目次
- 1 はじめに
- 2 ★夏はどこへ行くにも上着が手放せません。昨今の猛暑で、電車も飲食店も会社も、クーラーがガンガンに利いていて長時間いると寒くて耐えられなくなります。
- 3 ★「女性が、男性が」と性別で何かを分けるのはしたくありませんが、女性の方がどちらかというと男性よりも冷房に弱い気がします。
- 4 ★熱中症も、何らかの原因で体内の熱が放散できなくなった時に起こります。
- 5 ★男性より筋肉量が少ない女性は、寒い時の熱を作る力が弱い?
- 6 ★女性は、体の構造から、男性より脂肪が多いですよね。
- 7 ★冷えても、カーディガンや膝掛けなどで防御すれば、体に問題はないでしょうか?
- 8 ★夏になるとしょっちゅう風邪を引くのですが、免疫力低下と関係していますか?
- 9 ★夏が厄介なのは、屋内では凍えるほど寒いのに、屋外に行くと一転、めまいをしそうなほどの高気温の中で過ごさなければならないことです。
- 10 ★夏は、体が重だるい状態によくなります。自律神経の乱れが関係しているのですね。
- 11 ★てっきり夏バテだと思っていました。
- 12 ★夏バテで食欲がないから冷たいものをたくさん取ったり、そうめんなど麺類に頼ったりしてしまう……。
- 13 ★夏バテ対策にうなぎや焼き肉を食べるのも、ちょっと違うかもしれませんね。
- 14 ★夏の冷え対策としてどういうことをするべきでしょうか?
- 15 この記事を監修した医師
はじめに
夏に起こりやすいのが、冷房による「冷え」だ。昨今の猛暑を考えると、冷房は生活の上で欠かせないが、適切に使用しなければ、体の不調を招く。もし、食欲がなくなったり、夜ぐっすり眠れなくなったり、疲労感が強くなったりし、しかし病院で検査を受けても何の異常も見つからなければ、過度のエアコンによる冷えを疑った方がいい。
福岡県柳川市で「漢方内科・婦人科・小児科 いくしま医院」を開く幾嶋泰郎院長は、漢方薬には体を温める作用があるものが多いことを活かし、東洋医学を中心として、冷えでさまざまな不調を抱えている患者さんの診療にあたっている。幾嶋院長によれば、冷え対策として自分ですぐできることはいくつかあり、それを実施しただけで不調が消えるケースは少なくないそうだ。話を聞いた。
★夏はどこへ行くにも上着が手放せません。昨今の猛暑で、電車も飲食店も会社も、クーラーがガンガンに利いていて長時間いると寒くて耐えられなくなります。
私の患者さんからも同様の訴えをよく耳にします。特に「夏の冷房の利きすぎがつらい」とよく訴えるのは女性ですね。皆さんがしばしば言うのは、会社の中で仕事をしていると、営業で外回りの男性社員が帰社して、「暑い暑い」と冷房の設定温度を一気に低くする。この間聞いた患者さんの話では、社内の温度設定が20度以下になることもあったそうです。
★「女性が、男性が」と性別で何かを分けるのはしたくありませんが、女性の方がどちらかというと男性よりも冷房に弱い気がします。

一般論として、それは間違いありませんよ。女性は男性と比べて筋肉量が少ない。筋肉は物を持ち上げたり、走ったりと、力を発揮する働きを担っています。しかしそれだけではなく、体の熱を作ることも筋肉の重要な働きです。これを熱産生と呼びます。実際に男性の体温の方が少し高めです。私たちの体は、寒いところにいても、また暑いところにいても、体の深部の体温は37度前後で安定するようにできています。人間の新陳代謝は内臓の酵素で科学的反応が制御されています。その酵素は37℃で100%活性が発揮されるようになっています。深部体温はそれより高くても低くても十分に働きません。
外気温が寒いからといって深部体温が急激に低くなったり、あるいは外気温が暑いからといって深部体温が急激に高くなったりすると、体の中の細胞や組織が適正に働けなくなるので、深部体温は37±0.2℃いう狭い範囲に調整されています。
★熱中症も、何らかの原因で体内の熱が放散できなくなった時に起こります。
まさにそうです。専門的には「行動性体温調節」と言うのですが、恒温動物である人間は、寒い時には筋肉が熱を作って体温を上げ、暑い時には発汗で熱を放出するようにできているのです。寒い時は身体が勝手にガタガタと肩や背中が震えて筋肉が収縮して体温を上げようとします。冷え症の人に肩こりが多いのはそのためです。深部体温が上がらなければ臓器のエネルギー代謝も低下するので、臓器はそれぞれ一時的に機能不全に陥ります。
★男性より筋肉量が少ない女性は、寒い時の熱を作る力が弱い?
