「歯並びを整えたいけれど、金属の装置は抵抗がある」と悩んでいませんか。
金属を使わずに歯並びを矯正したい方におすすめの治療が、透明で目立たないマウスピース矯正です。取り外しができるため、食事や歯磨きがしやすく、見た目を気にせず無理なく矯正を進められます。
一方で、きちんと装着時間を守らないと、治療が思うように進まない場合もあります。
この記事では、マウスピース矯正の仕組みや費用・期間の目安、医院選びのポイントをわかりやすく解説します。納得のいく治療を受けるために、まずは基本を押さえましょう。
目次
マウスピース矯正の特徴とワイヤー矯正との違い
マウスピース矯正は、ワイヤー矯正とは仕組みや適応範囲が異なる方法です。ここでは、マウスピース矯正で歯が動く仕組みと、ワイヤー矯正との違いや特徴を解説します。
マウスピース矯正の仕組みと装置の特徴
マウスピース矯正は、透明で取り外しができる装置を使って、歯を少しずつ動かす方法です。ワイヤーを使わないため、装置が目立たず、日常生活への負担が少ない点が特徴です。
マウスピース矯正では、一人ひとりの歯並びに合わせて、マウスピースをオーダーメイドで作製します。1〜2週間ごとに交換しながら約0.25mmずつ歯を移動させることで、歯や歯ぐきへの負担を抑えた治療が可能です。
必要な場合は、歯の表面にアタッチメントと呼ばれる小さな突起を取り付け、歯の動きをより正確に調整します。
また、歯が動くスペースを作るために歯と歯の間にすき間をつくるIPR(隣接面削合)と呼ばれる処置を行うこともあります。
メリット
マウスピース矯正は、以下の理由から治療中の負担を抑えやすいのがメリットです。
- 透明で装着時も気づかれにくい
- 食事や歯磨き時は外せるため、衛生的で歯垢や歯ぐきの炎症が少ない(※1)
- 段階的に弱い力で歯が移動するため、痛みを感じにくい
- 装置は医療用プラスチック主体のため、金属アレルギーの心配がない
マウスピース矯正のほうがワイヤー矯正よりも、治療中の快適さや生活の質(QOL)が高い傾向にあることも示されています。(※1)
デメリット
マウスピース矯正には、以下のようなデメリット・注意点もあります。
- 1日20時間以上の装着が基本である
- 歯や根の位置を大きく動かす場合はワイヤー矯正との併用も必要である(※2)
- マウスピース装着中は、基本的に水以外の飲食はできない
- 取り外し式ゆえのマウスピースの紛失・破損、アタッチメントの破損のリスクがあり、その際は早めの対応が必要となる
治療を始める前に、内容をしっかりと理解しておきましょう。
ワイヤー矯正との比較
治療法の選択は、歯並びの状態・優先したい価値観・ライフスタイルで変わります。主な比較ポイントは次のとおりです。
| 比較項目 | マウスピース矯正 | ワイヤー矯正(表側) |
| 見た目 | 透明で目立ちにくい | 金属の装置が目立つ |
| 痛み | ・比較的少ない ・口内炎のリスクが低い | ・調整後に痛みが出やすい ・口内炎リスクがある |
| 食事 | 外して普段どおりに可能 | ・食べ物が挟まりやすい ・硬いものなどは避ける必要あり |
| 歯磨き | 外して隅々まで清掃しやすい | 装置周りが磨きにくい |
| 自己管理 | 一日20時間以上装着する必要があり、自己管理が必須毎回正しい着脱の方法を守る必要がある | 装着は固定式であるが清掃管理が重要 |
| 適応症例 | 軽度〜中等度の症例が得意 | 抜歯や複雑症例まで幅広く対応 |
| 通院頻度 | 1〜3か月に1回程度 | 月1回程度が一般的 |
抜歯を伴わない比較的シンプルな症例では、いずれの方法でも良好な治療結果が期待できるとされています。(※1)最近は、初期をワイヤーで大きく動かし、仕上げをマウスピースで行うハイブリッド矯正も選択肢の一つです。(※3)
最終判断は、口腔内の状態・生活環境・優先事項を歯科医師と相談して決めましょう。
マウスピース矯正の流れと費用・治療期間の目安
マウスピース治療を始める前に、治療の全体像を把握すると、見通しをもって通院できます。ここではカウンセリングから保定までの流れと、治療期間・費用の目安をまとめます。
初診相談から保定までのステップ
マウスピース矯正は、以下のステップで治療が進みます。
- 初診で歯並びを確認し、治療方法や期間の概要を提案
- レントゲン撮影や口腔内写真撮影、口腔内スキャナー撮影などの精密検査を実施
- 3D画像で歯の動きをシュミレーション
- マウスピースの作製・アタッチメント取り付け・IPR(隣接面削合)後に治療開始
- 定期通院で歯の動きや噛み合わせをチェック
- 治療終了後、リテーナー(保定装置)を装着
このように、マウスピース矯正は一つひとつのステップを重ねながら進めていく治療です。工程を丁寧に行うことで、安心して治療を続けられ、仕上がりの精度も高まります。
治療期間の目安
マウスピース矯正の治療期間は、歯並びや治療範囲で変わるものの、主な目安は以下のとおりです。
| 治療範囲 | 治療期間の目安 | 特徴 |
| 全体矯正 | 約1〜2年 | ・奥歯を含む歯並び全体を整える ・咬み合わせを整える |
| 部分矯正 | 数か月〜1年程度 | 主に前歯の部分的な歯並びを整える |
