「誰かに見られている気がする」「悪口が聞こえる」などの症状は、統合失調症のサインかもしれません。
統合失調症は約100人に1人が発症する、脳の病気です。(※1)意欲の低下などの症状が怠けていると誤解され、本人も周囲もどうすれば良いか分からず、孤立しがちになります。
この記事では、統合失調症の原因や症状、治療法までを解説します。早く治療を始めるほど、回復も早いといわれていますので、気になる症状があれば、早めに専門機関に相談してみましょう。
統合失調症の主な3つ症状
統合失調症の症状は多彩で、人によって現れ方が異なります。ここでは、主に以下の3つの症状を説明します。
①幻覚や妄想などが現れる陽性症状
②意欲や感情が乏しくなる陰性症状
③集中力や記憶力が低下する認知機能障害
①幻覚や妄想などが現れる陽性症状
統合失調症は、現実を正しく認識することが難しい状態であり、代表的な陽性症状には、以下のようなものがあります。
| 陽性症状 | 具体的な症状 |
| 幻覚・幻聴 | 実際には存在しないものを、あるかのように感じたり、悪口や命令する声が聞こえたりする |
| 妄想 | ・明らかに事実とは違うことを、強く信じ込んでしまう症状 ・「誰かに嫌がらせをされている」といった被害妄想などがみられる |
| 思考のまとまりのなさ | ・考えが混乱し話のつじつまが合わなくなる ・会話が次々と飛躍したり、相手の話の意図をくみ取れなかったりする |
これらの症状は、ご本人に不安や恐怖をもたらし、「人を信じられない」「他人との関わりを避ける」原因になります。
②意欲や感情が乏しくなる陰性症状
統合失調症の陰性症状は、感情表現や行動力が失われている状態です。周囲から「怠けている」「やる気がない」と誤解されがちですが、本人の意思とは関係なく現れます。思考が貧困になって口数が減り、喜びや悲しみなどの表情が乏しくなることもあるでしょう。
統合失調症の陰性症状は、うつ病の症状と似ている部分もありますが、感情そのものが湧きにくい点が違います。苦痛を感じても、本人はうまく表現できない傾向です。
陰性症状が続くと、入浴や着替えなど日常生活も難しくなり、社会的に孤立する場合があります。
③集中力や記憶力が低下する認知機能障害
統合失調症の主な症状として、認知機能障害もあります。
認知機能障害は、仕事・勉強への集中力、記憶力、判断力などの知的な能力が低下する症状です。陽性・陰性症状とは違い目立ちにくいため、本人も周囲も気づきにくいことが多いです。しかし、日常生活を送るうえでは、認知機能障害は重要な問題となります。
集中力の低下が起こると、周りの物音などに気を取られやすく、一つのことに集中し続けることが難しくなります。ほかに本を読んでも「内容が頭に入らない」といったことも起こります。
認知機能障害になった場合、会話の内容を記憶したり、物事の計画を立てて段取りよくこなしたりすることも難しくなるでしょう。学校や仕事でミスが増え、「新しい環境に慣れにくい」「臨機応変に対応できない」などの困難につながります。
統合失調症の原因と考えられている要因
統合失調症のはっきりとした原因は特定されていません。しかし、育て方や本人の性格だけで発症する病気でないことはわかっています。
統合失調症になる要因をもっている人が、仕事や人間関係などのストレス、進級や就職、結婚など人生の転機となる場面で感じる緊張・不安、日常的な心身の疲労、などがきっかけとなり、発症するのではないかと考えられています。
統合失調症の診断のポイント
統合失調症の診断で大切なのは、専門の医師による「見立て」と「診察」です。初診での問診では、今までの成育歴・生活歴をふまえ、本人の体験している世界や日常生活での困りごとなどなどを聞いていきます。血液検査や神経心理検査、画像検査を参考にしたり、除外診断に用いることはありますが、検査だけでは確定診断には至りません。
医師は、以下の表の項目を総合的に評価し、統合失調症かどうかを判断します。(※2)
| 項目 | 内容 |
| 特徴的な症状の確認 | ・幻覚や妄想があるか ・まとまりのない会話をしているか ・意欲低下や感情表現の乏しさが見られるか |
| 症状の持続期間 | 症状が一時的ではなく一定期間続いているか |
