適応障害になってしまった大切なご家族や同僚の変化に、どう接すれば良いか戸惑っていませんか。適応障害は周りにいる人からの言葉かけが、症状や回復するまでの期間に影響してしまう恐れがあるため、慎重な対応が必要です。
この記事では、適応障害の方への正しい接し方や避けるべき言動を詳しく解説します。大切な人の状態を理解して適切にサポートすることで、心の支えとなり回復へとつながります。
適応障害の人と接する前に知っておきたいこと
ここでは、適応障害の基本的な知識や症状の現れ方などを詳しく解説します。
適応障害とは?うつ病などの精神疾患との違い
適応障害とは、強いストレスが原因で心と体に不調が現れる病気です。令和5年の患者調査では約17万人が罹患していますが、外見からはわかりにくいため、周囲からは「怠けている」「甘え」と誤解されやすく、ご本人が苦しむことも少なくありません。(※1)
適応障害の人と接するうえで、うつ病との違いを正しく理解しておくことが大切です。両者は症状が似ているため混同されやすいですが、つらさの背景や回復までの考え方には以下のような違いがあります。
| 項目 | 適応障害 | うつ病 |
|---|---|---|
| 原因 | はっきりとしたストレス要因がある | 環境、性格、遺伝などさまざまな要因が重なって起こる(脳のエネルギー欠乏状態) |
| 症状の特徴 | ストレスの原因から離れると症状が軽くなる傾向がある | 状況に関わらず、一日中憂うつが続く |
| 回復の考え方 | ストレスの原因を調整したり、取り除いたりすることが中心 | 薬物療法や精神療法などを組み合わせ、時間をかけて治療する |
適応障害を放置すると症状が悪化し、うつ病に移行するケースも考えられます。原因がはっきりしているからと軽視せず、早期に専門家へ相談することが重要です。
よく見られる3つの変化(精神・身体・行動)
適応障害のサインは、気持ちの変化だけでなく、体の不調や行動の変化としても現れます。心・体・行動の3つの視点から、主な特徴を以下の表にまとめています。
| 項目 | 特徴 |
|---|---|
| からだ |
・朝起きるのがつらく、体が重いと感じる ・寝つきが悪い、または寝すぎてしまう ・頭痛や動悸、胃の不調など、原因不明の体調不良が続く |
| こころ |
・悲しさや不安、イライラを感じやすくなった ・気力が湧かず、何をするのも億劫に感じる ・以前は楽しめていたことに興味が持てない |
| 行動 |
・仕事や学校に行くのがつらく、休みがちになった ・集中力が続かず、ミスが増えた ・人と会うのを避け、一人で過ごす時間が増えた・食欲が落ちた、または食べ過ぎてしまう |
適応障害から生じる変化は、ご本人の意思の力だけで抑えられるものではありません。周りの人から見て「最近様子がおかしいな」と感じる場合は、適応障害を呈しているしている可能性があることを知っておきましょう。
適応障害の人にかける言葉が重要な理由
適応障害の人にとって周りの人からの言葉は、良い影響にも悪い影響にもなり得ます。ご本人の受け取り方によって、症状に直接影響を与えるため、かける言葉は慎重に選ぶ必要があります。
本人の状態に対する共感の言葉は、「自分の苦しみをわかってくれる人がいる」という実感をもたらし、回復への支えとなります。周囲の方がかける言葉の重要性を理解し、慎重にコミュニケーションをとることが、ご本人の回復への一歩となるのです。
適応障害の人への正しい接し方
適応障害の方が安心して療養に専念できるよう、基本的な接し方として、以下の5つを解説します。
- 話をよく聴く(傾聴)
- 干渉しすぎず、適度な距離感を保つ
- 否定せず肯定的な言葉をかける
- 回復を急がせない・比較しない
- 励ますか見守るかの判断基準
①話をよく聴く(傾聴)
適応障害の方との接し方で重要なのは、ただ黙って話に耳を傾ける「傾聴」の姿勢です。
ご本人は、自分の苦しみや混乱した気持ちを言葉にすることで、頭の中を整理しようとしています。このとき、求めているのは的確なアドバイスや解決策ではなく、「自分のつらさを受け止めてくれる存在」です。
話を聴いているときは、本人の気持ちをそのまま受け止め、共感的な姿勢を示しましょう。安易にアドバイスをするとプレッシャーを感じ、負担になってしまう可能性もあります。
ご本人の気持ちをそのまま受け止め、寄り添った姿勢で傾聴に徹しましょう。誰かに話を聴いてもらうだけで、「自分は一人ではない」という安心感を得ることができます。
②干渉しすぎず、適度な距離感を保つ
適応障害の治療では、心と体を休ませるために、一人で静かに過ごす時間も重要です。過度な声掛けや、行動を見守ることが相手にとって負担になる場合もあります。お互いのために意識して適度な距離を保つことが、長期的なサポートには大切です。