治療期間は、歯をどのくらい移動させるかや抜歯の有無、装着時間の管理などによって前後します。毎日の装着をしっかり続け、歯科医師と計画的に進めていくことで、よりスムーズな治療が期待できます。
費用の目安
マウスピース矯正の治療費は、以下のように全体矯正か部分矯正かによって異なります。
- 全体矯正:60〜100万円程度
- 部分矯正:10〜40万円程度
費用には、カウンセリング料・精密検査料・マウスピース本体・調整料・保定装置費用などが含まれることが一般的です。紛失や破損時の再作製には、別途費用が必要になることもあります。
ただし、マウスピース矯正は自由診療であり、歯科医院によって費用はさまざまです。支払いにはデンタルローンや医療費控除の活用も可能な場合があるため、カウンセリング時に確認しましょう。
マウスピース矯正で後悔しないための注意点
マウスピース矯正で後悔しないためには、「①治療の失敗例とリスク」と「②医療費控除の対象と申請方法」を確認しておきましょう。
治療の失敗例とリスク
マウスピース矯正の失敗要因は、主に以下に示す患者側と歯科医院側に分けられます。
| 要因 | 主な要因 | 内容・リスク |
| 患者側 | 装着時間が1日20時間未満 | ・歯の移動が遅れる ・噛み合わせがずれる |
| 清掃不足・糖分摂取 | 虫歯や歯周病のリスクが上がる | |
| 保定装置の不使用 | 歯の後戻り | |
| 歯科医院側 | 診断・計画の不備 | 噛み合わせ不調の可能性がある |
| アタッチメントの位置不良 | 歯の動きに誤差が出る |
治療中のリスクとして、食事やマウスピースの着脱時にアタッチメントが外れることがあります。外れたまま放置すると治療が計画どおりに進まなくなるリスクがあるため、気づいた時点で歯科医院へ連絡しましょう。
また、マウスピースの取り外しは、奥歯に指をかけて片側ずつ少しずつ浮かせて、最後に前歯を浮かせて外す方法が基本ですので、計画通りに進むよう正しい方法で着脱を行いましょう。
矯正治療は、患者と歯科医師が協力して進める共同作業です。自己管理と定期通院を欠かさないことが、安全で確実な治療につながります。
医療費控除の対象と申請方法
マウスピース矯正は自由診療ですが、条件を満たせば医療費控除の対象となる可能性があります。医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、確定申告で税金を安くできる制度です。
見た目を整えるためだけにマウスピース矯正を行う場合は、医療費控除の対象外です。しかし、噛み合わせや発音など機能的な問題を改善するための治療であれば、控除の対象となるのが一般的です。
医療費控除の申請は、治療費の領収書を1年分まとめて保管したうえで、確定申告時に行います。通院にかかった交通費(公共交通機関の利用分)も申請対象になるため、日付と金額をメモしておきましょう。必要に応じて、歯科医院で診断書を発行してもらうと、申請がスムーズになります。
マウスピース矯正で信頼できる歯科医院の選び方とカウンセリングのポイント
マウスピース矯正を安心して受けるためには、経験と実績のある歯科医師を選ぶことが大切です。セファロ(頭部X線)や歯科用CTなどの設備が整っている医院であれば、より正確な治療計画を設計できるでしょう。
マウスピース矯正には限界もあるため、ワイヤー矯正など他の治療法も含めて提案してくれる医院が理想的です。
信頼できる医院を選んだら、カウンセリングで内容を具体的に確かめます。治療後の歯並びを画像で確認したうえで、リスクや痛み、治療費、治療期間などを質問し、納得できるまで話し合うことが大切です。
まとめ
マウスピース矯正は、目立ちにくく続けやすい一方で、装着時間の管理や適切な診断が結果を左右します。治療の向き・不向きは口腔内の状態で異なるため、自己判断せずに歯科医院へ相談することが大切です。
また、マウスピース矯正は、治療の流れや治療期間、費用、リスクを確認し、納得してから始めることが大切です。装置が壊れたまま放置すると、計画どおりに歯が動かず、噛み合わせに影響が出るおそれがあります。マウスピース矯正に興味のある方は、まずは気軽に歯科医院に相談してください。
参考文献
- Baneshi M, O’Malley L, El-Angbawi A, et al. Effectiveness of clear orthodontic aligners in correcting malocclusions: a systematic review and meta-analysis. J Evid Based Dent Pract,2025,25,1,p.102081.
- D’Antò V, Oliva G, Nieri M, et al. Indications and limits of clear aligner therapy: an international modified Delphi consensus study. Prog Orthod,2024,25,1,p.1-17.
- Lecocq G. Combining the benefits of aligners with those of fixed appliance treatments – Part 2. L’Orthodontie Française,2025,96,2,p.229-237.
