健康診断の結果は異常ないのに、食後の強い眠気や倦怠感に悩まされていませんか?
その不調は健康診断では見つからない隠れ糖尿病のサインかもしれません。隠れ糖尿病は、自覚症状がないまま進行し、気づいたときには動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの重大な合併症につながることもあります。
この記事では、自分でできる隠れ糖尿病のセルフチェックリストや原因、放置のリスクや検査内容を解説します。まずは自分の体のサインに気づき、早めの対策を始めましょう。
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隠れ糖尿病とは糖尿病予備軍の状態
隠れ糖尿病とは、糖尿病の一歩手前の状態です。正式な病名ではなく、医学的には境界型糖尿病と呼ばれます。
健康診断で測定される空腹時血糖値が正常範囲内のため、見過ごされがちな病態です。食後に血糖値が急上昇する食後高血糖が起きている場合もあります。
典型的な糖尿病の症状である喉の渇きや頻尿がほぼ現れないため、自分で気づけずに進行している可能性があります。
症状がないからと安心せず、隠れ糖尿病の段階で気づくことが大切です。早めに対策を始めることが糖尿病への進行を防ぐ鍵となります。
隠れ糖尿病のセルフチェックリスト
自身の生活習慣や最近の体調を振り返り、以下のチェックリストを確認してみましょう。
糖尿病リスク チェックリスト
ご自身の状態に当てはまるか確認してみましょう。
【生活習慣・体質に関連するチェックリスト】
| 40歳以上である |
| 家族や親戚に糖尿病の人がいる |
| 肥満気味(BMI25以上) |
| 運動習慣がなく1日の歩数が5000歩以下(30分以内)と少ない |
| 甘い菓子パンやジュース・炭水化物を間食として摂取することが多い |
【体調の変化に関するチェック】
| 食後の強い眠気やひどいだるさがある |
| 十分寝ても疲れがとれず体が重い |
| 喉が乾きやすく水分摂取量が増えた |
| トイレに行く回数が増えた |
もし3つ以上当てはまる項目があれば、隠れ糖尿病の可能性があります。症状がなくても、一度医療機関での相談をおすすめします。
隠れ糖尿病の主な原因
隠れ糖尿病の原因は一つではなく、生活習慣や体質など、さまざまな要因が重なって起こります。以下の4つの原因に自身の生活で当てはまる部分がないかを確認しましょう。
①食生活の乱れ
②運動不足・肥満
③ストレス・睡眠不足
④遺伝や加齢など体質的要因
①食生活の乱れ
血糖値の変動には、食事の内容が大きく関係しています。糖質の多い食事を続けると、血糖値が急に上がり、インスリンを出す膵臓に負担がかかります。
不規則な食事や偏った食生活は、食後に血糖値が急上昇する「血糖値スパイク」を起こしやすく、隠れ糖尿病につながることもあります。
具体的な例を以下の表で見てみましょう。
| 原因 | 具体例 |
| 糖質が多い食事 | ・白米やパン、麺類など精製された炭水化物をよく食べる ・甘いお菓子や清涼飲料水を頻繁に摂取する |
| 早食い・ドカ食い | ・よく噛まずに早食いすると糖質が一気に吸収される ・早食いやドカ食いにインスリン分泌が追いつかず血糖値が急上昇する |
| 食べる順番が不適切 | 最初に炭水化物を食べると血糖値が上がりやすくなる |
| 不規則な食事時間 | ・朝食を抜くと次の食事で血糖値が上昇しやすくなる ・夕食の時間が遅くなるほどインスリンが働きづらくなる |
②運動不足・肥満
運動不足と肥満は、どちらも血糖値を上げやすくする大きな原因です。
体を動かさない時間が続くと、血糖を下げるホルモン「インスリン」の働きが悪くなり、糖がうまく利用されにくくなります。この状態をインスリン抵抗性と呼びます。
筋肉は糖を多く消費する臓器のため、筋肉量が減ると血糖を処理する力も落ちてしまいます。肥満によって内臓脂肪が増えると、インスリンの働きを妨げる物質が分泌され、血糖値が上がりやすくなります。
運動不足と肥満はお互いに影響し合い、悪循環を招きやすい状態です。このサイクルが続くと、隠れ糖尿病が進みやすくなることがあります。
