昨日まで元気に過ごしていたお子さんが突然激しい嘔吐をくり返すと、大きな不安を感じる保護者の方は多いでしょう。こうした症状がみられる場合、周期性嘔吐症の可能性があります。
この記事では、周期性嘔吐症の主な症状や原因、発作が起きたときの対処法、再発を防ぐためのポイントについて解説します。いざというときに落ち着いて対応できるよう、正しい知識を身につけましょう。
目次
周期性嘔吐症の主な症状
周期性嘔吐症は、脳と腸が互いに影響し合う「脳腸相互作用」に何らかの異常が生じることで引き起こされると考えられています。症状にはいくつかの特徴があるため、あらかじめ把握しておくことが大切です。
周期性嘔吐症でみられる主な症状は以下の3つです。
①激しい吐き気と嘔吐をくり返す
②ぐったりする・強い倦怠感が出る
③顔色が悪くなる
①激しい吐き気と嘔吐をくり返す
周期性嘔吐症の代表的な症状は、突然始まる強い吐き気と、くり返す嘔吐です。前触れなく症状が現れることもあれば、軽い吐き気や腹部の不快感などをきっかけに発作が始まることもあります。
周期性嘔吐症の発作が始まると、短時間のうちに何度も嘔吐をくり返し、1時間に4回以上吐くこともあります。胃の中が空になっても吐き気がおさまらず、胆汁や胃液を吐いてしまうことも少なくありません。
お子さんでは、激しい嘔吐が1〜2日ほど続くことが多い一方で、長い場合には1週間以上続くこともあります。また、強い腹痛を伴うことも多く、嘔吐と腹痛が同時に現れることで、強い苦痛を感じます。
②ぐったりする・強い倦怠感が出る
周期性嘔吐症で激しい嘔吐が続くと、体内の水分やエネルギーが急激に失われ、強い倦怠感が現れることがあります。食事や水分を十分に摂れない状態が続くことで、脱水や低血糖を起こしやすくなり、全身のだるさやぐったりした様子が目立つようになります。
周期性嘔吐症で激しい嘔吐が続くと見られる症状は以下のとおりです。
- 元気がなく、ぐったりしている
- 話しかけても反応が鈍い
- 遊びたがらず、横になっていることが多い
小さなお子さんは、自分のつらさをうまく言葉で伝えられません。周囲の大人が普段との違いに早めに気づき、状態の変化を注意深く見守りましょう。
③顔色が悪くなる
周期性嘔吐症で嘔吐をくり返すことで体力が消耗し、脱水が進むと、顔色の変化が現れることがあります。顔が青白く見えたり、唇の色が普段より悪く見えたりする場合は、全身の状態が低下しているサインです。
顔色の変化に加えて、冷や汗をかく、手足が冷たくなるなどの症状がみられることもあります。お子さんの顔色や皮膚の状態をよく観察し、普段と違う様子がみられるときは早めに対応しましょう。
周期性嘔吐症の主な原因

周期性嘔吐症は、なぜ発症するのかが完全には解明されていない病気です。
周期性嘔吐症の原因がはっきりしないことで、不安を感じるご家族も少なくありません。ただし、大切なのはご本人やご家族を責めることではなく、発作のきっかけになりやすい要因を知り、できるだけ避けることです。
周期性嘔吐症の主な原因として考えられているものを解説します。
①ストレス
精神的なストレスは、周期性嘔吐症の発作を引き起こす要因の一つです。心にかかる負担が自律神経や消化管の働きに影響し、吐き気や嘔吐につながることがあります。
特にお子さんでは、以下のような出来事が周期性嘔吐症のきっかけになることがあります。
- 運動会や発表会、試験などの緊張
- 入学、進級、クラス替えなどの環境の変化
- 友人関係に関する悩み
また、一度つらい発作を経験すると「また周期性嘔吐症の発作が出るのではないか」という不安が強くなることがあります。不安が新たなストレスとなり、次の発作につながる悪循環を生むこともあります。
周期性嘔吐症の発作の背景にあるのは、性格や家庭環境だけではありません。どのような場面で症状が出やすいのかを丁寧に把握し、できるだけ負担を減らしていきましょう。
②疲労
身体的な疲労も、周期性嘔吐症の発作を引き起こす要因です。睡眠不足が続いたときだけでなく、旅行や外出、遊びなどで普段以上に活動したあとに症状が現れることもあります。
