「歩き出すと膝の裏がズキッとする」「膝を伸ばすと裏側がつっぱる」、そんな経験はありませんか?多くの人が経験する膝裏の痛みですが、「そのうち治るだろう」と軽く考えていると、思わぬ病気が隠れているサインかもしれません。
その痛み、実は変形性膝関節症のような関節の問題だけでなく、血管や神経のトラブル、さらには「エコノミークラス症候群」として知られる命に関わる病気の可能性も潜んでいます。特に、急な腫れやしびれを伴う場合は注意が必要です。
この記事では、膝の裏が痛む場合に考えられる原因から、すぐに病院へ行くべき危険なサイン、自宅でできる応急処置までを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、適切な対処法を見つけるためにお役立てください。
膝の裏が痛いときに考えられる原因
ここでは、膝の裏が痛いときに考えられる原因について解説します。
変形性膝関節症
変形性膝関節症は、加齢や体重の増加、長年の負担の蓄積によって、膝関節のクッションである「関節軟骨」がすり減ってしまう病気です。
一般的には膝の内側に痛みが出やすいですが、関節全体の炎症が強くなると、膝の裏側にも痛みを感じることがあります。また、軟骨がすり減ることで関節が不安定になり、膝の裏にある筋肉や腱(けん)に過剰な負担がかかることも痛みの原因となります。
【変形性膝関節症でみられる症状】
- 立ち上がりや歩き始めなど、動きの開始時に痛む
- 階段の上り下り、特に降りるときに痛みが強い
- 正座をしたり、深くしゃがんだりすることが難しい
- 膝に「水がたまる」状態になり、腫れて動かしにくい
- 病状が進行すると、O脚(オーきゃく)のように膝が変形する
変形性膝関節症は高齢化に伴って増えやすい病気で、日本のみならず世界的にも患者数が増加しています。(※1)
半月板損傷
膝関節の中には、衝撃を吸収するクッションと、関節を安定させる役割を持つ「半月板(はんげつばん)」という軟骨組織があります。
この半月板が、スポーツでのケガや転倒、あるいは加齢によって傷ついてしまうのが半月板損傷です。損傷した半月板が自身と周囲の組織を刺激し、膝の裏側に痛みを引き起こすことがあります。
特に、膝を深く曲げたり、伸ばしたりする動作で痛みを感じやすいのが特徴です。
【半月板損傷でみられる症状】
- 膝を曲げ伸ばしする際に、痛みや「カクッ」という引っかかりを感じる
- 膝を動かすと「コキッ」「ポキッ」という音(クリック感)がする
- 急に膝が動かなくなる「ロッキング」という状態に陥る
- 膝に関節液や血液がたまり、腫れることがある
- 体重をかけたり、歩行時間が長くなると痛くなる
若い世代ではスポーツによる急なケガが多いですが、40代以降では加齢で半月板がもろくなり、日常生活のささいな動きで損傷することも珍しくありません。
後十字靭帯損傷
膝関節の前後左右方向の安定性を保つために、膝の中には4本の主要な靭帯があります。そのうち、膝の裏側で太ももの骨とすねの骨をつなぎ、すねの骨が後ろにずれないように支えているのが「後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)」です。
交通事故でダッシュボードに膝を強くぶつけたり、スポーツで膝から地面に強く着地したりした際に、この靭帯が損傷されることがあります。後十字靭帯を損傷すると、膝の裏側に直接的な痛みや腫れが生じます。
【後十字靭帯損傷でみられる症状】
- ケガをした直後の、膝裏を中心とした痛みや腫れ
- 膝がグラグラする、不安定な感じがする
- 坂道や階段を下るときに、膝が抜けるような感覚がある
- 膝をまっすぐ伸ばしきろうとすると痛む
ケガの直後だけでなく、時間が経ってから膝の不安定感を自覚することもあります。
ベーカー嚢腫
膝の裏側がぽっこり腫れてこぶのようになっている場合、「ベーカー嚢腫」の可能性があります。
膝関節は「関節包」という袋に包まれており、中には潤滑油の役割をする「関節液」が入っています。
変形性膝関節症や半月板損傷などで膝の中に炎症が起こると、関節液が過剰に作られ、行き場を失った液体が膝の裏側にある「滑液包」にたまって腫れ上がります。これがベーカー嚢腫です。
【ベーカー嚢腫でみられる症状】
- 膝の裏側がぽっこり腫れて、こぶのようにふくらむ
- 膝の裏に圧迫感や違和感がある
- 膝を伸ばしたときにつっぱる感じがする
- 嚢腫が大きい場合、しびれや痛みが出ることがある
