平松 類|Hiramatsu Rui
- 眼科専門医・医学博士
- 緑内障・網膜硝子体・白内障・眼科一般
- トラベクトームライセンストレーナ
眼科専門医・医学博士。筑波大学附属駒場高等学校・昭和大学医学部卒業。昭和大学東病院助教、三友堂病院眼科科長、彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長などを経て、現在、二本松眼科病院副院長。YouTubeチャンネル「眼科医平松類」(登録者30万人)で日々、眼の健康情報を無料でアップしている。
メディア出演多数。『眼科医だけが知っている一生視力を失わない50の習慣』『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』(SB新書)、『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる!ガボール・アイ』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』『その白内障手術、待った!』『緑内障の最新治療』(時事通信社)など著書多数。
目次
- 1 祖父の姿を見て、医師を目指した
- 2 「見えるようになってよかった」患者さんが喜ぶ姿を見たくて眼科医を選んだはずが……
- 3 「治りましたよ」と言える白内障。ずっと付き合っていかなければならない緑内障
- 4 両親ともに緑内障。情報提供の重要さを改めて感じた
- 5 時間をかけてしっかり具体的に説明をした方が、治療成績が良いことを研究で証明
- 6 医師は「ちゃんと説明している」。しかし説明の仕方に問題があった
- 7 YouTubeで最新知見を発信。診察室ではまずされない質問も視聴者から飛び出す
- 8 緑内障で最低限知っておいてほしいことを語った3時間45分のYouTube動画。「迷わず見るべき」という声も
- 9 「緑内障は必ずしも失明する病気」ではない。人生を良くするために検診・治療を受けてほしい
- 10 クリニック情報
- 11 医師紹介
緑内障は40代以上の20人に1人、70歳以上では10人に1人が発症すると言われる病気だ(※1)。自覚症状に乏しいため進行してから診断されるケースも多く、日本の失明原因の一位となっている。治療は眼圧を下げることが目的で、完全に治すものではない。それゆえに緑内障患者の中には「このまま失明するのではないか」「見えなくなったらどうしよう」と不安を抱えながら、日々を送っている人が少なくない。
そんな緑内障患者へ、診療時だけにとどまらずテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、書籍などのメディアを通して「視力を維持できる」と希望を与え続けているのが平松類医師だ。毎日アップするYouTubeのコメント欄には「こんなに患者に寄り添って話してくれるなんて」「不安な方は迷わず見るべき」といったコメントがならぶ。眼科医として積極的に情報発信をする理由、目指す姿などについて聞いた。
※1 日本の大規模疫学調査「多治見スタディ」より
祖父の姿を見て、医師を目指した
祖父が愛知県田原市というところで眼科医をしていました。木造建築の建物で、医院のとなりが自宅で、一時期は入院患者さんも受けいれていました。祖父は休診日や日曜日であっても、患者さんから連絡があったらすぐに診察に行くんです。当時は当然、今のように携帯電話なんてありませんから、自宅に電話がかかってくるんです。出かけて不在の時もあるんですが、祖父はできる限り対応するようにしていましたね。
僕が外来に行くと、患者さんが「先生(祖父)のおかげで良くなりました」なんて話しかけて来るわけです。そんな祖父の姿を子どもの頃から見ていて、医師とは、休みやプライベートを問わず、患者さんのために尽力する存在だと自然に思うようになりました。僕も祖父のような医師になりたいと、いつしか考えるようになっていたんです。

