感染症のニュースなどを機に、サイトカインという言葉を聞く機会が増えたと思います。サイトカインは、ウイルスなどから体を守る免疫システムとして働くタンパク質です。しかし、ときに制御不能になり、自分の体を激しく攻撃する危険な状態(サイトカインストーム)を引き起こすこともあります。
この記事では、サイトカインの基本的な役割から種類、さまざまな疾患との関わりや治療法を解説していきます。サイトカインが関連する病気や治療を理解するためにお役立てください。
サイトカインの基礎知識
ここでは、サイトカインの基本的な知識を以下の4つに分けて解説します。
- 情報伝達物質としてのサイトカインの働き
- サイトカインバランスの重要性|炎症を促す作用と抑える作用
- 主なサイトカインの種類|インターロイキン・TNF-α・インターフェロン
- サイトカインストーム(免疫の過剰反応)が起こる仕組みやリスク
情報伝達物質としてのサイトカインの働き
サイトカインは、細胞同士のコミュニケーションを円滑にするために大切な物質です。例として、体内に細菌が侵入すると、細菌を見つけた免疫細胞は警報としてサイトカインを放出するケースがあげられます。警報を受け取ったほかの免疫細胞は、炎症の発生場所に集まったり、攻撃態勢を整えます。
サイトカインは、特定の細胞が持つ受容体に、鍵のようにはまり情報を伝えます。この仕組みがあるため、必要な情報を必要な細胞にだけ届けられるのです。情報を受け取った細胞は、仲間を増やして病原体に抵抗するために増殖したり、特定の役割を持つ細胞に変化したりします。
さらに病原体への抵抗力自体の強化や、炎症が起きている場所への移動など役割はさまざまです。サイトカインは、免疫システムにおいて司令塔のような役割を担っています。
サイトカインバランスの重要性|炎症を促す作用と抑える作用
サイトカインは、免疫反応においてアクセル役とブレーキ役の両方が存在します。このバランスが保たれていることが、健康のために重要です。
アクセル役(炎症を促す役)は、炎症性サイトカインと呼ばれます。病原体に抵抗するために免疫細胞を活性化させ、炎症反応を引き起こしますが、体を守るために欠かせない反応です。
ブレーキ役(炎症を抑える役)は、抗炎症性サイトカインと呼ばれます。病原体と戦ったあとなどのケースで、免疫反応が過剰にならないように炎症を鎮めて、傷ついた組織の修復を促します。
アクセルとブレーキのバランスが崩れると、体にさまざまな不調が生じます。例えば、アクセルが強すぎると、免疫が自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患や、慢性的な炎症につながる場合などです。
主なサイトカインの種類|インターロイキン・TNF-α・インターフェロン
サイトカインには、数百種類ものグループが発見されており、それぞれ違う役割を持ちます。ここでは、代表的な3つのグループを表で説明します。
サイトカインの種類と働き
- 白血球同士の情報伝達を担う
- 白血球の増殖や活性化を調整する
- 炎症を促すIL-1β、抑えるIL-10などアクセル役とブレーキ役の両方が存在
- 強く炎症を引き起こすサイトカイン
- 関節リウマチなどの自己免疫疾患に関わる
- もともとがん細胞を壊死させる因子として発見された
- ウイルスに感染した細胞から分泌される
- ウイルス感染細胞から周りの細胞に危険を知らせてウイルスの増殖を抑える
- 免疫細胞を活性化させてがん細胞を攻撃する
サイトカインストーム(免疫の過剰反応)が起こる仕組みやリスク
サイトカインは、制御不能になり暴走するケースがあります。この状態は、サイトカインストームと呼ばれます。
サイトカインストームは、ウイルス感染などがきっかけで免疫システムが過剰に活性化して起こります。最初に、炎症を引き起こすサイトカインが大量に放出されます。そのサイトカインがさらにほかの免疫細胞を刺激し、さらにサイトカインを放出させるという悪循環になるのです。
この状態になると、高熱や重度の倦怠感など全身性の強い炎症、肺や腎臓などの臓器にダメージが及ぶ多臓器不全などを引き起こします。新型コロナウイルス感染症の重症例も、サイトカインストームが関係している一例です。
サイトカインが関与する主な疾患
サイトカインが深く関与する代表的な4つの疾患をこれから解説していきます。
- 自己免疫疾患|関節リウマチ・クローン病など
- アレルギー疾患|アトピー性皮膚炎・気管支喘息など
- がん|治療におけるサイトカインの役割
- 新型コロナウイルス感染症の重症化とサイトカインの関係