まれに嚢腫が破裂すると、液体がふくらはぎへ流れて急な腫れや痛み、熱感が出ることがあります。この症状は「深部静脈血栓症」と似ているため注意が必要です。
関節リウマチ
関節リウマチは、本来からだを異物から守るはずの免疫システムに異常が生じ、自分自身の関節にある滑膜を攻撃してしまい、最終的には関節を破壊する自己免疫疾患の一つです。
この病気によって関節に炎症が起こり、痛みや腫れ、動かしにくさが生じます。まずは手指などの小さい関節から出始めることが多いですが、膝関節も例外ではなく、炎症が強くなると膝の裏に痛みや腫れ、水がたまるなどの症状が現れます。
変形性膝関節症との大きな違いは、膝だけでなく、手首や足首、指の関節など、全身のさまざまな関節に症状が出やすい点です。
【関節リウマチでみられる症状】
- 朝起きた時に、特に手の指がこわばって動かしにくい(朝のこわばり)
- 左右対称の関節が腫れて痛むことが多い
- 関節が熱っぽく感じられる
- 微熱や全身のだるさ、食欲不振などを伴うことがある
関節リウマチは放置すると関節の変形につながるため、早期に診断を受け、適切な治療を開始することが重要です。
深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)
膝の裏が痛む原因は、関節や筋肉の問題だけではありません。足の奥深くを走る静脈に血の塊(血栓)ができてしまう「深部静脈血栓症」も、原因として常に考える必要があります。
長時間のフライトやデスクワークで座りっぱなしの状態が続くと、足の血流が滞り、血栓ができやすくなります。これが「エコノミークラス症候群」とも呼ばれる状態です。
できた血栓が静脈の流れを妨げることで、主に片方のふくらはぎから膝裏にかけて、急な痛みやパンパンに張るような腫れ、皮膚が赤紫色になるなどの症状が現れます。
最も危険なのは、この血栓が血流に乗って心臓を通り抜け、肺の血管を詰まらせてしまう「肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)」です。肺塞栓症を起こすと、突然の激しい胸の痛みや呼吸困難に襲われ、命に関わることもあります。
【深部静脈血栓症を疑うサイン】
- 長時間同じ姿勢でいた後に、急に片足だけが腫れて痛む
- ふくらはぎを軽く押しただけで強い痛みがある
- 足の皮膚の色が赤っぽく、あるいは紫色っぽく変化している
- 足の痛みや腫れと同時に、息苦しさや胸の痛みがある
これらの症状が一つでも当てはまる場合は、ためらわずに救急車を呼ぶか整形外科、もしくは「循環器内科」「血管外科」のある総合病院を受診してください。
坐骨神経痛
膝の裏が痛むのに、膝自体をレントゲンなどで調べても明らかな異常が見つからないことがあります。その場合、痛みの本当の原因は「腰」にあるかもしれません。
腰からお尻を通り、足先まで伸びている人体で最も太い神経が「坐骨神経」です。腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症といった腰の病気によって、この坐骨神経の根元が圧迫されると、神経が通っている道筋に沿って痛みやしびれが生じます。
これを坐骨神経痛と呼びます。
【坐骨神経痛でみられる症状】
- お尻から太ももの裏、膝の裏、ふくらはぎにかけて、電気が走るような痛みやピリピリとしたしびれが出る
- 長時間立っていたり座っていたりすると症状が悪化する
- 体を前にかがめたり、逆に後ろに反らしたりすると痛みが強まったり和らいだりする
- 膝自体に腫れや熱感、変形はないことが多い
膝の治療を続けても痛みが改善しない場合は、坐骨神経痛の可能性も視野に入れ、整形外科で腰の状態を詳しく調べてもらうことが大切です。
膝の裏が痛いときに病院で行われる検査
膝の裏が痛くて病院を受診した場合、医師は原因を正確に調べるために、まず問診と診察を行い、必要に応じて検査へ進みます。
問診では「いつからどこが痛むか」「どんな動きで痛みが強くなるか」「ケガのきっかけはあるか」「腫れ・熱っぽさ・しびれはあるか」「過去に膝の病気やケガがあるか」などを確認します。
次に身体診察で膝を見て触り、腫れや熱感、痛む場所、曲げ伸ばしの範囲、ぐらつきの有無などを評価します。そのうえで、必要があればレントゲンで骨の変形や骨折を確認し、MRIで半月板や靭帯、軟骨の状態を詳しく調べます。
さらに超音波検査ではベーカー嚢腫の確認や膝関節周囲の血栓の有無をみることができ、炎症性疾患が疑われる場合は血液検査を行うこともあります。なお、急な腫れや強い痛みがあり深部静脈血栓症が疑われる場合は、緊急で追加の検査が行われることがあります。
