心身ともにリフレッシュできるサウナは、多くの人にとって至福の時間です。しかし、急激な温度変化が引き起こす「ヒートショック」という危険が潜んでいることをご存知でしょうか。
令和5年の統計では、浴槽での事故でなくなった高齢者は6,500人以上と交通事故による死亡者(2,116人)の3倍以上にも上ります。(※1)温度差による血圧の乱高下は自律神経の失調により体に大きな負担をかけることが知られており、このリスクはサウナでも同様です。めまいや失神だけでなく、最悪の場合は心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる事態を招く恐れがあるのです。
この記事では、なぜサウナでヒートショックが起こるのか、その医学的なメカニズムから、今日から実践できる安全な入り方までを徹底解説します。
目次
ヒートショックとは?
ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が大きく上下する現象です。
体には体温や血圧を一定に保とうとする「恒常性(ホメオスタシス)」がありますが、急な環境変化には対応しきれないことがあります。
例えば暖かい場所では血管が広がって血圧が下がりますが、急に寒い場所へ移動すると血管が一気に縮み、血圧が急上昇します。
この血圧の乱高下が心臓や脳の血管に強い負担をかけ、めまいや立ちくらみ、失神、意識障害などを起こす原因になります。
重い場合は心筋梗塞や脳卒中など命に関わる病気につながる可能性もあります。
冬の入浴中の事故として知られていますが、サウナと水風呂を行き来する場合も同じリスクがあるため注意が必要です。
サウナではヒートショックが起こる可能性がある理由
サウナでヒートショックが起こりやすいのか、その3つの主な理由を医学的な視点から詳しく解説します。
急な温度差で血圧が乱高下する
サウナでヒートショックが起こる主な原因は、サウナと水風呂の温度差によって血圧が短時間で大きく変動することです。
サウナ(高温)では、体が熱を逃がそうとして血管が広がり血圧が下がります。
その直後に水風呂(低温)へ入ると、体が熱を守ろうとして血管が急に縮み、血圧が一気に上がります。
この血圧の乱高下は心臓や脳に強い負担をかけ、めまい・立ちくらみ・失神を起こすことがあります。特に意識を失うと転倒の危険もあるため注意が必要です。
発汗で脱水になりやすい
サウナの魅力である「発汗」も、ヒートショックのリスクを高める要因です。サウナでは1回で300〜500mlほど(※個人差があります)汗をかくとされており、短時間で多くの水分が失われます。
その結果、脱水状態になりやすく、血液中の水分が減って血液が濃縮(血液が濃くなりドロドロに)なります。すると血液が流れにくくなり、心臓に負担がかかるほか、血栓ができやすくなります。血栓が脳や心臓の血管に詰まると、脳梗塞や心筋梗塞につながる危険もあります。
さらに脱水は自覚しにくく、喉の渇きを感じた時点で水分不足になっていることも多いため、こまめな水分補給が重要です。
心臓に負担がかかる
サウナ中は自覚がなくても心臓に大きな負担がかかります。これは「血圧の乱高下」や「脱水」に加えて、高温そのものが心拍数を上げるためです。
サウナ室では体が熱を逃がそうとして血流が増え、心臓は軽い運動をしている時のように強く働きます。さらに水風呂に入ると血管が急に縮んで血圧が上がり、その圧に逆らって血液を送り出す必要があるため、心臓への負担が増えます。
こうした負荷が重なると、高血圧や心疾患、腎疾患、糖尿病など持病がある人は特に危険です。健康な人でも疲労や睡眠不足など体調が悪いときは負担が大きくなるため、無理をせず安全に楽しむことが大切です。
ヒートショックが起こる危険なサウナの入り方
これからご紹介する入り方は、体に大きな負担をかけます。その結果、めまいや失神、さらには心筋梗塞や脳卒中といった、命に関わる事故につながる可能性もあるので注意しましょう。
飲酒後に入る
飲酒後のサウナ利用は、ヒートショックの危険が大きくなるため絶対に避けるべきです。
アルコールとサウナはどちらも血管を広げて血圧を下げる作用があり、重なると血圧が下がりすぎて、めまいや失神を起こしやすくなります。さらにアルコールの利尿作用とサウナの発汗が合わさることで脱水が進み、血液が濃くなって血栓ができやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞のリスクも上がります。
加えて飲酒は判断力を低下させるため、無理をしてしまい転倒や水風呂での事故につながる危険もあります。お酒を飲んだ日はサウナに入らないようにしましょう。
長時間入る
「長く入るほど健康にいい」は誤解です。我慢して長時間サウナに入ると、体に負担がかかりヒートショックのリスクが高まります。
医療でも体を温める治療はありますが、温度管理や監視のもとで行うもので、サウナで無理に長時間入るのとは別物です。
長時間の利用では、脱水の悪化・自律神経の疲れ・心臓への負担増などが起こりやすくなります。目安は1回5〜12分程度で、「何分」よりも動悸や息苦しさ、めまいなどのサインを優先し、つらければすぐ出ることが大切です。
体調不良のときに入る
睡眠不足や疲労がたまっているとき、風邪気味など体調が少しでも悪いときはサウナを控えましょう。体調不良のときは体温や血圧を調整する力が落ちており、高温の刺激に対応できずヒートショックを起こしやすくなります。
特に注意が必要なのは、睡眠不足や強い疲労、風邪や発熱、薬を服用した後、二日酔いのときです。「汗をかけば治る」は誤解で、脱水や体力消耗を悪化させる危険があります。
「いつもと違う」と感じたら無理をせず、その日のサウナは中止することが大切です。
水分不足のまま入る
サウナでは1回で300〜500mlほど汗をかく(※個人差があります)ため、入る前から水分補給しておくことが大切です。水分不足のまま入ると脱水が進み、血液が濃くなって心臓に負担がかかったり、血栓ができやすくなったりします。さらに体温調節もうまくいかず、熱中症につながる危険もあります。
「喉が渇いた」と感じたときには、すでに水分が足りていないことも少なくありません。次のタイミングでこまめに補給しておきましょう。
- サウナ前:30分前までにコップ1〜2杯(約300〜500mlをゆっくり)
- サウナの合間:休憩中に少しずつ飲む
- サウナ後:一気飲みせず、ゆっくり補う
この水分補給を意識するだけでも、サウナ中の体への負担は抑えられます。
何度もサイクルを繰り返す
「サウナ→水風呂→外気浴」を何度も繰り返すと、急激な温度変化のたびに血圧が大きく動き、体への負担が積み重なってヒートショックのリスクが高まります。気持ちよく感じていても、心臓や血管、自律神経には疲労がたまっていることがあります。
特に休憩が短いまま次のセットに入ると、体温や血圧が戻りきらない状態で刺激を受け、血圧のコントロールが乱れやすくなります。
目安としては、初心者は1〜2セット、慣れている人でも3セット程度に抑え、毎回しっかり休憩を取ることが大切です。回数よりも体調を優先し、無理をしない範囲で楽しみましょう。
サウナでヒートショックのリスクがある人の特徴
体の状態によっては、急激な温度変化が大きな負担となり、ヒートショックのリスクを高めてしまうことがあります。
ここでは、特にヒートショックのリスクが高いとされる方の特徴について、医学的な視点から具体的に解説します。
65歳以上の高齢者
65歳以上の方は、体温調節機能の低下や血管の硬化、喉の渇きを感じにくいことなどが原因で、急な温度変化に弱くヒートショックのリスクが高いとされています。実際に入浴中の死亡事故の多くが高齢者というデータもあり、サウナでも同様に注意が必要です。(※1)
安全のためには、無理をせず温度が低めの場所で短時間から試し、水風呂は避けてぬるめのシャワーにするなど体への負担を減らしましょう。また、できるだけ一人で利用せず、立ち上がる・出入りする動作もゆっくり行うことが大切です。
持病のある人
高血圧や心臓病、糖尿病などの持病がある方は、サウナによる急な温度変化や血圧の乱高下が大きな負担となり、症状の悪化や危険な状態を招く可能性があります。医療の温熱療法は管理下で行う治療ですが、サウナは自己判断で全身に強い刺激を与えるため性質がまったく異なります。
特に高血圧・心疾患・脳血管疾患・糖尿病・てんかんがある方や、降圧薬や利尿薬を服用している方は注意が必要です。利用する場合は自己判断せず、必ず事前に医師へ相談しましょう。
妊婦
妊娠中は体が大きく変化しており、サウナの負担が普段より強く出やすいため慎重な判断が必要です。血液量が増えて心臓に負担がかかりやすいほか、ホルモンの影響で血圧が不安定になりやすく、立ちくらみやめまいを起こすことがあります。さらに妊娠中は水分が不足しやすいため、サウナの発汗で脱水やのぼせのリスクも高まります。