本人が助けてほしい、話を聴いてほしいと思ったときに、いつでも手助けすることを伝えておきましょう。療養期間中は回復に必要な時間と考え、本人のペースに合わせ、そっと見守ってください。
心地よい距離感を保ちながら、「いざというときには味方でいる」という安心感を与えることが大切です。
③否定せず肯定的な言葉をかける
適応障害の人と接するときは、否定せず肯定的な言葉をかけることが回復を支える関わり方です。心が弱っている状態では、善意の助言や励ましでも重荷になることがあります。まずは気持ちに寄り添い、評価や正論を控える姿勢、支持的に関わることが安心感につながります。
言葉をかける際は、次の点を意識すると良いでしょう。
- つらさをそのまま受け止める
- 気持ちを否定せず共感を示す
- 存在そのものを認める
- 小さな変化や努力を見守る
結果や回復の早さを求めるより、今の状態を尊重することが大切です。ありのままを肯定する言葉は、失われた自信を少しずつ取り戻す支えになります。
➃回復を急がせない・比較しない
ご本人の回復を願う気持ちが強いほど、「早く元気になってほしい」と焦りがちですが、心の回復は簡単ではありません。良くなったり、少し後退したりを繰り返しながら、ゆっくりと進んでいくのが一般的です。
回復を急かすような言葉は、強いプレッシャーとなりご本人を追い詰めます。「同じ病気の人はこれぐらいで復帰していた」などと比べるのは避けてください。
ストレスの感じ方や回復力には個人差があります。今はご本人のペースで回復していくことが大切だと理解し、長い目で見守る姿勢を保ちましょう。
⑤励ますか見守るかの判断基準
適応障害の方への接し方で難しいのが、励ますべきか、静かに見守るべきかの判断です。接し方は、本人の様子や状態によって慎重に使い分ける必要があります。
判断基準の目安を以下の表にまとめました。
| フェーズ | 様子 |
|---|---|
| 見守る(心身が消耗している時期) |
・食欲がなく、眠れない ・朝起き上がれないなど、身体的な不調が現れる ・ほとんど話さず、表情も乏しい ・趣味など、以前は好きだったことにも全く関心を示さない |
| 励ます(回復の兆しが出てきた時期) |
・少しずつ外出したり、人と話したりする意欲が見られる ・趣味や好きなことについて、少し話すようになる |
見守る時期は、休むこと自体が回復への大切な過程です。前向きな言動が出てきたら、本人のペースを尊重しながらそっと背中を押しましょう。
判断に迷う場合は、見守る姿勢や支持的に関わることを基本にすることが大切です。
適応障害の人にしてはいけない言動
ここでは、適応障害の方に接する際に避けるべき言動について、その理由とともに解説します。
「もっと頑張って」と励ましすぎる
励ますつもりの「頑張って」という言葉は、適応障害の方にとってはつらい言葉になり得ます。本人はすでに限界まで頑張り続け、心身ともに疲れている状態のため、さらに負担をかける可能性があります。
「もう十分すぎるほど頑張ったね」「今は無理することはないんだよ」などの言葉をかけてあげてみましょう。これまでの努力を認め、休息を肯定する言葉のほうが安心感を与えます。
他人と比べる
適応障害の方を、他の誰かと比べることで、孤立させてしまう危険性があります。
ストレスの感じ方や、それに対する心身の反応には個人差があります。誰かとの比較は、「自分の苦しみは、たいしたことではないんだ」と思わせてしまいます。
適応障害は、医療機関での診断や対応が必要となることもあり得る精神的な不調です。本人の苦しみを軽視するような言葉は、信頼関係を壊し、回復から遠ざけてしまう危険性があります。
感情の問題と決めつける
適応障害は、単なる一時的な気分の落ち込みや気持ちの弱さなどの「感情の問題」ではありません。強いストレスという明確な原因によって、心と体にさまざまな不調が生じているため治療が必要な状態です。
「やる気がないだけだ」「性格が弱いからだ」「こだわりすぎだ」など、ご本人の性格や感情の問題として、一方的に決めつけるような言動は避けてください。
適応障害は、ご本人の意志の力だけではどうにもならない状態である、と理解することが重要です。疾患への理解がない言葉は、ご本人を傷つけるだけでなく、専門家による適切な治療を遠ざけてしまう可能性があります。
未来や将来の話をしすぎる
適応障害の方に、未来や将来の話をしすぎることは大きな負担になります。今を乗り切ることで精一杯の状態では、先の見通しを考える余裕がなく、将来の話題は不安や焦りを強めてしまうためです。
善意のつもりでも、回復や結論を急がせるような言葉は心を追い込む原因になります。以下のような負担になりやすい関わり方は避けましょう。