③ストレス・睡眠不足
心と体の状態も血糖値に影響します。精神的ストレスや慢性的な睡眠不足は、自律神経や副腎皮質ステロイド(糖質コルチゾール)などのホルモンバランスを乱し、血糖値を上昇させることがあるのです。
強いストレスを感じると、体はストレスに対応するため交感神経を優位にします。この時、血糖値を上げるコルチゾールやアドレナリンなどのホルモンが分泌されるので、血糖値が上がりやすくなります。
また、睡眠不足になると、食欲を高めるホルモンが増え、反対に抑えるホルモンが減少します。その結果、甘いものをつい食べすぎてしまい、血糖値が上昇しやすくなります。
④遺伝や加齢など体質的要因
自分ではコントロールが難しい遺伝的要因も、隠れ糖尿病のリスクです。
家族や親戚に糖尿病の方がいる場合、いない方と比べて糖尿病になりやすい体質を受け継いでいる可能性があります。インスリンの分泌量や効きやすさに影響を与えるとされる遺伝的要因があると考えられています。
年齢を重ねると筋肉量が減少していくため、基礎代謝が低下します。インスリンを分泌する力も衰えてくるので、若い頃より血糖値は上がりやすくなります。
隠れ糖尿病を放置するリスク
隠れ糖尿病に気づいていない間も、血管へのダメージが蓄積しています。ここでは放置した場合のリスクを以下に3つ解説します。
①糖尿病への移行
②三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)
③生活習慣病(動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中など)
①糖尿病への移行
隠れ糖尿病の段階で対策をしないと多くの場合、糖尿病へと移行することがあります。高血糖状態が続くと、膵臓からのインスリンを分泌する機能が低下し、インスリンの組織での効き目も悪くなります。この状態を「インスリン抵抗性」と呼びますが、これにより血糖値が上昇しやすくなるのです。
一度糖尿病と診断されると、継続的な治療と管理が必要になることが多いです。多くの場合、生活習慣を見直しながら、血糖値を安定させるための治療をしていかなければなりません。
隠れ糖尿病の段階で適切な対策をすれば、糖尿病への進行を防ぎ、発症を遅らせることが可能になります。
②三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)
血糖値が高い状態が続くと、全身の細い血管が徐々に傷つき、さまざまな合併症を引き起こします。以下に示した三大合併症は、隠れ糖尿病の段階から発症するリスクが高まり始めています。
| 合併症 | 症状 |
| 糖尿病網膜症 | ・網膜が傷つき進行すると視力が低下する ・成人の失明原因の上位を占める |
| 糖尿病腎症 | ・腎臓の濾過機能をつかさどる糸球体が傷つき老廃物を排出できなくなる ・症状が進行すると人工透析が必要になる場合がある |
| 糖尿病神経障害 | ・手足などの末梢神経が傷つき手足のしびれ、痛みなどさまざまな症状が現れる。結果として皮膚の疾患にもかかりやすくなる ・立ちくらみや下痢など自律神経症状も現れる |
合併症の怖いところは、いずれも自覚症状が出たときには、かなり進行しているという点です。症状がない時点からの血糖コントロールが重要になります。
③生活習慣病(動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中など)
隠れ糖尿病を放置すると、血糖値の上昇によって血管が徐々に傷つき、動脈硬化が進行する可能性があります。食後に血糖値が急上昇と急降下を繰り返す血糖値スパイクは、血管の内側を傷つけ、血管年齢を早めてしまう要因です。
動脈硬化が進行すると血管は弾力を失い、コレステロールなどが沈着して狭窄が起こります。その結果、血流が滞りやすくなり、詰まりやすい状態に陥ります。
この状態が続くと、以下のような重大な病気を引き起こすリスクが高まります。
- 狭心症、心筋梗塞
- 脳梗塞、脳出血
- 下腿などの閉塞性動脈硬化症
隠れ糖尿病の段階でも、血管にはすでに少しずつ負担がかかり始めています。血糖値だけでなく、血圧やコレステロールの管理にも気を配ることで、将来の大きな病気を防ぐことにつながります。