赤ちゃんへの影響が十分に分かっていない点もあり、転倒などの危険もあるため、多くの施設では安全のため妊婦の利用を断っています。利用を検討する場合は、まず施設のルールを確認し、必ずかかりつけ医に相談してください。
サウナでヒートショックのリスクを減らすポイント
これからご紹介する3つのポイントは、ご自身の体を守り、安心してサウナを楽しむための重要な対策です。
今日からすぐに実践できることばかりですので、ぜひ習慣にして、安全で快適なサウナ時間を過ごしましょう。
体の体温を徐々に慣らす
ヒートショックを防ぐために最も大切なのは、体に急激な温度変化という「衝撃」を与えないことです。いきなり高温のサウナに入ったり、急に冷水に浸かったりすると、血圧が大きく変動し、心臓や血管に強い負担がかかります。これは準備運動なしで冷たいプールに飛び込むのと同じくらい危険な行為です。
医療現場で行われる温熱療法は、厳密な温度管理と医師の監視のもとで行われますが、サウナは自己判断で全身を刺激する点が大きく異なります。だからこそ、体をいたわりながら徐々に温度に慣らすことが重要です。
具体的には、サウナ前にかけ湯やぬるめのシャワーで足先からゆっくり体を温め、サウナ室ではまず温度の低い下段から入りましょう。水風呂に入る前も、いきなり浸からず、手足から順に水をかけて体を慣らすことで、血管や心臓への負担を大きく減らすことができます。
ちょうど良いタイミングで出る
サウナの滞在時間に「8分」「12分」といった目安はありますが、あくまで参考で絶対ではありません。体調や室温・湿度によって適切な時間は変わるため、時間よりも「体の声」を優先することが大切です。無理に長く入ると脱水や血圧の乱高下を招き、ヒートショックのリスクが高まります。
息苦しさ、動悸、頭痛、めまい・ふらつき、吐き気などが出たら危険信号なので、時間に関係なくすぐに出て休憩してください。特に初心者や久しぶりの人は、まず5〜6分程度の短い時間から始めましょう。
こまめに水分補給する
サウナは1回の利用(1セット)で300〜500mlほど汗をかく(※個人差があります)ため、短時間でも体の水分が大きく失われます。水分が減ると血液が濃くなって流れにくくなり、血栓ができやすくなるだけでなく、脱水によるめまいや意識障害のリスクも高まります。
そのため、水分補給は「喉が渇いた」と感じる前に行うことが大切です。目安としては、サウナに入る30分前に300〜500ml程度をゆっくり飲み、サウナの合間の休憩ごとにもコップ1杯ほど補給し、終わった後は失った分をゆっくり時間をかけてしっかり補うようにしましょう。
飲み物は常温の水や麦茶、スポーツドリンクが適しています。(脱水症状が疑われる場合は経口補水液も有効です)。アルコールやカフェイン飲料は利尿作用で脱水や低血圧による症状を促すため避けるべきです。
サウナでヒートショックかなと思ったときの対処法
サウナ中にめまい・立ちくらみ・吐き気など「危ないかもしれない」と感じた場合は、無理をせず、いったんサウナ室を出て涼しい場所へ移動してください。服をゆるめて楽な姿勢で休み、可能であれば横になって足を少し高くすると安心です。
水や経口補水液などをゆっくり飲み、水分と塩分を補給してください。まずは衣服を緩めて楽な姿勢になり、安静にしてください。顔色が青白い場合は足を高くして寝かせ(脳への血流確保)、顔が赤い場合は頭を高くします。
※体が熱く「熱中症」の疑いがある場合のみ、首筋などを冷やしてください。
症状が軽く回復した場合でも、その日のサウナ利用は控えるようにしてください。不安が残る場合は、念のため医療機関の受診をご検討ください。
また、意識がない、胸の強い痛み、ろれつが回らない、片側の手足が動かない・しびれる、経験したことのない激しい頭痛などがある場合は、早めに119番へ通報してください。
まとめ
サウナは心と体をリフレッシュさせてくれる素晴らしい習慣ですが、急激な温度変化は体に大きな負担をかけ、誰にでもヒートショックを引き起こす可能性があります。
しかし、この危険は正しい知識を持つことで予防できます。大切なポイントは「体を徐々に慣らす」「無理せず体のサインを優先する」「こまめな水分補給」の3つです。
特に、ご高齢の方や持病のある方は、決して無理をせず、ご自身の体調を最優先してください。
参考文献
- 消費者庁「高齢者の入浴中の事故」および厚生労働省「人口動態統計」より