自己免疫疾患|関節リウマチ・クローン病など
自己免疫疾患とは、免疫システムが誤作動を起こし、自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気です。この誤作動には、炎症を引き起こすサイトカインが関わっています。
例えば、関節リウマチではTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインが関節で過剰に作られます。結果、関節に痛みや腫れが生じ、悪化すると骨や軟骨が破壊され、関節が変形してしまいます。
クローン病や潰瘍性大腸炎といった疾患では、腸の粘膜でサイトカインによる慢性的な炎症が起きています。結果、激しい腹痛や下痢、血便といった症状が見られます。ほかに、全身性エリテマトーデス(SLE)や、乾癬(かんせん)もサイトカインが関与しています。
アレルギー疾患|アトピー性皮膚炎・気管支喘息など
アレルギー疾患は、花粉やダニ、食物などアレルゲンに対して、免疫システムが過剰に反応する状態です。この症状を引き起こす原因がサイトカインです。
アレルギー反応には、IL-4、IL-5、IL-13などのサイトカインが関わっています。これらのサイトカインの指令で、かゆみや炎症の原因物質が放出されたり、特定のアレルギー反応に関わる免疫細胞が集まったりします。
代表的なアレルギー疾患として、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症があげられます。
気管支喘息はIL-5、IL-13などのサイトカインが気道にアレルギー反応に関わる好酸球(こうさんきゅう)を集めます。アトピー性皮膚炎では、IL-4、IL-13などのサイトカインが皮膚のバリア機能を低下させます。花粉症では、鼻の粘膜でアレルゲンに反応してIL-4などが作られ、くしゃみなどの症状につながります。
がん|治療におけるサイトカインの役割
免疫細胞には、がん細胞を見つけて攻撃する力があります。インターフェロン(IFN)やインターロイキン(IL-2、IL-12など)は、免疫細胞を活性化する働きを持つサイトカインです。これらを利用し、サイトカインを薬として投与するサイトカイン療法や、免疫力を高めてがんを治療するがん免疫療法が行われています。
一方で、サイトカインが、がんの進行を助けてしまう場合もあります。
がん細胞自身が、免疫の働きを抑えるサイトカイン(TGF-β、IL-10など)を放出し、免疫細胞からの攻撃から逃れることがあります。慢性的な炎症が続くと、一部の炎症性サイトカインが、がん細胞の増殖や転移を促すことがあるのです。
新型コロナウイルス感染症の重症化とサイトカインの関係
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、サイトカインストームという言葉が広く知られるようになりました。
ウイルスが体内に侵入すると、正常な反応として、免疫システムがサイトカインを放出してウイルスを排除しようとします。しかし、この反応が制御不能になり、サイトカインが過剰に放出され続ける場合があり、サイトカインストームと呼びます。
サイトカインストームは、ウイルスだけでなく、肺や血管など自分の正常な組織まで激しく攻撃してしまいます。主な症状に、高熱、強い倦怠感、呼吸困難があり、重症化すると多臓器不全や急性呼吸窮迫(きゅうはく)症候群という重い肺炎を引き起こす場合があります。
サイトカインの検査
サイトカインの量は、専門的な血液検査で調べることができ、主に以下のような目的で実施されます。
- 病気の診断や状態の把握:関節リウマチなどの自己免疫疾患やサイトカインストームなどが疑われる場合の診断の手がかり
- 病気の勢い(活動性)の評価:サイトカインの値は病気の活動性や重症度と関連する
- 治療効果の判定:サイトカインを標的とする薬での治療で薬が効いているかを判断する
サイトカインストームのように複数のサイトカインが関わる状態は、より詳しい分析が行われます。
サイトカインをターゲットにした治療
近年、特定のサイトカインの働きだけをピンポイントで抑える新しい治療法が登場しています。ここでは、サイトカインを標的とした治療に関する4つの内容を解説します。
- 血液検査でサイトカインの状態を調べる方法
- サイトカインを標的とした治療薬|生物学的製剤・JAK阻害薬
- 治療薬により期待できる効果と副作用
- 医療費助成制度を活用して高額な治療費を軽減する
血液検査でサイトカインの状態を調べる方法
