深呼吸や咳をした瞬間、胸や背中に走る鋭い痛みに、心臓の病気なのかと不安を感じていませんか。その症状は、肋骨に沿った神経が刺激されることで起こる、肋間神経痛かもしれません。
この記事では、肋間神経痛の正体から危険な病気との見分け方、原因別の治療法、自分でできるセルフケアまでを解説します。痛みの原因を正しく理解し、つらい症状を和らげましょう。
肋間神経痛とは?
肋間神経痛とは、肋骨に沿って走る神経が圧迫・炎症で刺激されることで生じる症状です。ここでは、肋間神経痛の症状や特徴に関する以下の内容を解説します。
- 典型的な症状
- 部位別の痛みの特徴
- 心臓や肺の病気との違いを見分けるポイント
- 帯状疱疹との関係性と皮膚症状の見極め方
典型的な症状
肋間神経痛は、左右どちらか一方だけに出ることが多いのが特徴です。痛みの種類や強まる状況、その他の特徴は以下を参考にしてください。
| 項目 | 特徴 |
|---|---|
| 痛みの種類 |
|
| 痛みが強まる状況 |
|
| その他の特徴 |
|
これらの症状は、呼吸や体の動きに伴って肋骨が動き、肋間神経がさらに刺激されるために起こります。痛みはすぐに治まることもあれば数分間続くこともあり、日常生活に支障が出ることも少なくありません。
部位別の痛みの特徴
肋間神経痛は、背中から胸にかけて広い範囲で起こる可能性があります。痛みを感じる場所は原因によってさまざまです。
背骨に近い部分が痛む場合、背骨(胸椎)に原因がある可能性が考えられます。加齢や骨粗しょう症による胸椎の圧迫骨折が代表例であり、特に高齢者では、圧迫骨折と肋間神経痛が併発するケースもあるでしょう。
脇腹のように、体の側面に痛みが出るケースは多くみられます。姿勢の悪さによる筋肉の過度な緊張や気づかないうちにできた打撲、帯状疱疹の前触れが考えられる痛みの原因です。
胸の真ん中やその周辺が痛む場合、肋骨の疲労骨折や、肋骨と胸骨をつなぐ軟骨の炎症(肋軟骨炎)などが原因として挙げられます。ただし、心臓や肺の病気の可能性もあるため、しっかりと鑑別することが大切です。
自分で痛みの原因を特定するのは難しいので、医療機関で診察を受けましょう。
心臓・肺の病気との見分け方
肋間神経痛は、心臓や肺などの危険な病気と症状が類似しています。以下の表を参考に、見分け方を確認しましょう。
| 項目 | 肋間神経痛 | 心臓の病気(心筋梗塞・狭心症など) | 肺の病気(肺塞栓症、気胸など) |
|---|---|---|---|
| 痛みの性質 | チクチク、ピリピリとした鋭く表面的な痛み | 締め付けられる、圧迫されるような重苦しい痛み | ズキっとする鋭い痛み |
| 痛みの場所 |
|
|
|
| 動作との関連 | 深呼吸や体の動きで痛みが強くなる | 体の動きとは関係なく痛みが持続する(特に心筋梗塞) | 深呼吸や咳、体をひねる動作などで痛みが悪化する |
| 付随する症状 | 基本的に痛みのみ | 冷や汗、吐き気、息苦しさやめまい、意識が遠のく感覚 | 息切れ、血痰、乾いた咳 |
激しい胸の痛みや意識がぼんやりする場合は、早めに医療機関へ相談・受診してください。
呼吸が苦しい、冷や汗や吐き気を伴うときは、早期の対応が必要な病気が隠れている可能性もあるため、ためらわずに医療機関を受診してください。
帯状疱疹との関係
肋間神経痛を引き起こす原因として、臨床現場で多くみられるのが帯状疱疹です。帯状疱疹は、水ぼうそうと同じウイルスが原因です。
過去に水ぼうそうにかかった場合、治癒後もウイルスは体内の神経節に潜伏しています。加齢やストレス、過労などで免疫力が低下した際にウイルスが再活性化し、発症します。帯状疱疹が発症すると、神経炎症による痛みと皮膚症状の両方を引き起こすでしょう。
帯状疱疹による肋間神経痛の症状は、皮膚の痛みやかゆみが最初で、発疹がなく筋肉痛との区別が困難です。しかし、痛みが出てから1週間以内には赤い発疹や水ぶくれが出現し、体の左右どちらかに帯状に広がります。
発疹や水ぶくれが治癒したあとも、数か月〜数年にわたり痛みが続く場合もあります。この痛みのことを「帯状疱疹後神経痛」と呼びます。
肋間神経痛のような症状に加え、皮膚に少しでも赤い発疹や違和感が出た場合は、すみやかに皮膚科を受診してください。早期に抗ウイルス薬による治療を開始できれば、重症化や帯状疱疹後神経痛への移行リスクを減らすことが期待できます。
肋間神経痛の原因
ここでは、肋間神経痛の原因について詳しく見ていきましょう。
①ストレス・自律神経の乱れ
強いストレスや疲れが続くと、自律神経のバランスが乱れ、肋間神経痛の症状が現れることがあります。
自律神経は、交感神経と副交感神経がバランスを取りながら体の機能を制御する神経です。ストレスがかかり続けると交感神経が優位になり、体が緊張状態に晒され、筋肉の過度な緊張や血行不良、神経の過敏化を引き起こしがちです。
