薬を飲んでもすっきりしない、原因不明のつらい頭痛に悩まされたことはありませんか?
長引く頭痛の根本原因は、口腔内にあるのかもしれません。近年の研究では、歯周病が全身の健康に影響を及ぼすことが明らかになっており、頭痛との深刻な関連も指摘されています。(※1)
この記事では、歯周病が頭痛を引き起こすメカニズムを解き明かし、医科と歯科の連携による根本治療への道筋を詳しく解説します。原因不明の頭痛の正体に気づき、体の内側から健やかさを取り戻す一歩を踏み出しましょう。
歯周病が原因で起こる頭痛とは?3つのメカニズムを解説
歯周病が頭痛を引き起こすメカニズムとして、以下の3つを解説します。
①炎症性物質と頭痛の関連
②噛み合わせ悪化による筋緊張と頭痛の関連
③片頭痛やストレス性の頭痛との関連
①炎症性物質と頭痛の関連
歯周病は、歯周病菌によって歯ぐきに炎症が起こる病気です。炎症が続くと、体は細菌に立ち向かうための「炎症性物質(サイトカイン)」を作り出します。本来は体を守るものですが、過剰になるとさまざまな不調の原因となります。
歯周病による炎症で生じる頭痛は、以下の流れで発生すると考えられています。
- 歯周病菌の増殖:口腔ケアが不十分だと、歯と歯ぐきの間で歯周病菌が増殖する
- 炎症の発生:菌が出す毒素に対抗するため、歯ぐきで炎症が起こる
- 炎症性物質の産生:炎症反応の結果、体内で炎症性物質が作られる
- 血流に乗って全身へ:炎症性物質が歯ぐきの血管から血液中に入り込み、全身に運ばれる
- 頭痛の誘発:脳に到達した炎症性物質が、神経や血管を刺激して頭痛を引き起こす
実際に、歯周病と片頭痛を併発している患者さんでは、特定の炎症性物質(プロカルシトニン、CGRP、インターロイキン-6など)の血中濃度が高いことが報告されています。(※1)
②噛み合わせ悪化による筋緊張と頭痛の関連
歯周病が進行すると、歯を支えている顎の骨(歯槽骨)が溶けます。その結果、歯がグラグラしたり抜けてしまったりして、全体の噛み合わせがずれてくることがあるのです。
噛み合わせの悪化は以下のような症状を引き起こします。
- 顎の筋肉の過度な緊張:側頭筋や咬筋(こうきん)などが常にこわばる
- 血行不良:筋肉の緊張で血管が圧迫され、血の流れが悪くなる
- 痛みの発生:筋肉内に老廃物がたまり、頭痛や肩こりを引き起こす
- 顎関節症のリスク:口を開けにくい、カクカク音がするなどの症状が出ることがある
筋肉が常に緊張していると、筋肉に疲労物質が溜まって血行が悪くなり、重だるい痛みを引き起こします。これが「緊張型頭痛」と呼ばれる頭痛の典型的なメカニズムです。
③片頭痛やストレス性の頭痛との関連
歯周病と片頭痛には、直接的な関連があることが研究で示されています。(※1)ある大規模な調査では、歯周病の人はそうでない人に比べ、片頭痛のリスクが約1.3倍高くなるという結果が出ています。
歯周ポケット(歯と歯ぐきの間の溝)が深くなるほど、片頭痛のリスクが高まることもわかっています。(※2)歯周病による慢性的な炎症が片頭痛の引き金になったり、症状を悪化させたりする可能性があります。
歯ぐきの腫れや出血、口臭などの歯周病の症状は、大きな精神的ストレスになります。慢性的なストレスが自律神経のバランスを乱すことがあり、血管の収縮・拡張のコントロールを不安定にさせることで、片頭痛や緊張型頭痛を誘発することもあります。
頭痛の原因が歯周病か見極める5つのセルフチェック
ご自身の頭痛が歯周病と関連しているかどうか、日々の症状から推測できるサインがあります。簡易的なセルフチェックに使用できる項目は以下の5つです。
①歯茎の腫れや出血と同時に頭痛が起こる
②頭痛薬が効かない・効きにくくなってきた
③慢性的な肩こり・首こりも感じる
④起床時に顎のだるさや食いしばりがある
⑤ズキズキ・締め付け感のある頭痛が続く
①歯茎の腫れや出血と同時に頭痛が起こる
歯周病のわかりやすいサインは、歯ぐきの異常です。以下のように歯ぐきに炎症が起こる場合は、何かしらの異常があるかもしれません。
- 歯磨きをすると、歯ブラシに血がついたり、すすいだ水が赤っぽくなったりする
- 歯ぐきが赤く腫れぼったく、ブヨブヨした感触がある
- 硬いリンゴなどをかじると、歯ぐきから血がにじむことがある
- 歯が浮くような感じや、歯ぐきがムズムズする不快感と頭痛が同時に起こる
