「うっかりミスが多くてADHDかもしれない」「人付き合いが苦手だからASDなのではないか」と、ご自身の特性について考えたことはありませんか?名前はよく知られていますが、症状が似ている部分もあり、「自分はどちらなのだろう?」と一人で悩んでいる方は少なくないでしょう。
ADHDとASDの併存は珍しくありません。研究によってばらつきはありますが、ASDと診断された方の約半数以上がADHDの特性を併せ持つという報告もあります。(※1)「計画を立てたいのに、衝動で動いてしまう」など、自分の中で矛盾する特性に葛藤している方もいます。
この記事では、ADHDとASDの違いや共通点、診断と対処法を解説します。ご自身の特性を正しく理解し、日々の生きづらさを解消するための第一歩として、ぜひお役立てください。
ADHDとASDの違いとは?
ADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)は、どちらも生まれつきの脳機能の特性による神経発達症に分類され、一部の症状が似ているため混同されやすい二つです。
まずは、両者の主な違いを比較表で確認してみましょう。
| 項目 | ADHD | ASD |
| 主な特徴 | 不注意、多動性、衝動性が目立ちやすい | 社会的コミュニケーションの困難、こだわり、反復行動がみられやすい |
| 行動面の傾向 | 落ち着きがなく、うっかりミスや忘れ物が多い | 決まった手順やルールに強いこだわりを持つことがある |
| コミュニケーションの特徴 | 話を遮る、脱線するなど衝動性や不注意が背景にある | 相手の表情や暗黙のルールを読み取ることが苦手な場合がある |
| 感情の現れ方 | 感情が外に出やすく、衝動的に表現されやすい | 感情表現がわかりにくい一方で、不安やストレスを内にためやすい |
| 感覚の特徴 | 刺激に気を取られやすい | 感覚過敏や感覚鈍麻がみられることがある |
| 診断の考え方 | 不注意・多動性・衝動性の持続や場面の広がりを確認する | 社会的コミュニケーションの困難と限定的・反復的行動の有無を確認する |
| 併存 | ASDを併存することがある | ADHDを併存することがある |
ここでは、ADHDとASDの主な違いを、以下の項目に沿って解説します。
- 不注意・多動性と常同行動・限定的興味の違い
- コミュニケーションの特徴の違い
- 感情コントロールと衝動性の現れ方の違い
- 感覚過敏・感覚鈍麻に対する反応の違い
- 診断基準の違い
不注意・多動性と常同行動・限定的興味の違い
ADHDとASDの大きな違いは、行動に表れやすい特性にあります。
ADHDでは、注意のコントロールや行動抑制に関わる脳の機能の特性により、不注意や多動性、衝動性が目立ちやすくなります。
不注意の特性があると、集中力が続かずミスが増え、忘れ物や物の紛失が起こりやすくなります。話を聞いていても内容が十分に理解できないこともあります。多動性や衝動性が強い場合、落ち着いて行動することが難しく、考える前に動いてしまったり、会話の途中で口を挟んでしまったりすることがあります。
ASDでは、社会性やコミュニケーション、情報処理の仕方に特性があります。
決まった手順や行動を繰り返すことで安心感を得やすく、変化に対して強い不安を感じることがあります。特定の分野には強い興味と高い集中力を示しますが、関心のないことには注意が向きにくいです。物の配置やルールなどに強いこだわりを持つ場合もあります。
コミュニケーションの特徴の違い
人との関わり方の困難さは、ADHDとASDで原因が異なります。ADHDの場合は衝動性や不注意によって会話が脱線したり、相手の話を遮ってしまったりしやすく、悪気がなくても「自己中心的」「話を聞かない」と誤解されて人間関係に悩むことがあります。
一方でASDの場合は、相手に関心がないわけではなく、暗黙のルールや表情・声のトーンなどから気持ちを読み取ることが難しいため、比喩や皮肉が通じにくかったり、場の空気に合わない発言をしてしまったりしてコミュニケーションが難しくなることがあります。
どちらも性格や努力の問題ではなく、脳の働き方の違いによるものだと理解することが大切です。
感情コントロールと衝動性の現れ方の違い
ADHDとASDでは感情の出方に違いがあります。ADHDは衝動性と結びついて感情が外に出やすく、怒りや喜びが強く表れたり、思ったことをすぐ口にしてトラブルにつながったりしやすい傾向があります。
一方ASDは感情を自分で把握したり表現したりすることが難しく、周囲からは感情が見えにくい一方で不安やストレスが内側に溜まり、限界を超えるとパニックや思考停止に至ることがあります。どちらも感情のコントロールに苦手さはありますが、困り方の特徴が異なります。