| 社会生活への影響 | 仕事や学業などで人付き合いが円滑でなくなっているか |
| ほかの病気の可能性の除外 | 症状の原因が薬やほかの体の病気でないか |
患者さんが病気や症状をどう捉えているか(病識)の確認も大切です。病識を持つことは、治療に積極的に取り組む力になります。
統合失調症の主な治療法
ここでは、統合失調症の主な治療法として、以下の内容を解説します。
- 抗精神病薬による薬物療法
- 抗精神病薬における副作用への対策
- 認知行動療法(CBTp)などの心理社会的アプローチ
抗精神病薬による薬物療法
薬物療法は、統合失調症の中心的な治療です。なかでも幻覚や妄想など、陽性症状を和らげる作用が期待できます。薬が脳内の神経伝達物質であるドーパミンの過剰な働きを調整し、脳内の混乱を鎮めるためです。
薬には、主に「定型抗精神病薬」「非定型抗精神病薬」の2つのタイプがあります。定型抗精神病薬は主にドーパミンの働きを抑え、陽性症状の改善を目指します。
非定型抗精神病薬は、比較的新しいタイプの薬です。ドーパミンだけでなく、セロトニンなどのほかの神経伝達物質にも作用します。陽性症状だけでなく、意欲の低下などの陰性症状にも効果が期待できるものもあり、現在の治療の主流です。
薬を継続服用することで、脳の状態が安定し、再発の可能性を減らせるでしょう。ただし、症状が良くなったと感じても、脳内の神経伝達物質のバランスがまだ不安定な状態かもしれません。
自分の判断で薬の量を減らしたり、飲むのをやめたりすると、再発につながるため主治医と相談しながら治療を続けることが大切です。
抗精神病薬における副作用への対策
どんな薬でも副作用の可能性はありますが、対策すれば体への負担を軽くしながら治療を続けることが可能です。抗精神病薬で起こりえる主な副作用と対策を以下の表にまとめています。
| 副作用の例 | 症状 | 対策 |
| 錐体外路症状(すいたいがいろしょうじょう) | ・体がこわばる、震える ・そわそわしてじっとできない ・うまく歩けない ・よだれが出る | ・薬の量を減らす ・薬の種類を変える ・副作用を和らげる薬を使う |
| 眠気・だるさ | ・日中に強い眠気を感じる ・集中力が続かない | ・薬の飲む時間を寝る前にする ・薬の量を調整する ・薬の種類を変える |
| 体重増加・代謝に関する副作用 | ・食欲が増え体重が増える ・血糖値、コレステロール値が上がる | ・食事や運動など生活習慣を見直す ・定期的な血液検査で状態を確認する ・薬の種類を変える |
| その他 | ・口が渇く ・便秘 ・めまい、立ちくらみ | ・水分をこまめに摂取する ・うがいをする ・食事を工夫し下剤を使う ・薬の量を調節する |
上記の副作用の現れ方は、薬の種類や量、患者さんの体質により異なります。つらい症状は治療の継続を妨げる原因にもなるので、副作用かもと感じたら、我慢せずに医師に相談することが大切です。
認知行動療法(CBTp)などの心理社会的アプローチ
心理社会的アプローチは、統合失調症の再発を防ぎ、その人らしい生活を取り戻すために重要で、薬物治療と並行して行われます。主な心理社会的アプローチの種類は、以下のとおりです。
- 心理教育
- 認知行動療法(CBTp)
- ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)
- 作業療法
心理教育は、本人やご家族に病気について正しく理解し、症状への対処法や再発のサインなどを学んでもらう方法です。病気に左右されない力をつけることにつながります。
認知行動療法(CBT)はその適用範囲を統合失調症圏の精神障害にまで広げていて、cognitive behavioral therapy for psychosis(CBTp)と呼ばれています。幻覚や妄想を無理に治そうとするのではなく、上手な付き合い方を見つけるための治療法です。症状があっても、現実の生活に集中できるよう考え方や行動を工夫する練習をします。
対人関係のストレスを減らすためには、ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)で円滑なコミュニケーションの取り方を練習することが大切です。生活リズムを整えたり、集中力や意欲を高めたりするには、料理などの趣味活動を通して治療する作業療法が行われます。