「見えるようになってよかった」患者さんが喜ぶ姿を見たくて眼科医を選んだはずが……
眼科って、患者さんのリアクションを感じやすい診療科なんです。医学部を卒業し、眼科医の道に進んだ頃は「目が良くなって、患者さんが喜んでくれる姿を目の当たりにできるところが、眼科のいいところだ」と思っていました。
代表的なのは白内障でしょうか。カメラのレンズのような働きをする水晶体が濁って見えづらくなる、加齢が主な原因で発症する病気です。治療は、水晶体を取り除き、眼内レンズを入れる手術になります。これで見えづらさが一気に解決し、治療前と後では同じ人の見え方とは思えないほど視界がクリアになります。実際、白内障の手術後、「こんなに良く見えるようになるなんて」と感激する患者さんが珍しくありません。そういった劇的な変化って、ほかの診療科ではなかなか味わえないと思うんですよ。
ところが、僕が専門としたのは緑内障。「患者さんのリアクションを感じやすい」と最初感じていたものとは、全然違う方向へ行ってしまったわけです。
「治りましたよ」と言える白内障。ずっと付き合っていかなければならない緑内障
白内障は、基本的に完治が期待できる病気です。手術が終わったら、感染症の予防と視力回復の確認のために経過観察は必要であるものの、1カ月ほどで通常通りの生活に戻れ、視力も数カ月で安定してきます。患者さんには「はい、治りましたよ」と言える病気なんです。
ところが緑内障は、さっぱりそんなことがありません。治療をしても悪化を食い止めるだけで、完治を目指せるわけではありません。患者さんに「治りました。もう診察に来なくていいですよ」とは、ずっと言えないんです。緑内障の患者さんは失明するんじゃないかと不安に感じておられ、終わりのない治療に悩んでおられる。患者さんとともに、医師もずっと付き合っていかなければならないのが緑内障なんです。

両親ともに緑内障。情報提供の重要さを改めて感じた
僕が緑内障を専門とした理由の一つが、両親に緑内障が見つかったことです。最初は父親です。アムスラーチャートという検査ツールがありまして、僕がメディアで紹介しているのを父親が見てやってみたところ、「視野や視力に異常がある可能性あり」となったのです。検査をしたら、案の定、緑内障でした。母親の場合は、コンタクトレンズを使っていたので、近くの眼科に行った時に調べてもらい、緑内障が発見されました。
緑内障と遺伝の関係ははっきりとはわかっていません。ただ、血縁者に緑内障患者がいる場合、緑内障を発症するリスクが高くなるとされています。両親に緑内障が見つかったことで、僕も緑内障が人ごとではなくなり、緑内障のことをちゃんと知った方が良いと思いました。さらに、両親ともに「今、見えているから大丈夫でしょ」と思い込み、眼科の定期検診を受けていませんでした。僕が眼科医なので「目には気をつけているだろう」と思っていたのですが、そうではなかったのです。たまたま検査を受けるきっかけがあったからよかったですが、緑内障の発見がもっと遅れていた可能性もあったのです。
緑内障は、日本の大規模疫学調査「多治見スタディ」で、約9割の方が自分が緑内障を発症していることに気づいていないとの結果が出ています。緑内障がどういう病気であるかをしっかり認識されていない方が大半だからだと思います。緑内障は完治しない病気だからこそ、緑内障の症状、治療、チェック法など一つ一つ細かく情報発信をし、患者さんに緑内障と長く付き合ってもらうようにしなくてはと、改めて思い、現在に至っています。
時間をかけてしっかり具体的に説明をした方が、治療成績が良いことを研究で証明
情報発信が重要であることは、僕が行った目の研究でも証明されています。山形県米沢市の病院で眼科科長を務めていた時のことです。緑内障患者さんを2つのグループに分け、一方には一般的な説明をし、もう一方には1回30分くらい時間をかけ計3回、緑内障の成り立ちから目薬の差し方の実技指導まで1対1で細かく説明をしました。
すると、全く同じ治療をしているのに、時間をかけて細かく説明をしたグループの方が治療成績が良かったのです。それは、目薬の差し忘れが減ったという単純な差ではなく、目薬の目的や正しい差し方を理解しているため、薬をきちんと届けたいところに届けられたからなのです。
医師は「ちゃんと説明している」。しかし説明の仕方に問題があった
医師は「患者さんにちゃんと説明している。適切な治療ができていないのは患者さんに原因がある」と思いがちです。しかし実は、患者さん一人一人に合わせた説明ができていないから、治療がうまくいかないケースも少なからずあります。例えば、「お風呂に入った後に目薬を差してください」と伝えたとしましょう。
高齢の患者さんでは、2日に1回しかお風呂に入らない方もいらっしゃいます。そうすると、毎日差してほしい目薬が、2日に1回になってしまうかもしれません。山形県米沢市病院での研究結果を前に、それまで「ちゃんと治療をしていれば、それでOK」と思っていたのが、そうではないんだということを実感したのです。
ただ、研究で行ったような1回30分、計3回の説明を患者さん一人一人に診察室でできるかというと、とうてい無理です。そこで積極的に行うようになったのが、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、書籍などのメディアを通しての情報発信であり、2011年から始めたYouTubeです。