感覚過敏・感覚鈍麻に対する反応の違い
五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)の感じ方にも違いが見られます。
ASDの感覚特性は、特定の刺激に対して敏感(感覚過敏)になる場合と、鈍感(感覚鈍麻)になる場合があります。脳の感覚情報を処理する過程に特性があるためです。
| 感覚特性 | 具体的な内容 |
| 感覚過敏 | ・特定の音(救急車のサイレン、人混みのざわめき)が耐えられないほど苦痛に感じる ・蛍光灯のチカチカした光や太陽光がまぶしすぎて気分が悪くなる ・服のタグや特定の素材が肌に触れるのを嫌がり、人に軽く触れられるだけで痛みを感じることがある ・特定の匂いや食感が苦手で、極端な偏食になる |
| 感覚鈍麻 | ・痛みや熱さ、寒さに気づきにくく、怪我をしても平気なことがある ・強い刺激を求めて、体を壁にぶつけたり、その場でぐるぐる回ったりすることがある |
ADHDでも、刺激に対して敏感に反応することがありますが、ASDの感覚過敏とは少し異なります。集中力のコントロールが苦手なため、周囲のささいな物音や光に注意がそれてしまい、「刺激に弱い」「集中を邪魔される」状態になるのです。
診断基準の違い
ADHDとASDは、国際的な診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)に基づいて診断されます。インターネット上のセルフチェックはあくまで目安であり、確定診断は専門医による問診や検査を経て行われます。
診断は、チェックリストだけで決まるものではなく、ご本人の困りごとや子どもの頃からの様子の詳しい聞き取り、行動観察などを通して、医師が総合的に判断します。
ADHDは、「不注意」と「多動性・衝動性」に関する複数の項目が認められることと、症状が学校や職場、家庭などの複数の場面で6か月以上継続していること、そのいくつかは12歳以前から存在する場合に診断されます。
ASDは、以下の2つの特性が、幼少期などの発達の早い時期から認められ、社会生活に困難が生じている場合に診断されます。
- 社会的コミュニケーションおよび対人関係の持続的な困難
- 限定的で反復的な行動・興味・活動(感覚の過敏さまたは鈍感さも含む)
かつての診断基準では、ADHDとASDは同時に診断されることはありませんでした。現在は両方の特性を併せ持つ併存が認められています。
ADHDのように見える不注意がASDの特性ではないかなど、鑑別診断を行い、慎重に見極めることが重要です。
ADHDとASDの共通点と併存の可能性
ADHDとASDは異なる特性を持つ発達障害ですが、共通する部分も多くあります。ADHDとASDの共通点や、両方の特性を併せ持つ併存について、以下の項目に沿って解説します。
- 実行機能の困難さ
- うつ病・不安障害など二次障害のリスク
- ADHDとASDの併存率と診断の難しさ
- 併存による日常生活での困りごと
実行機能の困難さ
ADHDとASDには共通して、実行機能の弱さによる困りごとが見られます。
実行機能とは、目標に向けて計画を立て、時間や優先順位を管理しながら行動を進めたり、状況に応じて切り替えたり、衝動を抑えたりする力のことです。
これがうまく働かないと、段取りが立てられず納期に追われたり、片付けが進まなかったり、次の予定に切り替えられなかったり、感情の調整が難しくなってイライラしやすくなるなど、生活や仕事に支障が出やすくなります。
うつ病・不安障害など二次障害のリスク
ADHDやASDの特性を持つ方は、幼い頃から叱られたり、注意されたりする経験が多くなりやすいです。「なぜ、みんなと同じようにできないんだろう」と自分を責めたり、失敗体験が重なったりすることで、自己肯定感が低くなってしまうことも少なくありません。
生きづらさが長く続くと、うつ病や不安障害などの二次障害を引き起こすリスクが高まります。二次障害は、本人の甘えや努力不足が原因ではありません。生まれ持った発達特性による困難さが、精神的な不調として表れている状態なのです。気になる症状があれば、早めに医療機関へ相談することが重要です。
ADHDとASDの併存と診断の難しさ
かつての診断基準では、ADHDとASDは同時に診断されることはありませんでした。
特に DSM-IV では、ASD(当時は広汎性発達障害)がある場合、ADHD の診断は除外されると明記されており、「どちらか一方しか診断できない」という扱いでした。しかし、研究が進むにつれて、両者の特性がしばしば重なり合うことが明らかになり、現在の DSM-5 では、ADHD と ASD の併存が正式に認められています。これにより、両方の特性を併せ持つ人の理解や支援が大きく前進しました。
