「心不全」と「うっ血性心不全」は混同されやすい言葉です。実は、心不全とは特定の病名ではなく、心臓の機能が低下した「状態」の総称であり、うっ血性心不全はそのなかに含まれる一つのタイプに過ぎません。
この記事では、「心不全」と「うっ血性心不全」の違いをわかりやすく解説します。
それぞれの定義から症状の違い、そして治療法までを、詳しく見ていきましょう。
うっ血性心不全と心不全の違い
「心不全」と「うっ血性心不全」はどちらも心臓の働きに関わる重要な言葉ですが、その意味合いは少し異なります。
簡単に言うと、「心不全」という大きな枠組みのなかに、「うっ血性心不全」という特定の状態が含まれる、という関係になります。ただし、実際の医療現場では、心不全の多くでうっ血(水分の貯留)を伴うため、ほぼ同じ意味で使われることも少なくありません。
両者の違いを詳しく見ていきましょう。
心不全|心臓の機能低下を示す状態
心不全とは、特定の病気の名前ではありません。心臓のポンプ機能が低下し、全身が必要とする血液を十分に送り出せない状態の総称です。
ポンプの力が弱まると、血液の流れが滞り、体にさまざまな不調があらわれます。心筋梗塞や高血圧、弁膜症といった心臓の病気が原因となることが多いです。
これらに加えて、心筋の炎症が関わるケースもあると考えられています。この炎症が心筋細胞を傷つけ、心臓の機能を徐々に低下させるのです。
心不全になると、主に以下のような症状が見られるようになります。
- 階段を上るなど、少し動いただけでの息切れ
- 疲れやすさ、だるさ
- 足のすねなどを指で押すとへこんだままになる、むくみ(浮腫)
- 急な体重の増加(体内に水分がたまるため)
一般的に「心不全」と聞くと、心臓が止まってしまうことと誤解されがちです。しかし実際には、「心臓の働きが不十分な状態」を指す言葉です。
うっ血性心不全|うっ血症状が目立つ心不全
うっ血性心不全とは、心不全のなかでも特に「うっ血」の症状が強く現れる状態です。「うっ血」とは、血液の流れが悪くなり、体内の特定の場所に水分がたまる状態を指します。
心臓は、全身に血液を送り出すだけでなく、全身から戻ってきた血液を受け取る役割も担います。心臓の拡張や右心系の働きが低下すると、戻ってきた血液がうっ滞しやすくなります。その結果、血管の外に水分がしみ出し、肺や足などにたまりやすくなります。
肺うっ血では肺の血管に水分がたまり、息苦しさや呼吸困難、咳などの症状が現れます。全身でのうっ血(体うっ血)では全身の血管に水分がたまり、足や顔のむくみ、体重増加、食欲不振などにつながります。
また、心不全が進行する過程で、心臓の筋肉が硬くなる「線維化」という変化が起こります。これは、傷ついた心筋を修復しようとしてコラーゲン線維が増えすぎることが原因です。線維化が進むと心臓はしなやかさを失い、ポンプ機能がさらに低下し、うっ血を悪化させます。
左心不全と右心不全で症状が異なる
心臓は左心系と右心系に分かれています。どちらの機能が低下するかで、うっ血の現れ方が変わります。左心系が低下すると肺うっ血、右心系が低下すると体うっ血が起こりやすくなります。
それぞれの主な症状は、以下の表のようにまとめられます。
| 左心不全(肺うっ血が中心) | 右心不全(体うっ血が中心) | |
|---|---|---|
| 主な症状 |
・体を動かしたときの息切れ ・横になると息苦しく、座ると楽になる(起座呼吸) ・咳やピンク色の泡状の痰 |
・足や顔のむくみ ・お腹の張り、食欲不振 ・急な体重増加 ・首の血管が張る |
実際には、左心不全が長く続いた結果として右心不全も引き起こされることも少なくありません。その場合、両方の症状が同時に見られることになります。
うっ血性心不全と心不全の違いのポイント
うっ血性心不全と心不全の違いには、以下があげられます。
| 項目 | 心不全 | うっ血性心不全 |
|---|---|---|
| 定義 | 心臓のポンプ機能が低下した「状態の総称」 | 心不全のなかでも、特に「うっ血症状」が目立つ状態 |
| 症状の特徴 | 息切れ、疲れやすさ、むくみなど、心機能低下による幅広い症状を含む | 呼吸困難(肺うっ血)や全身のむくみ(体うっ血)など、水分の滞留による症状が顕著 |
| 関係性 | うっ血性心不全を含む、より広い概念 | 心不全という大きな枠組みのなかの一つのタイプ |
つまり、心不全と診断された人のうち、息苦しさやむくみなどの「うっ血」症状が強い場合を「うっ血性心不全」と考えるとよいでしょう。
実際の診療では、血液検査(BNP/NT-proBNP)なども用いて、心不全の有無や重症度を評価します。
うっ血性心不全の診断方法
うっ血性心不全の診断は、まず問診と身体診察から始まります。いつから、どのような場面で息苦しさやむくみが出現するかなどを詳しく確認し、そのうえで心臓の状態を客観的に評価するため、複数の検査を組み合わせて行います。
| 検査名 | 内容 |
|---|---|
| 血液検査 |
・心臓に負担がかかると分泌されるBNP、NT-proBNPを測定 ・心臓の疲労度を反映する指標 ・年齢や合併症によって異なるが、BNP18.4pg/mL以上が経過観察や精密検査の目安となることが多い(※1) ・心不全の有無や重症度の判定に有用 |