体内でどのサイトカインが、どの程度働いているかを把握するために、専門的な血液検査が行われることがあります。この検査は、診断の補助や、治療効果を評価するために用いられます。血液中のサイトカインの量を測定することで、炎症の強さや免疫の状態を数値で把握できるのです。
ただし、サイトカインの値は健康な人でも個人差があり、その日の体調によって変動しやすい指標です。そのため、検査結果だけで病気を判断せずに、医師が問診やほかの検査結果を見て、総合的に状態を評価します。
サイトカインを標的とした治療薬|生物学的製剤・JAK阻害薬
過剰に働くサイトカインを抑える薬には、現在、生物学的製剤とJAK(ジャック)阻害薬の2つに大別されます。
| 種類 | 作用メカニズム | 主な投与方法 |
|---|---|---|
| 生物学的製剤 | 特定のサイトカインや受容体を直接ブロックする | 注射(点滴・皮下注射) |
| JAK阻害薬 | 細胞内での情報伝達をブロックする | 経口薬(飲み薬) |
生物学的製剤は、関節リウマチで過剰になっているTNF-αやIL-6を標的とする薬が代表的です。近年、IL-17などほかの炎症性サイトカインを標的とする治療薬も開発されています。(※1)
JAK阻害薬は、サイトカインからの情報を細胞内に伝えるJAKという酵素の働きをブロックします。中継役になるJAKをブロックすることで複数のサイトカインからの情報を同時に抑えることができます。
治療薬により期待できる効果と副作用
サイトカインを標的とする治療は、関節の痛みや腫れ、皮膚の症状、腸の炎症といった症状を和らげ、病気の進行そのものを抑える効果が期待できます。そのため、日常生活の質が大きく改善する可能性が高まります。
一方で、この治療は、免疫の働きを部分的に抑えるため、注意が必要な副作用もあります。主な副作用に感染症があげられます。免疫力が低下するため、風邪やインフルエンザ、肺炎、結核、などの感染症にかかりやすくなることがあります。
医療費助成制度を活用して高額な治療費を軽減する
サイトカインを標的とした治療は、薬の費用が高額になる場合があります。しかし、日本には、医療費の負担を軽減するための公的な制度が複数用意されています。
- 高額療養費制度
- 難病医療費助成制度
- 各自治体の助成制度
高額療養費制度は、1か月の医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、超えた金額が払い戻される制度です。事前に自身が加入している健康保険に限度額適用認定証を申請し、医療機関の窓口で提示すれば、支払いを自己負担の上限額まででとどめることもできます。
難病医療費助成制度は、クローン病や潰瘍性大腸炎など、国が指定する難病と診断された場合に、医療費の助成を受けられる制度です。お住まいの市区町村によっては、独自の医療費助成制度を設けている場合もあります。
まとめ
サイトカインは免疫の司令塔で欠かせませんが、バランスが崩れると関節リウマチやアレルギーといった症状を引き起こす原因にもなります。
自分の症状がサイトカインと関係しているかもしれないと、不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、サイトカインの働きをピンポイントで抑える治療法も登場しており、高額になりがちな治療費も、公的な医療費助成制度を活用して軽減できる環境が整っています。
気になる症状や治療への不安があれば、まずは主治医や医療機関に相談してください。
参考文献
- Liu W, Wang X, Wu W.Role and functional mechanisms of IL‑17/IL‑17R signaling in pancreatic cancer (Review).Oncol Rep,2024,52(5),p.144.
この記事を監修した医師
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医療法人幸人会 田島クリニック 院長
谷川 祐二
徳洲会病院での勤務を経て総合診療、救急医療の面白さに目覚め、専門診療科を特定できない症例や、幅広く全身を横断的に診断する全人的医療を得意とする。
消化器分野では、苦痛の少ない胃カメラ検査・大腸カメラ検査にも対応しており、がんをはじめとする消化器疾患の早期発見・早期治療に努めている。
2026年1月よりクリニック院長に就任し、地域医療の中核として、患者さんが安心して通い続けられる「来てもらいやすいクリニック」づくりに取り組んでいる。