「最近、手元の文字がぼやけてきた」「暗い場所で見にくい」などの症状で悩まされていませんか。
手元の文字のぼやけや、薄暗い場所で目が見えにくい症状は、老眼のサインかもしれません。老眼を放置していると、体の不調につながる可能性があるため注意が必要です。
この記事では、老眼の原因から対処法について解説します。目の不調を正しく理解し、健康な毎日を取り戻しましょう。
老眼とは
老眼は、正式には老視(ろうし)と呼ばれる目の状態です。目の中のレンズの役割をする水晶体のピントを合わせる力が衰え、近くの物が見えにくくなります。
ここでは、老眼に関する原因と近視・遠視・乱視との違いを解説します。
原因|水晶体の硬化と毛様体筋の衰え
老眼になる主な原因は、水晶体の硬化と毛様体筋の衰えです。(※1)
目は、見たい物との距離に合わせて瞬時にピントを調節しています。精密なピント調節の働きを支えているのが、レンズである水晶体と、水晶体の厚みを変える筋肉(毛様体筋)です。
水晶体は、弾力がある柔らかい組織です。しかし、加齢に伴い紫外線や体内の酸化ストレスが増えると、水晶体に含まれるたんぱく質が変化し、硬くなっていきます。硬くなった水晶体は、毛様体筋で厚みを変えられず、近くの物にピントを合わせることが難しくなります。
毛様体筋も、ほかの筋肉と同じように、加齢により弱まる筋肉です。筋力が低下すると、水晶体の厚みを変える力が弱まり、ピント調節に時間がかかったり、調節できる範囲が狭くなったりすることがあります。
近視・遠視・乱視との違い
老眼は、近視・遠視・乱視とは別の原因で見え方に変化が起こる現象です。それぞれの症状と原因を以下の表にまとめました。
| 項目 | 老眼 | 近視 | 遠視 | 乱視 |
| 見えにくさ | 近くの物が見えにくい | 近くはピントが合っており、遠くが見えにくい | 遠近どちらの物もぼやける | ピントが一点に合わず、物が二重に見えたり、ぶれたりする |
| 主な原因 | 水晶体の硬化と毛様体筋の衰えによるピント調節力の低下 | 眼球が前後に長く、目に入った光の焦点が網膜より手前 | 眼球が前後に短く、目に入った光の焦点が網膜より奥 | 角膜や水晶体の歪みにより目に入った光の焦点が複数できる |
老眼が加齢に伴う水晶体の弾力低下と毛様体筋の衰えであるのに対し、近視・遠視・乱視は目の構造に由来する状態であることがわかるでしょう。
老眼の症状
ここでは、老眼の代表的な以下の3つの症状についてお伝えします。
①手元の文字がぼやける・離すと見える
②暗い場所で見えにくく目が疲れやすい
③肩こりや頭痛などの身体症状
①手元の文字がぼやける・離すと見える
代表的な老眼の症状の一つが、手元の文字がぼやけ、離すと見えるようになる現象です。水晶体の弾力性が失われ、近くを見るときのピント調節が合わなくなることが原因です。水晶体の硬化は、40歳前後から始まります。
対象物との距離を離すと見えるのは、目に入る光の角度が緩やかになり、ピントを合わせるために必要な水晶体の厚みは少なくて済むからです。硬くなった水晶体でも対応できる範囲まで対象物を遠ざければ、ピントが合うようになります。
②暗い場所で見えにくく目が疲れやすい
日中は大丈夫でも夜間に物が見えにくくなるのも、老眼の症状です。目に入る光の量を調節する瞳孔(どうこう)の働きが関係しています。
瞳孔は、明るい場所では小さく縮み、暗い場所では大きく開くことで、入ってくる光の量を調節する部分です。瞳孔の開き具合を調節するのは、虹彩と呼ばれる筋肉が行なっています。
年齢を重ねるにつれて、虹彩は薄く縮んでいき、動きが鈍くなります。(※1)結果として、瞳孔による光の量の調節が難しくなるため、暗闇で光の量が不足し、見えにくくなるという仕組みです。
③肩こりや頭痛などの身体症状
老眼の影響は、目だけにとどまりません。慢性的な肩こりや頭痛、吐き気などの全身の不調を引き起こすことがあります。
老眼に伴う身体症状を以下にまとめました。
- 対象物と顔の距離が適切ではないため姿勢が悪くなる
- 肩や首に負担がかかる
- 目の周囲の筋肉にも負担がかかる
- 筋肉が固くなることで血流が悪くなり、肩こりや痛みの症状が出る
頭部の筋肉の緊張は、頭全体が締め付けられるような緊張型頭痛の直接的な原因にもなります。原因がはっきりしない肩こりや頭痛が続いている場合は、眼科の受診がおすすめです。
老眼になりやすい人の特徴
老眼は加齢による自然な変化ですが、症状を感じ始める時期や進行の速さには個人差があります。以下に老眼になりやすい人の特徴をまとめました。
| 老眼になりやすい人の特徴 | 理由 |
| もともと遠視がある | 遠視は物を見ているときに毛様体筋を緊張させてピントを合わせているため、加齢によるわずかな調節力の低下でも、手元が見えづらくなる |
| PCやスマホなどの画面を長時間見続けている | 毛様体筋が常に緊張し続けて筋肉を疲弊させ、ピント調節機能の低下を早める一因となる |
| 屋外で過ごす際にサングラスなどの紫外線対策をしていない | 長年にわたる紫外線や、体内での酸化ストレスの発生が、水晶体のたんぱく質を硬くする原因となる |
| 全身の健康状態が悪い | 睡眠不足や精神的なストレス、喫煙、栄養バランスの偏りなどは、体全体の酸化ストレスを高め、老眼にもつながる |
「スマホ老眼」の原因と回復の可能性
