TNF-α(腫瘍壊死因子)とは、体を外部の敵から守る「免疫応答の鍵を握る主要な因子」とも呼ばれる、私たちの健康に不可欠な物質です。しかしひとたびバランスを崩して暴走すると、関節リウマチや乾癬、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患などを引き起こします。
この記事では、TNF-αの概要や関与する主な病気を解説します。TNF-αをターゲットにした治療についてもご紹介するので、ぜひ最後まで参考にしてください。
TNF-αとは?
TNF-αは、正式には「腫瘍壊死因子アルファ」と呼ばれる物質です。私たちの体の中にある、細胞同士の情報伝達を担う「サイトカイン」というタンパク質の一種です。サイトカインには多くの種類がありますが、TNF-αは特に免疫や炎症反応において中心的な役割を担う、いわば「総司令官」のような存在です。
主にマクロファージといった免疫細胞から産生され、体に異変が起きた際に、他の免疫細胞へ警報を鳴らし、適切な対応を促す重要な働きをしています。
TNF-αの基本的な役割
TNF-αは、普段は私たちの体を外部の敵から守るために、なくてはならない重要な働きを担っています。もしTNF-αがなければ、私たちの体は感染症などに対して無防備になってしまいます。
具体的には、以下のような役割があります。
| 役割 | 詳細 |
|---|---|
| 感染からの防御 | 体内に細菌やウイルスが侵入した際に、それらを攻撃・排除するように他の免疫細胞へ指令を出す |
| 免疫細胞の活性化 | 炎症が起きている場所に仲間である白血球(リンパ球など)を呼び集め、免疫システム全体を活性化させる |
| 不要な細胞の除去 | 古くなったり、がん化したりする可能性のある異常な細胞を、自ら死滅させるよう促す |
| 発熱を促す | 脳幹部に作用することで体温を上昇させ、病原体が増殖しにくい体内環境を作り、免疫細胞が活動しやすくなるようにする |
このように、TNF-αは体の防衛システムの最前線で活躍し、私たちの健康を維持するために不可欠な存在なのです。
TNF-αが過剰に産生される原因
TNF-αが過剰になる背景には、いくつかの要因があります。まず、免疫システムが自分自身を誤って攻撃する自己免疫の異常や、体の一部で長期間続く慢性的な炎症が挙げられます。
これらにより防御反応が終わらず、TNF-αが作られ続ける悪循環に陥るためです。
また、感染症をきっかけに炎症反応が必要以上に長引くことや、生まれ持った遺伝的な体質も関係しています。例えば、遺伝子の個人差が歯の根の先に起こる持続的な炎症のリスクに関わるといった報告もあり、こうした要素が重なることで過剰な状態が引き起こされます。
TNF-αが関与する主な疾患
ここでは、TNF-αが関与する主な疾患について詳しく見ていきましょう。
関節リウマチ
関節リウマチは、本来は体を守るはずの免疫が、誤って自分自身の関節を攻撃してしまう自己免疫疾患です。
関節を滑らかに動かすための「滑膜(かつまく)」という組織でTNF-αが過剰に作られると、関節内で強い炎症が起こります。
これにより、関節に熱感や激しい痛み、腫れが生じます。特に朝起きた時に関節が動かしにくい「朝のこわばり」は特徴的な症状です。またTNF-αは、骨を壊す働きを持つ「破骨細胞」という細胞を活性化させます。この破骨細胞が暴走することで、関節の軟骨や骨が徐々に破壊され、進行すると関節が変形してしまう原因となります。
炎症性腸疾患
クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患も、TNF-αが病状に深く関わっています。これらの病気では、腸の粘膜で免疫が過剰に働き、TNF-αが大量に放出されることで、慢性的な炎症が続いてしまいます。
腸の壁で過剰になったTNF-αは、腸の組織を直接傷つけ、炎症をさらに悪化させます。その結果、激しい腹痛や下痢、血便といったつらい症状を引き起こします。
さらに、近年の研究では、腸の炎症が脳の機能に影響を及ぼす「腸脳相関」という考え方が注目されています。
2025年に発表された研究では、潰瘍性大腸炎によって腸で増えたTNF-αなどが、腸や脳を隔てるバリア機能に影響を与え、認知機能の低下に関わる可能性が報告されました。これは、腸の炎症が全身に影響を及ぼす一例と言えるでしょう。
乾癬
乾癬(かんせん)は、皮膚に赤い発疹と、銀白色でフケのような鱗屑(りんせつ)が付着する病気です。乾癬の患者さんの皮膚ではTNF-αが大量に作られており、皮膚の細胞に「異常な速さで増殖せよ」という指令を出し続けています。
通常、皮膚の細胞は約1ヶ月かけて新しく生まれ変わります。しかし、乾癬の皮膚ではこのサイクルがわずか数日にまで短縮されてしまうのです。この異常な細胞増殖によって、皮膚が厚く盛り上がったり、ポロポロと剥がれ落ちたりする症状が現れます。
また、TNF-αの影響は皮膚だけにとどまらず、関節に炎症を起こし、関節リウマチに似た痛みや腫れを引き起こす「乾癬性関節炎」を合併することもあります。
歯周病
歯周病は、歯を支える歯ぐきや骨の組織が破壊されていく病気ですが、この進行にもTNF-αが関与しています。歯周病菌の感染に対して、体を守ろうと免疫細胞がTNF-αを放出します。
しかし、炎症が慢性化するとTNF-αが過剰に作られ続け、かえって自分の組織を攻撃し始めます。
これにより、歯ぐきの腫れや出血が悪化します。また破骨細胞が活性化され、歯を支える大切な骨である歯槽骨が溶かされてしまいます。
神経変性疾患