冷房がガンガン利いている部屋では、真冬と同じように寒さを感じ、深部体温を一定に保つために筋肉が熱を作って体温を上げようとします。しかし女性は筋肉量が少ないゆえに、男性より熱産生がうまくいきにくい。深部体温が上がらないと、心臓のポンプ作用が低下して、体の末端まで熱が行き渡らず、手足も冷えます。朝の日の出前は1日のうちでもっとも気温が低くなり、起床時にスムーズに起きられない人が続出します。通常は2〜3分以内に布団から出てこれますが、冷え症の人は30〜60分も布団から出てこられない人がいます。寝ている間に身体が冷え切ってしまっているのでしょう。もちろん、これは一般論ですので、筋肉量が多いアスリートの女性では熱産生がスムーズにいくでしょうし、逆に筋肉量が少ない男性や高齢者では、冷房による冷えに悩まされるでしょう。
★女性は、体の構造から、男性より脂肪が多いですよね。
男性ホルモンは筋肉を作るのに寄与しています。脂肪は、冷えてしまうと温まりにくい性質を持っているので、冷えを促進します。
★冷えても、カーディガンや膝掛けなどで防御すれば、体に問題はないでしょうか?
そうとは言えません。経験のある方が多いでしょうが、冷房をガンガンに利かせた部屋では、カーディガンや膝掛けをしていても、吸っている空気が冷えていると、肺が冷えます。血液は一度肺を通ってから全身に行きます。この時冷えも同時に運ばれます。身体の末端ほどこの傾向はひどくなります。手足の先が冷え切った状態になると思います。行動性体温調節で深部体温を上げようとしても、あまりに寒すぎる環境だと、体の表面を温めるために血液が体の表面にいってしまい、深部体温が低くなりがちです。深部体温の低下は、免疫力の低下につながります。深部体温は37度前後に保たれていると先ほど述べましたが、深部体温がわずか1度下がるだけで、免疫力が30%低下するとの指摘もあるのです。
★夏になるとしょっちゅう風邪を引くのですが、免疫力低下と関係していますか?
そう思いがちですが、これは単に鼻、気管支、肺の粘膜が冷えて、分泌量が増えて、鼻汁、痰、咳が増えているにすぎません。その証拠に、室温を25℃以上にすれば、鼻汁も、痰も咳も止まります。高齢者では特にサルコペニア(筋肉雨量の現象)の状態にあり、深部体温が低下しています。高齢者の肺炎の原因はこのことによると思われます。高齢者施設内の温度を25℃以上にすると肺炎の罹患率が極端に低下します。
★夏が厄介なのは、屋内では凍えるほど寒いのに、屋外に行くと一転、めまいをしそうなほどの高気温の中で過ごさなければならないことです。
自律神経という言葉を聞いたことがあるでしょう。呼吸、血液循環、血圧調整、消化など、意識的な努力を必要とせず、無意識に体内の特定のプロセスを調節している神経系です。自律神経には、交感神経と副交感神経があり、シーソーのようにどちらかが活発化し、どちらかが不活発化して、体のさまざまな機能をコントロールしています。簡単に分けると、緊張状態の時は交感神経が活発に、リラックス状態の時は副交感神経が活発に。暑い時、私たちの体では副交感神経が活発化し、血管が拡張し、発汗と共に体内の熱を放散しようとします。寒い時は、交感神経が活発化し、血管が収縮し、体内の熱を外に逃さないようにします。
屋内では震えていたのに、屋外に出て猛暑の空間に身を置くと、体は急激な温度差についていけません。肌の表面では暑さを感じているのに、深部温度が低下していると、体内の温度が上昇していない状態が続くのです。この「かなり寒い」と「かなり暑い」の繰り返しで、自律神経の働きがうまくいきにくくなり、体温調節が上手にできなくなります。汗をかきにくくなり、乳酸などの疲労物質が体内に溜まり、疲労感や倦怠感を感じやすくなります。
★夏は、体が重だるい状態によくなります。自律神経の乱れが関係しているのですね。
