健康診断で「血圧が高め」と指摘された経験はありませんか。高血圧は日本人のおよそ3〜4人に1人が該当する身近な病気です。(※1)自覚症状がないまま静かに進行し、脳卒中や心筋梗塞などの病気を引き起こす可能性があります。
この記事では、今日から始められる食事や生活習慣を改善するポイントを詳しく解説します。あなた自身の健康を支える知識を手に入れましょう。
高血圧とは?
高血圧とは、心臓から送られる血液が、血管の壁に常に強い圧力をかけている状態です。初期の段階では自覚症状がほとんどないまま経過し、じわじわと血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。
まずは自身の血圧の状態を正確に把握し、高血圧を正しく知ることから始めましょう。ここでは、高血圧に関する以下の内容を解説します。
- 血圧の基準
- 主な症状
- 原因
- 合併症のリスク
血圧の基準
高血圧の基準は、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の状態を指します。
血圧とは、心臓から血液を全身へ送り出す際に血管の壁にかかる圧力のことです。心臓が収縮して血液を送り出したときの収縮期血圧と、収縮した心臓が元に戻り血液の流れが緩やかになるときの拡張期血圧があります。
収縮期血圧が最高圧力、拡張期血圧が最低圧力を示します。成人の血圧値の分類(mmHg)は、以下のとおりです。(※2)
| 分類 | 収縮期血圧(mmHg) | 拡張期血圧(mmHg) |
| 正常血圧 | <120 | <80 |
| 正常高値血圧 | 120〜129 | <80 |
| 高値血圧(高血圧前段階) | 130〜139 | 80〜89 |
| Grade1 | 140〜159 | 90〜99 |
| Grade2 | 160〜179 | 100〜109 |
| Grade3 | ≧180 | ≧110 |
Grade1〜3が高血圧であり、収縮期、拡張期血圧のどちらか一方でも基準を超えていれば、段階の高い分類になります。高値血圧はまだ高血圧ではありませんが、将来的に高血圧へ移行する可能性が高い予備群の状態です。
主な症状
高血圧の症状は、初期では基本的にありません。血圧がかなり高い状態になっても、ほとんどの方は無症状であるため、健康診断などで指摘されて初めて気づくケースが多いです。
ただし、症状がないからと放置すると、気づかないうちに血管へのダメージは蓄積されていきます。血圧の著しい上昇に伴って以下のような症状が現れることもあります。
- 頭痛、頭重感
- 肩こり
- めまい、ふらつき
- 動悸、息切れ
- 耳鳴り
これらの症状は高血圧だけにみられるものではなく、ほかの病気や体調不良でも起こります。症状の有無にかかわらず、定期的に血圧を測定し、数値を把握することが健康管理の第一歩です。
原因
高血圧は、単一の原因で発症するわけではありません。遺伝的な要因と、日々の生活習慣が絡み合って発症すると考えられています。高血圧の要因と影響を以下にまとめました。
| 要因 | 内容・影響 |
| 遺伝的要因 | 家族に高血圧の人がいると、高血圧になりやすい傾向がある |
| 食生活の乱れ | 塩分過多で水分を溜め込み、血液量が増えて血圧が上昇する |
| 肥満 | 内臓脂肪が増えると、血圧を上げるホルモンが分泌されやすくなる |
| 運動不足 | 血流が悪化し、肥満にもつながり、血圧が上がりやすくなる |
| 過度な飲酒 | 心拍数が上がり、血圧も上昇しやすくなる |
| 喫煙 | ニコチンが血管を収縮させ、強い圧力が必要になり血圧が上がる |
| 精神的ストレス | 交感神経が活発になり血管が収縮、血圧が上がりやすくなる |
| 加齢 | 血管が硬くなり、圧力を吸収できず血圧が上昇する |
脂質代謝異常にも注意してください。脂質代謝異常は、血管の内側を覆う壁(血管内皮)の機能を低下させ、慢性的な炎症を引き起こすことで、高血圧の発症や悪化につながると指摘されています。(※3)
合併症のリスク
高血圧の治療をせず放置すると、強い圧力にさらされた血管は傷つき、動脈硬化が全身で進行します。動脈硬化の進行は、さまざまな合併症の引き金となります。