脳内でTNF-αが過剰になると、神経細胞の周りで常に小さな炎症が起きているような状態になり、神経細胞の正常な働きが妨げられたり、細胞自体がダメージを受けたりすると考えられています。
特にアルツハイマー病では、脳に蓄積する異常なたんぱく質「アミロイドβ」が、TNF-αを作り出すきっかけの一つになることが知られています。そして、増えたTNF-αがさらに神経炎症を悪化させるという悪循環に陥る可能性が指摘されています。
TNF-αの血液検査でわかること
TNF-αの値を調べる血液検査は、体の中で起きている炎症の強さを客観的な数値で把握するために行われます。この検査だけで特定の病気を診断するのではなく、病状の評価や治療効果を確認する目的で用いられます。
この検査によって、主に以下のようなことが推測できます。
| 分かること | 詳細 |
|---|---|
| 炎症の強さ | 数値が高いほど、体内で強い炎症反応が起きている |
| 疾患の活動性の評価 | 関節リウマチなどの自己免疫疾患で、病気の勢いが強い時期にはTNF-αの値が高くなる |
| 治療効果の判定 | TNF-αを抑える薬による治療中に値を測定し、薬が効いているか判定する |
また、最近の研究ではTNF-αが全身の状態と関連することもわかってきました。例えば、心臓疾患を持つ方では、体の栄養状態や細胞の健康状態を示す指標と、血液中のTNF-αの値が逆の動きをする(一方が高いと他方は低い)という関連性が報告されています。(※1)
TNF-αを標的にした治療法
関節リウマチや炎症性腸疾患では、TNF-αが炎症を長引かせる原因になっています。このTNF-αの働きを直接抑え込むことが、治療を進める上で重要です。
ここでは、TNF-α阻害薬や治療に伴う副作用、治療費の目安について解説します。
TNF-α阻害薬(生物学的製剤)の種類
TNF-αの働きを抑える薬は「生物学的製剤」と呼ばれます。作用の仕方によって、「抗体製剤」と「可溶性TNF受容体製剤」の大きく2つのタイプに分けられます。インフリキシマブ、エタネルセプトなどが該当します。
| 種類 | 働きのイメージ |
|---|---|
| 抗体製剤 | TNFαに結合してその作用を直接遮断する薬剤 |
| 可溶性TNF受容体製剤 | TNF-αが本来の受容体と結びつく前に結合して無力化する薬剤 |
どちらの薬が最適かは、病気の種類や進行度、患者さん自身の体の状態によって異なります。主治医がそれぞれの特徴を考慮し、患者さんに適した治療法を提案します。
治療に伴う副作用と感染症リスク
TNF-α阻害薬は効果的な治療法ですが、注意点もあります。特に注意が必要なのは、感染症にかかりやすくなるリスクです。
TNF-αは本来、体内に侵入した細菌やウイルスと戦う役割も担っています。この働きを薬で抑えるため、体の防御機能が少し低下してしまうのです。その結果、通常であれば感染しにくい病原体による感染症、いわゆる日和見感染を起こす可能性があります。
そのため、肺炎や結核などの感染症への注意が特に必要になります。
このため、追加でCTなどの画像検査や感染症関連(B型肝炎、結核など)の血液検査が事前に実施されます。
- 結核やB型肝炎ウイルスに現時点で感染していないか
- 37.5℃以上の発熱、長引く咳や痰、強いだるさがないか
- 外出後の手洗いやうがいで感染対策を徹底しているか
その他、注射した場所が赤く腫れたり、かゆみが出たりすることもあります。気になる症状があれば、ささいなことでも医師に相談してください。
治療費の目安
生物学的製剤は、開発に高度な技術と長い年月を要するお薬です。そのため、どうしても薬の費用が高額になる傾向があります。治療費について心配されるのは当然のことです。
自己負担額は、加入する健康保険の割合(1~3割)やお薬の種類で変わります。3割負担の方の場合、1ヶ月あたり数万円から十数万円が目安(2025年時点)となります。
しかし、日本には医療費の負担を軽くするための公的な制度があります。
高額療養費制度は、1ヶ月の支払額に上限を設ける仕組みです。上限を超えた分は、申請すれば後から払い戻されます。事前に「限度額適用認定証」を申請すれば、窓口での支払いを上限額までに抑えることも可能です。
医療費控除は、1年間に支払った医療費の合計が一定額を超えた場合に利用できる制度です。確定申告を行うことで、所得税や住民税の一部が還付されます。
まとめ
TNF-αは本来、感染などから体を守るために不可欠な存在ですが、バランスが崩れて過剰になると、かえって自分自身を攻撃し、関節リウマチをはじめとする様々な病気の原因となってしまいます。
しかし、現在ではこのTNF-αの働きを直接抑える効果的な治療薬があり、病気の進行をコントロールできるようになっています。治療における副作用や費用など、不安に感じることもあるかもしれません。
ご自身の症状や治療について、少しでも疑問があれば一人で抱え込まず、主治医に相談してみましょう。
参考文献
- Jamile Ceolin, Evandro Lucas de Borba, Eduardo Mundstock, Jarbas Rodrigues de Oliveira, Rita Mattiello, Luiz Carlos Bodanese. Phase angle of bioimpedance as a marker of inflammation in cardiovascular diseases: A systematic review. Nutrition,2023,112,p.112064.