YouTubeで最新知見を発信。診察室ではまずされない質問も視聴者から飛び出す
YouTubeでは緑内障に限らず、最新知見に基づいた目や身体に関するさまざまな情報発信をしています。見てくださっている方は比較的高齢層で、4割ほどは65歳以上、70代、80代の方もたくさんいます。
患者さんの疑問や質問に答える生放送では、診察室で患者さんに向かい合うだけでは想像もしなかった質問も飛び出し、「患者さんはこういうことに疑問を持つんだ」という新たな気づきになります。例えば手術について話をする時、医師目線では「痛かったですか?」「その後、見え方はどうですか?」といった内容になるんですが、患者さん目線では違うんですよね。白内障の手術に関してですと「水がズブズブ入ってきたけど、あれはなんですか?」「寝転がった時に結構まぶしくて、あの光は見てよかったのでしょうか?」といった質問が出てくるんです。診察室では患者さんからまず出てこない質問が、YouTubeなら出てくるわけです。
すごく印象に残っているのが、「付き合っている人に緑内障であることを伝えるべきですか?」というYouTubeの生放送での質問です。目の病気を持つ方々がたくさん視聴してくれているので、みなさんがご自身の経験をもとにした意見やアドバイスをコメントとして出してくれるんです。その後に、質問者の方から「彼女に伝えました」「彼女がプロポーズを受け入れてくれました」「結婚して子供が産まれました」といった報告が年数を重ねるごとに続きました。YouTubeは、私からの情報発信の場だけでなく、みなさんが情報交換したり、励ましあったりといったコミュニケーションの場にもなっていると感じています。

緑内障で最低限知っておいてほしいことを語った3時間45分のYouTube動画。「迷わず見るべき」という声も
毎日投稿しているYouTubeの中でも、ぜひ見ていただきたいのが、緑内障について最低限知っておいてほしいことを語り尽くした動画です。「【必見】一生に一度は見ておくべき、緑内障本気でどうにかしたいなら知っておくべき事」というタイトルのその動画は、3時間45分という長さにもかかわらず、一気見される方がほとんど。視聴者の方からは「緑内障になった方はもちろん、緑内障と診断されたばかりで不安な方は迷わず見るべき名動画、バイブル」といったありがたい感想をいただいています。台本つくりから撮影完成まで何カ月もかかった労作ですが、患者さんに緑内障で絶対に知っておいてほしいことを伝えられ、作ってよかったと自負しております。
YouTubeは僕にとってもメリットが大きい。僕の患者さんはYouTubeを見てくれているので、診察室ではさらに進んだ話ができます。緑内障はどういう病気で、どういう治療法で、といった一般的な話はもうわかってくれているので、「じゃあ、あなたにとってはどういう治療がいいのか」といった個別の話をできます。
「緑内障は必ずしも失明する病気」ではない。人生を良くするために検診・治療を受けてほしい

緑内障は治療をせずにいると、確かに失明する病気です。メディアでもそういう文言をよく見かけますし、別の眼科でそう言われた患者さんも多く、「失明するかもしれない」「このまま見えなくなるのでは」と不安を抱えている方がたくさんいます。しかし私は、YouTubeなどを通し、希望を伝えたいのです。緑内障についてしっかり理解し、治療を続ければ、視力を維持できます。実際のところ、治療を受けている方で失明に至る確率はごく小さいのです。
「失明を避けるために」と思いながらの治療ではなく、「より良い人生を送りたい」「人生を楽しみたい」と思いながら検診・治療を受けてほしい。「失明するかもしれない」と毎日不安になりながら過ごせば、目薬を差す習慣はつくかもしれません。結果、失明は免れたとしても、その方の人生は楽しかったのだろうか、と私は思うのです。だから私の外来では、一般的によく使われる「緑内障は失明する病気ですよ」ということは言いません。むしろ、正しい知識を大前提にした上で、あえて「緑内障は失明する病気」ではない、と伝えたいと思っています。
すでに緑内障を発症している方は、希望を持って前向きに治療を。終わりが見えない治療に気持ちが落ち込んだ時は、僕のYouTubeがモチベーションアップに役立つかと思います。40歳を超えて眼科の検診を定期的に受けていない方は、より良い人生のために、眼科へぜひ足を運んでください。
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クリニック情報
二本松眼科病院