高血圧による動脈硬化がもたらす主な合併症は、以下のとおりです。
| 合併症 | 主な影響・症状 |
| 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血 | 麻痺、言語障害、命に関わる後遺症 |
| 狭心症、心筋梗塞、心肥大、心不全 | 胸痛、呼吸困難、浮腫、心機能の低下による運動機能低下 |
| 大動脈瘤、大動脈解離 | 突然死のリスク、激しい胸や背中の痛み |
| 腎硬化症、腎不全 | 腎機能低下、人工透析が必要になることも |
妊娠中に高血圧を経験した方は、将来的に心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を発症するリスクが高まることが報告されています。(※4)合併症の予防には、出産後の継続的な血圧管理と健康への配慮が重要です。
高血圧を予防するための食事のポイント
高血圧の予防には、毎日の食事の見直しが推奨されるので、できることから取り入れていきましょう。ここでは、食事で注意するべき以下の4つのポイントを解説します。
①減塩する
②カリウム豊富な食品を摂る
③栄養バランスの良い食事を心がける
④過度な飲酒を控える
①減塩する
高血圧の予防・改善で重要なのが減塩です。塩分を過剰に摂取すると、体は血液中の塩分濃度を薄めようと水分を溜め込みます。結果として、全身を巡る血液の量が増加し、血圧が上昇します。
厚生労働省の日本人の食事摂取基準では、1日の食塩摂取量の目標値を成人男性で7.5g未満、女性で6.5g未満です。(※5)日本高血圧学会でも、1日あたりの食塩摂取量を6g未満と推奨しています。(※2)
日本人の平均的な食塩摂取量は目標値を上回る傾向にあるため、意識して減塩しましょう。すぐにできる減塩の工夫は以下のとおりです。
- 麺類の汁は残す
- 調味料はかけるよりつける
- 香辛料や酸味、香味野菜を活用する
- 隠れ塩分の多い加工食品に注意する
- 栄養成分表示で食塩相当量を確認する
ハム、ソーセージ、ちくわなどの加工食品や、インスタント食品、漬物には、保存性を高めるために多くの塩分が使われています。コンビニやスーパーで食品を選ぶときは、パッケージ裏面の栄養成分表示を確認する習慣をつけましょう。
②カリウム豊富な食品を摂る
カリウム豊富な食品を摂ることも、高血圧の予防に重要です。
カリウムは、体内の余分なナトリウムを尿として体の外に排出しやすくするミネラルです。塩分を多く摂ったと感じた日は、意識してカリウムを食事に取り入れましょう。
ただし、カリウムは水に溶けやすい性質を持っています。野菜を長時間茹でると、カリウムがお湯に流れ出るため、効率よく摂取するには、調理法の工夫が大切です。
カリウムを多く含む食品とおすすめの調理法は、以下のとおりです。
| 食品の分類 | 具体例 | 調理法 |
| 野菜類 | ほうれん草、小松菜、アボカド、かぼちゃ | ・生で食べる ・蒸す、電子レンジ加熱 ・汁ごと食べられるスープにする |
| 果物類 | バナナ、キウイフルーツ、メロン、アボカド | そのまま食べる、ヨーグルトに混ぜる |
| 芋類 | さつまいも、じゃがいも、里芋 | 蒸したり焼いたりする、皮ごと食べる |
| 海藻類 | わかめ、ひじき、昆布 | 味噌汁やスープの具、酢の物にする |
| 大豆製品 | 納豆、豆腐、豆乳 | スープや鍋料理など加熱してもよい |
腎臓の機能が低下している方は、カリウムの排泄がうまくできず、体内に溜まりすぎてしまう危険性があります。腎不全で治療中の場合は、主治医に相談してください。
③栄養バランスの良い食事を心がける
高血圧予防には、減塩だけでなく、体に必要な栄養素を摂るのも重要です。特定の食品だけではなく、さまざまな栄養を取り入れることで、血圧をコントロールしやすい体づくりができます。
米国保健機関(NIH)は、高血圧予防の選択肢として、アメリカで考案されたDASH食(ダッシュ食)を推奨しています。(※6)DASH食は、カリウムやカルシウム、マグネシウム、食物繊維、良質なたんぱく質を積極的に摂れることが特徴です。