薬だけで症状が改善しにくい「治療抵抗性」という状態の方にとっても、心理社会的アプローチは希望です。治療が難しい統合失調症の方に対して、薬物療法と認知行動療法(CBTp)を組み合わせることが、症状の軽減につながるという報告もあります。(※3)
統合失調症の治療は、薬の力だけに頼らず、上記のリハビリテーションを通じて、本人の回復力を引き出していくことが重要です。
統合失調症の方を支えるポイントや支援
統合失調症の治療は医療機関だけでなく、ご家族や周囲の方々の理解が欠かせません。本人が安心して過ごせる家庭環境と、社会の支援制度を上手に活用することが、症状の回復をサポートする力になります。
ここでは、「家族の支援と接し方」と「自立支援医療・障害年金などの公的支援精度」を説明します。
家族の支援と接し方
ご家族が病気を正しく理解し、焦らずに見守る姿勢は、統合失調症の方の安心につながります。統合失調症でみられがちな言動に戸惑うことがあっても、病気の症状であると受け止めましょう。
本人を責めずに寄り添うための接し方のポイントは、以下のとおりです。
- 話しを聴く姿勢を大切にする
- わかりやすくゆっくりと伝える
- 安心できる環境を整える
幻覚や妄想を話しているとき、本人はそれが現実の体験と認識しています。否定すると、理解してもらえないと感じられる一方、すべてを肯定すると、妄想を強める可能性があります。「そう感じているんだね」「それはつらいね」と気持ちを受け止める姿勢が大切です。
統合失調症の方は、判断力や集中力が低下し、会話の理解に時間がかかりがちです。大きな音や人混みなどの刺激が症状を悪化させる可能性もあるため、本人が落ち着ける環境で、わかりやすくゆっくり話すことを心がけましょう。
自立支援医療・障害年金などの公的支援制度
国や自治体は、統合失調症の治療に専念できるよう、経済的負担を軽くする公的な支援制度を用意しています。治療の際は、以下の表にある制度を利用しましょう。
| 精度の名称 | 内容 | メリット |
| 自立支援医療(精神通院医療) | 精神疾患で通院する際の医療費の自己負担を軽減する | ・通常3割負担の医療費が原則1割負担になる ・所得に応じて月々の自己負担額に上限が設けられる |
| 精神障害者保健福祉手帳 | 精神疾患で日常生活や社会生活に長期間制約があるケースで交付される手帳 | 税金の控除や公共料金の割引などさまざまな福祉サービスを受けられる |
| 障害年金 | 病気により生活や仕事が制限される場合に支給される年金 | 安定した収入源になり経済的な不安を和らげられる |
これらの制度の申請手続きは主治医や病院にいる精神保健福祉士(ソーシャルワーカー)、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口などで相談できます。
まとめ
統合失調症は、幻覚や意欲の低下などさまざまな症状が現れますが、本人の性格や育て方のせいではなく、脳の機能異常が関係する病気です。適切な治療を続けて、症状が安定すれば自分らしい生活を取り戻すことも可能です。
自分やご家族のことで不安を感じたら、一人で抱え込まず、専門の医療機関に相談して回復への第一歩につなげましょう。
参考文献
- 公益社団法人 日本精神神経学会:「テーマ1:統合失調症とは何か」.
- 一般社団法人 日本精神医学研究センター「統合失調症:診断基準」.
- Salahuddin NH, Schütz A, Pitschel-Walz G, Mayer SF, Chaimani A, Siafis S, Priller J, Leucht S, Bighelli I.Psychological and psychosocial interventions for treatment-resistant schizophrenia: a systematic review and network meta-analysis.The Lancet Psychiatry,2024,11(7),545-553.