筋肉の過度な緊張は、体をこわばらせて背中や肩周りの筋肉を常に硬くします。結果として、肋骨の間を通る肋間神経を圧迫したり、刺激したりして肋間神経痛を引き起こします。
血行不良で血の巡りが悪くなると、筋肉に十分な酸素や栄養が届かず、さらに筋肉が硬くなるという悪循環に陥りかねません。ストレスは、痛みを感じる神経そのものも過敏にするため注意してください。
②姿勢不良・長時間のデスクワーク
猫背や巻き肩、長時間の同じ姿勢は、肋骨や背骨に負担をかけるため注意が必要です。
猫背により背中が丸まると、胸骨や肋骨に歪みが出てきます。結果、肋間神経が通るスペースが狭くなり、神経が圧迫されやすくなります。
巻き肩のような肩が内側に入り込む状態は、胸周りの筋肉を常に緊張させる姿勢です。血行も悪くなるため、筋肉が硬くなり、神経を刺激する原因となります。
ずっと同じ姿勢でいると、特定の筋肉ばかりが疲労して硬くなりやすくなります。筋肉の柔軟性が失われ、肋骨の動きも悪くなることが神経痛を招く要因の一つと考えられています。
そのほかにも、パソコン画面をのぞき込んだり、体を丸めてスマホを操作したりする姿勢は避けてください。最初は肩こりや背中の張りとして感じられるかもしれませんが、肋骨の間の筋肉(肋間筋)を硬くし、肋間神経を圧迫する原因となります。
③病気が背景にある場合
肋間神経痛の背景には、以下の表のような病気が隠れている場合があります。
| 疾患名 | 特徴 |
|---|---|
| 帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛 |
|
| 胸椎椎間板ヘルニア |
|
| 胸椎圧迫骨折 |
|
| 変形性脊椎症 | 加齢による背骨の変形や骨のトゲ(骨棘:こつきょく)が神経を刺激する |
これらの疾患は、レントゲンやMRIなどの画像検査を行わなければ正確な診断ができません。痛みが長引く場合や、皮膚に異常が見られる場合は医療機関を受診してください。
④肋骨の骨折・打撲
交通事故やスポーツ中の接触などによる肋骨への強い衝撃が原因で、肋間神経痛が起こることもあります。肋骨の骨折やひび、強い打撲によって、神経そのものや周辺の組織が傷つくためです。
骨折がある場合、骨折した場所を押すと激しい痛みを感じます。深呼吸や咳、寝返りなどでも痛みが胸に響くでしょう。自分で気づかないうちに骨折している不顕性骨折や、激しい咳を繰り返したことによる疲労骨折の可能性もあります。
「いつの間にか痛くなった」と感じたら、小さなケガが原因であることも少なくありません。過去の胸部の手術の傷跡が原因で神経が過敏になり、痛みが続く開胸術後痛症候群と呼ばれる状態も考えられます。
思い当たるケガがある、痛みがなかなか引かないなど悪化するようであれば、放置せず整形外科を受診しましょう。
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肋間神経痛の治療法
肋間神経痛の治療は、対症療法と原因療法の2つで進められます。これから「受診の目安」と「医療機関で行う治療法」を説明します。
受診の目安
肋間神経痛が疑われる痛みが出た際に、受診を迷うことがあるかもしれません。しかし、その症状の裏には、早期対応が必要な疾患が隠れている場合もあります。
自分の体を守るためにも、以下のいずれかの症状に当てはまらないか確認しましょう。
一つでも当てはまる症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。
- 息をするのもつらい痛みがある
- 痛みが日に日に強くなる、痛む範囲が広がっている
- 安静にしても痛みが1週間以上続いている
- 胸や背中の痛みに加えて皮膚に赤い発疹や水ぶくれが出てきた
- 息苦しさや冷や汗、締め付けられるような圧迫感もある
- 手足のしびれや力が入りにくい
何科を受診すべきかわからない場合は、整形外科やペインクリニックへの相談が基本です。皮膚に症状があれば皮膚科、息苦しさなどを伴う場合は内科や循環器内科を受診しましょう。
医療機関での治療
医療機関では、問診や診察で痛みの原因を探り、一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てます。肋間神経痛の治療は、薬物療法が基本です。
使用される薬には、炎症を抑える「消炎鎮痛剤」や神経の興奮を鎮める「神経障害性疼痛治療薬」などがあります。効果が不十分な場合や痛みが慢性化している方には、抗うつ薬・抗てんかん薬が使われ、帯状疱疹には抗ウイルス薬が処方されるでしょう。
飲み薬で痛みを抑えられなかったり、痛みが強かったりするときは、神経ブロック注射が選択肢に入ります。神経ブロック注射は、痛みの原因の神経近くに局所麻酔薬などを注射する治療法です。痛みの信号をブロックすることで、痛みの緩和が期待できます。
骨粗しょう症による胸椎圧迫骨折に伴う肋間神経痛に対しても、神経ブロックが鎮痛効果を示すことが研究で報告されています。(※2)