これらの栄養素は、野菜や果物、海藻、きのこ、大豆製品、ナッツ類、低脂肪の乳製品、魚などに豊富に含まれています。毎日の食事で、できるだけ多くの品目を取り入れると、バランスの取れた食事になります。
④過度な飲酒を控える
高血圧を予防するには、過度な飲酒を控えましょう。
飲酒は、血圧を上昇させる原因の一つです。飲酒を日常で続けると、心拍数が増えたり、血管を収縮させるホルモンが分泌されたりして、血圧が上昇します。飲酒をやめられない方は、以下の行動に注意して、上手に付き合いましょう。
- 1日の適量を守る
- 週に2日以上の休肝日を設ける
- 寝酒は避ける
- おつまみの塩分に注意する
- アルコールの代わりに水やお茶などを摂るように心がける
お酒の適量は、ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯弱、ウイスキーならダブル1杯くらいです。種類によって濃さが違うので、飲む量の調整が大切です。
高血圧を予防する生活習慣の改善ポイント
食生活以外の生活習慣を改善することも、高血圧を予防するうえで重要です。ここでは、生活習慣に関する以下の4つの改善ポイントを解説します。
①無理なく続けられる有酸素運動
②質の高い睡眠
③禁煙
④ストレス対策
①無理なく続けられる有酸素運動
定期的な有酸素運動は、血管に直接働きかけ、高血圧を予防する効果が期待できます。
運動によって心臓から送り出される血液の量が増えると、血管を広げる働きのある一酸化窒素(NO)が産生されます。NOの産生で血管が広がりやすくなることで、血液がスムーズに流れ、血圧が下がりやすくなる仕組みです。
高血圧予防には、ウォーキングや軽いジョギング、サイクリング、水中ウォーキング・水泳などの有酸素運動をおすすめします。単発で終わらずに、無理なく運動を継続することが大切です。毎日30分以上、もしくは1回につき10分以上持続し、合計して1日40分以上の運動を継続しましょう。
注意したいのは、重いものを持ち上げる筋力トレーニングや、息を止めて力を入れるような短距離走などの運動です。負荷の強い運動は血圧が瞬間的に急上昇する可能性があるため、避けたほうが安心です。
毎日30分の運動が難しい場合は、1回につき10分以上の運動を合計して1日40分以上行うことでも効果が期待できます(例:朝10分、昼10分、夕20分)。まずはウォーキングなど、軽めの運動から始めて、習慣化を目指しましょう。
②質の高い睡眠
質の高い睡眠も、高血圧の予防には重要です。
睡眠は、日中に活動して高まった血圧をリセットする大切な時間です。夜寝ている間の血圧は日中よりも10〜20%下がります。(※7)睡眠不足が続いたり、眠りが浅かったりすると、血圧のリズムが乱れてしまうのです。
睡眠の質が悪いと、体を興奮状態にする交感神経が夜間も優位なままとなり、血管が収縮して血圧が下がりにくくなります。慢性化すると、早朝や日中の高血圧につながります。質の良い睡眠のためには、以下の習慣がおすすめです。
- 朝は同じ時間に起きて、太陽の光を浴びる
- 寝る1〜2時間前までに、ぬるめのお風呂に入る
- 夜はカフェインを控える(コーヒー・お茶など)
- 寝る前はスマホやパソコンを控える
注意したいのが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。SASは睡眠中に呼吸が止まることで体が酸欠状態になり、心臓や血管に負担がかかるため、高血圧の原因となります。
大きないびきをかいたり、日中に強い眠気があったりする方は、呼吸器内科がある医療機関へ相談してください。
③禁煙
高血圧を避けたい場合は、禁煙を心がけてください。
喫煙習慣は、高血圧のリスクを高めるだけでなく、血管の健康を破壊する危険な因子です。タバコを吸うと血圧が上がるのは、2つの成分のメカニズムによって説明されます。
喫煙による血管への影響を以下にまとめました。
| 成分 | 影響 | 結果 |
| ニコチン | ・血管を急激に収縮させる ・血液を送るために心臓が強く働く必要がある | 一時的な血圧上昇 |