これらのサインは、口腔内の炎症が全身に影響を及ぼしている可能性を示しています。歯ぐきの小さな出血も、体からの重要なSOSサインと捉えることが大切です。
②頭痛薬が効かない・効きにくくなってきた
多くの頭痛薬は、痛みを感じる仕組みを一時的にブロックする「対症療法」です。歯周病のように体の中で炎症が起き続けている場合、薬の効果が切れると再び痛みが出てきます。炎症が悪化すると、薬で抑えられる範囲を超え、効きにくく感じることになります。
以下の項目に当てはまる場合、痛みの発生源が口腔内にある可能性を考えてみてください。
- 以前と同じ量の薬では痛みが治まらなくなった
- 薬を飲む頻度や回数が、この数か月で増えている
- 内科や脳神経外科で検査を受けたが、「特に異常なし」と言われた
薬で症状を抑え続けるだけでなく、痛みの根本原因に目を向けることが、つらい症状から解放されるための第一歩です。
③慢性的な肩こり・首こりも感じる
頑固なこりは、歯周病によって引き起こされた「噛み合わせの乱れ」が原因かもしれません。以下の流れで、口腔内の小さなズレが全身の不調につながることがあります。
- 歯周病で歯がグラつき、噛み合わせが変化する
- 顎周りの筋肉(側頭筋・咬筋)が過剰に緊張する
- その緊張が首や肩の筋肉(僧帽筋など)にまで連鎖する
- 筋肉の血行が悪くなり、老廃物が溜まる
- 緊張型頭痛や、慢性的な肩こり・首こりが発生する
頭痛と肩こりが合わせて現れる場合は、噛み合わせのチェックが重要です。
④起床時に顎のだるさや食いしばりがある
朝目覚めたときに、顎が疲れている、口が開きにくい、こめかみが重いなどの症状は、睡眠中に食いしばりや歯ぎしりをしているサインです。食いしばりや歯ぎしりは、顎の筋肉を極度に緊張させ、緊張型頭痛の直接的な原因となります。
具体的な食いしばりや歯ぎしりのサインは、以下のとおりです。
- 朝起きたとき、顎の関節や筋肉にだるさや痛みを感じる
- 家族やパートナーから、夜間の歯ぎしりを指摘されたことがある
- 頬の内側や舌の側面に、歯を押し付けたような白い線(圧痕)がついている
- 歯がすり減って平らになっていたり、詰め物や被せ物が頻繁に取れたりする
食いしばりは歯や歯ぐきに大きなダメージを与え、歯周病を悪化させます。悪化した歯周病がさらに食いしばりを誘発する「負のループ」に陥ることも少なくありません。
⑤ズキズキ・締め付け感のある頭痛が続く
頭痛のタイプはさまざまですが、歯周病は「緊張型頭痛」や「片頭痛」との関連が注目されています。以下の情報と、ご自身の痛みの特徴を照らし合わせてみましょう。
| 頭痛のタイプ | 特徴 |
|---|---|
| 緊張型頭痛 |
|
| 片頭痛 |
|
痛みの種類にかかわらず、長引く頭痛の背景に歯周病が隠れている可能性を把握しておきましょう。
歯や体の不調を感じたら、歯科と内科の両方で相談を
体は、口も体もすべてつながった一つのシステムです。原因がはっきりしない不調に悩んでいる場合は、歯科と内科それぞれの専門的な視点から確認することが大切です。
どちらか一方の診察だけでは気づけない原因が見つかることもあります。次のような流れで相談を進めると、より根本的な改善につながりやすくなります。
- まずは歯科で歯ぐきや噛み合わせを確認する
- 頭痛が続くときは内科でもチェックを受ける
- 両方の視点で診てもらうと原因が見つかりやすい
まずは歯科で歯ぐきや噛み合わせを確認する
頭痛の引き金となりうる問題が、口腔内に潜んでいる可能性は十分にあります。歯科医院では、専門的な検査を通じて、頭痛との関連性を探っていきます。
歯科医院で行う主なチェック項目は以下のとおりです。
| 項目 | 具体的な内容 |
| 歯周病の精密検査 | ・「歯周ポケット」と呼ばれる、歯と歯ぐきの間の溝の深さを、専用の器具を使って1mm単位で測定 ・出血の有無や歯のグラつき度合いも確認し、歯周病の進行度を正確に診断 |
| 噛み合わせの分析 | 歯が抜けたままになっていないか、詰め物や被せ物の高さが合っているかなどを確認 |
| レントゲン検査 | 歯を支えている、顎の骨の状態を画像で確認 |
もし歯科で歯周病が見つかった場合でも、適切な治療で改善が期待できます。近年の研究では、歯石除去に抗菌薬などを併用することで、進行した歯周病の改善が報告されています。(※3)