膝の裏が痛いときの対処法
膝の裏が痛いときの対処法として、自宅でできるケアと病院での治療を詳しく見ていきましょう。
自宅でできるケア
痛みが強くなく腫れも軽い場合は、自宅でできる応急処置を試せます。ただし2〜3日ケアしても改善しない、または悪化する場合は受診が必要です。急なケガで腫れや熱感がある場合は、RICE処置を行います。
Rest(安静)は、痛む足に負担をかけず無理に動かさないことです。Icing(冷却)はタオル越しに15〜20分ほど冷やします。Compression(圧迫)はサポーターや包帯で軽く圧迫して腫れを抑えますが、しびれるほど強く巻かないよう注意します。Elevation(挙上)は横になるときに足をクッションなどで心臓より高くして、腫れを引きやすくします。
変形性膝関節症など慢性的な痛みで熱感がない場合は、冷やすよりも温めて血流を良くする方が楽になることがあります。症状に合わせてケアを選びましょう。
また、痛みが強くない場合はストレッチも有効です。ふくらはぎは壁に手をつき、痛む足を後ろに引いてかかとを床につけたまま伸ばします。太もも裏は椅子に座って足を前に伸ばし、背筋を伸ばしてゆっくり前に倒して伸ばします。痛みが出る場合は無理せず中止してください。
病院での治療
病院での治療の方針は、手術をしない保存療法と手術療法にわけられます。それぞれの治療の具体的な内容をご紹介します。
保存療法
治療は原因や症状に合わせて行われ、主に「薬」「リハビリ」「装具」を組み合わせます。
薬物療法では、痛みや炎症を抑えるために飲み薬・貼り薬・塗り薬(消炎鎮痛薬)が使われます。痛みが強い場合は、ステロイド注射やヒアルロン酸注射を行うこともあります。なお、深部静脈血栓症が原因の場合は治療が異なり、血を固まりにくくする抗凝固薬による対応が必要です。
リハビリでは、膝まわりの筋力をつける運動やストレッチで動きを改善し、必要に応じて電気や温熱などで痛みを和らげます。
装具療法では、サポーターや足底板(中敷き)を使い、膝を安定させて負担を分散し、痛みを軽くします。
手術療法
数ヶ月間、保存療法を続けても症状が改善しない場合や、半月板や靭帯の損傷が大きい場合には、手術が検討されます。術式は疾患ごとに異なります。
近年では、カメラを関節の中に入れて行う「関節鏡手術」など、体への負担が少ない方法も増えています。
予防方法
痛みの再発を防ぐには、普段から膝に負担をかけない生活を意識することが大切です。
まずは生活習慣の見直しとして、体重管理を心がけましょう。体重が増えるほど膝への負担も大きくなります。また、猫背や反り腰などの悪い姿勢は膝に余計な負担をかけるため、正しい姿勢や膝に優しい動作を意識することも重要です。さらに、靴はクッション性があり、かかとが安定したものを選び、合わない靴やすり減った靴は避けましょう。
加えて、筋力トレーニングとストレッチも効果的です。膝を支える太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることで膝が安定しやすくなります。椅子に座って片足ずつ膝を伸ばし5秒キープ、これを左右10回ずつ、痛みが出ない範囲で1日3セットを目安に行いましょう。
また、入浴後など体が温まっているときに太ももやふくらはぎをストレッチし、柔軟性を保つことで膝への衝撃を減らせます。
まとめ
膝の裏の痛みと一言でいっても、その背景には関節や筋肉の問題だけでなく、血管や神経のトラブル、中には「深部静脈血栓症」のような緊急性の高い病気が隠れている可能性もあります。
「ただの筋肉痛だろう」と自己判断で様子を見るのではなく、特に強い痛みや急な腫れ、しびれといった症状がある場合は、ためらわずに整形外科を受診しましょう。
原因を正しく突き止めることが、不安を解消し、適切な治療への大切な第一歩です。あなたの膝の健康を守るために、まずは専門家に相談することから始めてみてください。
参考文献
- GBD 2021 Osteoarthritis Collaborators.Global, regional, and national burden of osteoarthritis, 1990-2020 and projections to 2050: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2021.The Lancet Rheumatology,2023,5(9),e508-e522.