| 胸部X線(レントゲン)検査 | ・心拡大の有無を確認・肺うっ血や胸水の有無を評価 |
| 心電図検査 | ・心臓の電気的活動を記録・不整脈や心筋梗塞など原因疾患を確認 |
| 心エコー(心臓超音波)検査 | ・心臓の動きを直接観察・ポンプ機能の低下を評価・弁膜症や血流異常の有無を確認 |
特に、血液検査と心エコー検査は、心不全を早期に発見し、重症度を正確に評価するうえで重要とされています。これらの結果を総合的に判断し、必要に応じて心臓カテーテル検査などを追加して原因を詳しく調べ、最終的な診断を確定します。
うっ血性心不全の治療方法
うっ血性心不全の治療は、息切れやむくみといったつらい症状を和らげる「症状の改善」がまず一つの目標です。そして、病気の進行を食い止め、再入院を防ぐ「悪化・再発の予防」も同様に重要です。
これらを達成するため、お薬、食事、そして時には専門的な処置を組み合わせます。
①薬物療法
薬物療法は、うっ血性心不全治療の中心であり、治療の土台となるものです。主な目的は、心臓の負担を軽くし、体内に溜まった余分な水分を取り除くことにあります。これにより、息切れやむくみといった日常生活でのつらい症状を直接的に和らげます。
心不全では、心臓が無理をしながら働き続けている状態が続いています。治療薬は、こうした心臓の過剰な負担を抑え、悪化の連鎖を断ち切る役割を担っています。そのため、症状が落ち着いている場合でも、継続的な服薬が重要となります。
| 薬の種類 | 主な働き |
|---|---|
| 利尿薬 |
・尿量を増やし、体に溜まった余分な水分や塩分を排出する ・むくみや肺うっ血を改善する |
| 血管拡張薬(ACE阻害薬・ARBなど) |
・血管を広げて血圧を下げる ・血液を送り出す際の抵抗を減らす ・心臓の負担を軽くする |
| β遮断薬 |
・心拍数を抑えて心臓を休ませる ・心臓の過剰な働きを抑制する |
ここで注意したいのは、症状が改善したと感じても、自己判断で薬を中止しないことです。心エコー検査で心臓のポンプ機能が改善していても、心臓には引き続き治療が必要な状態が残っていることがあります。
薬を中断すると、再び心臓への負担が増し、急激に症状が悪化するおそれがあります。うっ血性心不全の治療では、医師の指示に従って薬を継続的に服用することが大切です。
②食事療法(塩分1日6g未満)
薬物療法と車の両輪となるのが、食事療法、特に「減塩」です。塩分を摂りすぎると体に水分が溜まり、血液量が増えて心臓への負担が大きくなります。その結果、むくみや息切れなどの症状が悪化しやすくなります。
特に高血圧を合併している人は、1日の塩分摂取量を6g未満に抑えることが目標です。(※2)だしや香辛料、酸味を活かした調理を心がけ、醤油やソースはつけて使う、麺類の汁は残すなどの工夫が有効です。また、加工食品や漬物は塩分が多いため控えめにし、食品表示の「食塩相当量」を確認する習慣をつけましょう。
③カテーテル治療や手術
薬物療法や食事療法を続けても症状が十分に改善しない場合や、心不全の原因が弁膜症や狭心症など、物理的な治療が必要な病気である場合には、カテーテル治療や外科手術が検討されます。
どの治療を行うかは、原因や重症度、年齢、体力などを総合的に判断して決定されます。
カテーテル治療は、手首や足の付け根の血管から細い管を心臓まで進めて行う治療で、体への負担が比較的少なく、入院期間も短くなる傾向があります。冠動脈が狭くなっている場合には、風船やステントを用いて血管を広げます。また、弁膜症に対しては、カテーテルを使って弁を修復したり、人工弁を留置したりする治療が行われます。
外科手術は、胸を開いて心臓を直接見ながら行う、より根本的な治療法です。狭くなった冠動脈を迂回する新たな血流路を作る冠動脈バイパス手術や、壊れた心臓の弁を修復・交換する弁形成術、弁置換術などがあります。
このほか、脈が極端に遅くなる場合や、命に関わる重い不整脈が起こる場合には、ペースメーカーや、心臓のポンプ機能を助ける心臓再同期療法(CRT)、致死的な不整脈に対応する植込み型除細動器(ICD)などが検討されます。
まとめ
「心不全」は心臓の機能が低下した状態の総称であり、「うっ血性心不全」はそのなかでも特に息切れやむくみといった「うっ血」の症状が強く現れる状態を指します。
治療の基本は、心臓の負担を減らすお薬と、塩分を1日6g未満に抑える食事療法です。自己判断で中断すると急激に悪化する可能性があるため、医師の指示通りに続けることが何よりも大切です。
階段での息切れや足のむくみなどの症状は、心臓の不調が関係している可能性があります。不安を感じたら決して一人で抱え込まず、まずは循環器内科など専門の医療機関へ相談しましょう。
参考文献
- 一般社団法人 日本心不全学会:「血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版」
- 特定非営利活動法人 日本高血圧学会:「さあ、減塩!(減塩・栄養委員会から一般のみなさまへ)|日本高血圧学:一般の方」
