウォーキングやヨガなど軽い運動を習慣にする ・意識的にリラックスする時間を作る ・時間を忘れて没頭できることを見つける |
| 相談できる環境をつくる |
・信頼できる家族や友人 ・かかりつけ医やカウンセラー |
| 生活習慣を整える |
・なるべく同じ時間に寝て、同じ時間に起きる ・栄養バランスの良い食事を、できるだけ決まった時間に1日3食とる ・日々の生活に体を動かす習慣を取り入れる |
無理のない範囲で、生活のなかに少しずつ取り入れてみましょう。
まとめ
セルフチェックで当てはまる項目が多く、つらい状態が続いているなら、あなたの心が「もう限界だよ」と伝えている大切なサインです。
適応障害は、特定のストレスが原因で誰にでも起こりうる心身の反応です。真面目で責任感が強い方ほど、一人で抱え込んでしまいがちですが、今はご自身のことに目を向けましょう。
一人で悩まず、まずは専門家に話を聞いてもらうことから始めてみませんか。
参考文献
- 厚生労働省:「こころの耳 DSM−5」