自律神経は、体のさまざまな機能をコントロールしていると申し上げました。自律神経が乱れると、それらにも影響が出るので、胃腸の働きが悪くなったり、睡眠の質が落ちたりといった不調も生じやすくなります。
★てっきり夏バテだと思っていました。
自律神経の乱れでうまく食事を取れなくなったり、夜ぐっすり眠れなくなると、余計に体がバテてしまいます。夏バテの正体は、冷房の利きすぎによる冷えの可能性もあります。一部の 夏の不調は、冷えが関係していることは間違いありません。
★夏バテで食欲がないから冷たいものをたくさん取ったり、そうめんなど麺類に頼ったりしてしまう……。
体が冷えているのに、アイスクリームやビール、氷など冷たい物を日常的に取っていれば、冷えはますます進行するでしょう。また、そうめん自体は悪い食材ではありませんが、冷やして食べることが問題です。そうめんは夏に食べますが、冬には食べません。そこで冷えすぎないように、ショウガ、ネギなどと一緒に食べます。これらのネギやショウガは身体を温めることが証明されており、薬味とか加薬と言われています。昔の人はこれらが薬として作用することをよく知っていたのではないでしょうか?
★夏バテ対策にうなぎや焼き肉を食べるのも、ちょっと違うかもしれませんね。
冷えという根本的原因を解決しなければ、不調も改善しない。むしろ、夏は暑くて活動量が減りがちですから、夏バテ対策のためにしていることが肥満につながってしまう可能性があります。体を温めることを第一に考えていただきたい。「いや、私、冷えていませんから」とおっしゃる方もいるんですが、冷えた状態が続くあまりにそれに鈍感になってしまい、自覚していない方もたくさんいます。次に該当するなら、自分は冷えていると捉えた方がいいです。
- 冷房が利いた部屋で過ごす時間が長い
- 夏風邪をよく引く
- 手足を触ると冷たい
- 体温が36度前後以下
★夏の冷え対策としてどういうことをするべきでしょうか?
夏風邪やさらさらした鼻水がよく出る人では、顔の下から上に向けて、鼻、口、喉に温風が当たるようヘアドライヤーを当ててみてください。鼻の奥や喉の奥の粘膜が温まり、鼻汁や痰が減り、楽になりますよ。日常的にやってほしいこととしては、主に3つあります。
まず、冷房の設定温度を上げる。
私は25℃以上が適温だと考えています。外気温との差を考えると、もう少し高くてもいい。エアコンの温度設定は必ずしも正確ではありません。部屋の広さや天井の高さなどにより3〜4℃違うこともよくあります。必ず温度計を見ながら適正な温度に調整することが必要です。営業などで外回りしてきた方は、冷たいタオルなどで首筋などを冷やすと、冷房に頼らなくても、暑さが和らぐかもしれませんね。
次に、半身浴です。夏は、38℃〜40℃くらいのお風呂に浸かるようにしてください。心臓へ負担をかけないよう、みぞおちくらいまでで。お風呂から上がる時は、洗面器1杯の冷たい水を膝から下にかけるといいですよ。足の皮膚の血管が収縮し、熱が逃げにくくなります。
そして、3つめは生姜湯です。生姜をすりおろし、蜂蜜や黒砂糖と一緒にお湯や紅茶に溶かして飲むと体が芯から温まります。さらに私がお勧めしたいのは、生姜をカリカリに乾燥させ、それを食べる方法。東洋医学では「乾姜」という漢方薬の素材であり、火を加えることで、もともとある体を温める作用が何倍にも高くなります。
★生姜を天日干しすればいいのですか?
その方法では出来上がるまで1週間ほどかかってしまいます。簡単に作るには、生姜を薄切りにして、80度に温めたオーブンで80分、焼きます。手間はかかりますが、オーブンさえあれば誰でもできます。ぜひ、一度にたくさん作ってください。乾燥しているので、密閉容器に入れておけば、常温で保管できます。半年ほど放置していても、問題ありません。この乾燥したしょうがは、そのまま食べてもよし、お味噌汁や料理に入れてもよし、お茶に入れてもよし。携帯すれば、いつでも食べられます。最強の「冷え対策食」となります。