歯科の治療により原因を取り除くことで、長年の頭痛から解放される可能性もあります。
頭痛が続くときは内科でもチェックを受ける
頭痛が続くときは、歯科と内科の両方でのチェックが重要です。頭痛の中には命に関わる重大な病気が潜んでいる場合があるため、自己判断は危険です。
突然強い痛みが出た、手足のしびれやろれつの回りにくさがあるなどの症状は、脳の異常が疑われます。くも膜下出血や脳梗塞、髄膜炎などの可能性もあり、早急な受診が必要です。内科では問診や診察に加え、CTやMRI、血液検査で原因を詳しく調べます。
脳や血管の状態、体内の炎症反応を確認することで、病気の早期発見につながります。歯周病の影響を含め、体全体を客観的に評価するためにも、医科での検査は欠かせません。
両方の視点で診てもらうと原因が見つかりやすい
「口腔内の不調」と「体の不調」を別々に捉えるのではなく、一つの問題として考えることが、原因不明の頭痛を解決する鍵となります。
以下のように、歯科と内科の両方の視点での確認が大切です。
| 視点 | 内容 |
| 歯科の視点 | ・口の中から全身への影響を探る ・歯周病菌による炎症が、血流に乗って全身に広がり、頭痛を引き起こしていないかを評価 |
| 内科の視点 | ・全身の状態から、口の中への影響を探る ・全身の炎症反応や血圧、生活習慣病などが、頭痛や口のトラブルに関わっていないか評価 |
内科の血液検査で炎症反応が高いと指摘された方が、歯科で重度の歯周病を発見されることもあります。歯科で歯周病の治療を開始したところ、長年の頭痛が軽快し、内科で処方されていた薬の量が減る場合もあります。
「いつものことだから」と我慢せず、ご自身の体が発している大切なサインと向き合いましょう。歯科と内科、両方の専門家と協力して原因を探ることが、健やかな毎日を取り戻すための一歩となります。
まとめ
歯周病による炎症や噛み合わせの乱れが、血流や筋肉の緊張を通じて頭痛を引き起こす可能性があります。
あなたが長引く頭痛や肩こりに悩んでいたり、頭痛薬が手放せない生活を送っていたりするなら、体からのSOSサインかもしれません。痛みを薬で一時的に抑えるだけでなく、その根本原因に目を向けることが大切です。
「頭痛で歯医者さん?」とためらわずに、まずは歯科医院へ相談してみてください。口と体の専門家、両方の視点を持つことが、つらい症状から解放されるための第一歩になるでしょう。
参考文献
- Mohammed MMA, Almayeef D, Abbas D, Ali M, Haissam M, Mabrook R, Nizar R, Eldoahji T, Al-Rawi NH.The Association Between Periodontal Disease and Chronic Migraine: A Systematic Review.International Dental Journal,2023,73,4,p.481-488.
- Yan L, Huang Y, Xie B, Liu Z, Luo L, He B, Ding C, Fang W, Lin Y, Kang D, Chen F.Association of periodontitis and periodontal parameters with migraine and mortality in people with migraine disease: A nationally representative observational study.Headache,2025,65,4,p.578-588.
- Lin SY, Lin HY, Sun JS, Chang JZ.Efficacy of adjunctive periodontal interventions in non-surgical periodontal therapy for Stage III/IV Grade C periodontitis: A systematic review and network meta-analysis.The Japanese Dental Science Review,2025,61,p.167-187.