発作が起こると、強い吐き気や嘔吐によって食事がとれなくなり、体のエネルギー源であるブドウ糖が不足しやすくなります。その結果、体は脂肪を分解してエネルギーを作ろうとし、「ケトン体」が増えることがあります。
以前はケトン体の増加が嘔吐の原因と考えられることもありましたが、現在では、ケトン体は嘔吐や食事摂取の低下によって生じる結果の一つと考えられています。周期性嘔吐症の発作は、脳と消化管の神経系の調節の乱れ(DBGI:Disorders of Gut-Brain Interaction)が関係して起こると考えられています。
③感染症
かぜやインフルエンザ、胃腸炎などの感染症も、周期性嘔吐症の発作を引き起こす要因の一つです。
感染症が周期性嘔吐症の発作を引き起こす背景にあるのが体内のエネルギー不足です。ウイルスや細菌と戦うために、体は普段以上に多くのエネルギーを必要とします。発熱や倦怠感によって食事が十分に摂れないと、エネルギー供給が追いつかなくなりがちです。
エネルギーの消費が増える一方で補給が不足すると、体はエネルギー切れの状態に陥ります。
周期性嘔吐症への対処法
周期性嘔吐症の発作が起きたときは、早めに適切な対応を行うことが大切です。突然激しい嘔吐が始まると、ご本人もご家族も強い不安を感じることがあります。まずは落ち着いて状態を観察しながら、適切に対処しましょう。
ご家庭でできる周期性嘔吐症の基本的な対処法について解説します。
①糖分と水分を補給する

周期性嘔吐症で嘔吐をくり返すと、脱水やエネルギー不足が進みやすくなります。特に糖分が不足すると、吐き気や嘔吐が強くなることがあるため、症状が少し落ち着いたタイミングで、水分と糖分を少しずつ補給することが大切です。
周期性嘔吐症による発作の水分補給に適している飲料は、以下のとおりです。
- 経口補水液
- イオン飲料
- 薄めたりんごジュース
- 砂糖を溶かした白湯
最初はスプーン1杯程度から始め、吐かずに飲めるようであれば少しずつ量を増やしましょう。
②吐き気止めを服用する
周期性嘔吐症での発作をくり返している場合は、医師から吐き気止めなどの頓服薬が処方されていることがあります。頓服薬は、発作の予兆があるときや、嘔吐が始まった初期に使うことで、症状の悪化を防げることがあります。
市販薬を自己判断で使ったり、以前に処方された薬を使ったりするのは避けましょう。薬の種類や使用するタイミングは症状によって異なるため、医師の指示に従って服用することをおすすめします。
③症状が強いときは医療機関を受診する
ご家庭で対処しても周期性嘔吐症の症状が改善しない場合や、脱水が疑われる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。特に、以下のような症状があるときは注意が必要です。
- 水分をまったく受け付けず、飲んでもすぐに吐いてしまう
- ぐったりして反応が鈍い
- 半日以上おしっこが出ていない
- 唇や口の中が乾いている
- 泣いているのに涙が出ない
つらい症状が続くときはご家庭だけで抱え込まず、早めに医療機関へ相談しましょう。
周期性嘔吐症の診断と検査
周期性嘔吐症は、血液検査や画像検査だけで確定できる病気ではありません。発作の起こり方や経過を確認しながら、ほかの病気の可能性を除外して総合的に診断します。
周期性嘔吐症の症状によっては検査を行い、脱水やケトン体の有無、ほかの病気が隠れていないかを調べることもあります。
周期性嘔吐症の主な検査は、以下のとおりです。
| 検査項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 尿検査 | ケトン体の有無を調べ、エネルギー不足の状態を確認 |
| 血液検査 | 脱水、電解質バランスの乱れ、血糖値、炎症の有無などを確認 |
| 画像検査(腹部エコー、頭部CT、MRIなど) | 腸閉塞や脳の病気など、ほかの原因が隠れていないかを確認 |
問診と検査の結果を総合的に評価し、ほかの病気の可能性が低いと判断された場合に、周期性嘔吐症と診断されます。発症から診断まで時間がかかるケースも少なくありません。(※1)