近年、若い世代のなかには、「スマホ老眼」と呼ばれる物が見えにくいと訴える方が増えています。(※2)スマホ老眼は、加齢による本当の老眼とは原因が異なります。
スマホ老眼の原因は、スマホ画面を凝視し続けることにより毛様体筋が硬くなることです。毛様体筋が硬くなることでピント調節機能が低下し、スマホ画面から顔を上げたときに遠くが見えにくくなります。
スマホ老眼は、10〜30代の若い世代でも起こりえる病気ですが、適切に目を休ませれば回復が期待されます。症状が続く場合は、ほかの目の病気の可能性もあるため、眼科受診がおすすめです。
老眼の進行を抑えるための対策法
老眼は適切な対策を行うことで、症状の進行を緩やかにしたり、不調を和らげたりできます。老眼の進行を抑えるためのポイントとして、以下の4つを解説します。
①老眼鏡・遠近両用コンタクトレンズの使用
②白内障治療も可能な多焦点眼内レンズ手術
③PC作業時の休憩と目のストレッチ
④目に良い栄養素の摂取
①老眼鏡・遠近両用コンタクトレンズの使用
老眼対策の基本は、目に過度な負担をかけないように、老眼鏡や遠近両用コンタクトレンズなどのツールを使用することです。
老眼対策のツールの種類を以下の表にまとめました。
| 老眼鏡 | 中近両用メガネ | 遠近両用メガネ | |
| 特徴 | 近くの物にピントを合わせるためのメガネ | 中距離と近距離が見やすいように設計されたメガネ | 1枚のレンズに遠くと近くを見る用の両方の度数が入っているメガネ |
| 適したシーン | 読書や裁縫 | 手元と少し先を交互に見るデスクワーク | 運転 |
遠近両用メガネは、1枚のレンズに複数の度数があるため、慣れるのに時間がかかります。中近両用メガネは、遠近両用メガネよりも度数の変化が緩やかで、短い時間で慣れるでしょう。ただし、運転のような遠くを見る作業には不向きです。
メガネを着用したくない方には、遠近両用コンタクトレンズもあります。
眼科で必要な検査を行なったあと、老眼鏡や中近両用メガネ、遠近両用コンタクトレンズなど、ご自身にあった物を選びましょう。
②白内障治療も可能な多焦点眼内レンズ手術
老眼の進行を抑えるための対策法として、多焦点眼内レンズ手術が挙げられます。多焦点眼内レンズは、レンズに複数の焦点があるため、手元から遠くまでピントが合うことが特徴です。手術後は、老眼鏡やメガネの使用を減らせる可能性があります。
多焦点眼内レンズは、老眼の矯正だけでなく白内障の治療も可能です。白内障は、目の中のレンズである水晶体が白く濁ってしまう病気であり、治療の際に濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを入れます。
眼内レンズに多焦点眼内レンズを選べば、白内障と老眼の両方に対応できる可能性があります。
ただし、多焦点眼内レンズは、以下の点に注意が必要です。
- 夜間にまぶしく感じたりする
- 見え方には個人差があり、すべての方がメガネ不要にはならない
- 手術費用がかかり、レンズによっては健康保険が適用されない
多焦点眼内レンズがご自身に適しているかは、目の状態や生活習慣によって異なります。
③PC作業時の休憩と目のストレッチ
PC作業時の休憩と目のストレッチも、老眼の進行を抑えるうえで重要です。
PCやスマホの長時間利用は、目に大きな負担をかけます。意識的に目を休ませ、筋肉の緊張をほぐす習慣を取り入れましょう。
日本眼科医会では、1時間のPC作業ごとに15分ほどの休憩を取ることをおすすめします。(※3)休憩が取れない場合は、PC以外の作業をしたり、遠くをぼんやり眺めたりしても良いです。目を休ませることで、毛様体筋をリラックスさせられます。
目のストレッチを行う際は、最初に腕を伸ばして人差し指を立て、指先にピントを合わせましょう。次に、窓の外の遠くの景色にピントを移します。指先と窓の外にピントを合わせる作業を10回ほど繰り返すことで、目の疲れが和らぐことがあります。
PC画面に集中すると、まばたきの回数が減るため、ゆっくりと深くまばたきすることも心がけてください。
④目に良い栄養素の摂取
目に良い栄養素を摂取することは、加齢による変化を緩やかにするために重要です。
目に良い栄養素と期待される働き、食品の例を以下の表にまとめました。
| 栄養素 | 期待される働き | 多く含まれる食品の例 |
| ルテイン・ゼアキサンチン | 抗酸化作用で紫外線など有害な光から目を守る | ほうれん草、ケール、ブロッコリー、卵黄など |
| ビタミンA | 目の粘膜を健康に保ち、暗い場所での視機能を助ける | レバー、うなぎ、にんじん、かぼちゃなど |
| ビタミンC | 抗酸化ビタミンで水晶体の健康維持に役立つ | パプリカ、ブロッコリー、キウイフルーツなど |
| ビタミンE | 抗酸化作用で血行を促進し、細胞の酸化を防ぐ | アーモンドなどのナッツ類、アボカドなど |
| アントシアニン | 網膜の働きを助け、目の疲れを和らげる効果が期待される | ブルーベリー、カシス、なす、黒豆など |
特定の食品だけを食べるのではなく、さまざまな食材を組み合わせることが大切です。バランスの取れた食事は、目だけでなく全身の健康維持にもつながります。
老眼に関するよくある質問
老眼に関するよくある質問として、以下の5つに回答します。
①何歳ぐらいから老眼になる?