- いつ仕事に戻れるかを尋ねる
- 将来の予定や目標を決めようとする
- 回復の期限を意識させる言葉をかける
このようなやり取りは「早く元気にならなければならない」というプレッシャーを生みやすくなります。回復のペースは人それぞれ異なるため、将来の話題が本人から自然に出てくるまで待つ姿勢が大切です。
家族・職場でできるサポート方法
ここでは、ご家庭と職場でできる具体的なサポート方法を解説します。
家庭での安心できる環境づくり
ご家庭は、ストレスにさらされた心と体を休めるための重要な場所です。ご本人が「ここにいれば大丈夫」と感じられるような雰囲気づくりを心がけましょう。
具体的には、以下のような配慮が回復を後押しします。
- 「何もしないこと」を認める
- 心と身体が休まる空間をつくる
- 意思決定が必要な機会を減らす
- いつでも聴く姿勢で見守る
休むことが大切と伝え、焦らずに休養に専念できる環境を整えてあげましょう。適応障害の状態では、光や音に敏感になるため、夜は間接照明にするなど、感覚系への刺激を減らす工夫も大切です。
ご本人が話したい様子を見せたら、支持的な姿勢で耳を傾けましょう。
職場での業務調整・配慮のポイント
職場は適応障害の原因となりやすい場所ですが、ご本人が社会とのつながりを保つための大切な場所でもあります。
復帰後は、主治医や産業医の意見を踏まえ、一時的に業務量を減らすなど、ストレス軽減の配慮や環境調整を検討しましょう。ご本人のストレスの原因が対人関係にある場合は、一人で集中できる作業を任せるなど、ストレス軽減の配慮も検討してください。
時差出勤や時短勤務、在宅勤務などを活用し、ご本人が心身のエネルギーを消耗せずに働ける方法を探ることが、安定した就労につながります。産業医や産業保健の専門職である保健師、社内カウンセラーとの面談機会を設けたり、ストレス軽減への配慮ができる上司などと面談を実施したりすることも大切です。
利用できる支援制度や相談窓口
適応障害の悩みは、ご本人やご家族、職場だけで抱え込む必要はありません。専門家の力を借りたり、公的な支援制度を利用したりすることで、心身や経済的な負担を軽減できます。
利用できる支援制度や相談窓口を以下の表にまとめています。
| 相談先・制度の種類 | 主な内容 | 対象者 |
|---|---|---|
| 医療機関 | 精神科や心療内科で、専門的な診断や治療(薬物療法、精神療法など)を受けられる | 本人 |
| 産業医、産業保健の専門職(保健師やカウンセラー) | 職場でのストレスや働き方について相談できる | 本人、職場 |
| 保健所・精神保健福祉センター | 地域の心の健康に関する公的な相談窓口(無料) | 本人、家族 |
| 傷病手当金 | 健康保険の制度で、病気やけが(業務外の事由)で仕事を連続3日以上休んだ場合に、4日目から給与の一部が支給(※請求に関しての詳細は職場や保険者に確認することが望ましい) | 本人(被保険者) |
| 自立支援医療制度 | 精神疾患の治療にかかる医療費の自己負担額を、通常3割から原則1割に軽減できる公的な制度 | 本人 |
| 精神障害者保健福祉手帳 | 診断書に基づき申請して認定されると、税金の控除や公共料金の割引などの支援を受けられる(※ただし、初診から6か月後に申請可能) | 本人 |
一人で抱え込まず、相談先があることを知っておくと安心材料になります。
支える側が疲れすぎないための考え方
支える側が疲れすぎないことは、長く安定した支援を続けるために重要です。相手を思う気持ちが強いほど無理をしやすくなりますが、支える人自身の心と体が消耗すると、お互いの疲弊につながる恐れがあります。
適応障害の方を支える際は、次の点を大切にしましょう。
- 一人ですべて抱え込まない
- 意識的に自分の時間を確保する
- 完璧な対応を目指さない
- 適度な距離感を保つ
支えるあなたの存在そのものが、ご本人にとって安心感となっています。ご本人の回復を支えるためにも、ご自身の心と体も大切にしてください。
まとめ
適応障害は「甘え」や「気の持ちよう」ではなく、ストレスによって心と体がSOSを出している状態です。大切なのはご本人のつらい気持ちに寄り添い、話をじっくりと聴いてあげることです。
「今はゆっくり休んでいいんだよ」などの温かいメッセージと、安心して過ごせる環境が整っていることが重要です。接し方への迷いや、支えるあなた自身が疲れたときは、専門の医療機関や公的な相談窓口を頼ることも大切です。
あなたを含めた周囲の理解が、ご本人の回復につながります。
参考文献
- e-Stat 政府統計の総合窓口.「患者調査 令和5年患者調査 全国編Z160 第160表 総患者数,傷病基本分類別 | 統計表・グラフ表示 | 政府統計の総合窓口」