医療機関での周期性嘔吐症の治療
医療機関での周期性嘔吐症の治療は、発作が起きているときの症状を抑えることと、再発を防ぐことの2つが中心です。医療機関での周期性嘔吐症の治療について解説します。
発作を抑えるための治療
周期性嘔吐症の発作が起きたときは、嘔吐や脱水を早めに改善することが不可欠です。特に、水分や糖分を口から摂れない場合は、点滴で水分や電解質、ブドウ糖を補給します。中心となるのは輸液による治療です。
必要に応じて、吐き気を抑える薬や腹痛・頭痛をやわらげる薬が使われることもあります。(※1)
発作を予防するための治療
周期性嘔吐症の発作が頻繁に起こり、日常生活に支障が出ている場合は、予防のための治療が検討されます。まずは生活習慣の見直しが基本ですが、それだけでは改善が難しい場合に薬物療法を行うことがあります。
周期性嘔吐症の発作予防では、てんかん薬や頭痛薬を服用することもあります。これらは周期性嘔吐症に対しては保険適用外(適応外使用)となる場合がありますが、国内外の治療指針や医師の判断に基づいて慎重に使用されます。処方される際は、医師からしっかりと説明を受けましょう。
どの治療法が適しているかは、発作の頻度や重症度、薬の効果や副作用などをふまえて判断します。医師と相談しながら、お子さんに合った治療法を選びましょう。
周期性嘔吐症の再発防止策

周期性嘔吐症は、発作の引き金となる要因をできるだけ避けることが再発予防につながります。
周期性嘔吐症の再発防止策を解説します。
①規則正しい生活を送る
周期性嘔吐症の再発を防ぐためには、規則正しい生活を心がけることが基本です。睡眠や食事、活動のリズムが乱れると、自律神経の働きが不安定になり、発作の引き金になることがあります。
特に、十分な睡眠を確保することが重要です。毎日できるだけ同じ時刻に寝起きし、年齢に合った睡眠時間をとるようにしましょう。また、就寝前のスマートフォンやゲームは控え、生活リズムを整えることも大切です。
②ストレス管理を心がける
お子さんはストレスをうまく言葉で表現できないこともあるため、普段との様子の違いに周囲が気づくことが大切です。周期性嘔吐症の再発予防のためには、以下のような方法で心身を休める時間を意識して作りましょう。
- 好きな遊びや音楽などで、リラックスできる時間を作る
- 無理のない範囲で体を動かしたり、気分転換できる遊びを取り入れたりする
- 不安そうなときは、保護者や先生など信頼できる大人が話を聞く
安心して過ごせる環境を整え、ストレスをため込まない状態を保つことが再発予防につながります。
③空腹状態を避ける
周期性嘔吐症は、空腹によるエネルギー不足が発作の引き金になることがあります。そのため、空腹の時間をできるだけ長くしないことが重要です。特にお子さんでは、以下のような工夫が再発予防につながります。
- 朝食を抜かないようにする
- 食事の間隔が空くときは、バナナなどでこまめにエネルギー補給する
- 外出時は、飴やラムネ、ゼリー飲料などを持参する
特に、運動後や遠足のあと、風邪で食欲が落ちているときなどは、エネルギー不足になりやすいため注意しましょう。
周期性嘔吐症の予後
周期性嘔吐症と診断されると、「この先どうなるのか」と不安を感じるご家族は少なくありません。ここでは、現在わかっている経過の見通しについて解説します。
成長とともに嘔吐は改善する傾向がある

周期性嘔吐症の嘔吐発作は、成長にともなって改善していくことが多いとされています。小児41人を対象とした追跡調査(初回診断時の平均年齢8歳、追跡時の平均年齢13歳)では、約4割のお子さんで診断後まもなく症状が消失し、追跡時点では全体の約6割で嘔吐が見られなくなっていたと報告されています。(※2)
「いつまで続くのだろう」と心配されるご家族にとって、過半数のお子さんで嘔吐自体は落ち着いていくという点は、一つの安心材料になるかもしれません。
嘔吐が治まっても注意したい症状がある