②近視の人は老眼になりにくい?
③老眼になると視力は落ちる?
④老眼は治る?
⑤老眼は放置しても大丈夫?
①何歳ぐらいから老眼になる?
目のピント調節力の低下は30代から始まっていますが、多くの方が老眼の症状を自覚するのは40代半ば頃です。
遠視の方は、老眼の症状を比較的早く感じやすい傾向です。手元と遠くを見るときのどちらも常に目の筋肉を使っているため、加齢による調節力の低下で影響が現れます。
PCやスマホを長時間使用する習慣がある方も、注意が必要です。目の筋肉を酷使することで、調節機能の疲れが蓄積します。その結果、老眼の症状を感じやすくなります。
「手元の文字を離したほうが見える」「薄暗いレストランでメニューが見えにくい」などの症状がある方は、老眼が始まっているかもしれません。
②近視の人は老眼になりにくい?
近視の人でも、加齢に伴い水晶体の硬化と毛様体筋の衰えが起こるため老眼になります。ただし、近くの物にピントが合いやすい構造になっているので、老眼が進行しても症状に困ることは少ない傾向があります。近視用のメガネを外せば、手元が見えることが多いでしょう。
日常生活で不便を感じにくく、自覚が遅れる方もいます。自覚がなくても、目のピント調節力は低下しているため、近視用のメガネをかけたまま手元を見ようとすると、ピントが合いません。
眼精疲労や頭痛にもつながるので、近視の人でも放置することには注意が必要です。
③老眼になると視力が落ちる?
老眼になっても、遠くを見る視力はほとんど変わりません。
健康診断で測定される視力は、ピントがあった状態で細かい物を見分ける能力であり、主に遠くを見るための力を指します。一方、老眼は遠くの物のピント調節には影響がなく、近くの物にピントを合わせる能力が衰えるだけです。
老眼の自覚症状が現れたあと、視力が低下している場合は、老眼以外の目の病気かもしれません。重大な病気が隠れている可能性があるので、自己判断で放置せず、眼科を受診し、正確な原因を調べることが大切です。
④老眼は治る?
加齢により硬くなった水晶体は再び柔らかくならないため、老眼を根本的に治すことは難しいのが現状です。ただし、眼鏡やコンタクトレンズを用いることで、対処することは可能です。
⑤老眼は放置しても大丈夫?
老眼を我慢して見えにくい状態が続くと、体全体に不調が広がります。放置することで起こるリスクは、以下のとおりです。
- 目の奥の痛みやかすみ、充血などの症状が日常的になる
- 慢性的な頭痛や肩こり、めまいなどにつながる
- 本が読みにくくなったり、仕事効率が落ちたりする
- 手元や足元が見えづらくなり、怪我につながる
文字や物の見えにくさは、体の異常を示す大切なサインです。放置せずに眼科を受診しましょう。
まとめ
老眼は、加齢によって目のピント調節機能が衰える生理的変化です。症状の自覚のしやすさに違いはあるものの、近視や遠視などの目の状態に関わらず、誰にでも起こります。
「手元が見にくい」「暗い場所で文字が見えにくい」などの老眼が疑われる症状を感じたら、我慢しないで眼科に相談しましょう。老眼鏡や多焦点眼内レンズなど、ご自身に合った対策を見つけることが大事です。
参考文献
- 一般社団法人 日本予防医学協会:「目の老化「老眼」を知ろう」.
- Kirandeep Kaur, Bharat Gurnani, Swatishree Nayak, Nilutparna Deori, Savleen Kaur, Jitendra Jethani, Digvijay Singh, Sumita Agarkar, Jameel Rizwana Hussaindeen, Jaspreet Sukhija, Deepak Mishra.Digital Eye Strain- A Comprehensive Review.Ophthalmol Ther,2022,11(5),1655-1680.
- 公益社団法人 日本眼科医会:「パソコンと目」.