ただし、併存している場合の診断は容易ではありません。一方の症状がもう一方の症状を隠してしまったり、逆に強調してしまったりすることがあり、表面に見える行動だけでは判断がつきにくいことが多いからです。例えば、ASD のこだわりや感覚過敏が強いと、ADHD の不注意や衝動性が見えにくくなることがあります。逆に、ADHD の多動や落ち着きのなさが目立つと、ASD による社会的な理解の難しさが見逃されることもあります。
そのため、専門家による診断では、行動の背景にある認知特性や発達歴を丁寧に確認し、ADHD に見える症状が ASD の特性で説明できないか、あるいはその逆ではないかといった鑑別診断が不可欠です。
単にチェックリストに当てはめるだけではなく、日常生活での困りごと、環境との相互作用、幼少期からの発達の流れを総合的に評価する必要があります。
併存による日常生活での困りごと
ADHDとASDの両方の特性がある場合、「きちんとしたい気持ち」と「うまくコントロールできない衝動性」がぶつかりやすく、日常生活で独特の葛藤が生まれます。
たとえば、計画やルーティンを好むのに気分や衝動で予定通りに進められなかったり、人と関わりたい一方で距離感がつかめず疲れやすかったりします。また、強いこだわりがあるのに飽きっぽさもあり興味が続きにくい、整った環境を好むのに片付けが後回しになって散らかってしまう、といった矛盾が本人を混乱させやすいのも特徴です。
こうした複雑な困りごとがある場合は、一人で抱え込まず医療機関に相談することが大切です。
ADHDやASDの診断と対処法
ここでは、ADHDやASDの診断と対処法について見ていきましょう。
発達障害の診断までの流れと主な検査内容
ADHDとASDは症状が重なりやすく判断が難しいため、診断は多角的に行われます。まず問診で現在の困りごとや子どもの頃からの様子を確認し、必要に応じて知能検査や特性を測る質問紙などの心理検査を実施します。
これらの結果を総合して、DSM-5などの診断基準に基づき医師が最終的に診断します。診断が確定するまでに複数回の受診が必要になることもあります。
大人が診断を受ける必要性
子どもの頃に見過ごされていても、大人になって仕事や人間関係でつまずき、生きづらさから受診する人は少なくありません。大人がADHDの診断を受けることで、困りごとが性格や努力不足ではなく脳の特性によるものだと分かり、自分を責めすぎずに自己理解を深められます。
また、得意不得意が整理されることで対策を立てやすくなり、家族や職場にも説明しやすくなって必要な支援や配慮につながる場合があります。負担が大きくなる前に、専門機関への相談を検討することが大切です。
困りごとを減らすセルフケアと環境調整の方法
医師の判断により、必要に応じて薬物療法が検討されることがあります。それに加えて、日常生活での工夫や環境調整を取り入れることが大切です。
たとえば忘れ物にはリマインダーやメモ、集中にはタイマーやタスクの細分化、感情の波には深呼吸や気分転換などを使うと負担を減らせます。さらに机の上を片付けて刺激を減らしたり、音がつらいときはイヤホンや耳栓を活用したりするのも有効です。
無理に一人で抱えず、指示を文字でもらうなど周囲の協力を得ることで、ストレスを減らし力を発揮しやすくなります。
自立支援医療・障害者手帳などの公的サポートと相談窓口
国や自治体には、医療費の負担を減らしたり生活や働き方を支えたりする公的支援があります。
たとえば自立支援医療を使えば通院費の自己負担が軽くなり、精神障害者保健福祉手帳があると税控除や各種割引、就労面での支援を受けられることがあります。状況によっては障害年金の対象になる場合もあるため、早めに医療機関や自治体へ相談することが大切です。
その他の相談先としては、以下もあるので参考にしてみてください。
- 発達障害者支援センター
- 就業・生活支援センター
- ハローワークの専門窓口
- 相談支援事業所
- 当事者会や家族会
まとめ
ADHDとASDは異なる特性を持ちますが、共通する部分も多く、どちらか一方にはっきりと分けられないことも少なくありません。大切なのは、ご自身の困りごとの原因が性格や努力不足ではなく、生まれ持った脳の特性にあると理解することです。
診断を受けることは、自身の特性を正しく理解するための大切な手がかりになります。特性に合った対策を取り入れることで、生活の負担が軽くなり、より自分らしく過ごせる可能性が広がります。一人で抱え込まず、まずは専門の医療機関や支援機関に相談してみましょう。
参考文献
- Hours C, Recasens C, Baleyte JM.ASD and ADHD Comorbidity: What Are We Talking About?.Front Psychiatry,2022,13,837424.