一方で、嘔吐が治まったあとも、ほかの症状が続くケースがあることも知っておく必要があります。嘔吐が寛解したグループを含めた調査では、頭痛(約4割)や腹痛(約4割弱)といった身体症状を引き続き抱えているお子さんが少なくないことがわかっています。(※3)
また、長期的な経過として以下のような報告もあります。(※4)
- 周期性嘔吐症のお子さんの約4人に1人が、その後片頭痛に移行する
- 約4割が思春期に慢性的な自律神経の不調(立ちくらみ、疲れやすさなど)を経験する
これらの症状は、嘔吐とは異なる形で日常生活に影響を及ぼすことがあるため、嘔吐が落ち着いたあとも定期的に経過を確認していくことが大切です。
学校生活への影響と長期的なサポート
周期性嘔吐症の発作が続いている時期には、年間平均で約24日間の欠席が生じるとのデータがあります。学業や友人関係への影響が気になる場合は、学校と情報を共有し、お子さんが安心して通える環境を整えることも重要です。
周期性嘔吐症は、多くのお子さんで成長とともに改善が期待できる病気です。ただし、嘔吐が治まったあとも別の症状が現れることがあるため、かかりつけ医と相談しながら長期的に見守っていきましょう。
まとめ
周期性嘔吐症は、突然激しい嘔吐をくり返すため、ご本人だけでなくご家族にとっても不安の大きい病気です。ただし、症状の特徴や発作の引き金を知っておくことで、落ち着いて対応しやすくなります。
周期性嘔吐症の再発を防ぐためには、ストレスや疲労、空腹によるエネルギー不足をできるだけ避けることが重要です。発作が起きたときは、安静を保ちながら、少量ずつ水分と糖分を補給しましょう。
周期性嘔吐症の症状が強いときは、ご家庭だけで抱え込まず、早めに小児科へ相談することをおすすめします。お子さんの状態に合った対応を続けながらすこやかな成長を見守っていきましょう。
参考文献
- Toshiyuki Hikita.Cyclic vomiting syndrome.Brain Dev,2026,48,2,p.104515.
- Fitzpatrick E, Bourke B, Drumm B, Rowland M. The incidence of cyclic vomiting syndrome in children: population-based study. Am J Gastroenterol,2008,103,4,p.991-995.
- Dipasquale V, Falsaperla R, Bongiovanni A, Ruggieri M, Romano C. Clinical features and long-term outcomes in pediatric cyclic vomiting syndrome: A 9-year experience at three tertiary academic centers. Neurogastroenterol Motil,2022,34,3.
- Gosalvez-Tejada A, Li B U K, Simpson P, Zhang L, Kovacic K. Natural History of Pediatric Cyclic Vomiting Syndrome: Progression to Dysautonomia. J Pediatr Gastroenterol Nutr,2023,76,6,p.737-742.
- Li B U K, Lefevre F, Chelimsky G G, Boles R G, Nelson S P, Lewis D W, Linder S L, Issenman R M, Rudolph C D. North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition consensus statement on the diagnosis and management of cyclic vomiting syndrome. J Pediatr Gastroenterol Nutr,2008,47,3,p.379-393.