薬物療法や神経ブロック注射と並行して、温熱療法などの理学療法やコルセットによる装具療法、手術療法が行われることもあります。
肋間神経痛のセルフケア方法
肋間神経痛は、医療機関での治療が基本となりますが、日常生活でのセルフケアも取り入れると、痛みの緩和と再発予防に役立ちます。
ここでは、肋間神経痛のセルフケア方法を見ていきましょう
①寝方・姿勢の工夫

寝方や日中の姿勢を工夫することで、肋間神経痛の痛みを和らげられる可能性があります。
痛む部位を下にして寝ると、自分の体重で神経が圧迫され痛みが悪化しかねません。膝の下に丸めたタオルやクッションを置き、仰向けで寝るのが良いです。膝を少し曲げた状態にすると、腰や背中への負担が減ることがあります。
日中は、座ったり、咳・くしゃみをしたりするときの姿勢を工夫しましょう。座るときに、猫背や前かがみの姿勢でいると、肋骨の間隔が狭まり神経を圧迫します。背もたれに深く腰かけ、クッションを敷くなどして骨盤が立つように意識してください。
咳やくしゃみが胸郭に響き、強い痛みが走ることもあります。症状が出るときには、痛む側の胸や脇腹に手を当てましょう。
急に体をひねる動作や、重い荷物の持ち運びは、痛みを悪化させる可能性が高いので、できるだけ控えてください。
② ストレッチと生活習慣
痛みが落ち着いてきたら、適度に体を動かすことが大切です。体を動かさないと筋肉が硬くなり、血行が悪くなるため、かえって再発しやすくなる場合があります。ストレッチを行うことで、神経がスムーズに動ける環境を整えましょう。
ストレッチには、胸を開く方法と背中・肩甲骨を動かす方法があり、それぞれの手順・ポイントを以下の表にまとめました。
| ストレッチ方法 | 手順・ポイント |
|---|---|
| 胸を開く |
|
| 背中・肩甲骨を動かす |
|
肋間神経痛の再発防止には、ストレッチだけでなく生活習慣の見直しも必要です。デスクワークが多い方は30分に一度は立ち上がり、筋肉の緊張をリセットしましょう。自宅では、ぬるめのお風呂に浸かるなどして血行を促進し、筋肉をほぐすことも大切です。
ただし、少しでも痛みがある場合には、悪化するおそれがあるため、すぐに中止してください。
③ストレス管理
心の状態は体の痛みに大きく影響します。なかでも肋間神経痛は、ストレスによって症状が悪化する場合が少なくありません。適度にストレスを発散させることが、肋間神経痛の症状の緩和につながります。
ストレスを感じると、交感神経が優位になり、筋肉が硬直して肋間神経が刺激されます。筋肉の硬直を予防するには、リラックスできる環境を整え、副交感神経を優位にすることが必要です。
腹式呼吸を取り入れたり、好きな音楽やアロマなどを楽しんだりすると、心身がリラックスできるでしょう。ウォーキングなどの軽い有酸素運動で血行を改善し、筋肉の緊張をほぐすこともおすすめです。
一人でストレスを管理するのが難しいと感じる方は、家族や友人、専門家に相談すると良いでしょう。ほかの人に悩みを相談することで心理的な負担が軽減される可能性があります。
まとめ
肋間神経痛はストレスや姿勢の悪さ、帯状疱疹など原因が多岐にわたります。
肋間神経痛になったら、セルフケアも大切ですが、重要なのは自己判断で放置しないことです。特に、締め付けられるような痛みや息苦しさ、皮膚の発疹などを伴う場合は、別の疾患が隠れている可能性もあるため注意が必要です。
つらい痛みを我慢していると、回復が遅れるだけでなく、根本的な原因を見逃す可能性もあります。まずは整形外科やペインクリニックなどの医療機関を受診し、痛みの原因を正しく診断してもらいましょう。一人で抱え込まず、気軽に専門家へ相談してください。
参考文献
- Liu ZG, Yang F, Li PF, Song Q, Wang G, Zhang BY. Analysis of factors associated with intercostal neuralgia after osteoporotic thoracic spine fracture and construction of a prediction model. BMC Musculoskelet Disord, 2025, 26, 1, p.110.
Li Y, Xia H, Chen S, Qian Y, Shen G, Zhong X, Jia Z, Tang C, He S. Thoracic paravertebral block versus local infiltration anesthesia for percutaneous kyphoplasty to treat osteoporotic vertebral compression fractures combined with intercostal neuralgia: a randomized controlled trial. BMC Anesthesiol, 2025, 25, 1, p.253.