隠れ糖尿病の検査
隠れ糖尿病を早期に見つけるためには、定期的な検査が欠かせません。
採血による簡単な検査で行えるものが多く、体への負担も少ないのが特徴です。
代表的な検査として、次の4つが挙げられます。
①HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)検査
②随時血糖検査
③早朝空腹時血糖検査
①HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)検査
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)検査は、過去1〜2か月間の平均的な血糖の状態を知るための血液検査です。よく使用される検査で変動が少ない安定した指標となります。
赤血球中のヘモグロビンというタンパク質に、糖がどれだけ結合しているかを%で表しています。血糖値が高い状態が続くほど、HbA1c値も高くなるのがこの検査の特徴です。
HbA1c検査のメリットは、検査直前の食事や運動の影響を受けないことです。そのため食後すぐの採血でも問題なく、健康診断などで広く用いられています。
HbA1c検査の判定基準を以下の表にまとめました。(※2)
| 判定区分 | HbA1c(NGSP値) | 内容 |
| 正常範囲 | 5.9%以下 | 血糖コントロールは良好 |
| 境界型(隠れ糖尿病) | 6.0〜6.4% | 糖尿病予備軍と考えられる |
| 糖尿病型 | 6.5%以上 | 糖尿病の可能性が高い状態 |
②随時血糖検査
随時血糖検査は、食事の時間に関係なくいつでも測定できる血糖検査です。食後の高血糖を捉えるのに適しており、食後の強い眠気や倦怠感がある場合に行うことで、隠れ糖尿病の兆候を見つけやすくなります。
検査結果が140mg/dL以上200mg/dL未満であれば、隠れ糖尿病の可能性が高くなります。より正確な判断のために75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を受けることが推奨されます。
200mg/dL以上の場合は糖尿病が疑われるため、精密検査が必要です。(※1)随時血糖検査は体調と血糖値の関係を確認する参考になりますが、診断には用いられないため、異常値が出た場合は追加の検査が必要となります。
③早朝空腹時血糖検査
早朝空腹時血糖検査は、健康診断などで一般的に行われる基本的な血糖検査です。10時間以上食事を摂らず、空腹時に採血し血糖値を測定します。主に、安静時における基礎的なインスリン分泌の状態を把握するために用いられます。
早朝空腹時血糖検査は安静時の数値を測るため、結果が正常でも隠れ糖尿病が見逃されることがある点には注意が必要です。
早朝空腹時血糖検査の判定基準は以下の表のとおりです。(※1)
| 判定区分 | 空腹時血糖値 | 内容 |
| 正常型 | 110mg/dL未満 | 正常範囲だが100mg/dLを超えていたら注意が必要である |
| 境界型(隠れ糖尿病) | 110mg/dL〜126mg/dL未満 | 隠れ糖尿病の可能性があり追加検査が推奨される |
| 糖尿病型 | 126mg/dL以上 | 糖尿病の可能性が高い |
まとめ
今回のセルフチェックで少しでも当てはまる項目があった方は、放置せずに自身の体の状態を知ることが重要です。
隠れ糖尿病は、糖尿病や合併症に移行する前段階ですが、この段階で生活習慣を見直すことで、健康を維持できる可能性があります。
気になる症状や不安がある場合は、一度お近くの内科や糖尿病内科に相談してみてください。早めの気づきと行動が、将来の大きな病気を防ぐ何よりの予防になります。今日からできることを始め、未来の自分の健康を守りましょう。
参考文献
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」p8〜10
- 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム令和6年度版」p139