| 一酸化炭素 | ・全身の酸欠状態を引き起こす ・血管内皮細胞を傷つけ、炎症を促進する | ・動脈硬化の進行 ・血管壁への悪玉コレステロールの侵入 |
禁煙が難しい場合は、禁煙外来を利用するのも一つの手段です。専門家のサポートを受けながら、健康な未来への第一歩を踏み出しましょう。
④ストレス対策
ストレスと上手に付き合い、心と体をリラックスさせる時間を持つことは、高血圧を予防するのに大切です。
強いストレスを感じると、体の中ではストレスホルモンが分泌されます。ストレスホルモンは心拍数を増やして血圧を上昇させる化学物質であり、慢性的なストレスにさらされ続けると、常に血圧が高い状態が維持されます。
高血圧にならないよう、忙しい毎日のなかでも、意識的にリラックスする時間を作り、心と体の緊張を解きましょう。簡単なストレス対策方法は、以下のとおりです。
- 腹式呼吸を試す
- 趣味に時間を使う・音楽を聞く
- 急激な温度差を避ける
自分なりの気分転換やリフレッシュ方法を見つけることが、高血圧対策にもつながります。
まとめ
高血圧は自覚症状がないからこそ、日々の生活習慣の見直しが将来の健康を左右します。
減塩を基本にカリウム豊富な食事を摂り、ウォーキングなどの有酸素運動や質の良い睡眠を心がけることが大切です。まずは一つでもできそうなことから始めてみましょう。
特に、健康診断で「高血圧(Grade1以上)」と指摘された方は、自己判断せずに専門の医療機関へ相談し、治療と生活改善を並行して進めてください。
参考文献
- 厚生労働省:「国民健康・栄養調査の結果の概要」 P8.
- 日本高血圧学会:「高血圧治療ガイドライン2019」.
- Ramírez-Melo LM, Estrada-Luna D, Rubio-Ruiz ME, Castañeda-Ovando A, Fernández-Martínez E, Jiménez-Osorio AS, Pérez-Méndez Ó, Carreón-Torres E. “Relevance of Lipoprotein Composition in Endothelial Dysfunction and the Development of Hypertension.” International journal of molecular sciences 26, no. 3 (2025): .
- Countouris M, Mahmoud Z, Cohen JB, Crousillat D, Hameed AB, Harrington CM, Hauspurg A, Honigberg MC, Lewey J, Lindley K, McLaughlin MM, Sachdev N, Sarma A, Shapero K, Sinkey R, Tita A, Wong KE, Yang E, Cho L, Bello NA. “Hypertension in Pregnancy and Postpartum: Current Standards and Opportunities to Improve Care.” Circulation 151, no. 7 (2025): 490-507.
- 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」1-7ミネラル 6P
- National Heart, Lung, and Blood Institute:「DASH Eating Plan」.
- Casagrande M, Favieri F, Langher V, Guarino A, Di Pace E, Germanò G, Forte G. The Night Side of Blood Pressure: Nocturnal Blood Pressure Dipping and Emotional (dys)Regulation. International Journal of Environmental Research and Public Health, 2020, 17(23), 8892.
